【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part2 沈みゆく船の中で

 

 

 ダガーLの攻撃とはまるで違う、船体下部から猛然と突き上げられるが如き震動。

 無重力空間であれば、全員の身体が天井と床を往復していたであろう。

 一瞬ブリッジの照明が全て落ち、BGMも途切れ、船内中が悲鳴に包まれる。

 5、6回ほどの縦揺れの直後、ブリッジは右方向へ25度ほども一気に傾斜した。非常灯の赤い光が灯ったのは、その2秒後だった。

 

「状況は!?」

 

 座席にしがみつきながら傾斜に耐えるサイに、目と歯を剥き出しながらディックが叫んだ。

 

「右舷第1から第3までのメインエンジン、爆発!」

 

 その言葉が意味する、あまりに絶望的状況に──

 ブリッジ内がしん、と水をうったように静まりかえる。

 今までにも度々アマミキョがパニックに陥ったことはあったが、今の状態は比べ物にならない。

 こんな大規模な爆発は、自沈プログラムの実行ではありえないはずだ。少なくともエンジン爆発は、船の主機能が全て停止して、クルー全員が避難してからのはずなのに──

 

 サイは傾き続ける床で踏ん張りながら、同じように必死にコンソールで身体を支えるヒスイを振り返る。

 最早涙目となっている彼女だったが、それでも報告は怠らなかった。

 

「右後方メインスラスター、作動しません……

 右舷第4から全てのメインエンジン、停止しました。

 あ、アマミキョ、航行不能です……」

 

 消え入るようなヒスイの声だったが、死亡宣告にも等しいその一言は、血のように赤く染まったブリッジ内に一層深く染みわたっていった。

 ディックが無言でコンソールパネルを殴り。

 マイティが顔をおさえ、声を殺して泣き始めた。

 

「ねぇ、どうして? どうしてこんな……

 どうして?」

 

 つられたように、他のブリッジクルーからも次々と無念の呻きが漏れた。

 オサキだけは何の反応もせず、怒りの表情を隠さぬまま、じっと操舵輪を握りしめている。

 船内各所からの通信はまだ生きているようで、トニー隊長やハマーからの怒声が、何とか復活した避難用BGMオーバー・ザ・レインボウに乗って響いてくる。

 

 それでもサイは、崩折れそうになる身体を立て直しながら、まだ信じていた──

 アマミキョの命は、決して潰えていないことを。

 

「ヒスイ。左舷E1から24までの全区画、監視システムは切れていないね? 

 人員が残っていないか、確認してくれ」

「え……? 

 は、はい」

 

 サイの突然の指示に戸惑いつつも、ヒスイは涙を袖で拭いながら、傾いたコンソールを操作する。

 

「誰もいません。

 最底辺ブロックですので、この区画はもう誰も……」

「分かった。すぐに、E区画に通じる隔壁を閉鎖。

 その後、当該区画に海水を注入する」

 

 彼の指示は、決して冷静さを失ってはいなかった。

 海水注入による船体の立て直しは、本来は自動制御で行なわれる。だが思わぬシステムダウンの為、その制御機構も動かなくなっていたのだ。ならば今すぐやるべきことは、手動でのアマミキョ立て直しだ。

 

「まずは船体を立て直す。この状態じゃ、避難なんて無理だしね。

 悪いけどみんな、もう少し頑張ろう!」

 

 ぎこちないと自覚してしまったが、サイは懸命に笑顔を作ってみせた。

 非常灯が赤から通常の光に切り替わり、ほんの少しだけブリッジに日常が戻ったように錯覚させる。

 少しはサイの笑顔に希望を抱いたのか、完全に絶望の淵に追い込まれていたクルーも、忙しく動き始めた。

 

 

 

 

 

 

 アマミキョ右舷から突如噴き上がった盛大な火柱を、伊能ら山神隊は呆然と見守るしかなかった。

 エンジン部への直撃は食らっていない、俺たちはしっかり守ったはずだった──

 なのに、何故勝手に爆発する、お前ら? 

 

《内部からの爆発か? 

 エンジンにそう負担をかけたわけでもあるまいに、何故……》

《時澤、まだ来るぞ! 前!》

 

 ダガーL部隊のアマミキョ攻撃は、それでも止まる様子はない。再び山神隊に襲いくる、ビームカービンの雨。

 一瞬だけ時澤機は、アマミキョの爆発に気を取られていた。

 その下を、まんまと3機のダガーLがくぐり抜けていく。まるで時澤を馬鹿にするかのように。

 

《なっ……しまった!》

 

 時澤が思わず絶叫した、その時──

 全く予想もしなかった声が、コクピットに響いた。

 

《やっぱり甘いわね、おチビさん!》

 

 甲高い声と共に、海上を駆け抜けてきた閃光。

 それがアマミキョに肉迫していたダガーLを3機とも、一瞬のうちに消し飛ばした。

 

