【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part6 『太陽』は砕け散って

 

《馬鹿野郎! 

 てめぇの意識がまだある限り、諦めてんじゃねぇ!》

 

 

 そんな叫びと共に、アフロディーテが機体ごと突き飛ばされ、モニターから消える。

 同時にティーダの胴体が、がっちりと何かに掴まれた。

 カメラの大半を消失した為サブモニターには何も映らないが、ナオトには分かった。

 これも、黙示録の効果だろうか──

 

 ――広瀬さん!? 

 

 もし声を出せていたら、そう絶叫していただろう。

 

 分かる――

 何も見えなくても、僕には分かる。

 僕には見える。広瀬さんのウィンダムが、ティーダを抱いて守っているのが。

 吐かれた血で真っ赤になっている、広瀬さんのコクピットまで。

 

《アマミキョに戻るんだ。

 戻って、全てをアーガイルに吐き出せ! 

 お前のぶっ壊れた笑顔まで抱きしめられたあいつなら、全部受け止める! 

 今ここで起こったことを、包み隠さず、全部吐き出すんだ!》

 

 ウィンダムはティーダを抱えたまま、鐘の音が不規則に鳴り響き、竜巻となりかかっている塔の嵐の中を力一杯飛んでいく。

 オーバーヒート寸前のウィンダムの翼──ジェットストライカーから、空対地ミサイル「ドラッヘASM」が発射された。

 

 一瞬の閃光と轟音と共に、地上付近の壁に大穴が空く。

 ティーダを運びながら、そこへ突っ込んでいくウィンダム。

 

 だが勿論、そんな傷だらけのウィンダムとティーダを見逃すアフロディーテではなかった。

 双対のビームサーベルを両方とも投げつけられ、爆発するジェットストライカー右翼。

 寸断される、ウィンダムの左脚部。

 

 

 

 一息に竜巻に巻き込まれ、落ち葉のように翻弄されていくウィンダムとティーダ。

 傷つけられ機動不能寸前のウィンダムの背後で、大樹の光が満ちあふれていく。

 ナオトの耳に、様々な人々の想いが交錯するのがはっきりと聞こえた。

 割れんばかりの鐘の音と共に。

 

 

 

 ──風間、やめろって。冗談きついぜ。

 まだお迎えは早い。俺はこいつを送り出すまで、死ねない! 

 ──カイキ兄ぃを殺したアンタを、絶対に許さないからね! ホンット、キモチワルイ!! 

 ──サイ……教えてくれ。

 こんな災いを呼ぶ母の呪いから逃れるには、どうすればいい? 

 

 

 

 人々の思念を飲み込みながら、光はやがて塔を破壊せんばかりに拡散を開始した。

 想いが、爆発していく。暴走していく。

 その片鱗は、確実にティーダにも注ぎ込まれていた。

 

 

 

 ナオトの目に、ボロボロのウィンダムとティーダが見えた。

 大量の血を吐きながら、壊れかけたコンソールをいじり操縦桿を握り締める血まみれの広瀬が見えた。その腹に、深々と突き刺さっているコクピットパーツの破片が見えた。

 激しく自分を拒絶し否定するチグサの、怒りの瞳が見えた。

 意味があるのかないのか――ナオトには理解出来ない言葉を呟きながら、確かにサイを想って退避行動に移るフレイが見えた。

 

 

 

 ──マユ。もう一度会いたい。

 僕はもう一度、君に会いたい。

 お願いだ。もう一度、君の声を……

 

 

 

 そう願った瞬間、ナオトの意識は途絶えた。激しい光の爆発と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ナオト、心配しないで。

 まだ……私は、ここにいるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何? 何が起こったの!?」

 

 その異様な光景は、シネリキョまでわずか5キロの地点まで迫っていたミネルバ隊にも、はっきりと確認出来た。

 目的地である人工島・シネリキョから突如、夜空の星を破壊せんばかりの光の柱が、一直線に伸ばされたのである。

 その光はどこまで行くのやら、見当もつかない。

 静かな夜を切り裂く、真っ白な光──

 光の発信源からわずかに見えたものは、緋色の炎。

 

