【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part5 フレイの銃口は、サイへと向かう

 

 

 

 ザフトの勢いは、思いの外早く──

 その24時間後には、南チュウザン軍とザフトの激突がヤハラの南、僅か数10キロの地点で発生。

 アマミキョはこの時点までに総がかりで、南から避難してきた全ブロックをコアブロック近くに集結させていたが、それからまた北への移動を余儀なくされた。

 山神隊に守られて移動しながらも、アマミキョは避難民の収容を続けた。

 時にはバビの急襲を受けながら、雨中を逃走した。全ブロックで収容した避難民の総数は、最大時で5000人を超えていた。

 アマミキョ出発時に計算されていた収容可能人数の倍以上ともなる人数だったが、避難民はまだ増え続ける。

 しかし、一人でも多く。一人でも多くの命を助ける。

 その志は、アマミキョクルーのほぼ全員が一致していた。

 

 

 

 

 それでも――

 何をどうやっても、限界というものは、来る時は必ず来るものだ。

 サイにもオサキにもヒスイにもハマーにもカズイにも、その限界は既に、足音を隠しもせずに堂々と近づいていた。

 アマミキョはじりじりと、日ごとに北へ北へと追いつめられていく。そして──

 その日が遂に、訪れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺たちだって不本意だ。

 だがいざとなれば、自分らの身は自分らで守ってもらうしかねぇ」

 

 そんな伊能大佐の言葉と共に、山神隊の手で白兵戦に備えての拳銃が各自に配布されたその日──

 アマミキョは、ウルマの海へ出た。

 当初の予定とほぼ同じに──予定といっても、最悪の場合の予定だったが。

 沖へ出て、各ブロックから避難民をオーブ行きの輸送船に移動させる。

 その後アマミキョはウルマに留まりつつ、集結してくる人々を手助けし迎え入れる予定となっていた。

 

 

 

 

 風雨がやっとおさまり、快晴の青空の下、海上へと次々と送られていく輸送船を見送りながら──

 クルーたちは、ようやくほっと胸を撫で下ろしていた。

 連合艦はタンバも含め、視認出来るだけでスペングラー級が6隻。山神隊の護衛もある。

 避難民を乗せた輸送船は既に9割がた、このチュウザンを離れた。

 ここであれば、さすがに南チュウザン軍もザフトもまだ来ないだろう。

 最後の輸送船を見送り、クルーのほぼ全員がそう確信し、久々の青空に心を癒されていた時──

 

 

「――!?」

 

 

 突如、赤い閃光が走った。

 ブリッジの中心に立ち、昼夜を問わず指示を続けていたサイの脳裏に。

 

 

 ──サイ、逃げろ。

 今すぐに、()()()

 

 

 こめかみを殴られたかのようなその衝撃に、サイは顔を上げる。

 

「……フレイ?」

 

 ──サイがそう呟くのと、連合艦のうち西端にいた一隻が盛大な火柱を起こしたのは、ほぼ同時だった。

 半秒ほど遅れて、ヒスイの――

 最近の彼女にしては珍しくなった、パニック気味の叫びがあがる。

 

「何ですか、あれ!? 

 四時方向、東の空が……」

 

 アマミキョの眼前で、幾つもの水柱が上がる。

 見ると海原の向こう、突如として沸きあがった真っ黒な雲が、東の青空を覆いつくしていた。

 

 ──いや、雲ではない。

 それは、ジェットストライカーを装備した、無数のダガーLの群れ。

 それもどういう意匠か、機体の全てのパーツが隙間もないほど真っ黒に塗りつぶされている。その数は、およそ30機を超えていた。

 黒雲は一気に連合艦隊へと押し寄せ、ビームカービンの紅の光弾を雨あられと浴びせていく。

 決死の対空砲火も虚しく、艦隊の中から再び上がる火柱。

 

 

 

 この状況に、すぐさまタンバから飛び出したウィンダム3機。

 山神隊の伊能、時澤、そして竹中の3名が、一斉に攻撃をかけていく。中でも憤りを露にして憚らないのが竹中だった。

 

《連合に与する気もない癖に、ダガーLなど使って! 

