【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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PHASE-33 運命の終わり、黙示録の始まり
part1


 

 

 ずっと、見ていた。

 ブリッジから銃声が聞こえた、その瞬間から。

 

 

 戦闘が始まってからも延々と部屋に籠もっていたら、いつのまにかアムルは消えていた。

 どこへ行ったのか心配で、思い切って探しに出かけた。

 いつもなら真っ先に逃げるはずの自分が、避難をすっかり忘れて、轟沈寸前の船の中、ずっと彼女を探していた。

 

 そうしたら、ブリッジから銃声が響いた。

 駆けつけて、扉の陰から恐る恐る見てしまったものは──

 

 ずっと恋焦がれた女性が仲間を殺し、親友を手酷く痛めつけている、あまりにも血みどろの光景。

 しかもすぐ外で展開されているのは、モビルスーツ同士の激戦。

 その機体を操るのもまた、かつて仲間だったはずの少女。しかも親友の婚約者ときた。

 

 

 白兵戦対策にと渡された銃は、アムルに渡してしまった。

 彼女を守る為だったはずのその銃は今オサキを殺し、サイを傷つけている。

 その事実に震え上がりつつ、食堂から取ってきた果物ナイフを握りしめながら、ずっとサイとアムルの口論を聞いていた。

 

 

 そして、分かってしまった──

 アムルの心には最初から、自分の入る余地などなかったことを。

 自分どころか、どんな他人も入ることは出来ない。理解出来ない。

 ただただ恐怖に満ちている、地獄と形容しても差し支えない心──

 それが、アムル・ホウナという女の本性。

 

 

 彼女の話題を出すたび、心配そうに俺を見つめていたサイの表情が蘇る。

 多分あいつは、分かっていたんだ。彼女がどんな女であるかを。

 浮かれている俺をどうすればいいのか、きっと悩んでいたんだろう。

 それなのに俺は──

 サイを疑い、サイに嫉妬し。

 サイを拒絶して引きこもり、アムルを庇ってしまった。

 それでもあいつは、引きこもった俺に言ってくれた。

 

 

 ──お前と友達で、俺、本当に良かった。

 

 

 あの時、俺は一体あいつに何と言った? 

 二度と俺の目の前に現れるなとか……本当に、酷いことを言ってしまった。

 

 それでもサイは今なお、アムルと戦っている。

 あれだけ恐ろしい彼女の本性に敢然と立ち向かい、妥協することなく、冷静に彼女の論理を打ち破ろうとしている。

 ボロボロに傷つけられ、血みどろになっても、あいつは叫んだ──

 

 

「少しは、自分の周りで自分を思ってくれる奴のことを見ろよ。

 あんたみたいな女だって、好いてくれた人間がいるんだ!」

 

 

 サイ、ありがとう。

 俺もサイと友達で、本当に良かった。

 それに、アムルさんだって、もしかしたら……

 とても儚い希望かも知れないけど、もしかしたら。

 

 

 

 そして、遂にカズイ・バスカークは決断し──アムル・ホウナを刺した。

 それが、更なる惨劇を呼ぶと知らないまま。

 

 

 

 

PHASE-33  運命の終わり、黙示録の始まり

 

 

 

 

 ウルマ上空で、左腕を消失したアフロディーテはデスティニーとの激戦を続けていた。

 アフロディーテの援護にやってきたグフのビームカービンの閃光が、黒いダガーLの投げた3本のビームサーベルと衝突。

 天にまた一つ、光の華が咲いた。

 さらにアフロディーテは、ビームカービンをその華に撃ち放つ。

 閃光の威力と速度が激増し、雷鳴の塊のようになった巨大な光球が、デスティニーに襲いかかっていく。

 

「同じ手を、何度も!」

 

 シンはデスティニーの両手甲部から「ソリドゥス・フルゴール」ビームシールド発生装置を起動させ、大型ビームソード「アロンダイト」を構えたまま突進した。

 デスティニーの腕から生まれた虹色の光膜が、空中の雷球と衝突する。

 とんでもないエネルギー量が宙で爆発し、モビルスーツでも耐え切れぬほどの風圧と大波が発生した。

 その光の中心を突っ切って、アフロディーテは一気にデスティニーに迫る。

 一本だけ残った、右腕のビームサーベルで。

 

 堂々、正面突破と来たか。

 受けて立とうじゃないかこの野郎! 

