【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
part1
──早く来て、シン!
この子、まだ息がある! 救急セットを!
──嘘だろ……
おい、こんな血まみれでか!?
──海水は飲んでないみたいね。あっ……
待って、肋骨が折れてるみたい! ごめんね、痛かった?
──ルナ。
気絶してんだ、聞こえるわけないだろ?
──気持ちの問題よ。可哀相に、こんなにぼろぼろになって……
あぁ、傷に潮水しみてるし! 早く洗浄しないと!
──まーた始まったよ、ルナの病気が!
──ヴィーノ、うるさい! 口じゃなくて手を動かしてよ、何の為にアンタたち呼んだと思ってんの!
──へ~い!
しっかしコクピット周りだけ、よく残ってたもんだなぁ。機体そのものはバラバラもいいとこなのに。
――おい、何だこれ? よくラクス・クラインが持ってたハロかな?
元は真っ黒だったみたいだが。
──海水か何かで塗装が剥げたかな?
こっちも負けず劣らず、ボッロボロだなぁ。
──もしかして、この機体のコアシステム的なってことは……
さすがにありえないか。
──そんなことはない、ヨウラン。
どんな些細なパーツでも見逃すな! 特にこの機体のものは。
──はいはい、全くもう……
レイの奴、命令された時だけはうるさいんだからなぁ。
──シッ、聞こえるぞヴィーノ。
──あ、レイ! そっちの、連合機のパイロットはどうだったんだ?
え? あぁ……
ん……そうか、了解。
──手の施しようがなかった。すまない。
──気にするな……って、俺が言うのもヘンだけど。
お前が謝ることじゃないよ。
――手首がずっと操縦桿を握っていて容易に引き剥がせない。両腕が寸断されているのにな。
せめて、手厚く葬りたいものだが。
――パイロットスーツも着ないで、何でこの二人、こんな無茶苦茶……
しかも、こんな子供が血まみれで海を漂流って……!
この怪我だって、乗る前からもう傷だらけだったみたいだ。
一体、あそこで何があったんだ?
──とにかく、全部まとめて艦長とヨダカ隊長に報告よ。
……もう大丈夫、大丈夫だからね。すぐに助けてあげるから!
PHASE-31 北チュウザン『解放』作戦
南チュウザンのタロミ・チャチャが突如国境を破り、北チュウザン領海内への侵攻を開始したというニュースは、瞬く間にアマミキョ及びその周辺地域にも飛び火して燃え広がった。
サイが不吉な夢を見てから、わずか3日後のことだった。
アマミキョクルーはザフトに加え、南チュウザン軍の侵攻ルートを考慮に入れて住民の避難計画を実行せねばならなくなり、おちおち眠ってもいられない日々が始まった。
北チュウザン政府は度重なるテロで弱体化し、内部でも激しい政争が起こっている。
軍が南チュウザンへの対応をするので手一杯で、とても住民の避難にまで手が回る状況ではない。
必然的に、アマミキョと山神隊が住民の避難を一手に引き受けることになってしまっていた。
「もう南方の都市――イシガキやイリオモテでは、連合と南チュウザンの戦闘が始まってる。
避難民は今まで以上に集まってくる。可能な限り受け入れてくれ」
今もブリッジで、サイはオサキたちや各ブロックリーダーに、懇願に近い形で指示を続けていた。
「各地域からの退避ルートはこんな感じだ」
サイはモニターに、オサキとヒスイを含めた3人でほぼ徹夜で作成した地図を、その場の全員に表示してみせる。
左曲がりの茄子のような形の、北チュウザンの島──
その中に、赤と青、そして黄色に色分けされた矢印が幾つも幾つも描かれていた。赤はザフト、青は連合、黄色は南チュウザン軍を示している。青が圧倒的に多いのはいつものことだったが、黄色の矢印は今やそれを圧する勢いだ。
不気味さすら漂わせる、無機質な黄色──その矢印は、当初のクルーの予想よりも一段と増えていた。