 南チュウザンには、戦争のルールってものがないのか!》

 

 それに対し、落ち着きはらった伊能の声。

 

《急くな、竹中。

 カラーリングとトサカ部分が違う、ライブラリ照合したろ? 

 あいつらは南チュウザン軍の、偽ダガーだよ》

 

 時澤機も負けじとそれに続く。

 

《パクリの集大成には違いありませんがね。

 行きますよ!》

 

 他の艦から出撃したウィンダムも、次々に彼らに追従していく──

 だがその数瞬の後、黒雲の中から閃光のように飛び出してきたものは、ひときわ紅い機体。

 一陣の紅の風のように、連合艦隊の砲火や山神隊のビームをも次々と踊るようにかわし、すり抜けていく──

 

《あれって……まさか! 

 冗談キツイぜ、そりゃあ!》

 

 思わず叫ぶ伊能。

 しかし漆黒のダガーLを4機も5機も相手にしているのでは、どうにもならない。時澤も竹中も、他のウィンダムにしても状況は同じだった。

 そんな山神隊を尻目に、紅の閃光は一気に連合艦隊の遥か後方──

 民間救助船・アマミキョの直上へと占位した。

 

 

 

 

 その姿を――

 サイは勿論のこと、アマミキョの誰もが見間違えるわけがなかった。

 同時に、見た者全員が自らの目を疑ったのだが。

 

「まさか……」「嘘でしょ!?」「何でだよっ」

「ねぇ、どういうこと。どうして?」「ありえないよ!」

 

 ブリッジのみならず、船内各所で砂嵐のようなざわめきが巻き起こる。

 勿論ブリッジでも、オサキが一番の怒声を張り上げていた。

 

「どういう意味だよ! 

 なぁサイ、教えてくれよ。どういうことなんだよ、コレ!」

 

 どういうことも何も、サイとて何も分からないまま、上空を見上げる他はない。

 ただ、オサキたちと違うのは──

 予感があったか、なかったかの違いだ。

 

 

「そうか。これを恐れていたのか君は……

 フレイ・アルスター」

 

 

 サイの視線の真っ直ぐ先には、IWSPを装備した紅のガンダム──

 ずっとずっと、アマミキョを命がけで守ってきたはずの、ストライク・アフロディーテの勇姿があった。

 ただし、その右手に構えたビームサーベルの切っ先は、アマミキョに襲いくる敵にではなく、ほぼ一直線にアマミキョ・ブリッジに向けられていた。

 悪魔の瞳の如く爛々と輝く、紅のカメラアイと共に。

 

 

 

 

 

 

「サイ、許せ。

 私はお前を──

 殺さねばならんのだ」

 

 海上に浮かぶアマミキョを見降ろしながら、フレイ・アルスターの唇から呟きが漏れた。

 追従してきたスカイグラスパーから、ラスティの声が響く。

 

《フレイ、無茶はしないでくれよ。

 こちとら、後はジェットストライカーだけなんだから》

 

 それに続くように、グゥル(MS支援空中機動飛翔体)に乗って颯爽とダガーLの群れから飛び出してきたグフ・イグナイテッドから、ミゲルが通信を送ってきた。

 完璧に修復され、輝くほどのオレンジに塗り替えられた装甲が眩しい。

 

《アマミキョは俺たちに任せて、フレイは後方から指示をくれりゃいい。

 グフだけでも何とかなる。言っとくが、機体性能はこっちが上だかんな?

