【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
アマミキョから、三発目の銃声が轟いた時──
もうアフロディーテはビームサーベルを二刀流で構え、デスティニーに襲いかかっていた。
身体を貫く不可解な痛みに耐えながら、フレイは白目まで剥いて叫ぶ。
「分かったぞ、貴様らザフトの目論見が!
アマミキョ内部の人間を殺し、船だけかすめとろうという算段か!
答えろ、シン・アスカ!」
《訳の分からないこと言ってんじゃねぇよ……
この、人でなしが!》
光の刃が、空中で激突する。
両機がその勢いで弾き飛ばされた直後、デスティニーの双対のフラッシュエッジが、アフロディーテの両側から挟み撃ちにする如く逆襲してきた。
だがアフロディーテは弾き飛ばされていた間に、右腕のサーベルをビームカービンに持ち替えた。さらに背部のIWSPからレールガンを撃ち放ち、フラッシュエッジめがけて炸裂させる。
《うっ――!?》
それだけで海上に強烈な嵐が巻き起こったが、フレイの攻撃は終わらない。
レールガンによってフラッシュエッジの軌道が変えられ、デスティニーに戻ろうとした瞬間を狙い──
アフロディーテはビームカービンの閃光を放つ。
一瞬天空が黒くなり、光の華が大輪を咲かせてデスティニーを包む。まるで、花びらが機体を包むように。
さらにアフロディーテは、その光の中にまで猛然と突っ込んでいく。
「シン・アスカ!
私は知っているぞ。お前のことを、お前よりも!」
シンは目が眩む寸前となりながらも、アンチビームシールドで光の華を防ぎきっていた。
《何を言って!》
血にも似た光で空を染め、2機のモビルスーツが光となって衝突する。
「お前のことも……
フリーダムのことも、マユ・アスカのことも、ステラ・ルーシェのこともなぁ!」
直接機体に喰らいついて、デスティニーと取っ組み合う形となったアフロディーテから、女の哄笑が響きわたる。
唐突にスピーカから出てきた名前に、デスティニーの機動が一瞬戸惑いを見せた。
憎しみを抱き続け、復讐を完遂した敵。
かつて、守れなかった妹。
愛しさを抱きながら、守れなかった少女。
彼らの名を次々に提示され、明らかにシンは動揺していた。
《なんで……
なんでお前が、マユとステラのことを!》
そこへさらに畳みかけるフレイ。
「彼女たちのことも、お前よりは知っているつもりだ。
彼女たちは既に私の手の中にある……」
《なんで!
一体お前が、何を知ってるってんだ!》
この口撃に、シンはひたすら叫ぶより対処方法がない。
さらにフレイは笑う──
「お前はいずれ、私のもとに来るだろう!
彼女たちを追って、自らの正義の為に戦うことになる!」
《はぁ!?
錯乱でもしたのか、コイツ!》
必死にアフロディーテを振り切ろうとするシンだが、激しい動揺は隠せない。
実際この距離であれば、十分相手を掌部ビーム砲・パルマフィオキーナの餌食にすることも出来たはずだが、この時のシンはそれが出来なかった。
フレイはその笑い声だけで彼を翻弄し、デスティニーの機動を止めにかかっていたのである。
だがデスティニーが、形勢を逆転されかけた瞬間──
アフロディーテの背後から、ドラグーンの光が空を切り裂いた。
《その女に惑わされるな、シン!》
野放図に撃たれた緑のハヤブサが、自機に激突する寸前──
アフロディーテは素早くデスティニーから離脱した。笑い声を消さないまま。
「レイ・ザ・バレル──
もう一人のクルーゼ。
もう一人の『レイラ』。
哀れなる子羊の一人か」
彼女の笑いには同時に、激烈な怒りも含まれていた──
怒りを消す為に、わざと笑っている。
彼女自身、感情の制御を失いかけている。
自分自身、どう制御していいのか分からなくなりつつある。
――あの銃声を聞いてから、これほどまでに自分がコントロール出来なくなってしまうとは。
そんな自らの感情を打ち消すように、フレイは叫んだ。
「残念だな……
お前の相手は、後ろだ! 貴様には似合いの相手よ!」
レイはレジェンドの6基の小型ドラグーンを再装填し、背後に迫った悪意に意識を向ける。
そこには既に、先ほどの三倍以上の数量の、黒いモビルスーツ部隊が迫っていた。
殆どが黒いダガーL。しかしそのうち4機に1機は、黒く塗られたウィンダムだ。
シンの叫びが響く。
《何だこりゃ……
連合顔負けの、物量作戦かよ!》
再び海上に降りそそいでいく、紅に染まった光の雨の中──
レイのレジェンドに向け、フレイの勝ち誇った笑いが流れた。
《命令の為なら自らの命も惜しまぬ、捨て身の人形兵たちだ。
貴様とは、仲良くなれそうな連中だろう……フフフ、アハハハハハハハハハハ!!》
「答えて下さい……アムルさん。
俺たちを撃ったのは、貴方ですか」
次第に酷くなる痛みに耐えながら、サイはそれでも感情を押し殺し、眼前の女に問う。
銃を持ったままの右手で左肩を押さえるが、痛みも血も引いてはくれなかった。
そして相手は、笑って答えるだけ。
「当たり前でしょ。
見て分からないの、サイ君?」
「では、航行システムを止めたのも貴方ですか」
怒りを抑えろ、抑えてくれ――俺の右腕。
冷静になってくれ。俺がいいと言うまで、彼女に銃口を向けないでくれ。
このアマミキョの大混乱が、全て彼女の仕業と決まったわけじゃない。
冷静に──
だがそんなサイの心を嘲笑うが如く、アムル・ホウナはふっと長い髪をかき上げて答えた。
「ええ、そうよ。
もっとも、ここまでやれとは言われなかったけど。
ザフトの人からもらったプログラムじゃ、残念ながらエンジン爆発までは出来なかったのよ。
だから、ちょっと小細工しちゃった!」
てへ、と声に出さんばかりの微笑みと共に、アムルは言い放った。
「どうやってここまで来られたか、知りたい?
