【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
ナオトの言葉および戦闘の状況は、生放送中のウーチバラ支局から避難中の住民たちのラジオ・携帯電話・その他――
使える限りの各種メディアに流されていた。
Nジャマーにより電波干渉されているとはいえ、それほど影響は強くない。コロニー内部までならまだ電波は届く。勿論、アマミキョブリッジにも。
アフロディーテの戦闘状況をモニターしていたサイは、突然飛び込んできたレポーターの少年の声に、一瞬耳を疑った。
「ナオト……生きてた!?」
サイが思わず出した声は、自分でも驚くほどに安堵に溢れていた。
激しい後悔と共に諦める処だった、まだ初々しい少年の命。それが今、ティーダと呼称されるモビルスーツに乗っている?
――しかし、それに続くナオトの言葉で、サイたちは残る二人のテレビクルーの無惨な死を否応なく知ることになった。
座席の下で嗚咽を続けていたヒスイが、ナオトの放送に遂にブリッジを飛び出す。
隊長が怒鳴ったが、その他に誰も止める者はない。
「戦闘中に実況中継かよ」「避難民のこと考えろっての……吐く奴いるだろこれ」
「おい、第3と第8ゲートで騒ぎが」「後ろのジンはどうなってるの!」「ええいみんな、冷静になれ!」
ブリッジに怒号が響く中、サイは急いで回線を繋げる。
しかし相手は目の前の状況に夢中なようで、アマミキョに応答を返さない。そして──
《現在、こちらリュウタン広場よりレポート中。
テロリストのものと思われる機体は3機確認しました、うち1機は既に撃墜されています。
爆撃によるコロニーの被害は、肉眼で確認したところこの広場周辺が最も激しく、コロニー外壁への影響が心配されます。
港口から広場にかけての大通り沿いにまだ残っている皆さんは、落ち着いて付近のシェルターに避難してくだっ……!》
激しい金属音が響き、それに重なる雑音で一旦ナオトの声が途絶えた。
あいにくティーダの映像は電波干渉の影響でろくに見えないが、明らかに攻撃を受けた衝撃音だ。
「ナオト! 戦闘中に阿呆な真似するなっ、死ぬぞ!」
サイは叫ばずにはいられない。
一体何をおっぱじめたんだ。正規パイロットはどうした?
しかしそんなサイの心配も一瞬で、すぐにナオトの声は雑音の中から復活する。
《し、失礼しました!
リュウタン区画13から28までの区域の被害が最も著しく、4割以上のビルが倒壊、火災やガス漏れが発生しています。
犬が逃げ回っています。道路が砕けています。昨日の夜までネオンで輝いていた看板が、瓦礫になっています。
軍による救出活動が間に合っていませ……
ちょっとそこの人たちっ、何で足もとにいるの早く逃げて、その絵が大切なのは自分にも分かりますが今は逃げて!》
なんという馬鹿な子供だろう──サイだけでなく、その場にいた全員が思った。
モビルスーツに乗る戦場カメラマンの噂なら聞いたことはあるが、モビルスーツに乗る戦場レポーターだと?
《上空、太陽光ブロックの落下にも警戒して下さい。
それから爆撃地点では空気漏れが発生する危険があります。絶対に爆撃地点には近づかず、落ち着いて軍の誘導に従って下さい》
リンドー副隊長が相変わらず笑っている。
「多少は分かっとるようだな。外壁から第2防壁への部隊がまず侵入、数十秒後に外壁破壊の陽動部隊、また数十秒後に太陽光ブロックへの侵入が始まる。
コロニー攻略の正攻法だ……当然、このケースじゃ勝手が違うが」
「既に本隊はいませんよ。アマクサ組が処理した」
社長が、モニターいっぱいに戦闘を続けるアフロディーテを顎で示した。
その周辺にはもう、敵の後続部隊が集まっている。新たに集ってきたモビルスーツは、型式番号GAT-04、ウィンダム。
ジェットストライカーを装着した、大気圏内飛行が可能なタイプ──これが5機。
イザークは突如として現れた紅い機体のパイロットと、すぐさま通信を開いた。
そして驚愕の事実を知る。
「敵艦がいないだと!?」
通常、モビルスーツ部隊は母艦なしでは行動できないはずだ。周辺にはそれらしき基地もない。
のっぴきならない事態にイザークは心中でのけぞったが、目はあくまで向かってくるウィンダムを警戒している。
《慌てるなザフトの隊長殿、肉眼で見えなかっただけの話だ。
レーダーに映らん、熱紋照合不能、電波妨害はある……
これだけの条件が揃えば、答えは分からぬか?》
イザークの手元の通信画面には、相手の姿もかなりはっきりと映し出されていた。
彼は思い出す──
2年前、まだ自分がストライクを仇として追い回していた頃。
会ったことがある――この紅毛の女と。
その間にも、ウィンダムがアフロに容赦なく発砲する。
紅の機体は走る光を巧みにかわし、巨大翼の推力を生かしてウィンダムの足もとに回りこみ、一気に接近戦に持ち込んだ。
宇宙空間において上下の区別はないが、モビルスーツに乗っているとどうしても足元がお留守になりがちである。
パイロットが人間である以上それは人間の感覚として当然のことであるが、紅い機体はその特性を存分に利用し、ウィンダムの下方に積極的に回りこむ戦法をとっていた。
しかも今、敵は仲間を一瞬にして撃墜され、逆上している。感情の昂りは必然的に隙を生み出す。
よって、足もとから股間に向けて攻撃を喰らうという事態も発生する。さっきのダークダガーLのように。
「やはり、ミラージュコロイド艦?」
イザークとアフロディーテパイロットの通信を聞きながら、サイは呟いた。
社長が手をたたく。
「この国にわざわざそんなもんを駆り出すとは、連合もよほど資源が足りないと見えるねぇ」
その時、ブリッジから出たはずのカズイが飛び込むようにして戻ってきた。しかも女連れで。
サイは横目でその二人の姿を確認し、舌打ちをしそうになる。
アムル・ホウナ──さっき母親と騒ぎを起こしていた女。
彼女を隣に、カズイは妙に威勢よく叫んでサイのもとへ駆け寄ってきた。
「住民の避難状況がえらいことになってる!
