【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part9 私は貴方を壊すのをやめない

 

 

「フレイっ!」

 

 サイが思わず声を上げたのと、アフロディーテの左腕がビームサーベルごと宙を舞ったのは、ほぼ同時だった。

 アムルは飄々と、自分の状況など忘れたかのように笑う。

 

「あらぁ、あのフレイが腕持ってかれるとはねぇ。

 結構やるわね、流石ザフトってところかしら」

 

 間違いない、今フレイはSEEDの能力が発動している。でなければ今頃彼女は、コクピットごとあの馬鹿でかい対艦刀の錆になっていたはずだ。

 どこか非常な安堵を覚え、サイは思わず微笑んでいた。

 

 その笑いが、目の前の女の何かに触れたのか──

 アムルは再び、その首を両手で掴む。

 

「サイ君、人の心配している場合? 

 もうすぐ貴方は破滅するのに」

「……貴方も、でしょう」

 

 サイはアムルのすぐ後ろで巻き上がった火柱をぼんやりと眺めながら、圧迫の隙間から何とか声を出した。

 

「貴方は、ザフトと取引をしたんですよね。

 この船のシステムを壊し、ザフトがこの船のデータを手に入れられるよう、貴方は手引きをしたんだ。違いますか?」

「その通りよ」さも当然というように、アムルは笑う。

「その代償に、ずっと夢だったプラント行きも約束してくれたわ」

「なら……どうして、すぐ逃げないんです。

 ここに留まる理由はないはずだ。クルーはもうほぼ全員避難したんだ」

 

 それを聞いて、アムルは喉からくっくと声を出してさらに笑った。

 

「やっぱり、何も分かってないんだ、サイ君。

 確かに、プラント行きは私の夢だった。

 でもね。今は私──もう、死んだっていいの」

 

 アムルの瞳の中の光は、まるで夢見る少女のそれだった。

 右手の指がゆっくりサイの頬を撫でる。

 

「だってサイ君。

 貴方を、この手で壊すことが出来たんだもの。

 この手で、貴方を破滅させることが出来たんだもの」

 

 アムルの左手はサイの首を絞め続け、右手は再び左肩の傷を掴んだ。

 思わず痛みで呻く彼の耳元で、女は囁く。

 

「痛いでしょ? 

 痛いわよね、だってこんなに血が出てるんですもの。

 でもねサイ君。私の痛みを分かってもらうには、こうするしかなかったの。

 私の心がどうしても分からないなら、せめて身体で分かってもらう。

 女はね? 月に一度必ず、今のサイ君と同じくらいの血を流すの。

 一生で流す血の量っていったら、こんなもの比較にもならないわ。

 貴方が味わっている痛みと同じ痛みを、女は毎月感じるの。貴方が今上げてるのと同じ悲鳴を毎月、上げてるのよ。

 女である限り、子供を産む宿命を負っている限り、女はずっと苦しみ続ける。

 だからコーディネイターの女って、矛盾に満ちてるのよ。

 子供が必要ないのに、血を流すんだもの。余計に苦しいのよ。

 分かる? 分かってくれる? 駄目?」

 

 違う、分かるわけがない。

 そう言いたかったが、アムルの手の圧迫はサイからその言葉さえ奪った。

 

「だからね、サイ君──

 私が今まで流した血と同じ分の血を流すまで、私は貴方を壊すのをやめない。

 貴方の心が、どうしたって壊れないのなら。

 私は死んでも、貴方の身体を破壊するまでよ」

 

 呻き続けるサイの腹にアムルの両膝が乗り、唇から血が噴き出した。

 左肩からは血のみならず、潰された組織らしき肉塊までが流れ出している。

 

「げほっ……ぐ、あ……っ!!」

 

 こんなことをして、何の意味がある──

 そんな月並みな問いを今のアムルにかけること自体、間違っていた。

 最早彼女には、どんな説得も意味がない。俺を壊すこと、今やそれだけが、彼女の全てなのだから。

 