 インパルスガンダムに搭乗中のルナマリア・ホークは、その光に見覚えがあった。

 おそらく、他のミネルバ隊の二人も同じだろう。コロニー・ミントンやインド洋の時と同じ鐘の音が、かすかではあるが聴こえる。

 

《レイ、ルナ! 急ぐぞ!》 

 

 デスティニーガンダムのシン・アスカから、自分以上に気を引き締めているであろう通信が轟いた。

 

「シン! 生存者の救出が最優先よ、分かってるわね」

《言われなくたって!》

 

 競うようにして、インパルスとデスティニーは滑空速度を上げる。

 だがそんな二人を、後方からレジェンドガンダムが押しとどめた。

 

《待て、二人とも! 

 島自体がおかしい》

 

 いつになく焦りの色を見せたレイ・ザ・バレルの声に、一瞬シンもルナマリアも島を凝視した──

 そして彼らはその眼を、さらに大きく見張ることになる。

 

 

 島は、沈み始めていた。まるでそれ自体が潜水艦でもあるように。

 地上にあったビルや研究塔などの施設が全て、島の外周から浮き出してきた虹色の羊膜のような物質で覆われていく。

 ミラージュコロイドのようなステルス機能でもあるのか、半球状に島を覆った羊膜の中は全く見えなくなってしまった。

 そのまま月まで飲み込むが如き大波をたてて、島はゆっくりと海中へ姿を消そうとする――

 その光の軌跡を、空へ残したまま。

 

 しかし、シンのデスティニーは紅の翼を翻し、それでも動いた。

 

《行くべきだ! 

 沈んでしまっても、何か残されているかも知れない!》

 

 一旦速度を落としかけたルナマリアも、シンに続いた。

 

「調査に行ったら、島が目の前で沈みました……

 なんて、また艦長の雷が落ちるもんね!」

 

 レイも二人を放ってはおけないのか、それともこの事態を放っておけないのか。黙って二人に追従していく。

 目の前の恐るべき出来事に気を取られた二人に、彼のひっそりとした呟きは聴こえるわけがなかった。

 

《これは、どういう感覚だ――

 あそこに……俺の、『母』がいる?》

 

 

 

 

 

 

「ナオト!?」

 

 サイは絶叫しながら、仮眠から飛び起きた。

 夜中となり、すっかり静まりかえったアマミキョ。その副長室で横になっていたはずだが――

 脱ぎかけてそのままだった制服は汗でびっしょりと濡れ、息は上がっている。

 

 ――ひどく、現実的な夢を見た。

 シネリキョにいるはずのナオトが、血を吐きながら絶叫していた。

 ティーダが、爆光に呑まれながら落下していた。

 頭も腕も脚もなく、胴体のみとなったティーダが。

 

 しかもナオトは、髪の毛から足の爪先まで血まみれで──

 どういうわけか、全てに絶望していた。

 

 マスミさんはどうした? マユは? フレイは? 

 一体何があったんだ、ナオト──

 

 サイが手を伸ばそうとした時、光が溢れて目が覚めたのである。

 心臓の激しい鼓動が止まらない。

 制服のボタンだけ無造作にかけて、サイは反射的に副長室を飛び出してブリッジに向かった。

 

 

 

 

 ブリッジではオサキとヒスイが懸命に額をつきあわせ、議論の最中だった。

 二人はモニターに映し出されたチュウザンの地図と睨めっこしつつ、ザフトの進路予測をしていたらしい。

 そこへサイは、いきなり飛び込んでいく形になってしまった。

 

「どうしたんだよサイ? こんな夜中に……」

「顔が真っ青ですよ。お水か何か飲みますか?」

 

 慌てて声をかけてくる二人に、サイは勢い込んで尋ねてしまう。

 

「何か、感じなかったか? 

