【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part6 迫りくる最期

 

 

 コクピットまで届いてくるサイの声を聞きながら――

 フレイは機体右腕のサーベルはそのままに、ゆっくりと左腕にビームカービンを構える。

 誰にも聞こえない呟きと共に。

 

「アマミキョを作り、育て上げ、処理する。

 それが、私に課せられた使命だからな……

 サイ。私は、お前が思うような立派な女ではない。

 使命が全ての、つまらぬ人間にすぎない」

 

 その言葉と共にアマミキョへ向け飛んでいく、ビームカービンの閃光。

 ただ、その照準は明らかにブリッジからは外れており、けん制以外の何物にも見えない。

 速攻で割り込んできたウィンダム──時澤機のシールドが、瞬く間にその光を打ち払った。

 

《アーガイルの声が聞こえなかったのか、アルスター嬢!? 

 話し合いを望む民間船に攻撃など、言語道断!》

「アマミキョは、ただの民間船ではない!」

 

 フレイもスピーカを通じて叫ぶ。但し、感情は極力交えずに。

 

「そのことは貴公らも気づいているはずだ、時澤軍曹!」

 

 ウィンダムはシールドごと、機体をアフロディーテに突進させる。

 アフロディーテの右手のビームサーベル、ウィンダムのビームサーベル──

 二つの閃光が空中で交わり、火花を散らす。

 

《少なくとも、乗っているのは民間人だろう!》

「果たして、そうかな? 

 私にこの命令を下した人間は、そうは思っていない!」

《え?》

 

 明らかな戸惑いの声が、ウィンダムのスピーカから漏れた。

 その瞬間、アフロディーテの後方から不意に、紅に熱せられた鞭が飛んでくる。

 

《フレイ! 

 それ以上、こいつらに喋るこたぁねぇっ!》

 

 オレンジの塗装が眩しい、ミゲルのグフ・イグナイテッドのスレイヤーウィップだ。

 鞭の先端は蛇の如く空をうねって海上を突っ走り、アフロディーテを素通りして下方からウィンダムの左脚部を捕らえる。

 それをウィンダムが叩き切るより先に、鞭から電撃が放たれた。

 アマミキョの眼前で、紅い電撃に呑まれる時澤機。

 

《アマミキョ乗員が、民間人ではないと? 

 どういう意味だ……っ!》

 

 スパークする電流に苦しみながらも、時澤はフレイへの問いかけをやめない。

 

《答えてやるよ、フレイの代わりに!》ミゲルが叫ぶ。

《連中も、あんたらも。俺たちまで含めて……

 アマミキョに関わった人間は最早、ただの一般人とは見なされないってことさ!》

 

 

 

 ミゲルはウィンダムの右脚部にまで鞭を絡ませ押さえつけつつ、機体左腕のビームガンを機動させる。

 機体も──そして、新たに作られた自分の義手の調子もいいようだ。

 そしてグフの銃口は真っ直ぐ、アマミキョブリッジを捉えた。

 

「悪いな、サイ……お前、どこまでもいい奴だったぜ。

 ()()()()()、こんなことになっちまったんだが」

 

 後退を続けるアマミキョ。しかしブリッジからのサイの声は、グフのコクピットまで響いてくる。

 はっきりと明確に、彼の名を呼ぶ声が。

 

《ミゲル・アイマン! 教えてくれ、君たちの行動の理由を! 

 俺も含めて、みんなワケが分からなくなってる! 

 攻撃ならせめて、クルーの皆を避難させてから……》

「……」

 

 

 その声を振り払うように、ミゲルはロックオンを完了したアマミキョブリッジを見据える。

 シールドに護られたグフのビームガンに、火が入りかかる──

 

 

 

 なに、気にすることはない。手元のボタンをちょいと押すだけだ。

 あのミリアリアって娘には悪いことをしちまうが。

 サイ、みんな。

 出来るだけ、苦しまずに──

 

 

 

 だが、その刹那。

 グフの様子に気づいたのか、アフロディーテから思わぬ通信が飛び込んだ。

 

《やめろ、ミゲル! 

 アマミキョは私がやる。私がやらねばならん!》

 

 その一言だけで、ミゲルの挙動は一瞬ではあるが、止まってしまった。

 

 ──畜生、やっぱりまだ迷っているのか。

 フレイも、俺も! 

 

 舌打ちと共に、ミゲルの手元が鈍ったその時──

 響きわたるアラートとほぼ同時に、真横から思い切り衝撃を喰らった。

 

「がぁ……っ!?」

 

 モニターに大きく映し出されたのは、怒りを込めて突進してきたウィンダム。

 右から、山神隊竹中が機体ごと体当たりしてきたのだ。

 

《卑劣な連中めが! 

