【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
「タロミ・チャチャは北チュウザンのイシガキ・イリオモテ・ミヤコ島および周辺海域の領有権を主張。
さらには『神の復活』宣言に続き、『神国』宣言まで表明した模様です」
山神隊母艦・タンバのブリーフィングルームで、時澤軍曹が淡々と状況を告げていた。
「どうもその内容を要約すると――
連合にもザフトにも属さず、神を崇め奉ることを是とした国づくりを行なうとのこと。
いずれの国の内政干渉も許さず、いずれの国の内政にも関与せず、絶対中立を貫く。
そして、ナチュラルもコーディネイターも無関係に国民として受け入れるとのことです。
神の国の民として」
伊能大佐がすかさず問いただす。
「突っ込みどころが多すぎるが……
まず何だ、その神ってのは?
まさかタロミ・チャチャ本人がそのまま現人神ってんじゃないだろうな」
冗談めかしてはいるが、やや鋭い口調の伊能。
しかし、時澤は冷静だった。
「違います。
タロミの言う神は、その土地に遥か昔から根付いた神の存在──
つまり、土着の神々のことです。オーブで言うところのハウメア神のようなものですね。
タロミは、科学の進化とコーディネイターの出現によって消失した宗教の権威を、チュウザンで復活させるつもりのようです。土着神を崇めることで、ナチュラルもコーディネイターも無関係な世界を目指す。
オーブとはまた違った形の中立国……でしょうか」
時澤の言葉に、すぐさまキョウコ・ミナミが反論した。
「中立だなんて、冗談じゃないわ。
言うこと聞かなければ隣国を攻めるのが中立なの?
いずれの国の内政にも関与せずって、もう既に北チュウザンに攻め込んでおいて何を言うのよ!」
「タロミら南チュウザンの民にとっては、北チュウザンは一つの独立国ではなく、自分たちの領土なんですよ。
つまり彼らにしてみればこの地は現在、連合軍や資本主義に不当に支配されている、自分たちの国なんです。
侵攻が進めば当然、南方諸島のみならず北チュウザン全域の領有権を主張してくるでしょうね」
「貴方、よくそんな風に冷静に言えるわね……
彼らにとっては、これは侵攻じゃなくて解放だとでも言いたいわけ?
私は断じて許せないわ。何が絶対中立ですか!」
「中立というか、第三勢力、でしょうか?」
「まるでアークエンジェルね。
言うこと聞いてくれないなら、連合でもザフトでもどこでもおかまいなしに攻めるあたりは!」
アークエンジェルと聞いて、部屋中がざわめいた。
時澤は売り言葉に買い言葉で、つい感情を交えてしまう。
「ミナミさん、私情を挟まないでください。
アマミキョによる調査で、アークエンジェルはオーブの理念に基づいて行動していることが判明しているのです。
他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入せず──
ですから、彼らは、純粋に世界の平和を願って……その」
時澤が思わず感傷的になったのは、アークエンジェルをかばう為というよりミナミへの敵愾心という部分が大きかった。
彼自身──というより山神隊全員、アークエンジェルに良い感情は持っていない。何しろアークエンジェル追跡調査の途中で、風間が犠牲になったのだから。
時澤もいつもの論理的な反論が出来ず、どうしてもあやふやな言い方になる。
そもそもアークエンジェルの行動は、時澤の論理で順序だてて説明出来るような代物ではなかったが。
そんな彼の心持ちを知ってか知らずか、ミナミは容赦のない反論を続けた。
「やっぱり同じじゃないですか。争いに介入しないと言いながら、武力介入をしてるじゃありませんか!
オーブの理念がどうこうは知りませんけどね、彼らのやっていることは立派なテロ行為なんですよ!
しっかり理由が分かる分、タロミの方がまだマシと言えるわね」
「なっ……!」
つんと顎をそらし、ミナミは言ってのける。
このような態度に、つい頭に血が昇りさらに口を出しかけた時澤。
しかしそれを、やんわりと山神艦長が止めた。
「お~ちつけェ、時澤!
今はアークエンジェルの件で言い争っている時ではない!」
伊能が淡々と続ける。「問題は、この宣言でザフトがどう出るかだ。
チュウザン全体がさらに危険視されることは間違いない。プラントには神なんぞいないからな」
それを聞いて、新人の竹中が息巻いた。
「構いませんよ!