 すごく嫌な、しかも結構リアルな夢を見てしまって。それで……」

 

 サイは願った──

 二人にぽかんとしていてほしい。笑い転げてほしい。

 夢でうなされるなんて子供かよ。そう言って笑ってほしい──

 だがその願いは、すぐに打ち破られた。

 

「そういえばさっき……急に鐘の音が聞こえたな。

 どっかで結婚式でもやってんのかと思ったけど、よく考えたら夜中だ。

 ありえねぇなぁ」

「私、さっきちょっと海を見たら、光の柱のようなものを見た……気がしました。

 疲れかなと思ってもう一度見たら、何もなかったんですが」

「なんだ、ヒスイもか? 

 アタシはてっきり、山神隊のサーチライトかと……」

 

 そこまで喋り、二人はサイの顔色を見て口をつぐんでしまう。

 

「わ、悪かったよサイ。

 アタシら二人とも議論に夢中になっちまって、気にならなかったんだ」

 

 自分が見た夢とは違うものの、アマミキョクルーであるこの二人が、似たような感覚を共有している。

 それが何を意味しているか、サイは考えたくもなかった。

 

 

 ──アマミキョが、人の意識を束ねる船だからだ。

 ──無数の意思は一つとなり、その刹那、個々の精神の境界はほんのわずかだが、薄れる。

 それらを『黙示録』なる物理的な力に変換するモビルスーツが、ティーダ。

 

 

 フレイの言葉が、サイの中で不吉に響く。

 もしサイの夢とこの二人の感覚が、同じ現象から導き出されたものだとすれば……

 ティーダに、ナオトに、マユに、何かが起こったということではないのか? 

 

 二人が作成していたザフト進路予想図のモニターに、サイは視線を落とす。

 元々彼が作成を指示していたものだ。

 

「すまない、驚かせてしまって」

 

 言いながらもサイは、正面メインモニターの方へ目をやらずにはいられなかった。

 今は、アマミキョ正面の夜空と海と街を映しているだけのメインモニター。

 夜はまだ明けない。空は曇って星はろくに見えず、街の灯もまばらだ。

 重い静けさと湿気だけが、アマミキョの外を覆っていた。

 

「た、多分お前、疲れてるだけだろ。

 ここんとこ特に昼夜走り回りすぎて、ちゃんと眠れてもいないんじゃねぇか?」

 

 オサキが心配そうに聞いてきたが、サイは努めて明るく答えた。

 

「はは、心配ないって。

 悪い夢で飛び起きるなんて……情けないよな、この歳になって」

「悪い夢……ですか」

 

 ヒスイは全く笑わず、しばらく考え込んでしまう。

 言い知れぬ不安が、三人の間に漂った。

 

 ──ナオト。フレイ。マユ……

 何もないよな。何も起こってないよな。

 無事でいてくれよ――頼むから。

 

 サイは何も見えない夜空に、祈ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 シネリキョ潜航から、約12時間後。

 フレイ・アルスターは、かつてアマミキョが停泊していた海底基地「オギヤカ」への帰還を果たしていた。

 旧日本の和室を思わせる9畳程度の部屋。部屋の隅に活けてあるスズランの他には、特に飾り気のないその「謁見の間」。

 その中央で、フレイはじっと伏している。

 

 ――彼女の「御方様」と会う為に。

 

「大変ご苦労でした、フレイ。

 セレブレイト・ウェイヴ発振装置のテスト、無事終了したようですね。

 チグサ・マナベも復帰したようですし、何よりです」

 

 ゆるくウェーブのかかった桜色の髪をふわりとなびかせた少女が、上座に腰を降ろす。

 同時に彼女は、背後のミニライトに手を伸ばした。雪の結晶を模した蝋燭にも似たライトが、部屋を暖かく照らし出す。

 少女の影も、フレイの上に大きく伸びていった。

 フレイは決して、自ら顔を上げようとはしない。少女の前髪を止めた満月の髪飾りが、静かに光をたたえている。

 

「恐れながら──

 ガンダム・ティーダ及びナオト・シライシ、研究員のマスミ・シライシ、そしてカイキ・マナベを失いました。

 この損失は、決して小さくはありません」

 