 

 俺が悪かったのか。

 彼女を一向に理解出来なかった俺が。

 彼女を拒絶してしまった俺が。

 土下座して命乞いでもすれば──

 

 

 いや。絶対に出来ない、それだけは。

 自分の中で、彼女に対する断固とした拒絶の意思が貫かれている。

 それは、2年前自分を頼ってきたフレイを振り払った時より何倍も強烈な、拒絶だった。

 彼女の、母と恋人を冷たく見捨てる心を見て。

 平気で罪を他人になすりつけ、自分を正当化する姿を見て。

 カズイへの酷い態度を見て。

 俺は絶対に、彼女を受け入れられないと痛感してしまったのだから。

 

 

「……あんたは、自分勝手のかたまりだよ」

 

 

 背中と床の間に流れる自分の血を感じながら、サイはそれでも言わずにいられない。

 

「少しは、自分の周りで自分を思ってくれる奴のことを見ろよ。

 あんたみたいな女だって、好いてくれた人間がいるんだ」

「私の心を救ってくれない愛情なんて、鬱陶しいだけよ! 

 母も、あの男も!」

「そう思っている限り、あんたはどこまで行っても同じだ。

 あんたはずっと、今のまま変われない。たとえプラントに行ったって!」

 

 そんなサイの叫びを打ち消すが如く、首にかけられた指の力が一気に強まる。

 今度こそ、俺は終わる──

 眼前に無数の虹色の光が飛び、顔中を針でつつかれたような感覚を覚えた。意識が遠くなりかかる。

 

 

 

 

 その時、サイのすぐ近くで、肉の抉れるような鈍い音がした。

 柔らかなものが、何かで無理矢理貫かれるような──

 同時に、どんどん強くなっていたアムルの手の力が、少しだけ弱まる。

 

 

 

 

 アムルのすぐ後ろに、別の人影が見えた。

 その左の腰にぴったりと寄り添うように、小さな人影は彼女に触れていた。

 明らかに震えている両手で、何かを握りしめながら。

 炎の照り返しで最初はよく見えなかったが、その人物がぶるぶる震えながら、顔を上げるのを見て──

 サイは思わず、呻きを漏らしていた。

 それは、酷い悔悟による呻き。

 

 

 あぁ──

 どうしてお前が、ここに来てしまったんだ。

 一番、お前が居たくなかっただろう場所なのに。

 こんな光景は、一番見たくないものだったろうに。

 

 

 サイの血を存分に浴びたアムルのフレアスカートが、今度は自らの血で染まっていく。

 激しい憎しみを込めた瞳で、アムルはその人影を振り返った。

 恐らく、彼女がその人物に対して本当の感情を見せつけるのは、これが最初だったろう。

 それでも「彼」は、必死で彼女の視線から顔を背けたまま、アムルから身体を離そうとはしなかった。

 その両手とアムルのスカートとの間に生えていたのは、食糧班でよく使う果物ナイフらしきもの。

 その刃の輝きを見た時、サイの悔悟は一段と激しくなる。

 

 

 俺はアイツに、何てことをさせてしまったんだ。

 アイツはこんな真似、絶対に出来るはずがなかったのに。

 アイツにだけは、こんな真似をさせてはいけなかったのに! 

 

 

「サイ……逃げろ。早く……

 逃げろ、逃げてくれ」

 

 

 本人にとっては絶叫のつもりだろうが、かすれた呟きにしか聞こえない声が漏れた──

 カズイ・バスカークの口から。

 

 

 

 

 ~~~~~~

 

 次回予告

 

 

 散りゆく無数の命

 繰り返されるすれ違いの中、サイとフレイもまた、閃光に消える

 そして、再び始まる歴史

 傷ついた少年同士の出会いは、彼らに何を齎すか

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation

「運命の終わり、黙示録の始まり」

 

 血に染まる海に、何を遺す。アマミキョ! 

 

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