【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part4 女神の足音

 

 

「何だありゃ! 

 背中に目でもあるのかよ」

 

 ディアッカは一瞬、その紅いストライクの動きに目を奪われる。

 ダークダガーLの集中砲火から解放され、彼は一旦機体を後退させた。

 背部に装着されたオルトロスのエネルギータンクへの被弾だけは逃れられたことに、彼は密かに感謝していた。砲撃を生業とする者として、こいつに喰らって吹っ飛ぶような恥だけは避けたい。

 

 そんなディアッカの目前で、紅い機体はダークダガーLの火線に狙われ続け、螺旋を描くように飛翔する。

 既に右腕を失っているダークダガーLだが、まだ左腕とビームカービンは生きていた。

 その光を躱す紅の装甲が、数条の火線に囲まれ妖しく輝く。

 

 逃げ続ける紅の女神と、それを追う黒の悪魔。

 やがて悪魔が、女神の背に追いついていく――

 

「ナイスな機動だが、逃げてばっかじゃヤバいぜ」

 

 ディアッカがそれを追おうとした瞬間、イザークの声がコックピット中に響く。

 

《違う、あいつは故意だ!》

 

 イザークの言葉を実証する光景が、次の数秒で展開された。

 

 わざと推力を落とし、紅い機体はダークダガーLを十分にひきつける。

 そして、これ以上ビームを避けるのは不可能という位置に来た瞬間、頭部を180度ぐるりと回転させた。

 真っ赤な人間の顔を持ったストライク・アフロディーテが、人間ではありえない動きをしつつ、同じ人間の顔を持つ黒いダガーLのカメラアイを睨む。

 

 同時に、アフロディーテの頭部バルカンが火を噴いた。

 真正面で撃つのではなく、やや右方向を狙って。そして反射的にダークダガーLの機体が左へと流れる──

 

 それすらも予測して回転し、敵に向けて正確にバルカンを撃つアフロディーテの頭部。

 アフロディーテの角のような頭部アンテナが、背中から突き出した2門のレールガンにひっかかるのではとディアッカは一瞬恐れた。が――

 背中の砲が絶妙のタイミングで左右に開き、アンテナは頭部回転の障害にはならなかった。

 

 虚を突かれ、隙だらけになったダークダガーLがディアッカの方向へと流れる──

 彼はそこにすかさず、オルトロスの火砲を叩き込む。

 

 「イっちまえ、馬鹿野郎が!!」

 

 右腕を粉砕されていたダークダガーLは、あっけなく爆散した。

 0.1秒も経過しないうちに、紅い機体はその背中に負ったレールガンを動かし、首を逆向きにしたまま

 残った敵機に照準を合わせた。

 

 

 閃光。

 

 

 仲間2機を一瞬にして撃破され、残されたダークダガーは1機。それも既に左脚部を失っている。

 それでもどうにか奇跡的に光をかわしたものの、今度は盾と一緒に左腕を爆砕された。

 紅の機体は、前後から迫りつつあった敵をほぼ同時に粉砕したのだ。

 

 

 

 

 

《あの戦法使えますね、隊長。今度の訓練で試してみても……》

 

 ゲイツRからジュール隊の部下の通信が入る。ディアッカが答えるより先にイザークの怒声が飛んだ。

 

《バカ者!

 メインカメラが一瞬でも使用不能になる状態がいかに危険か、思い知ってから言え!》

 

 ディアッカの唇から思わず笑いがこぼれた。

 

「その前に、ザクじゃ無理だって。首がもげちまう」

 

 

 

 

 

 一瞬にして次々と爆散していくダークダガーL。

 それを目撃して歓声のあがるアマミキョブリッジに、通信が入った。

 言うまでもなく、今アマミキョの前に轟然と立ちはだかっているストライク・アフロディーテ、そのパイロットからだ。

 サイは思わず通信画面と、回線から響く音声に神経を集中させてしまう。

 

 真紅のヘルメットごしでも分かる紅い前髪。真っ白な顎。薄くルージュのひかれた唇。

 見間違えようもない、あの濃い睫毛と灰色の瞳は──

 

《ムジカノーヴォ社長、遅れました。

 アフロの化粧に手間取りまして》

 

 台詞と裏腹に、モニターの中の少女は瑞々しい唇に笑みさえ浮かべている。

 しかしその瞳は会話をしながらも、確実に周囲の状況を捉えていた。まだ敵を殲滅したわけではない。

 

「まったくだねアルスター隊長、演出もすぎると命取りだよ。

 やっぱりIWSPとダガーじゃ、相性悪めかなぁ。トランスフェイズ装甲は調子良さそうだけど」

 

 頭をかきつつの社長の言葉に、紅い髪の少女はゆっくりと頭を振る。

 その視線の先で、ザクウォーリアとゲイツRが流れていく──

 彼女はザフトに対しても、決して警戒を緩めることはなかった。支援部隊と分かっていても。

 

《迂闊な発言こそ命取りですよ。

 ――居住区画の2機はどうしました?》

 

 そんな彼女の問いに、リンドー副隊長がのっそり答える。

 

「交戦中だ。

 手間取ったのは自分の化粧じゃないかい」

《アフロと自分の化粧は戦闘前の儀式ですので。失礼》

 

 少女がアフロと呼んだ紅いストライクのメイン・ノズルが白く光り、機体は戦闘空域へと戻る。

 パイロットの画像がモニターから消え、通信は音声回線のみとなる。電波干渉による雑音が大きくなった。

 

《工場区画からの移動中、敵艦影またそれに準ずるものは肉眼で確認できず。

 よろしく》

 

 感情を伴わない冷徹な声だけが響く。

 あとには薄笑いの社長と副隊長、そして茫然とするばかりのブリッジクルーが残された。

 中でも勿論、サイの動揺が最もすさまじい。

 

 

 

 ──何なんだ、アレは? 

 

 

 

 サイの頭にまず閃いた疑問文がこれだ。

 目の前に展開された現実を把握するまで、彼にしては珍しく時間がかかった。

 アスハ代表がほぼ扱えなかったIWSPを、いとも簡単に「彼女」が使っていた。

 あのジュール隊を手こずらせていたダークダガーLを2機、「彼女」は一瞬で撃破した。3機目に大ダメージを与えた。

 そして、社長との短い会話。

 冷たいが、どこか優美さを漂わせる表情。無重力空間でふわりと揺れる紅い前髪。

 サイは思い出す。自分をこの船に乗せる最後の引き金となった「彼女」の言葉を。

 

 

 ──貴様は私が守る。だから私に従え! 

 

 

 確かに今目の前でアマミキョを守った少女は紛れもなく、あの時自分を守った「彼女」だった。だが……

 サイは力まかせに頭を振り、状況を見据えた。

 

 受け入れろ。これが現実なんだ。

 疑問はあとから解決しろ、必死で現実を乗り越える方が先だ! 

 

 わずか1機残されたダークダガーLは、中破したまま撤退しつつあったが。

 レーダーには、新たな機影を示す光が紅く点滅していた。背後からはジンが迫る。

 隊長に怒鳴られ、各所で起こる被害状況の分析に追われつつも、サイはそっと呟かずにはいられない。

 

「俺は無視か。

 そんな処だけ君らしいよ……フレイ」

 

 

 

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