《え……えぇ!?》

 

 ダガーLを光球に変貌させたその閃光の主は、波をかきたてて海上を滑りながら、あっという間に時澤機の直下へと追いついていく。

 他のダガーLからも次々にビームカービンの光が雨あられと降りそそいだが、光の発生源たるそのモビルアーマーは、機体前方に虹色の盾状の光板を2枚発生させ、ビーム攻撃を全て防ぎきっていた。

 

《陽電子リフレクターの力、舐めてもらっちゃあ困るわ!》

《ちょっと、まさか……

 ミナミさんっ?》

 

 呆れる時澤の叫びは、全く相手にされない。

 キョウコ・ミナミの操る流線型の、昆虫にも似たモビルアーマー──

 ユークリッドから、再び閃光がほとばしる。瞬く間にダガーLが2機、何も出来ずに爆発していく。

 

《このキョウコ・ミナミがいる限り、アマミキョに手出しはさせませんよ! 

 かかって来なさーい!》

 

 ユークリッドをアマミキョのほぼ真正面に位置取らせたミナミは、その場の全員に見得を切ってみせる。もっとも、山神隊以外にそれをまともに聞いた者がいたかは、非常に怪しかったが。

 

《人のものを勝手にパクって、タダですむと思ってないでしょうね!》

 

 緊迫感があるのかないのか分からないミナミの叫びと共に、またしても光が閃く。

 味方が増えたことに少しだけ安堵しながらも、時澤は頭痛も感じ始めていた――

 だいたい、バッテリー切れの概念を理解しているのか、あの女は。

 

 

 

 

 

 

 ユークリッドの出現により、若干ではあるがダガーLの攻撃が弱まっていく。

 この間に、アマミキョは傾斜した船体をどうにか立て直すことに成功した。

 

 だが、危機が去ったわけでは全くない。

 危機を「乗り越えられなかった後」の運命が、これからこの船には待ちうけている──

 それは、クルー全員が理解していた。

 

 船内のいたる場所で火災が発生し、攻撃に伴う浸水も起きている。船体を元に戻す為に船底に水を入れた為、船全体が半分がた、海面下に沈んでいた。

 それでもカタパルトはまだ生きていた為、救助艇は次々とクルーを乗せて発進していく。

 船体が再び安定したことを確認しながら、サイは改めてブリッジクルーに向き直った。

 まだアラートは鳴り続け、メインモニターの向こうでは山神隊とダガーLの激突が続いていたが、サイはゆっくりと話し始めた。

 

「みんな、ありがとう。

 よくここまで、立て直してくれた」

 

 彼が何を言い出すのか、この時点でもう全員が察していた。

 中にはマイティのように、再び泣き出す者まで現れた。

 

「さっき、トニー隊長を呼んだ。

 隊長の誘導に従って、全員速やかに船から脱出してくれ」

 

 マイティは涙を隠さぬまま、黙ってかぶりを振る。

 ディックまでが男泣きを始め、鼻をすすりあげていた。

 外で光弾が飛び交う中、ブリッジが静かな泣き声で満ちていく。

 

「嫌です。

 私……嫌です」

 

 ヒスイも涙を流しながら、激しく首を振る。

 

「この船を見捨てたくない。

 ずっとみんなで、ここで、どんなに苦労しても過ごしてきたんです。

 それに……」

 

 長めの黒い前髪の間から大きく目を開き、まっすぐサイを見つめながら、ヒスイは叫ぶ。

 

「副隊長はどうするんです!? 

 逃げましょう、一緒に!」

 

 その言葉に、サイは首をゆっくり横に振るしかない。

 

「俺はもう少しここにいなきゃいけない。皆を完全に避難させたか、確認する必要があるからね。

 それに……ヒスイさん。

 ハーフムーンを覚えてるだろう? この船も同じだよ。

 船が沈んでも、みんなが生きていれば、必ずまたアマミキョは息を吹き返し、動き出す。

 俺は信じてる」

 

 ただ一人、オサキだけは操舵輪を握ったまま、彼を見ようともしない。

 そんな彼女をちらりと見ながら、サイは続けた。

 

「それと、一つだけ皆に謝らないといけないことがある。

 アマミキョを、フレイたちが襲っている理由だ。みんなには多分、見当もつかないだろう。

 混乱させてしまって、本当にすまなかった」

「お前なら、知ってるってのか」

 

 オサキが全くサイを見ずに、ぼそりと吐き捨てた。

 少しの逡巡の後、彼は静かに告げる。

 