下方には北チュウザンより少し大きめの、南チュウザンの島々が描かれている。そこから延々と生まれていく黄色。
「今のところ、南チュウザン軍の本隊は西回りのルートをたどっている。
おそらくザフトはジブラルタル経由で西からも侵攻してくるから、西側のトミグスク、ウラソエ付近の海は三つ巴の戦いになる可能性がある。
ここは絶対に回避して、北東のウルマの港を目指してくれ。
特に南西部にいる班のブロックは、住民をかき集めて大至急避難だ」
アマミキョは分離機構を備えた救助船だ。この危機に先んじて、サイとトニーはアマミキョを可能な限り北チュウザンの各地域に船のブロックを分離させ、住民の避難誘導を行なっていた。
まさにこれが功を奏し、アマミキョは比較的効率よく避難民の救助に当たることが出来ていた。島の南西部に避難用ブロックを多めに配置しておいたのは、不幸中の幸いというべきか。
それにしても、旧世紀においてチュウザンに大規模な地殻変動が起こり、そこそこ大きな島になったのは──良かったのか悪かったのか。
不謹慎かも知れないが、サイは思わずにいられない。
もし地殻変動が起こっておらず、北チュウザンの大地が旧日本の琉球と同じ面積だったとしたら――
とっくにここは南チュウザンに踏み込まれ北と南は強制的に統一され、タロミの国にされていたかも知れない。
そもそも、ブレイク・ザ・ワールドに耐えられたかどうかすらも微妙なところだ。
しかしそのおかげで今、この島はさらなる激しい戦火に見舞われようとしているのか。
「ザフトはともかく、南チュウザン軍の西回り部隊が陽動だったら?」
「そうだよ。もし東回りで大軍に来られたらどーすんだ?」
クルーから疑問の声が上がったが、サイは冷静だった。
「島の南東部を中心に、連合が艦隊を展開させている。
本隊が万一東回りだったとしても、多少は時間稼ぎをしてくれるはずだ」
オペレータのマイティが、ふくよかな唇を尖らせる。「うわ、山神艦長に聞かれたら怒られそう……」
「山神艦長ご本人が、そう仰ってたんだよ。
ともかく、連合軍や山神隊が頑張ってくれている間に、俺たちはウルマに避難民を集めるんだ」
「何でウルマなの? もっと北にも港は……」
「ブレイク・ザ・ワールドの影響で、未だにウルマより北の港湾施設は回復していない。
ウルマが使えるようになっただけでも、幸運だったんだ」
「あとさ、ザフトの基地はカーペンタリアにもあるんだろ? そっちからも来たらどうする?」
「それはない。カーペンタリアの部隊は、オーブ用に残してあるはずだ。
ザフトにしてみれば、オーブにいるジブリールが第一の目的だからね。
万一カーペンタリアから来るとしても、位置的に考えて、まず攻められるのは南チュウザンだ。ここじゃない」
次々と上がる疑問に、サイはてきぱきと答えていく。
あくまで可能性、推測にすぎないことだらけだが――
それでも皆を安心させる為に、サイは落ち着き払い、時には笑顔さえ見せていた。
さらにクルーから上がる問い。
「もし……もしもよ、ウルマが駄目になったら?」
「考えたくはないけど、それは恐らく、南チュウザンかザフトがこの島を完全掌握した時だ。
ウルマは山神隊が死守するから、安心しろ……伊能大佐のお言葉だよ。
ザフトが直接ウルマを叩きに来ないとは限らないが、西の本隊よりは手薄だろう。それに、ウルマにザフトが来ると考えた場合、ザフト側の時間的ロスも大きい。
だからその間に、俺たちはみんなを連れて逃げるんだ。最悪の場合、ウルマからオーブへ脱出するルートも確保してある」
オーブへの脱出と聞いて、皆がしんと静まってしまった。
ユウナが幅をきかすオーブへ?
あろうことか、ジブリールを匿ったっていうオーブへ? ザフトに攻め込まれる可能性のあるオーブへ?