元々ザフトとは戦うつもりでいたんだ、望むところです」
熱血すぎる新人は、一刻も早く戦いたくてたまらないらしい──
山神はため息を隠せない。
「いざとなったら、期待している。
だが、命を粗末にするなよ。決して」
そして山神は別件を伊能に尋ねた。
今と同じ命令を下して送り出したはずの、部下の件を。
「――広瀬からの連絡は?」
伊能は首を横に振るだけだ。
「3日前に途絶えたままです。
アマミキョの連中は何人か、不吉な夢を見たとか言っているし、シネリキョは音信不通……
どうなってるんだか、あの島は」
吐き捨てるような伊能の言葉。
滅多にないことだが、言い知れぬ大きな不安を感じた時の彼の癖だ。
恐らく山神自身が感じていると同じ不安を、伊能も感じているのだろう。
真田、風間に続いて、広瀬までも失うことになるのか──
だが、山神は反射的に白髪混じりの頭を振った。
奴は、必ず帰ってくる。
情報を得て、必ず生きて帰る──それが、広瀬少尉のシネリキョ調査にあたり、山神が提示した条件だったのだから。
「オーブの直前に、北チュウザン攻め……
で、ありますか」
タリア・グラディス艦長の前で、明らかに不満げな顔でシン・アスカは答えた。
すかさず副長のアーサー・トラインがたしなめる。
「シン、艦長にその態度は!」
「いいのよ、アーサー」
タリアは硬い表情を全く緩めることなく、話を続ける。
「シン……さっきも説明したように、これは侵攻ではありません。
南チュウザンからの不当な侵略、そして連合の支配下から北チュウザンを解放する為の戦いなのよ。
さらに言うとミネルバには、別命が下されています」
口調を崩さぬままタリアは、シンの背後に控えていたルナマリアに尋ねた。
「例の機体と少年は、ヨダカ・ヤナセに預けたのね?」
「はい。
今朝がたヨダカ隊との合流時に、カーペンタリア行きの輸送艦に移しました」
「分かりました」
タリアは一息つくと、改めて艦長室に集まったミネルバ隊──
シン、ルナマリア、レイ、そしてアーサーの顔を見回した。
「これより、我々ミネルバはザフト本隊とは別行動を取り、ヨダカ隊と共に北チュウザンを目指します」
はぁ? と言いたげな顔で、シンとルナマリアが同時に手を挙げた。
「すみません、艦長。作戦の意図が見えないのですが……」
「北回りで、連合軍を挟み撃ちにするということですか?
ですが、ミネルバとヨダカ隊のみでは……」
タリアはゆっくり、首を横に振る。
レイが彼女の代わりの如く、静かに言った。
「目標は、あの救助船……
アマミキョ、ですね?」
「その通りよ、レイ」
ようやくタリアの表情が、ほんの少し柔和になる。
「但し――
今回の目的は、民間救助船アマミキョの衛護。
及び、船体・乗員の保護です」
今度こそシンが大声を上げる。「はぁ!?」
ルナマリアも黙ってはいられない。「で、でも艦長!
今まであの船は、私たちの敵だったんじゃ……」
「そうですよ、奴らだって俺たちを攻撃してきた」
その抗議を、タリアは一言で諌めた。
「これまで、私やヨダカ隊長が一度でも、あの船を撃沈せよと命じたことがあったかしら?