 少女は、玩具を取り上げられた子供のようにしょんぼりとしてみせて、首を傾げる。

 

「確かに、あのハーフ君は勿体無かったですわね。可愛らしいお顔をしていたのに……

 ハーフのSEED保持者なんて、滅多に出会えないですわ。

 マスミさんともお話させていただいたことはあるのですが、良いお友達になれそうな方でした……

 本当に残念です」

 

 その他は……つまりカイキ・マナベの件はどうでもいいとでも言いたげな、少女の口調だった。

 フレイの両拳がぎゅっと握られる。

 そんな微かな動作を、少女の青い瞳は決して見逃さなかった。

 

「何か、仰りたいのではありませんか? 

 顔をお上げなさいな、フレイ」

 

 言われて初めて、フレイは極めてゆっくり頭を上げる。

 その灰色の瞳は金属のように、平板な光しかたたえていなかった。

 

「第二回のテスト準備を急がせます。

 チグサも目覚めたばかり、不安定なところがあります。慎重に調整せねばなりません」

 

 少女はにこやかに笑う。

 

「そうやって、話を逸らさないで下さいな。

 貴方には、別の任務を用意させていただきました」

 

 握りしめられたフレイの拳が、微かに震える。

 それを見て、少女は満足げに微笑んだ。まるで聖母の微笑みだ。

 

「シネリキョが問題なく機能し、アマミキョのハーモニクスシステムのデータも揃いました。あとはセッティングを行なうだけです。

 となれば──『アマミキョの抜け殻』は、不要ですわね。

 不要というよりも、災いを呼んでしまいます」

 

 フレイはひたすらに、身を固くするだけだ。

 次に来る言葉の攻撃は、とっくに分かっているというように。

 それを見越してか、少女はそれまでの呑気な口調から、がらりと声を変化させた。

 白い頬が引き締まり、冷徹な女王としての言葉が、その唇から発せられる。

 

「これより、フレイ・アルスター及びアマクサ組に、アマミキョ・コアブロックの消去を命じます。

 タロミ・チャチャに害をなす可能性のある、一切のデータを残してはなりません」

 

 水をうったような静けさが、部屋を包んだ。

 フレイの拳はあまりにも強く握りしめられすぎて、指が真っ白になっている。

 やがて、再び頭を下げたフレイの身体から、押し殺した声が流れた。

 

「――承知しました」

 

 その静けさを吹飛ばすように、少女は再び声を上げて笑う。

 

「うふっ。整理整頓の基本は、いらないものをすぐ捨てることですよ。

 これは、貴方の数少ない肉親としての忠告です、フレイ。

 ティーダの損失と比べれば、そうそう高くつくものではありませんわ」

 

 水色の布地に梅の花が咲いた着物。

 その裾をゆっくりと直し、少女は頬に手を当てる。

 

「そうそう。ラクス・クラインがインフィニット・ジャスティスガンダムを入手したそうですよ。

 貴方も頑張ってくださいな、フレイ」

 

 

 

 ~~~~~~

 

 次回予告

 

 少年たちに起きた悲劇も知らぬまま、刻々と過ぎていく時間。

 戦火の嵐は容赦なく、アマミキョをも巻き込んでいく。

 そして遂に迎える、運命の日。

 その時、サイの前に立ちはだかったものとは。

 その瞬間、サイの下した決断は──

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation

「北チュウザン解放作戦」

 泥土の中、輝きとなれ! アストレイ! 

 

 

 

 





ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
このエピソードで、全体のおおよそ半分が終了しました。もうすぐ種運命の時間軸も終了し、種運命と映画の間のお話へと突入していきます。
果たしてサイたちの運命は……?
もしよろしければお気に入り登録、評価など、どうぞよろしくお願いいたします!

また、改めて申し上げますが、映画で新たに出てきた設定などがあってもこちらの作品に反映する予定は(今のところ)ありませんので、その点ご理解いただければ幸いです。

ちなみに2024/2/9現在、種映画を未だに観られておりません(;´Д`)
いや、意外に時間取れなくて……(と言いながらゲ謎5回目予約してるという)
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