「直接、フレイから言われた。アマミキョが抱える秘密をね。

 恐らくその秘密の為に、この船はフレイ自身の手で破壊されようとしているのだと思う。

 というより、彼女が自ら、破壊しなければならないんだ。

 ただ、それを皆に言うつもりはなかった。皆を混乱させるだけだし、恐がったり疑心暗鬼になるクルーも出るだろうから。

 今この場でも、言うつもりはない。皆がアマミキョから無事脱出出来たら──

 その時こそ、本当のことを話すよ」

 

 もうこの時には、オサキを除くブリッジクルー全員が泣いていた。

 

「俺……俺、ここから離れたくねぇよ」「サイ君、来てくれるよね? 絶対だよ?」

「副隊長。俺、ずっとあんたのこと馬鹿にしてた。ごめん……」

「一緒に行こうよ! どうして駄目なんだよ、副隊長!」

 

 口々にブリッジクルーから、嘆願が飛んでくる。

 だがサイは静かに、笑顔で頭を振った。

 

「そんなに心配しなくても、俺はすぐに行くよ。

 すぐ会える、大丈夫だ。アマミキョは、みんな繋がっているんだから」

 

 

 ──そう、繋がっている。

 この船とティーダの力で、みんなが繋げられている。

 恐らくその力が原因でこの船は今まさに、沈められようとしているが。

 

 

 その時ブリッジの扉が開き、トニー隊長が現れた。

 

「みんな、もう時間がない! 

 カタパルトまで誘導する。すぐに救助艇に乗るんだ!」

 

 その額からはどこで打ったのか、血が流れ出している。作業着は煤で真っ黒だ。

 そんな隊長の叫びにも、クルーたちは動こうとしなかった。

 ――俺がしっかり説得しなければ。

 笑顔を崩さずにいるのはかなりの努力を必要としたが、それでもサイは声を上げた。

 

「みんな……本当にありがとう。

 こんな駄目なサブリーダーで、本当にごめん。船を沈めちまうなんて、最低だよな。

 だから脱出したら、必ずまたアマミキョを再建する。約束する」

 

 サイに続き、トニーが精一杯の音頭をとる。

 

「みんながいないと、その再建もままならんぞ! 

 副隊長の奮闘を無駄にするな、ついてこい!」

 

 隊長の勢いで、ようやくクルーたちは腰を上げた。

 アラートとオーバー・ザ・レインボウが不協和音を醸し出し、モニターの外で飛び交う光線が、古いディスコのようにブリッジ内を赤く白く染める。

 そんな不思議な空間の中、クルーたちは口々にサイに礼を言いながら、隊長の指示に従ってブリッジを後にしていった。

 ヒスイ・サダナミもなかなか動けなかったが、隊長に腕を支えられ、ようやく立ち上がった。

 

 ――そしてふと、彼女は気づく。

 オサキことサキ・トモエが、操舵輪を握ったまま動こうとしない姿に。

 

「オサキさんは? 

 一緒に行きましょう、オサキさん!」

「アタシはまだ無理だよ」

「えっ?」

 

 彼女はヒスイを一瞥し、そのまま手を振った。「いざって時、手動でアマミキョを動かす必要がある。

 左のエンジンとスラスターはまだ生きてんだ。いざとなりゃ全力でサイを助けてみせるさ」

「そんな……

 オサキさんまで!」

 

 酷く動揺するヒスイ。サイもオサキを諌める。

 

「オサキ、君もみんなと一緒に行くんだ。

 馬鹿なことを言っちゃいけない!」

「馬鹿言ってんのはどっちだ? 

 この状態で、お前だけでアマミキョ動かせるわけねぇだろ」

 

 彼女の言葉には確かに理があった。

 サイは唇を舐める――俺に、この状況下で船を思い通りに動かせるほどの技量はない。

 俺が残る為に、彼女まで巻き込んでしまうハメになるとは。

 そしてこうなったオサキは、梃子でも動かない――

 

 それを熟知しているヒスイは、涙と共にため息をつきつつ、説得を諦めた。

 

「必ず、サイさんと一緒に来て下さいね。

 ……約束ですよ」

 

 オサキの両手をぎゅっと握りしめたヒスイ。その手に落ちていく涙。

 それをオサキは笑い飛ばしながら、彼女の頬に軽くキスまでしてみせた。

 

「バーカ。ヒスイはいつだって心配性だな~。

 今生の別れみたいなことすんじゃねぇよ、くすぐったい」

 

 サイも、オサキの説得は諦めざるをえなかった。

 ――これだけ必死なヒスイの言葉でも動かないなら、俺の言葉で彼女が動くわけがない。

 

「だーいじょうぶだって! 

 サイの首根っこ引っつかんででも、必ず合流すっからな!」

 

 さっきの激昂はどこへやら、オサキはもういつもの元気を取り戻していた。カラ元気かも知れないが、泣いて喚かれるよりはいい。

 そんな彼女の威勢とトニー隊長に支えられるようにして、ヒスイは後ろを振り返り振り返りしながら、ブリッジを去っていった。

 

 

 

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