あの船は表向きはあくまで民間の、しかも一般人も多く乗る避難船なのよ」
アーサーがタリアの言葉を補足する。
「いやぁ、自分も最初に聞いた時は驚きましたがね。
理由は、君たちが例の海域で確保した機体にあるんだ。
あの人工島にタロミ・チャチャの息がかかっていることは、ヨダカ隊長の調査から判明している。
どういう理由か知らないが、謎の光と共に人工島が沈み、君たちを苦しめたあの機体の残骸が漂っていた──
これはデュランダル議長も、疑問視しているんだ」
レイが静かに言う。
「つまり、あの機体は南チュウザンの手でデータを取られている可能性が高いというわけですね。
すると、あの機体の能力をさらに強化した新兵器が開発中……とも推測出来る」
「ここ数日のタロミ・チャチャの動向を見る限り、既に開発終了、完成に至った可能性もあると議長は読んでいるわ。
それも、下手したら戦略兵器レベルのものが」
タリアは淡々としていたが、シンはその言葉に戦慄を覚えずにはいられない。
「もし、そんなものが完成したら……
どうなるんですか」
「アークエンジェルやフリーダムなど比較にならないほどの脅威となることは、間違いないわね。
まさに、神を名乗るには相応しい兵器だわ──それと」
タリアの口調には、一切余計な感情は混ざらない。
「ヨダカ隊長の報告では、主力となる傭兵部隊は一斉にアマミキョから引き上げたそうよ。
あの『白きブリッツ』もない今、アマミキョは丸裸も同然」
「でも……!」
シンはつい反論してしまう。
オーブへと逸る心は、どうしても抑えることが出来ない。
「あの船は今、連合の管轄下にあるんでしょう?
連合が守るんじゃ……何も、俺たちがやらなくとも」
「シン。
何故インパルスがミネルバに搭載されているか、その理由は分かるわね?」
突然自分に向けられたタリアの問いに、シンは一瞬目を白黒させてしまう。
分かっている。オーブに行きたいのでしょう、シン。
でも、まだ駄目よ──
タリアがそう語りかけているような気がして、シンは多少の冷静さを取り戻した。
「えぇと……
インパルスの合体機構を100%効率的に運用出来るのは、ミネルバをおいて他にはありません。シルエットの射出及びデュートリオンビームの照射も、ミネルバ以外では不可能
……ですか」
「その通り。
それと同様のことが、例の白ブリッツでも言える──これはヨダカ隊長の推測だけど。
つまり、あの機体はアマミキョでしか運用出来ないはず。
にも関わらず、アマミキョから遠く離れた人工島付近で、機体は発見された。
しかも恐らく、例の光を発振した直後の状態でね」
「要するに、アマミキョに代わる運用機構も同時に開発されたとみられる……」
レイはタリアと一心同体でもあるかのように、言葉を継ぐ。
「となれば──
南チュウザン側は、アマミキョを消しにかかる可能性が高いということですね」
俄かにはその意味が掴めず、慌てて尋ねるルナマリア。
「ど、どうして?
何で南チュウザンが、あの船を消すの?」
「当然だろう、ルナマリア。議長が仮にタロミの立場であっても、そうする。
あの船を放置していれば、いずれザフトや連合に船の秘密を掌握される。
火を見るより明らかだ」
レイの言葉でようやく納得がいき、シンはうなずいた。
「じゃあ、船が南チュウザンにぶっ壊される前に、俺たちでつかまえろってことか……」
「つかまえるという言い方は良くないわね、シン。
脅威が現実となる前に、出来る限りのデータを収集・解析しておくということよ」
タリアの注意を聞いているシンの脳裏に、あのズタボロの機体の中で発見された少年の姿が蘇る。
全身血まみれで傷口に海水が染み込み、ルナマリアの腕の中で激しい痙攣を続けていた少年。パイロットとは思えないほどか細い身体だった。
その光景はシンに、どうしてもステラ・ルーシェを思い起こさせた。
俺もルナと同じに、あんなに必死でステラを助けていたのか──
「あのパイロットの少年が目覚めてくれれば、こんな面倒もなかったのかも知れませんが」
アーサーがぽつりと呟いたが、ルナマリアが猛然と反論した。
「無茶です! あの子、今も生きるか死ぬかなんですよ!
無理矢理何かを聞き出そうなんて……」
「い、いやルナマリア、誰も無理矢理なんて真似はしていない!
第一、もう彼は輸送艦だ。我々は何も出来ないよ」
「だいたい私は、あの子を別の船に乗せること自体、嫌だったんです!
無理に移動させて、何かあったらどうするんですか!」
「落ち着きなさい、ルナマリア。
戦場へ向かうミネルバに、その子を乗せておけと言いたいのかしら、貴方は?」
タリアに指摘され、ルナマリアは口をつぐむ。
何か言いたげではあったが、何とか唇を引き締めているルナマリア。
その横顔を見ながら、シンは思った。
――ルナは、あの子供にメイリンを見たんだ。俺がステラを見たのと同じように。
俺が