 

 ビームシールドを手甲部から展開したまま、シンはアロンダイトでアフロディーテを迎え撃つ。

 

「そっちの腕も、切り落としてやる!」

 

 だが、シンが叫ぶと同時にアラートが鳴り響き、ルナマリアの絶叫がこだました。

 

《シン、危ない! 両脇っ!》

 

 瞬時にモニターを確認する──

 左右からいつの間に近づかれたか。真っ黒の悪鬼──ダガーLが、今にもデスティニーに喰らいつかんとばかりに迫っていた。

 アロンダイトもビームシールドも恐れる様子がない、まるで自分の命などどうでもいいかのような急接近。

 

 ──お望み通りにしてやろうじゃないか。

 そんなに命を粗末にしたいなら! 

 

 デスティニーはすぐさま、右側から迫ったダガーLにアロンダイトで斬りつける。

 機体全長より長い巨大剣により、コクピットごと横ざまに一刀両断されていく、鋼鉄の機体。

 ほぼ同時に、インパルスのビームライフルが反対側のダガーLを直撃し、黒いモビルスーツたちは見事に火球となり四散していく。

 

 だが、事はそれだけでは終わらなかった。

 シンもルナマリアも忘れていた──今自分たちが戦っている場所が、どのような場所か。

 

「しまった!」

 

 シンの叫びは遅かった。

 両断されたダガーLの残骸は、ものの見事にアマミキョの甲板──

 ブリッジからほんの少ししか離れていない甲板後方部分を直撃し、爆発したのだ。

 

 

 

 

 

 

 激しい衝撃と共に、非常灯の真っ赤な光が何度もストロボのように明滅した。

 先ほどとは逆方向へ傾いていく床、次々とひしゃげ爆発していくコンソール。

 メインモニターにも大きく亀裂が入り、映し出されているモビルスーツ達と青空に、ノイズが無数に入る。映像が歪んでいく。

 

 そして遂に船体の傾斜が、ブリッジを海に呑みこませるまでに及んだか。それとも水循環機構のどこかが破損したか――

 内壁の一部が壊れ、ブリッジの床に潮水が流出を始めていた。

 

 衝撃によりアムルとカズイが吹き飛ばされ、サイは必死でメイン・コンソールの台座に右腕のみでしがみついていた。

 流れ来る海水が右足首の傷ごと、サイの脚を浸す。

 じわりと脳まで来た痛みに思わず呻いたが、それでも明滅する血の光の中を、目で探した──

 カズイと、アムルを。

 

「ぐ……っ……

 か、カズ……イ……っ!」

 

 やがて、非常灯の明滅がやんだ。

 電気系統もいかれたのか、照明は半分がた落ちていた。

 流れる水の中で燃え広がる炎が、ブリッジの中の光景をはっきりと映し出す。

 

 未だに操舵輪にしがみついている、オサキの身体。

 亀裂の入った内壁。

 自分の血で汚れた中央通路。

 黒煙が充満する室内。噴火の如く炎を吹き続けるコンソール。

 

 ──ムジカ社長、リンドー副隊長、アスハ代表、セイラン代表補佐。

 本当に、申し訳ありません。

 託されたはずのアマミキョを、俺はこんなに無残な姿にしてしまった。

 

 悔悟の呻きと共に、サイは目撃した──

 ほぼ正面、中央通路を挟んで、アムルとカズイが対峙しているのを。

 

「……!」

 

 通路に尻もちをついてしまったカズイ。それを見下げ果てたかのように、アムルは銃を突きつけている。

 刺さった刃も血まみれのスカートもそのままに、彼女はその場に仁王立ちとなり、真っ直ぐ彼に銃口を向けていた。

 カズイはと言えば、ただただかぶりを振り続けるばかりだ。

 

「嘘だ……

 嘘だ、アムルさんっ……やめ……!」

 

 恐らくこの期に及んでも、カズイはアムルをまだ信じていたかったのだろう。

 ――今までのことは全て、誤解にすぎないんだ。

 俺の顔を見ればきっとまた、優しい笑顔を向けてくれるはずだ。

 だって今までは彼女、俺にはずっと笑顔でいてくれたんだから。

 だから、正気に戻ってくれれば、また笑顔になってくれるはずだ──と。

 