 ずっと仲間のふりをして、民間の救助船を欺くなど……

 どんな理由があろうと、許せることでは!》

 

 若さ故の怒りに燃えたぎった竹中は、ダガーLとの戦闘から離脱。一直線にアマミキョのところへやってきたのである。

 そのおかげで、時澤のウィンダムも電撃から解放されていく。

 サーベルに散らされた鞭の先が、力なく宙を舞い、海へ落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 解放された時澤のコクピットに、伊能から通信が入った。

 

《時澤、奴らの目標は艦隊じゃない! 

 アマミキョだけだ!》

 

 見ると、後退してきた伊能のウィンダムのすぐ背後にまで、ダガーLの真っ黒な大軍が押し寄せてきている。

 黒い機体に真っ赤なカメラアイだけが光る、その姿。

 時澤の背筋に、氷のような戦慄が走った──

 

 人間が乗っている気がしない。

 

 山神隊や艦隊からの攻撃をどれほど受けようが、どれほど装甲を剥がされようが仲間を落とされようが、彼らは意にも介さずアマミキョに向かっていた。

 光源を目指す虫のようにアマミキョに集まってきたダガーLどもは、ビームカービンの一斉射撃を開始する。

 目標はただ一つ──救助船・アマミキョのみ。

 

 

 

 

 

 

《アマミキョ、とっとと後退しろ! 

 もう、話し合ってる暇なんかねぇぞっ!!》

 

 伊能の怒声がブリッジに叩きつけられると同時に、紅い光の雨がアマミキョに降りそそぐ。

 

「全員伏せろ! 

 装甲部付近にいる者は、大至急内部ブロックへ退避!」

 

 サイが船内オールで叫ぶや否や、激しい震動がブリッジを襲った。

 アラートと悲鳴が、ブリッジ中を交錯する。

 

「左舷B4ブロックに被弾!」

「E7から11区画までの通信、途絶! 隊員の状況も不明ですっ」

「B6の食糧庫に火災発生!」「C2中央通路もだ!」

 

 サイの手元のサブモニターは船内の状況を分かりやすくCGで表示していたが、緑で描かれた船のディテールの上に「LOST」「ERROR」の赤文字が、加速度的に増えていく。

 まるで、乾いたコンクリートの道路を一気に黒く染めていく雨粒のように。

 その間にも、青空だったメインモニターを真っ黒に埋めたダガーLからは、次々と光の雨が降る。ブリッジへの直撃こそ伊能たちのウィンダムが防いでくれているが、それもいつまでもつか。

 

「オイ、ヘルダートは撃たないのかよ! 立派な正当防衛だろっ」

 

 操舵輪で身体を支えるようにしながらオサキが叫ぶが、サイは否定した。

 

「駄目だ、この距離じゃ近すぎる。

 下手に撃ち抜いて甲板にでも墜落されたら、どうする!」

 

 このダガーLどもの勢いから見て、十分にその可能性はあった。

 山神隊が撃っても斬っても、手足を斬られ達磨のようになっても、ダガーLはアマミキョに向かってくる。磁石にひきつけられる砂鉄のように。

 

 彼らはただひたすら、アマミキョの破壊だけを目的としている機体のように見えた。

 例えこちらが撃っても、絶対に退くことはないだろう。避けもせずに被弾し、そのまま突っ込んでくるはずだ。

 そうなれば、普通に撃たれるよりアマミキョの被害は大きくなる。最早ダガーL自体が、アマミキョに向けられた弾丸そのものと形容しても過言ではなかった。

 第一、避けられると分かっていても、フレイに銃口を向けたくはない。

 

 それに、可能性は非常に低いと思いたいが──

 ナオトやマユ、カイキが万一、あのダガーL軍団の中にいたら。

 それを考えると、正当防衛がどうの民間人の戦闘行為がどうのという以前に、ヘルダートの砲門を開く決断は、サイにはどうしても出来なかった。

 腰抜け副隊長と呼ぶなら呼ぶがいい。

 

 激しい震動の中、サイは唇を舐めた──

 フレイの目的がこのアマミキョコアブロックのみだとすれば、まだみんなが助かる道はある。

 彼女は、避難民の誘導完了を見計らって攻撃をしかけてきた──

 ならば、クルーたちの避難もうまくいく可能性はある。

 フレイが、「人」は殺さないのであれば。船だけが目的ならば。

 

「ヒスイ。

 トニー隊長とカタパルトへの通信状況は?」

「まだ大丈夫です」

 

 揺さぶられる船の中で、サイはヒスイと言葉を交わす。

 ヒスイも、自らのパニック症状に負けず、随分冷静になったものだ──

 サイは心中でかなり感心しつつも、彼女に次の指示を出した。

 

