【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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PHASE-32 愛、夢、流れる
part1


 

 

 山神隊母艦・タンバでは、艦長山神が固唾をのんで戦況を見守っていた。

 隊の奮闘にも関わらず、次第に穴だらけになっていくアマミキョ。対してこちらの連合艦は、ダガーLに対空砲火で応戦するのみが手一杯だ。

 漆黒のダガーLはまるで、自分の命など全く厭わないような攻撃をしかけてくる。

 ビームサーベルを投げつけ、武器がなくなればジェットストライカーを投げつけ、しまいには船に体当たりをかましてくる。

 こちらの正規ダガーLやウィンダムの部隊は、その物量と異常な攻撃性に圧されつつあった。

 

「山神艦長!」

 

 不意に背後から声をかけられ振り向くと――

 そこにはキョウコ・ミナミが立ちはだかっていた。

 その長身を、恐らく特注であろうエメラルド色のパイロットスーツで包み、同系色のヘルメットを小脇に抱えている。

 

「私も、ユークリッドで出ます」

「馬鹿を言っちゃいけない!」

 

 山神は慌てて立ち上がった。「貴女はあくまで、我々のオブザーバーであって……」

 だが、ミナミは山神に言葉を継がせなかった。

 

「アマミキョで、次々に各ブロックが離脱準備を開始している模様です。

 目的は明瞭ではありませんが、恐らく自沈プログラムを遂行するつもりでしょう」

「なんと……

 まさか、アマミキョが!」

 

 山神はあまりの事態に、思わず机上で両拳を握りしめた。

 奴らの目的が艦隊ではなくアマミキョであることは伊能からの通信で把握していたが、そこまであの船の内部も逼迫していたとは。

 ミナミはきっぱりと言い切った。

 

「例え、オーブの船といえど……

 民間人にこれほどの苦渋を強いる南チュウザン軍を、許すことは出来ません!」

「ありがたいお申出と言いたいところですが、ミナミさん。

 貴女、モビルアーマーの経験は?」

「ご心配なく」ミナミはまたも、顎をつんとそらして見せる。

「モビルスーツこそ経験はありませんが、モビルアーマーの試乗で暴れまくって上司に嫌われて、不慣れな広報課配属になったんですよ。私」

 

 ウィンクまでしてみせて、ミナミは颯爽とブリッジを出て行く。

 こんな捨て台詞も、彼女は忘れなかった。

 

「私は本国より、正当防衛の為の武器使用を許可されております。

 艦長の了解を得る必要は全くないのですが、一応、ご報告まで」

 

 そのままミナミが去ってしまうと、取り残された山神はオペレーターのてきぱきとした通信を聞きながら、モニターを見つめるしかなかった。

 アマミキョ直上に静止したままの紅の機体を、山神はじっと凝視する。

 ダガーLの猛攻を眺めているままの、ストライク・アフロディーテを。

 

「フレイ・アルスター……

 一体、何を考えている?」

 

 

 

 

 

 

 アマミキョでは、避難用BGM「オーバー・ザ・レインボウ」がゆっくりと流れ始めていた。

 ブリッジからは、サイによるフレイへの呼びかけがまだ続く。ダガーLの猛攻による船の激震も、止まっていなかった。

 

「フレイ! 今からアマミキョ各ブロックの分離、及び救命艇の切り離しを行なう。

 もし、君たちの軍が彼らに、一度でも攻撃を行なうようであれば──」

 

 サイは息をつぎ、敢然と宣告した。

 

「アマミキョ自ら、君たちに攻撃を行なう。

 民間人だろうが何だろうが関係ない。戦闘行為を行なったことで咎められようと、構いはしない。

 言っていることの意味は、分かるね?」

 

 サイは山神隊や連合艦隊にも届くよう、声を張り上げる。

 彼はこの言葉の裏に、もう一つ狙いを隠していた──

 山神隊、ひいては連合艦隊の士気の上昇である。

 自分たちの目の前で、軍人でもない民間人が自ら戦うなどと宣言しようものなら、軍人としてのプライドが絶対に許さないはずだ。フレイたちに守られて、もしくは軍の強制的な指示で、やむなく銃をとってきた今までとは違う。

 もっとも、サイが今まで見てきた軍人には、そんなプライドの欠片もないような連中もゴマンといたものだが──

 少なくとも、山神隊に関して言えばそれはありえないと断言出来た。あの風間や広瀬が、身を委ねた隊なのだから。

 

《自沈プログラムか。

 あのようなものは動作不能にしておくべきだったか》

 

