【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part5 旅路の果てに立ちはだかる者

 

 

 アマミキョから、三発目の銃声が轟いた時──

 もうアフロディーテはビームサーベルを二刀流で構え、デスティニーに襲いかかっていた。

 身体を貫く不可解な痛みに耐えながら、フレイは白目まで剥いて叫ぶ。

 

「分かったぞ、貴様らザフトの目論見が! 

 アマミキョ内部の人間を殺し、船だけかすめとろうという算段か! 

 答えろ、シン・アスカ!」

《訳の分からないこと言ってんじゃねぇよ……

 この、人でなしが!》

 

 光の刃が、空中で激突する。

 両機がその勢いで弾き飛ばされた直後、デスティニーの双対のフラッシュエッジが、アフロディーテの両側から挟み撃ちにする如く逆襲してきた。

 だがアフロディーテは弾き飛ばされていた間に、右腕のサーベルをビームカービンに持ち替えた。さらに背部のIWSPからレールガンを撃ち放ち、フラッシュエッジめがけて炸裂させる。

 

《うっ――!?》

 

 それだけで海上に強烈な嵐が巻き起こったが、フレイの攻撃は終わらない。

 レールガンによってフラッシュエッジの軌道が変えられ、デスティニーに戻ろうとした瞬間を狙い──

 アフロディーテはビームカービンの閃光を放つ。

 一瞬天空が黒くなり、光の華が大輪を咲かせてデスティニーを包む。まるで、花びらが機体を包むように。

 さらにアフロディーテは、その光の中にまで猛然と突っ込んでいく。

 

「シン・アスカ! 

 私は知っているぞ。お前のことを、お前よりも!」

 

 シンは目が眩む寸前となりながらも、アンチビームシールドで光の華を防ぎきっていた。

 

《何を言って!》

 

 血にも似た光で空を染め、2機のモビルスーツが光となって衝突する。

 

「お前のことも……

 フリーダムのことも、マユ・アスカのことも、ステラ・ルーシェのこともなぁ!」

 

 直接機体に喰らいついて、デスティニーと取っ組み合う形となったアフロディーテから、女の哄笑が響きわたる。

 唐突にスピーカから出てきた名前に、デスティニーの機動が一瞬戸惑いを見せた。

 

 

 憎しみを抱き続け、復讐を完遂した敵。

 かつて、守れなかった妹。

 愛しさを抱きながら、守れなかった少女。

 

 

 彼らの名を次々に提示され、明らかにシンは動揺していた。

 

《なんで……

 なんでお前が、マユとステラのことを!》

 

 そこへさらに畳みかけるフレイ。

 

「彼女たちのことも、お前よりは知っているつもりだ。

 彼女たちは既に私の手の中にある……」

《なんで! 

 一体お前が、何を知ってるってんだ!》

 

 この口撃に、シンはひたすら叫ぶより対処方法がない。

 さらにフレイは笑う──

 

「お前はいずれ、私のもとに来るだろう! 

 彼女たちを追って、自らの正義の為に戦うことになる!」

《はぁ!? 

 錯乱でもしたのか、コイツ!》

 

 必死にアフロディーテを振り切ろうとするシンだが、激しい動揺は隠せない。

 実際この距離であれば、十分相手を掌部ビーム砲・パルマフィオキーナの餌食にすることも出来たはずだが、この時のシンはそれが出来なかった。

 フレイはその笑い声だけで彼を翻弄し、デスティニーの機動を止めにかかっていたのである。

 

 だがデスティニーが、形勢を逆転されかけた瞬間──

 アフロディーテの背後から、ドラグーンの光が空を切り裂いた。

 

《その女に惑わされるな、シン!》

 

 野放図に撃たれた緑のハヤブサが、自機に激突する寸前──

 アフロディーテは素早くデスティニーから離脱した。笑い声を消さないまま。

 

「レイ・ザ・バレル──

 もう一人のクルーゼ。

 もう一人の『レイラ』。

 哀れなる子羊の一人か」

 