貴方のお友達が、協力してくれたのよ」
傷ついたサイに向かい、アムルは笑って銃口を向けたまま、ゆっくり歩みを進めていく。
ブリッジが危険な状態にあることを知らせる非常ランプが、紅く明滅を始める。
その光と、外の戦闘の爆光が混じりあい、アムルの姿は紅と白の光を帯びて異様に大きく見えた。
「まさか……カズイが」
「そう!
貴方に追い出された私を、ずっと匿ってくれたの。
ご丁寧に、監視システムの死角まで教えてくれたわ。だから私も、無事にここまで来ることが出来た」
もういいだろう。もう、この女を撃たない理由はなくなった。
この女は俺たちの船を壊し、俺たちから居場所を奪い、絆を奪い──
カズイを傷つけた挙句利用し、オサキを殺した。
サイの右腕が血染めの左肩を離れ、ゆっくりと上がり始める──
激しくガタガタ震える銃口が、アムルに向けられた。
真っ直ぐ狙いたいのに、痛みと動揺で腕が言うことを聞かない。
息が上がる。自分で自分の息の熱さが分かる。
「サイ君?
──なぁに、それ?」
アムルはふっと足を止める。顔に張りついた嘲笑はそのままだ。
「ふぅん、意外。
貴方でも、銃口を他人に向けることが出来たのね。
そりゃそうか、ローエングリンで村一つ吹っ飛ばしたくらいですものね。
2年前には、散々殺してるんですものね。当たり前か」
血流と共に高まってくる痛み。
銃と一緒に震える右腕。
落ち着け。落ち着け、落ち着いてくれ、サイ・アーガイル……
聞かねばならないことは、まだある。
オサキと俺を、これほど容赦なく撃ったこの女のことだ──
アイツは……アイツはどうなったんだ?
「カズイは!
カズイをどうしたんですか、返答によっては……!」
「あぁ、あの子? 知らないわ」
サイの叫びにも、女はしれっと答えるだけだ。
生ゴミを出すなんて面倒くさい、とでも言いたげに。
「気づいたら、いなかったのよ。あの子、逃げ足だけは早いからねー。
ま、あんなナチュラル、私が手を下す価値もないけど」
カズイはまだ無事と判明し、サイはほんの少し安堵した──
が、それでもアムルの最後の一言は、サイに再び銃口を向けさせるに十分な効果があった。
アムルの視線がふとオサキに向く。えぐられた首筋を晒したままのオサキに。
「だけどこいつはホント、鬱陶しかったのよねー。
ナチュラルの癖に何かっていうと私に噛みついてきて、まるでサイ君の犬だったわね。
せいせいした。やっと静かになって」
撃て、撃て、撃て!
この女は今、オサキを、俺たちを最大限に侮辱した!
サイの頭に、目から噴き出しそうになるほどの熱い血が一気に昇っていく。
血が出るほど歯を食いしばり痛みに耐え、サイは引金に指をかけた。
──が、アムルの反応は意外なほどに、素早かった。
彼女はサイの様子を見て不意に歩みを早め、銃を腰にしまいながら一気に大股で彼の鼻先、ほんの30センチ足らずのところまで近づいた。
近づいたというより、ふわりと飛び込んだと言った方が正しいか。
白目の面積の広い、猫のような瞳が妖しく輝く。
全くその気はないが、キスしようと思えば出来る距離だ。熱い息と共に、唇から吐かれる言葉。
「でもね……
貴方には、ずっと会いたかったの。サイ君」
その途端、サイの右腕は銃ごとアムルの左手に捕らえられ、高々と差し上げられた。
アマミキョから降りた時に見せた彼女の腕力も相当だったが、それとは比較にならないほど凄まじい力が、サイを襲う。
畜生。右腕の力は結構自信がついてきていたはずなのに──
アムルを殴らんばかりの勢いでサイは抵抗し、その手を振りほどきかける。
だが、同時に彼女は血を噴き出している彼の左肩を、そのまま右手でむんずと掴む。
「が……!
あ、あぁ、あ……っ!!」
長い爪が思い切り傷口に食い込み、サイは酷い悲鳴を上げた。
一気に身体の力を奪われ、サイはそのまま背後のメイン・コンソールの台座部分に背中から押しつけられていく。
面白いくらいに勢いを増す、左肩の流血。その痛みは心臓から頭までを貫く。
アムルの力に圧され、ずるずると身体は崩れ落ちていき、しまいにサイは通路に座り込んでしまう体勢となってしまった。
それを狙っていたかのように、アムルは彼の上に馬乗りになる。
長いスカートの裾に包まれた彼女の左膝が、傷つけられた右足首を直撃した。
「う……ううぅおあああああアアアぁあぁああああ!
やめろ、離れろ、離せ、畜生っ……
がああああああアアあああああぁあぁああああ!!」