【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part8 俺は全力で、この女を否定する

 

 

 竹中のウィンダムがたまたまブリッジの至近距離で撃墜されたことで、その残骸と火花は容赦なく、沈没寸前のアマミキョにも叩きつけられた。

 

 ――ブリッジも大きく揺さぶられ、船体が再び傾ぐ。

 直接ブリッジのどこかが損傷したのか、さっきまでクルーたちの眺めていたコンソールパネルの幾つかが、火を噴いた。

 ブリッジ右側通路の端からも火の手が上がっている。床が熱くなり始めていた。

 一旦船が酷く傾いたことで、幸か不幸かサイもアムルもブリッジの端まで飛ばされ、サイは彼女の手から一時的に逃れられた。

 だが身体は殆ど自由にならず、右足と左腕はひたすら重いだけだ。

 内臓の中身をぶちまけそうなほど酷く壁に背中を打ちながらも、サイは熱い床からどうにか顔を上げる。

 

 ──視界に、オサキが映った。

 この揺れの中でも、死体となってもなお、オサキは操舵輪にしがみついている。

 最後まで、死んでも絶対にサイを守る。その意思が、確かに彼女の血まみれの背中から感じられた。

 

 俺も、負けない。

 オサキ。君の為にも、俺は絶対に、心だけは折れるつもりはない──

 

 傾いた床の上で、サイは必死で身体を引きずっていく。血の跡が床にべっとりと描かれた。

 だが、中央通路のメインコンソールまでたどり着いたと思った瞬間。

 

「ど~こ行くのぉ、サイ君?」

 

 ――またしても背中から、襟ぐりを掴まれた。

 歌うような声と共に。

 

「ふふっ。何をするつもり? 

 もう貴方には、何の希望も残ってない。自分の姿、良く見てみたら?」

 

 無理矢理振り向かされると、炎に照らされ妖しく光るアムル・ホウナの細い瞳が、すぐ目の前にあった。

 そのまま身体が背中から力いっぱい床に叩きつけられ、再びサイの上から女は覆いかぶさっていく。

 

「ねぇ、サイ君。私、夢だった。

 貴方をこの手で、屈服させることが。

 貴方の中にまだしつこく生きている母やあの男を、この手で叩きのめしたかった。

 決して、こうしないと貴方と触れ合えないからじゃない……

 私が、貴方を、こうしたかっただけ」

「う……

 あ、あんた……は……!」

「貴方を傷つけて、壊して、潰して、破滅させることが、私の夢だった。

 今、それが叶ったわ。

 貴方は無力さに打ちひしがれ、痛みに苦しんでる。

 仲間を失い、船を壊してしまった。

 フレイにも裏切られた。

 自分の命も風前の灯火。

 あれだけ優等生だったのに、あっという間に全てを失ったわね。面白いくらいに」

 

 アムルの血まみれの両手が、ゆっくりとサイの首筋にかかる。

 一気にではなく、少しずつ圧迫されていく頚動脈──

 

「が……!

 お、俺、は……!」

 

 じわじわと、息が苦しくなっていく。

 それでもサイは血の臭いのする呼吸の中、呟いた。

 

「俺は……貴方に、屈服なんか、絶対にしない。

 貴方みたいな、寂しい人に、俺は……

 絶対に、負けない」

「だから。笑わせないで?」

 

 アムルの頬は、あまりの興奮で紅潮している。

 サイには体験しようもないが、性的暴力をふるう男というのは、被害者たる女性の視点からは、今のアムルのように見えるものだろうか。

 

「私は、寂しさを感じないコーディネイターなのよ? 人の進化の証なのよ? 

 その私が、寂しいですって?」

「そう……ですよ。

 本気で、そう、思ってるんだとしたら。

 自分で、自分の寂しさを……感じ取れないとしたら。

 俺は……心の底から、貴方を……寂しい人だと思います」

 

 苦痛のあまり、言葉さえもたどたどしい。だがそれでも、サイは言わずにいられない。

 またしてもブリッジのどこかで、爆発が起こる。

 かすかな震えと共に、床の熱さが増していく。

 

「寂しさを感じられないのが、進化だなんて……俺は思わない。

 それは、むしろ退化ですよ。

 いや──多分もう、人間ですらない!」

 

 サイを絞めるアムルの力が、一気に強くなる。

 

「そうよ。

 私は、貴方たちの言うところの人間なんかじゃないわ。

 貴方も老害と一緒ね。古い人間はいつだって、新しい人間を否定して苦しめる。

 だからナチュラルは、あれだけ必死になってプラントを潰そうとしたのでしょう? 