 あんたはこれ以上、手を汚すな》

 

 好きになった男を、わざわざ自分から殺すことはない──

 明確に言葉にせずとも、仲間の意図するところはフレイにも読めた。

 だが、それを了承するわけにはいかない。

 

「自分のけじめは自分でつける。

 連合艦に構うな。目標はアマミキョ、一点のみだ!」

 

 フレイの灰色の瞳がぎらりと光る──

 自分の中で必死に取りすがってくる何かを、振り払おうとして。

 その脳裏に閃くものは、サイの言葉。

 

 

 ──話、つけに行くよ。

 俺が君を憎くて憎くてたまらなくなった時は、話しにいく。

 何の理由があるのか、話を聞きにいくよ。

 

 

 フレイは自嘲するように、そっと呟いた。

 

「だから、貴様は甘いと言った……サイ」

 

 ――話をする余裕など、今、どこにもないというのに。

 

 

 

 

 

 

 アマミキョブリッジで、サイは微かに笑っていた。

 何がおかしいのか。他人には全く理解出来なかっただろうが、笑わずにはいられなかったのだ。

 あまりにも合点がいくことばかりで。

 

 ──お前の今の気持ちの分だけ、お前は私を憎む。

 ──私がお前を殺すかも知れんのだ! 

 

 そうか、こういうことかフレイ。こういう意味だったのか。

 何で俺は、もっと早くに気づかなかったんだろう。

 これじゃ確かに、話し合ってる余地なんかあるわけがない。争いってのはそういうもんだって、分かっていたはずなのにな。

 

 その間にも、加速度的に紛糾するブリッジ。

 

「あれがフレイなわけないだろ! 別の奴が乗ってんだ」

「そうよ。何だかんだで彼女はずっと、この船の為に!」

「じゃあアレは誰だよ? フレイ以外に、誰があんなゲテモノモビルスーツを扱えるってんだ!?」

 

 そんな混乱の中、自分でも驚くほどサイは落ち着きながら――

 かつ、よく通る声をその場に響かせた。

 

「みんな、静かに!」

 

 一斉に、ブリッジ中の視線がサイに集まる。

 それでも淡々と続けた。

 

「あれは間違いなく、フレイ・アルスターだ。

 俺たちの知ってる、彼女だよ」

 

 だから、どうするんだ。どうすればいいってんだ。

 今まで自分たちを守り続けていたフレイが、どうして……? 

 

 戸惑いと怒りの目が、次々にサイを射抜く。

 彼氏だったら何とかしてくれよ。どっかの三流ドラマじゃあるまいし、どうして彼女が彼氏に銃向けてんだ! 

 ――サイに注がれる視線の殆どが、明確にそう言っていた。

 

「マイティ。

 可能な限り、チャンネルを開いてくれ」

 

 震え続けるマイティに、冷静に指示を送るサイ。

 

「フレイに呼びかけてみる。絶対に攻撃はするな。

 みんな、アマミキョはここから全速で後退する。山神隊にも伝えておいてくれ」

「で、でも、もう……」

 

 マイティはコンソールをいじりながらも、涙目で上空のアフロディーテを見る。

 アフロディーテは空中で静止し、ビームサーベルを構えたままだ。

 今のうちに、逃げろとでも言いたいのか──

 意図が掴めず、サイは紅の機体を凝視してしまう。

 

 と、そこへウィンダムが1機、アフロディーテに体当たりを食らわしてきた。

 肩部に刻まれた「天海」のエンブレム──時澤機だ。

 何とかダガーLの大軍を振り切り、アマミキョの防衛に回ることに成功したウィンダム。

 そのスピーカから響く、時澤の怒声。

 

《アルスター嬢! 何故貴方がここにっ……

 一体、何をしているんだ! アマミキョに刃を向けるなどっ!》

 

 この隙を利用して、アマミキョは一気に後退を開始した。

 

 ──感謝します、時澤軍曹。

 

 ウィンダムに向かい、心の中だけでも敬礼せずにいられない。その間に、サイは声の限りにオープンチャンネルで呼びかけた。

 

「フレイ! 聞こえているなら、答えてくれ。

 みんな、君に問いたがっている。何故、アマミキョを攻撃する? 

 ミゲルとラスティもそこにいるんだね。ナオトとマユ、カイキはどこにいる? 

 君たちがいるなら、ティーダやカラミティも、いていいはずだろう? 

 アマミキョを沈めて、君に何のメリットがある? 可能なら、教えてほしい!」

 

 

 

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