 一旦攻撃を停止し、ダガーLの集中攻撃をただ黙認していたアフロディーテから、フレイの声が谺した。

 既に黒煙をあちこちから吐き出しているアマミキョを眺めながら、彼女は続ける。

 その言葉は、アマミキョクルー以上にミゲルやラスティを驚かせるものだった。

 

《いいだろう。

 但し、救命艇の放出は海岸の艦隊に沿って行なえ。

 あれだけのダガーLだ。どいつが誤射するとも知れんからな》

 

 やっぱりそうか。

 やっぱり、フレイの目的は──

 

 サイは確信しながら答える。

 

「分かった。

 ありがとう、フレイ」

 

 状況からしてとても礼など言えるものではないが、それでも彼の口からは自然とそんな言葉が出ていた。

 次いで、サイは各ブロックの避難状況を確認する。

 医療ブロックは既にアマミキョコアからの切り離しを終え、その他のブロックも次々にアマミキョコアから離れていく。

 

 

 勿論、サイの判断にブリッジクルーがすぐに納得したわけではない。

 そんなに簡単に、この船を捨てていいのか──当然、その声はクルーから上がっていた。

 

 だが、フレイの目的を察するに、この方法が最もクルーの命が助かる可能性が高い。

 彼女の目的が、アマミキョコアブロックの破壊であるなら。

 アマミキョのほぼ全てのシステムを一手に引き受ける、このブロックのみの破壊であれば──

 自沈プログラムで船の主機能を停止させ、クルーはその場から全員逃げおおせれば助かるはずだ。

 

 アマミキョに組み込まれた自沈プログラムは、要するに船の自爆を促すものではあるが、クルーが全員避難を完了しない限り、自爆実行には至らない。

 その自爆も、コアを除く全てのブロックを船から離脱させた上で、出来る限り周囲に危害を及ぼさず、船を効率的に破壊するよう計算されたものだ。

 船のシステムが狙われる、まさに今のような時の為にあるようなプログラムだ。

 

 もっとも、プログラム実行が順調に行なわれるかを見定める為、最終権限を持つ管理者――

 つまりサイかトニー隊長のどちらかは、ぎりぎりまでブリッジに残っていなくてはならない。

 しかしプログラムの仕様上はそれでも十分に、管理者自身が避難する時間ぐらいは確保されていた。

 ただ、自沈プログラムの使用を促すようなことをフレイは言っていない。むしろ今の発言は、そのプログラムの存在を疎ましく思っているようだ。

 

 だが、それは恐らく──

『フレイ・アルスターが部隊を率い、アマミキョを攻撃し、破壊した』

 そのポーズが欲しい為だ。

 ()()()()()()()()()()()()()、その事実が欲しい何者かの為に。

 あのフレイがあれだけ怯えていた、何者かの為に。

 それに、彼女が万一クルー全員を殺すつもりなら、これほど非効率的な作戦を取るはずもない。これだけのダガーLの大軍で、たかが救助船一隻を襲わせるなど。

 

 ──ただ、これは殆ど、サイの憶測にすぎない。

 賭けに近い判断だったが、それでもクルーは納得出来ないながらも、行動に移っていた。

 正面からフレイと交渉を行ない、もし約束が破られるようなことがあれば全力で戦う──

 サイがその覚悟を見せたことで、クルーも積極的に動いたのだ。

 

 そして今のフレイの言葉から考える限り、彼は賭けに勝った。

 フレイは「人」には手を出さない──その賭けに。

 

 

 

 

 

 

《いいのか、放っといて……

 フレイ。あいつらだって消去対象じゃないのかよ》

 

 ラスティの声がコクピットに響いたが、フレイは切り捨てた。

 

「あくまで目的は、アマミキョコアブロックの消去。クルーにまで手を出すことはない。

 避難中の救命艇への攻撃を行なったなどと知れたら、大衆の心を掴むのは非常に難しくなる。

 たとえ、どんな理由があろうと」

《アマミキョ攻撃した時点で、大衆の心はヤバイと思うがね。

 御方様の命令じゃ、どーにもならんけど》

 

 愚痴にも似たラスティの声に、ミゲルの言葉が重なる。

 

《それでもさ。

『アイツ』だけは、見逃すわけにはいかないだろ?》

「船と内部データだけ消滅させれば良いとの命令だ」

《そりゃそうさ。

 だが、御方様の命令はいつだって裏がある。そいつを読めなければ、ミッションを遂行したことにはならない──

 そう自分で言ったじゃないか、フレイは》

 