そもそも、俺たちまで攻められるハメになったのは、半分ぐらいオーブ政府のせいだってのに?
――何も言わずとも、クルーの顔が雄弁に文句を言っていた。
「皆、そう不安そうな顔をするな!
オーブが駄目でも、アークエンジェルがいるじゃないか! 心配はいらん!!」
トニー隊長が例によってガハハと笑ったが、サイは勿論引き攣り笑いしか出ない。
冗談か本気か知らないが、今のオーブよりよほど危険な奴らをアテにしてどうする。
案の定、皆が笑わないのでトニーは小さくなるしかなかった。
「……すまん」
サイは気を取り直し、続けた。
「そんな事態になる前に収束するよ。もう、戦いなんてみんな、嫌なんだ。
被害が大きくならないよう、出来るだけ住民を保護する──
みんなはそれを最優先に、行動してくれ」
トニーに連れられ、サイは午後から工場の稼動状況を見る為、外出した。
昨日のスコールが信じられないほどの、からりと晴れた青空。
湿気を含んだ大気はいつでも身体にまとわりつくが、もう慣れた。その分、たまに来る風が心地いい。
ちょうど季節なのか、農場のヒマワリ畑は満開だった。その膨大な黄色の花弁は青空の下、素晴らしい自己主張をしていた。
「大分、君も焼けたもんだなぁ!
私ほどではないが」
笑いながらトニー隊長は、サイの肩を叩く。
「毎日毎日4つも5つも工場と農場回ってたら、そうもなりますよ。
サラリーマンの営業みたいです」
「しかしおかげで、薬と食糧は予想以上に確保出来た。
あとは電気の問題だが、今日の備蓄ガス工場の交渉がうまくいけば、何とかなるだろう」
トニーが喋るのをよそに、サイは砂だらけの道端ではしゃぐ子供を眺めた。
最近、子供たちはサイに気づくと「算数のお兄ちゃん」と言って慕ってくれるようになった。最初はアマミキョに否定的だった親たちも、だんだんとサイたちクルーに好意に近い感情を見せるようになってきた。
解体作業の後、炭で焼いた豚肉をごちそうしてもらったこともある。
味噌をかけて葉っぱでくるんで焼いたあの肉は、サイの人生のうちでも全く経験がないほどの美味さだった。
「サイ君。
最初は大変だっただろうが、君も本当にここが好きになってきたようだな!」
トニーに言われて、サイはふと胸をつかれた。
彼の言うとおり──
ずっとこの国にいるうち、そこはかとない愛情に似たものをこの地に感じ始めていたのだ。
フレイと再会したこの国。
ずっと錆びついたままだった俺のネジが、再び動き始めたこの島。
失っていた涙を取り戻した、この街。
愛する者を心から抱きしめたのも、この地だった──
「そうですね……オーブ以上に、親しみを感じているかも知れません。
そりゃ、最初は殴られるわ蹴られるわで、正直帰りたいと何度思ったか知れないです。
でも、フレイやナオト、アマミキョのみんなや隊長やリンドー副隊長、色々な住民の方々と出会って分かりました。
――俺たちは、アマミキョでつなげられた運命共同体。
いわば、家族なんだって」
たとえそれが、ティーダによって作られた強制的なつながりだったとしても──
そう言いたくなるのを、サイはこらえた。
いつか時が来たら、皆にこのことも話をしなきゃな。
俺たちアマミキョクルーが文字通りの、運命共同体になっちまってることを。
「そのアマミキョが守る国を、嫌いになれるわけがないでしょう」
ネネやメルー、風間や真田の顔が脳裏をよぎる。
「いなくなった人たちの為にも──
この地の人たちは、必ず守ります」
サイはトニーと共に、丘の上から海沿いの街を見下ろした。
吹き抜ける熱風が髪を揺らし、ネクタイが翻る。
必ず守るさ──フレイ。ナオト。マユ。アマクサ組のみんな。
ここは、君たちが命がけで守った場所。
君たちが、帰ってくる場所なんだから。