 一人でも生きていける人間たちを認められないから、認めたくないから──

 存在ごと、消滅させようとしたのよ!」

「違う! 

 そんな理由で、戦争が起こってたまるか!」

 

 いつの間にか切っていた額の傷から、血がどくどくと溢れ出す。

 息が、喉が苦しくてたまらない。全身が酸素を求めて喘ぐ。気力は最早限界に達しようとしていた。

 それでもサイは、抵抗せずにいられない。

 

 

 オサキの為、カズイの為、フレイの為、アマミキョクルーの為。

 かつて共に戦った皆の為、キラの為。

 ――何より、自分の為に。

 俺は全力で、この女を否定する。

 

 

 ――その時。

 すぐ背後に、サイは奇妙な力を感じた。

 アムルも同じ力の振動を感じたのか、ほんの少しその手の力が弱まる。

 その隙に、サイは後ろのメインモニターを振り向いた。

 

 

 フレイが、叫んでいる。

 俺の名を何度も何度も呼びながら、俺を見て叫んでいる──

 そう錯覚したのは、一瞬。

 

 

 モニターには、こちらに向かって突進しつつ、右のマニピュレータを伸ばしてくるストライク・アフロディーテが大きく映し出されていた。

 明らかにサイを掴もうとして、その腕を伸ばしている。

 

 

 フレイ──結局君は、俺を守っちまうのか。

 あれだけ大見得切っといて。ご大層な予言めいた言葉吐いといて。

 結局命がけで、俺を助けようとしてしまう。

 ――そんな君が、俺は、たまらなく好きだ。

 好きになってしまった。

 

 

 だが、もうあと少しで、アフロディーテの手がブリッジの強化フロントガラスを破ろうとした刹那──

 紅の光が、サイの眼前を染めた。

 

 

 

 

 

 

「ふざけるんじゃないわよ! 

 そうやってブリッジクルーを殺す気!?」

 

 アマミキョブリッジに到達する寸前のアフロディーテを、真横からビームライフルで阻止したのは、ルナマリアのインパルスガンダムだった。

 今のアフロディーテの行動は勿論、サイを直接救出する為以外の何ものでもなかったのだが、ルナマリアはそんな事情など知る由もない。

 それどころかルナマリアには、アフロディーテがクルーごとブリッジを叩き潰そうとしているようにすら見えた。

 

「何とかして、生存者を救出……

 って、え?」

 

 インパルスはブリッジを守るべく、アマミキョ正面に占位する。

 サブモニターに、すぐ背後のブリッジ内部がちらりと見えた。

 中で炎が上がっている。確かに人がまだいる、確認出来るだけで三人。

 一人は、メイン操舵席らしきところで血まみれで突っ伏している。

 もう一人は、長い金髪を振り乱したフレアスカート姿の女。

 そしてあと一人は――

 何故かその女に、馬乗りにされている青年。

 その青年もまた、全身血みどろだ。ルナマリアは訳が分からない。

 

「何? 

 一体何があったの、あの船?」

 

 だが、考えている余裕など勿論ない。

 一旦はビームライフルを避けたアフロディーテだが、再び左腕にビームサーベルを、右掌にスティレットを構え、鬼気迫る勢いでインパルスに猛然と襲いかかる。

 刹那、聞こえた声は。

 

《サイに触るな! 