 彼女の笑いには同時に、激烈な怒りも含まれていた──

 怒りを消す為に、わざと笑っている。

 彼女自身、感情の制御を失いかけている。

 自分自身、どう制御していいのか分からなくなりつつある。

 

 ――あの銃声を聞いてから、これほどまでに自分がコントロール出来なくなってしまうとは。

 

 そんな自らの感情を打ち消すように、フレイは叫んだ。

 

「残念だな……

 お前の相手は、後ろだ! 貴様には似合いの相手よ!」

 

 

 

 

 

 

 レイはレジェンドの6基の小型ドラグーンを再装填し、背後に迫った悪意に意識を向ける。

 そこには既に、先ほどの三倍以上の数量の、黒いモビルスーツ部隊が迫っていた。

 殆どが黒いダガーL。しかしそのうち4機に1機は、黒く塗られたウィンダムだ。

 シンの叫びが響く。

 

《何だこりゃ……

 連合顔負けの、物量作戦かよ!》

 

 再び海上に降りそそいでいく、紅に染まった光の雨の中──

 レイのレジェンドに向け、フレイの勝ち誇った笑いが流れた。

 

《命令の為なら自らの命も惜しまぬ、捨て身の人形兵たちだ。

 貴様とは、仲良くなれそうな連中だろう……フフフ、アハハハハハハハハハハ!!》

 

 

 

 

 

 

「答えて下さい……アムルさん。

 俺たちを撃ったのは、貴方ですか」

 

 次第に酷くなる痛みに耐えながら、サイはそれでも感情を押し殺し、眼前の女に問う。

 銃を持ったままの右手で左肩を押さえるが、痛みも血も引いてはくれなかった。

 そして相手は、笑って答えるだけ。

 

「当たり前でしょ。

 見て分からないの、サイ君?」

「では、航行システムを止めたのも貴方ですか」

 

 怒りを抑えろ、抑えてくれ――俺の右腕。

 冷静になってくれ。俺がいいと言うまで、彼女に銃口を向けないでくれ。

 このアマミキョの大混乱が、全て彼女の仕業と決まったわけじゃない。

 冷静に──

 

 だがそんなサイの心を嘲笑うが如く、アムル・ホウナはふっと長い髪をかき上げて答えた。

 

「ええ、そうよ。

 もっとも、ここまでやれとは言われなかったけど。

 ザフトの人からもらったプログラムじゃ、残念ながらエンジン爆発までは出来なかったのよ。

 だから、ちょっと小細工しちゃった!」

 

 てへ、と声に出さんばかりの微笑みと共に、アムルは言い放った。

 

「どうやってここまで来られたか、知りたい? 

 貴方のお友達が、協力してくれたのよ」

 

 傷ついたサイに向かい、アムルは笑って銃口を向けたまま、ゆっくり歩みを進めていく。

 ブリッジが危険な状態にあることを知らせる非常ランプが、紅く明滅を始める。

 その光と、外の戦闘の爆光が混じりあい、アムルの姿は紅と白の光を帯びて異様に大きく見えた。

 

 

「まさか……カズイが」

「そう! 

 貴方に追い出された私を、ずっと匿ってくれたの。

 ご丁寧に、監視システムの死角まで教えてくれたわ。だから私も、無事にここまで来ることが出来た」

 

 

 もういいだろう。もう、この女を撃たない理由はなくなった。

 この女は俺たちの船を壊し、俺たちから居場所を奪い、絆を奪い──

 カズイを傷つけた挙句利用し、オサキを殺した。

 

 

 サイの右腕が血染めの左肩を離れ、ゆっくりと上がり始める──

 激しくガタガタ震える銃口が、アムルに向けられた。

 真っ直ぐ狙いたいのに、痛みと動揺で腕が言うことを聞かない。

 息が上がる。自分で自分の息の熱さが分かる。

 

「サイ君? 