 突き放した口調ながら、それでも気遣いを忘れていないミゲル。

 その声が淡々と響く。

 

《フレイ……

 やっぱりあんた、まだ迷ってるだろ》

「どうしてそう思う?」

《俺が船を攻撃しようとしたら止めた癖に、ダガーLは放っておくからなぁ》

 

 その言葉通り、アマミキョを攻撃中の非正規ダガーLに対し、フレイは殆ど何のリアクションもとっていなかった。

 

「奴らにインプットした命令は、アマミキョの破壊のみだ。

 ブリッジや人員を狙うようにはしていない」

 

 そんな言葉に、ラスティが脇から突っ込む。

 

《それでも、サイたちが傷つく可能性はあるだろ? あの攻撃じゃぁな。

 ま、これだけ派手にやりゃあ、御方様への忠誠の証にはなるだろうが……

『あんた』は、どう思うんだ。

 どうしたいんだ、『あんた』は? フレイ?》

 

 だが、その時――

 アマミキョを凝視していたフレイの眉が、不意に顰められた。

 

「少し黙れ、二人とも。

 アマミキョの挙動が──おかしい」

 

 

 

 

 

 相変わらずのダガーLからの光の雨に、ひたすら耐え続けるアマミキョ。

 装甲部分が次々と引き剥がされ、真っ白だった船体は煙を噴いて汚されていく。

 離れていく見慣れた居住ブロックや作業ブロック。

 着々と進行していく自沈プログラムに、遂に耐え切れなくなったオサキが爆発していた。

 

「自爆する気かよ! 

 みんなを逃がして、てめぇだけおめおめ死のうってのか、サイ! 答えろ!」

「死ぬつもりなんてないよ。俺が逃げる時間だってちゃんとある。

 ただ、責任があるからね――俺には」

「そんなら……!」

 

 と、オサキはサイの襟ぐりに掴みかかろうとしかけていた

 ――が。

 

「ちょ……

 ちょっと、待ってください! 副隊長!!」

 

 ヒスイが彼女にしては珍しく、酷く声を張り上げた。

 ブリッジで、最初に『その異変』に気づいたのは彼女だった。

 

「どうして……? 

 自沈プログラムに、アクセス出来ない? ど、どういうこと?」

 

 サイは即座に、ヒスイの手元のモニターを確認する。

 エラー音と共に出現する、無機質な「Access Error」の赤文字。ヒスイやサイが何度キーを叩いても、同じ表示が出るだけだ。

 途端、ブリッジの反対側でディックが悲鳴にも似た叫びを上げた。

 

「それだけじゃない! 

 メイン航行制御システムにもエラーが出まくってる。システム周りにどんどん広がってる!」

「副隊長、こりゃホントマズイぜ! 

 こっちもだ、エンジン制御機構にまで……

 畜生、こんなことって!」

 

 各クルーがまるでタイピングコンテストでも始めたかという勢いで、コンソールパネルを弄り始める。しかしどの画面も繰り返し同じエラーの赤文字を叩きだすばかりで、その先には一歩も進めない。

 

 こんな時に、船に何が起きたんだ。ダガーLによる損傷か? 

 いや、システム周りの被害は報告されていなかったはず──

 

 サイは判断出来ないまま、叫ぶように指示を出す。今、最優先すべきことを。

 

「マイティ、分離機構はまだ作動するか? 救助艇の脱出ルートの確保は?」

「まだそこまで被害は広がってないけど、でも……」

 

 時間の問題、と言いたげにマイティは、そのややふくよかな頬に焦りを滲ませる。

 

「もう一刻の猶予もない。

 システムが落ちる前に、みんなを可能な限り救助艇に入れて、脱出させるんだ。

 まだ残っているブロックは?」

 

 ヒスイが答える。

 

「全てのブロックは分離を完了して、コアブロックより後方約2キロの地点まで離れています。

 あと残された脱出手段は、救助艇だけです」

「残っているクルーは?」

「登録データ309名中、ブリッジクルー含めて現在45名。

 ですが、行方不明者が一人……」

 

 それが誰なのか、サイには予想がついた。

 勿論、最悪の予想だったが。

 

「……カズイ、か?」

 

 ヒスイは観念するように目をつぶり、無言でこくりと頷いた。

 何てことだ──真っ先に安全地帯に逃げていて然るべきカズイが、未だに行方不明だと? 

 

「部屋は?」「調べましたが、誰もいませ……

 あぁっ!!?」

 

 ヒスイの答えが終わらぬうちに──

 突如、縦方向の激震が船体全てを貫いた。

 

 

 

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