あんなに船に乗せて大丈夫かよ」
「カズイ……
気持ちは分かるけど、今ブリッジの状況を」
サイは周囲に聞こえないようカズイに忠告をしたつもりだったが、トニーの怒号にかき消される。
「ブリッジには要員以外入れるな!
ってかバスカーク、貴様も入るな!」
アムルが負けずに怒鳴りだす。
「失礼ね!
緊急事態だからこそ一般クルーも知る権利があるの、船内や港口の騒動を知ってるの!?」
そこへさらにオサキが畳みかける。
「そうだよ、だいたいブリッジクルーが大勢怪我してんだ。
少しでも使える奴は入れろっての!」
ぐぅっと唇を噛むトニー。最早隊長の威厳は完全にかき消えている。
その時、またしても大きな揺れが来た。
金切り声と怒鳴り声が交錯し、各所で異常を示す赤ランプが明滅した。ベルトをしていなかったオサキとアムルとカズイの身体が宙に舞う。
避難状況を見ていたディックが、悲鳴混じりに叫んだ。
「宙港区画第12ブロック、大破!
警報レベル、7へ移行!」
すぐにモニターに、コロニー港口の状況が大きく映しだされる──
宙港を構成するブロックのあちらこちらで火花やスパークが発生し、一部は黒い煙と共に真空の宇宙へと砕けていく。
身体を支えながら、アムルが叫んだ。
「あれは……
避難民のすぐ近くじゃないの!」
幸い、爆発が起こったのはアマミキョが停泊している発進口とは相当離れた場所だったが、それでも4重の隔壁に穴が開き、1気圧差の宇宙へ空気が漏れ出していた。
ノーマルスーツを着用した整備士たちが空気の奔流に飲まれ、真空へゴミのように投げ込まれていく──
思わずサイは拳を握り締め、呟いた。
「ティーダ、カラミティ、何してる?
応答をくれ……!」
額にじんわりと汗を浮かべ、サイは祈ることしか出来ない。その一方では――
「まずいねぇ、そっちに侵入されてたか」
社長がちっともまずくなさげな様子で腕を組んでいた。
リンドー副隊長は顎を掻きつつ、ブリッジ全体を眺める。
「ジンでは小回りが効かんから、せまい港口ではさぞかし動きにくいんだろうよ。
だから侵入速度も遅い、あぁやって迷子にもなってヤケになる」
その時カズイが、訳知り顔で副隊長の言葉をボソリと補足した。
「そんな状態で奥の弾薬庫にちょっとビームが当たれば、港全体が消滅するなぁ……」
正確ではあるが、まるで空気を読まないカズイの言葉。
オサキが顔を蒼白にして振向く。
「バカっ、何アホ言ってんだお前!」
「オサキちゃん……静かに」
サイはモニターを注視しながらも、嘆息したい気分だった。
カズイの発言で場が異常に緊張したのは確かだが、注意を促したつもりであろうオサキの怒号で一気に混乱が倍加した。
ブリッジに飛び交う、怒声と悲鳴。
「え、ちょっと、コロニー壊れちゃうってこと?」
「内側からのジンの攻撃だ、大穴が開きかけてる」
「防衛はどうなってんだ、対空ビーム基地は!?」
「もうとっくにやられたって、管制から連絡が」
「ザフト野郎め! 俺らに何の怨みがあんだよっ」
サイは横目でちらりと社長と副隊長を確認する。
無責任なのか余裕なのか、彼らは特に何の指令も出さず、まだ悠然と席に腰掛けたままだ。
加速する混乱に追い討ちをかけるように、ディックが叫ぶ。
「ザフトとは限らないだろ、ナチュラルの分からず屋!
外から攻撃しているのは連合だ!」
彼に加勢する声も響く。「そうよ、さっき守ってくれた部隊だってザフトでしょ」
外を映し出しているモニターでは今まさに、連合の新型量産機のウィンダムがビームを港口に浴びせんと攻撃をかけている。
アムルが身を乗り出し、カズイにわずかな非難の目を向けた。
「連合って……?
さっき貴方、ザフトのゲリラって言ったじゃない」
カズイは彼女に見咎められ、身体を縮こまらせる。
「すいません、僕にも理由が分からない。
でもあれ、連合機に偽装したザフトかも知れませんよ」
「どっちでもいい!
どっちもウーチバラを荒らしてんだよ!」
苛立ちを隠さずそのへんのモニターをぶっ叩き、強制的に場をおさめようと轟く、オサキの声。
サイは戦闘状況を見守りながらも、手で額を押さえずにはいられない。
「いい加減にしてくれ……」