 ──なぁに、それ?」

 

 アムルはふっと足を止める。顔に張りついた嘲笑はそのままだ。

 

「ふぅん、意外。

 貴方でも、銃口を他人に向けることが出来たのね。

 そりゃそうか、ローエングリンで村一つ吹っ飛ばしたくらいですものね。

 2年前には、散々殺してるんですものね。当たり前か」

 

 血流と共に高まってくる痛み。

 銃と一緒に震える右腕。

 

 

 落ち着け。落ち着け、落ち着いてくれ、サイ・アーガイル……

 聞かねばならないことは、まだある。

 オサキと俺を、これほど容赦なく撃ったこの女のことだ──

 アイツは……アイツはどうなったんだ? 

 

 

「カズイは! 

 カズイをどうしたんですか、返答によっては……!」

「あぁ、あの子? 知らないわ」

 

 サイの叫びにも、女はしれっと答えるだけだ。

 生ゴミを出すなんて面倒くさい、とでも言いたげに。

 

「気づいたら、いなかったのよ。あの子、逃げ足だけは早いからねー。

 ま、あんなナチュラル、私が手を下す価値もないけど」

 

 カズイはまだ無事と判明し、サイはほんの少し安堵した──

 が、それでもアムルの最後の一言は、サイに再び銃口を向けさせるに十分な効果があった。

 アムルの視線がふとオサキに向く。えぐられた首筋を晒したままのオサキに。

 

「だけどこいつはホント、鬱陶しかったのよねー。

 ナチュラルの癖に何かっていうと私に噛みついてきて、まるでサイ君の犬だったわね。

 せいせいした。やっと静かになって」

 

 

 撃て、撃て、撃て! 

 この女は今、オサキを、俺たちを最大限に侮辱した! 

 

 

 サイの頭に、目から噴き出しそうになるほどの熱い血が一気に昇っていく。

 血が出るほど歯を食いしばり痛みに耐え、サイは引金に指をかけた。

 

 ──が、アムルの反応は意外なほどに、素早かった。

 彼女はサイの様子を見て不意に歩みを早め、銃を腰にしまいながら一気に大股で彼の鼻先、ほんの30センチ足らずのところまで近づいた。

 近づいたというより、ふわりと飛び込んだと言った方が正しいか。

 

 白目の面積の広い、猫のような瞳が妖しく輝く。

 全くその気はないが、キスしようと思えば出来る距離だ。熱い息と共に、唇から吐かれる言葉。

 

「でもね……

 貴方には、ずっと会いたかったの。サイ君」

 

 その途端、サイの右腕は銃ごとアムルの左手に捕らえられ、高々と差し上げられた。

 アマミキョから降りた時に見せた彼女の腕力も相当だったが、それとは比較にならないほど凄まじい力が、サイを襲う。

 

 畜生。右腕の力は結構自信がついてきていたはずなのに──

 アムルを殴らんばかりの勢いでサイは抵抗し、その手を振りほどきかける。

 だが、同時に彼女は血を噴き出している彼の左肩を、そのまま右手でむんずと掴む。

 

「が……! 

 あ、あぁ、あ……っ!!」

 

 長い爪が思い切り傷口に食い込み、サイは酷い悲鳴を上げた。

 一気に身体の力を奪われ、サイはそのまま背後のメイン・コンソールの台座部分に背中から押しつけられていく。

 面白いくらいに勢いを増す、左肩の流血。その痛みは心臓から頭までを貫く。

 アムルの力に圧され、ずるずると身体は崩れ落ちていき、しまいにサイは通路に座り込んでしまう体勢となってしまった。

 それを狙っていたかのように、アムルは彼の上に馬乗りになる。

 長いスカートの裾に包まれた彼女の左膝が、傷つけられた右足首を直撃した。

 

「う……ううぅおあああああアアアぁあぁああああ! 

 やめろ、離れろ、離せ、畜生っ……

 がああああああアアあああああぁあぁああああ!!」

 

 

 

 

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