【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
「何だありゃ!
背中に目でもあるのかよ」
ディアッカは一瞬、その紅いストライクの動きに目を奪われる。
ダークダガーLの集中砲火から解放され、彼は一旦機体を後退させた。
背部に装着されたオルトロスのエネルギータンクへの被弾だけは逃れられたことに、彼は密かに感謝していた。砲撃を生業とする者として、こいつに喰らって吹っ飛ぶような恥だけは避けたい。
そんなディアッカの目前で、紅い機体はダークダガーLの火線に狙われ続け、螺旋を描くように飛翔する。
既に右腕を失っているダークダガーLだが、まだ左腕とビームカービンは生きていた。
その光を躱す紅の装甲が、数条の火線に囲まれ妖しく輝く。
逃げ続ける紅の女神と、それを追う黒の悪魔。
やがて悪魔が、女神の背に追いついていく――
「ナイスな機動だが、逃げてばっかじゃヤバいぜ」
ディアッカがそれを追おうとした瞬間、イザークの声がコックピット中に響く。
《違う、あいつは故意だ!》
イザークの言葉を実証する光景が、次の数秒で展開された。
わざと推力を落とし、紅い機体はダークダガーLを十分にひきつける。
そして、これ以上ビームを避けるのは不可能という位置に来た瞬間、頭部を180度ぐるりと回転させた。
真っ赤な人間の顔を持ったストライク・アフロディーテが、人間ではありえない動きをしつつ、同じ人間の顔を持つ黒いダガーLのカメラアイを睨む。
同時に、アフロディーテの頭部バルカンが火を噴いた。
真正面で撃つのではなく、やや右方向を狙って。そして反射的にダークダガーLの機体が左へと流れる──
それすらも予測して回転し、敵に向けて正確にバルカンを撃つアフロディーテの頭部。
アフロディーテの角のような頭部アンテナが、背中から突き出した2門のレールガンにひっかかるのではとディアッカは一瞬恐れた。が――
背中の砲が絶妙のタイミングで左右に開き、アンテナは頭部回転の障害にはならなかった。
虚を突かれ、隙だらけになったダークダガーLがディアッカの方向へと流れる──
彼はそこにすかさず、オルトロスの火砲を叩き込む。
「イっちまえ、馬鹿野郎が!!」
右腕を粉砕されていたダークダガーLは、あっけなく爆散した。
0.1秒も経過しないうちに、紅い機体はその背中に負ったレールガンを動かし、首を逆向きにしたまま
残った敵機に照準を合わせた。
閃光。
仲間2機を一瞬にして撃破され、残されたダークダガーは1機。それも既に左脚部を失っている。
それでもどうにか奇跡的に光をかわしたものの、今度は盾と一緒に左腕を爆砕された。
紅の機体は、前後から迫りつつあった敵をほぼ同時に粉砕したのだ。
《あの戦法使えますね、隊長。今度の訓練で試してみても……》
ゲイツRからジュール隊の部下の通信が入る。ディアッカが答えるより先にイザークの怒声が飛んだ。
《バカ者!
メインカメラが一瞬でも使用不能になる状態がいかに危険か、思い知ってから言え!》
ディアッカの唇から思わず笑いがこぼれた。
「その前に、ザクじゃ無理だって。首がもげちまう」
一瞬にして次々と爆散していくダークダガーL。
それを目撃して歓声のあがるアマミキョブリッジに、通信が入った。
言うまでもなく、今アマミキョの前に轟然と立ちはだかっているストライク・アフロディーテ、そのパイロットからだ。
サイは思わず通信画面と、回線から響く音声に神経を集中させてしまう。
真紅のヘルメットごしでも分かる紅い前髪。真っ白な顎。薄くルージュのひかれた唇。
見間違えようもない、あの濃い睫毛と灰色の瞳は──
《ムジカノーヴォ社長、遅れました。
アフロの化粧に手間取りまして》
台詞と裏腹に、モニターの中の少女は瑞々しい唇に笑みさえ浮かべている。
しかしその瞳は会話をしながらも、確実に周囲の状況を捉えていた。まだ敵を殲滅したわけではない。
「まったくだねアルスター隊長、演出もすぎると命取りだよ。
やっぱりIWSPとダガーじゃ、相性悪めかなぁ。トランスフェイズ装甲は調子良さそうだけど」
頭をかきつつの社長の言葉に、紅い髪の少女はゆっくりと頭を振る。
その視線の先で、ザクウォーリアとゲイツRが流れていく──
彼女はザフトに対しても、決して警戒を緩めることはなかった。支援部隊と分かっていても。
《迂闊な発言こそ命取りですよ。
――居住区画の2機はどうしました?》
そんな彼女の問いに、リンドー副隊長がのっそり答える。
「交戦中だ。
手間取ったのは自分の化粧じゃないかい」
《アフロと自分の化粧は戦闘前の儀式ですので。失礼》
少女がアフロと呼んだ紅いストライクのメイン・ノズルが白く光り、機体は戦闘空域へと戻る。
パイロットの画像がモニターから消え、通信は音声回線のみとなる。電波干渉による雑音が大きくなった。
《工場区画からの移動中、敵艦影またそれに準ずるものは肉眼で確認できず。
よろしく》
感情を伴わない冷徹な声だけが響く。
あとには薄笑いの社長と副隊長、そして茫然とするばかりのブリッジクルーが残された。
中でも勿論、サイの動揺が最もすさまじい。
──何なんだ、アレは?
サイの頭にまず閃いた疑問文がこれだ。
目の前に展開された現実を把握するまで、彼にしては珍しく時間がかかった。
アスハ代表がほぼ扱えなかったIWSPを、いとも簡単に「彼女」が使っていた。
あのジュール隊を手こずらせていたダークダガーLを2機、「彼女」は一瞬で撃破した。3機目に大ダメージを与えた。
そして、社長との短い会話。
冷たいが、どこか優美さを漂わせる表情。無重力空間でふわりと揺れる紅い前髪。
サイは思い出す。自分をこの船に乗せる最後の引き金となった「彼女」の言葉を。
──貴様は私が守る。だから私に従え!
確かに今目の前でアマミキョを守った少女は紛れもなく、あの時自分を守った「彼女」だった。だが……
サイは力まかせに頭を振り、状況を見据えた。
受け入れろ。これが現実なんだ。
疑問はあとから解決しろ、必死で現実を乗り越える方が先だ!
わずか1機残されたダークダガーLは、中破したまま撤退しつつあったが。
レーダーには、新たな機影を示す光が紅く点滅していた。背後からはジンが迫る。
隊長に怒鳴られ、各所で起こる被害状況の分析に追われつつも、サイはそっと呟かずにはいられない。
「俺は無視か。
そんな処だけ君らしいよ……フレイ」