「至急、救命艇をクルーの人数分、用意してくれ」

 

 え? と顔中に書かれたかの如き表情で、ヒスイはサイを振り返る。

 だが構わずに彼は続けた。

 

「潜水装備を忘れないように伝えて。

 負傷者がいたら、最優先で医療ブロックへ」

 

 ヒスイは幾つも幾つも言葉を発したいのを、整理出来ずに唇の裏ギリギリで押しとどめているようだ。

 抗議や疑問の代わりに彼女の口から出たものは、いつもの何気ない言葉。

 

「……承知、しました」

 

 サイの真意を、半分ぐらいは理解したのだろう。ヒスイはそれ以上何も問わず、通信を繋いだ。

 だがその時、すぐそばでやりとりを聞いていたオサキが割り込んでくる。

 

「ちょっと待てよ……どういうことだ、サイ! 

 全員、ここから逃げろってかっ!?」

 

 揺れがまた酷くなる。

 オサキはサイの右肩を掴み、震動に耐えながら叫んだ。

 

「まさか……アタシらを含めて?」

 

 こうまで大声で言われて、ブリッジ中に響かないわけがない。

 ブリッジクルー全員の驚愕の視線がサイに注がれたが、彼はにべもなく答える。

 

「当たり前だよ。

 君たちを死なせるわけにいくか」

 

 言いながら、サイはコンソールをいじって医療ブロックに通信を繋いだ。

 

「スズミ先生。

 今から、重要な指示をさせてもらいます。

 このことは先生に、まず、お伝えしたいんです――

 ――」

 

 ()()をごく手短に話した後、淡々と続ける。

 

「――負傷者及び病人、妊婦の避難が最優先です。

 あと申し訳ないですが、船内の負傷者の受け入れもお願いします。

 準備が終わったら、チャンネル2で連絡を下さい。医療ブロックごと、パージを開始します……

 ルート29での避難開始を、お願いします」

《サイ君……

 待って。貴方、本気なの!?》

 

 ノイズだらけの通信ごしに、スズミの茫然とした顔が明滅する。

 サイは静かに答えるだけだ。

 

「コアブロック以外に、フレイたちは攻撃をしかけては来ない。

 あれだけのダガーLがいるのに、現在後方へ離脱中の他ブロックが損傷したという報告も入っていません。

 彼女たちの狙いは、俺たちが今いるコアブロックのみです。他のブロックは無関係だ」

《だからって……やめなさい! 

 それだけは許すわけにはいかない。ネネやリンドー副隊長から貴方を託された、大人として!》

 

 スズミの必死の声が、揺れとアラートの嵐の中でもサイの胸に響く。

 

 ――ネネを失った直後、何度も謝りながら俺を抱きしめてくれた時と、同じ声だ。

 だが俺は、ここで甘えるわけにはいかない。

 

「先生。自分は、アマミキョ副隊長です。

 船を預かる者の一人として、クルー全員を守る義務があります……指示に従って下さい。

 チャンネル2からの合図後、5分後にパージを開始します。固定が必要な患者は至急準備を」

《サイ君! 

 貴方、どこまで自分を傷つければ……》

 

 サイは無礼を承知で、スズミの言葉が終わらぬうちに通信を切った。

 

 

 ──ありがとう、先生。

 何度も俺を助けてくれた先生のこと、俺は絶対に忘れません。

 

 

 すぐ横では、オサキが突っ立ったままぶるぶる震えながら、両拳を握りしめている。

 今にもサイをぶん殴りかねない。

 

「お前……まさか」

 

 それ以上を言えず、顔を伏せて帽子を目深に被ってしまったオサキを尻目に、サイはクルーに指示を出していく。

 

「医療ブロックのパージ完了後、コアブロックに接続中の他ブロックも、全て切り離す。

 救命艇への避難が間に合わないと判断したクルーには、パージ予定のブロックへの移動を指示してくれ。救命艇かパージ予定ブロック、どちらかに乗れれば構わない。

 海岸線まで後退し、クルー全員の避難が完了次第──

 速やかに、アマミキョ自沈プログラムを実行する」

 

 

 

 

 

 ~~~~~~

 

 

 

 

 次回予告

 

 母が憎い

 ただそれだけで、彼女は他人を傷つけた

 母に抗えない

 ただそれだけで、彼女は彼を殺そうとした

 絶対的に子を縛りつけ離さない、母の呪縛

 その結果、アマミキョは遂に劫火に包まれる

 

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation

「愛、夢、流れる」

 その怨讐に、愛はあるか。アフロディーテ! 

 

 

 

 

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