 ザフトの娘っ子がぁっ!!》

 

 背部の翼が振り切れるかというほどの速さで、アフロディーテは直接インパルスの腰部に喰らいつく。

 分離機構を使う余裕すら与えられず、インパルスは組み伏せられ、そのまま海上に叩きつけられようとする──

 

「馬鹿にするな、そうそう易々とぉ!」

 

 すぐさまインパルスは対装甲ナイフ「フォールディングレイザー」を腰部から抜き放ち、力まかせにアフロディーテの翼に叩きつけた。

 同時にアフロディーテもその左手首をを180度回転させ、ビームサーベルをインパルスの右脚部へ、スティレットを左脚部へ叩きこむ。

 

 ナイフで少しでも動きを止めなければ、コクピットにビームが刺さっていた。危ない危ない──

 

 ルナマリアは思い切りバーニアを噴かし、その機動力でアフロディーテを空中でふるい落とそうと試みる。あまりの噴射で、2機は激しい波飛沫に包まれた。

 だがアフロディーテはスティレットでインパルスに喰いついたまま、離れない。

 

《サイを傷つけようとするなら、誰であろうと!》

「何を言ってんのよ、船泥棒が! 

 あの船は絶対、壊させないんだからっ!」

 

 そこへ、さらなる援軍──

 ジンハイマニューバ2型が、グゥルに乗って突入してきた。

 

《ルナマリア、無事か! 

 援護する!!》

 

 ビームカービンを撃ちながら、ヨダカ・ヤナセが通信ごしに叫ぶ。

 

《いいか、船は見ての通りだ! 

 絶対に甲板付近に近づくな、標的にされればそれだけで沈没する恐れがある!》

 

 ヨダカの急襲でようやくアフロディーテはインパルスから離れたが、同時に左脚部に食い込んだスティレットが爆発した──

 畜生。物理的に切断はされなかったが、神経接続が全てやられた。

 ビームで貫かれた右脚部も似たような状態だ。

 どちらもうまく関節部を狙われ、インパルスの両脚は何とか基礎構造部分とケーブルだけで繋げられているお飾りも同然となってしまった。

 

「分かっています! 

 でも、ここからどうやって船体を保護すれば?」

 

 機体の状態に苛つきを抑えられず、ルナマリアは叫んでしまう。

 あの船、保護しようにももう、半分がた火を噴いてるってのに。

 

《このジンには潜水装備をつけてある。海中から潜り、内部通報者と合流する予定だ。

 そうすれば、船内の詳しい状況も分かる!》

 

 いくら海中にグーンを潜ませているとはいえ、隊長一人で無謀な──

 と言いそうになったが、ルナマリアには何も言わさずそのままヨダカは一方的に通信を切り、グゥルごと自ら海へ飛び込んだ。

 

《逃がすか!》

 

 アフロディーテの翼からレールガンの光が放たれ、ヨダカ機に炸裂する。

 だがその一撃はヨダカ機足元のグゥルを破壊するに留まり、ハイマニューバ2型はそのまま海中へと潜っていく。

 なおもアフロディーテのレールガンはヨダカ機を狙ったが、ビームライフルを構えたインパルスが再びその眼前に立ちはだかった。

 

「よくもやってくれたわね、ツギハギモビルスーツの癖にぃ!」

 

 ルナマリアは精一杯張り切ってみせたものの、両脚部は火花を出しながらようやく胴体と繋がっている状態だ。

 空中戦ではいくら足は飾りと言われても、どちらかと言えば格闘戦を得意とするルナマリアにとって、足が使えないのは致命的だった。

 

「全く――

 大事なオーブ戦の前だってのにぃ!」

 

 既に海中深くに潜り込んだハイマニューバ2型を諦めたアフロディーテは、素早くインパルスにその頭部を向ける。

 あのフリーダムを、血染めにしたが如き頭部意匠──

 その紅いカメラアイに睨まれただけで、ルナマリアは何故か下腹部がきゅっと締めつけられるのを感じた。

 

 ──間違いない。

 この人、女だ。

 

 その紅の機体の背後から殺到してくる、ダガーLとウィンダム。レイのレジェンドでも落とし切れなかった者たちだ。

 まずい。今のインパルスではあの量、捌ききれない──

 ルナマリアが思わず唾を飲んだ、その瞬間。

 

《ルナ、下がれ! 

 そいつは俺がやるっ!!》

 

 今ではとても頼もしく感じる、シン・アスカの一声と共に──

 対艦刀アロンダイトを上段に構えたデスティニーガンダムが紅い翼を輝かせ、太陽の煌く天空からアフロディーテに斬りつけていた。

 

 

 

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