 アムルを刺してもなお、カズイはそんな希望を心のどこかで抱いていたに違いない。

 カズイ自身、馬鹿な願いだと分かっているんだろう。だが、そう願わずにはいられなかった。

 願わなければ、彼女を刺すなんて芸当が出来るはずがないのだから。

 

 しかしその希望は今、完膚なきまでに打ち破られた。

 涙と鼻水を流しながら子供のように頭を振り続けるカズイを、アムルは蝿でも見る目で見下ろしているだけだ。

 

 でも──

 サイは何故かこの状況で、冷静に分析してしまう。

 アムルの中で、カズイが今、存在感を増したことも確かだ。

「殺す価値もないゴミ」から、「殺さなければ鬱陶しい虫」のレベルへ、であるが。

 

 ――だとすれば、今やるべき事は一つ。

 

 サイから見て、アムルとカズイはカズイの方が距離的にやや近い。

 ここから飛びついてアムルの銃を奪うのは、今の自分の負傷から考えて非常に難しかった。

 ならば──

 

 

 数瞬のうちに、サイの次の行動は決まっていた。

 

 

 きっと、ここへ来るのも嫌だったろうに。

 血みどろの俺たちを見て、竦みあがってしまっただろうに。

 アムルの言葉を聞きながら、耐え切れなかっただろうに。

 何より、自分が撃たれるかも知れないのに。

 ──それでもカズイは、大好きな女性を、刺した。

 全ての恐怖を乗り越えて、俺なんかを助ける為に。そして、アムルに笑顔を取り戻してほしいが為に。

 そんな友達を、俺の大事な仲間を、むざむざ死なせるわけにいくか! 

 

 

 ほんやりする視界を無理矢理にでも明瞭にするべく一つ頭を振り、サイは左足に一気に全体重をかけた。

 痛みでとてつもなく重くなってしまった身体を、カズイに向かって飛び込ませる。

 

 

 俺は、傍観者でいるのは、もう、絶対に──

 

 

 震え上がったままのカズイに、サイが全力で飛びついたのと。

 四発目の銃声がアマミキョを貫いたのは、ほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

 

「あ、あぁ……

 オサキさん、副隊長……っ!」

 

 完全に外部から遮断され、海中を彷徨う救命艇の中で、ヒスイ・サダナミは不意に呻き声を上げた。

 ブリッジクルーのほぼ全員が詰め込まれた船の片隅、彼女は額に玉のような汗を浮かべて呻いている。

 汗かきではないヒスイにしては珍しかった。黒い髪が肌に張りつき、ただでさえ白かった顔は、白を通り越して青黒くなっているようにすら見える。

 

「大丈夫か、ヒスイ君!」

 

 横にいたトニー隊長が、慌てて彼女の肩を支える。

 見ると、他のクルーも何人か、はっきり見て分かるほどガタガタ震えている者がいた。

 冷たく汗ばんだ手でトニーの腕に縋りながら、ヒスイは懇願する。

 

「隊長、お願いします。

 浮上して下さい、アマミキョが……」

「気分が悪いのか?」

 

 いくら空気の読めなさで鳴るトニーでも、ヒスイが何を感じているかぐらいは分かる。

 しかし隊長として、その漠然とした不安を口にするわけにはいかない。

 これ以上、クルーをパニックに晒すわけにはいかないのだ。

 

「今は辛抱してくれ。

 上の戦闘が終わるまで……頼む、みんなも!」

「隊長は……隊長は、分からないんですか? 

 副隊長と、オサキさんが……!」

 

 それ以上言うことが出来ず、ヒスイはただ震えるばかりだ。

 その頬に流れているのは、明らかに汗だけではない。

 

「分かっている……分かっているさ」

 

 トニーは大きな手で、ヒスイの背中を軽く叩いてやる。そんな彼の手も、先ほどから震えが止まらない。

 

 ──何が起こっているのか、この場の全員が薄々感じ取っている。

 だが、決して言葉にするわけにはいかない。

 

 トニー自身、信じたくないのだ。

 この現象自体も、恐らく船内で起こっているだろう惨劇も。

 

「今は、何も見ない方がいい。他の救助艇にもそう伝えてくれ。

 安全圏に到達するまで、絶対に浮上するなと。

 サイ君もオサキ君も、大丈夫だ。我々は約束したんだからな……

 必ず、アマミキョを復活させると」

 

 

 

 

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