【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part2 絶望のカズイ

 

 

 雲霞の如くのダガーL。

 その大軍を次々に撃破しながら、レジェンドの中でレイ・ザ・バレルは不可思議な感覚を覚えていた。

 

 今デスティニーとインパルスが相手をしている、紅のストライク──

 あの中にいる女。

 あのパイロットに、ついこの間の人工島の光を見た時と、同じものを感じる。

 

 最初は、否定したかった感情だった──

 あの女に何故、自分の「母」を感じるのか。

 

「母」という概念は、レイの中では非常に漠然としている。

 デュランダルやクルーゼから伝え聞いた言葉を元に、「母」というイメージを何とかレイは形成しているにすぎない。

 それが自分にはいない存在ということも、自分には不要な存在ということも分かっている。

 なのに、何故か「母」の感覚に惹かれる自分を、彼は感じていた。

 その奥で響く名前──

 あの女の奥底で、常に響いている名前。それを、既にレイは把握していた。

 

「『レイラ』……? 

 俺と同じ存在、なのか?」

 

 レイが思考している間にも、ダガーLはその牙を剥く。

 

「……くっ!」

 

 死角となる真下から来られた。そう思った刹那――

 連合の正規カラーのウィンダムが、レジェンドに迫ったダガーLをすんでの処で斬り伏せた。

 

《危なかったな、ザフト君! 

 まさかここに来て、君らと共闘することになるとはなァ!》

 

 スピーカを通じて、年季の入ったパイロットの声が聞こえる。

 レイは勿論無視しようとしたが、相手は構わずスピーカごしに話しかけてきた。

 レジェンドの甲羅の如き背部に、ウィンダムのジェットストライカーの翼がぴたりとくっついてくる。つまり両者は背中合わせになり、お互いの声がスピーカで聞こえる体勢となった。

 

《自分は連合・山神隊の伊能大佐だ。

 我々の任務はアマミキョの衛護だが、どうやら偶然にも、そちらと目的は合致しているようだな》

 

 何が言いたいのだ。

 レイは不審に思いながらもスピーカを開き、応答する。

 

「我々の目的はアマミキョの保護だ。

 それ以上も以下もない」

《船体の破壊阻止という点では、一致しているわけだ。

 では、もう一つだけ聞きたい。

 船のクルーについては、どうするつもりだ? まさか、殺害命令が出ているわけじゃなかろう》

 

 何を馬鹿な。

 議長から命令のない限り、そのような無益な行為をするわけがない。

 

「言ったはずだ。

 船体、及び乗員保護以外の命令は受けていない」

《やっぱりか……

 だが、あの赤ストライクのお嬢は、そうは思っていないようだ》

 

 やってくるダガーLをビームライフルで払いのけながら、ウィンダムは頭部をアフロディーテに向ける。

 レジェンドの背部ユニットからも、間断なくドラグーンの炎が連射されていた。

 

「どういう意味だ」

 

 敵の効率的な排除の為にも、余計な会話を挟みたくはなかった。しかも本来ならば敵同士だ。

 だが、今の情報は作戦遂行上、重要ではないのか? 

 そう判断したレイは、耳を傾ける。

 

《多分彼女は、君らザフトは内部のクルーを殺害した上で、船を奪うつもりだと思い込んでる。

 で、逆上してるのさ》

「馬鹿な」レイは思わず眉を顰めてしまった。

 何の根拠があって、そんな戯言を言う? 

 

「乗員ごと船を破壊するつもりなのは、奴らだろう?」

《違うね》

 

 相手は落ち着き払って語る。

 その内容はレイでさえも一瞬、口ごもってしまうほどだった。

 

《俺たち山神隊は、最近まで奴らと一緒だったから分かっちまうんだなー、これが。

 確かにあのお嬢さんらの目的は船の破壊だが、あくまで中のクルーは全員逃がすつもりだろうよ。

 実際、脱出した救助艇は一切攻撃されていない。

 実は君らが来る直前な、アマミキョから彼女に直接、要請があったんだよ──

 救助艇を脱出させるから、一切攻撃するなと。それを彼女は承諾したんだ》

「……っ!?」

《ついでに、プライベートな話ですまんが……

 ブリッジじゃ、あのお嬢さんの婚約者がまだ頑張ってるもんだからね。なおさらだろう。

 もっともどんな事情があるのか知らんが、さっきまでは彼女も迷ってたみたいだな。

 やっと腹くくったみたいだが》

「何だと……」

 

 俄かには信じられない話だ。

 だとすれば、今俺たちは、互いの目的を誤解したまま、全力でぶつかり合っているというのか? 

 そんなレイの戸惑いを見透かすように、伊能の声が響く。

 

《本来は、ゆっくりクルーを逃がしてから船体のみ破壊するつもりだったんだろうが。

 君らザフトが来ちまったもんだから、彼女も焦ったんだろうね。

 君らの電光石火の如きお早い到着が、皮肉にも船体の破壊を早めさせる結果となった……

 で、この大混戦だ》

 

 この会話の間にも勿論、彼らを取り囲むダガーL部隊の攻撃は止まらない。

 ドラグーンとビームライフルでそれぞれ対処してはいるが、少しずつレジェンドとウィンダムのパワーも削られていた。

 

《いずれにせよ、民間人がまだ船内にいてのこの状況はまずい。

 お互い、クルーを殺す気は全くないのに、誤解で撃ち合ってやがる》

 

 そして伊能は、レイの心を一気に逆撫でする言葉を吐いた。

 

《君の言う通り、この作戦があくまで船体の保護目的なら……

 民間人に何かあったら、デュランダル議長の面目丸つぶれだろうなァ。

 ま、そうなればお得意の情報統制でもするんだろうが、ここにきて余計な手数はかけたくないだろうよ、議長も。

 ジブリールの首が目の前だってのにな》

「何が言いたい、貴様!?」

 

 デュランダルの名を出され、レイの口調が思いがけず熱を帯びる。

 だが返ってきたものは、さらに怒りをこめた叫びだった。

 

《だからァ! 

 ドンパチやるなら、パンピー逃がしてからにしろって言ってんだ!》

 

 それまでの陽気さとはうってかわった、伊能の怒号。

 

《あんな所で撃ち合い斬り合いしてみろ、中の人間にいつ何があってもおかしかねぇ! 

 まだ、全員が逃げたわけじゃねぇんだ……

 中の奴らに何かあったら、命かけてお前らを叩き潰すからな!》

 

 その伊能の声が、最後までレイに届いたかは分からない。

 彼の怒声とほぼ同時に、レジェンドは即座に戦闘から離脱し、一直線にデスティニーの元へ向かったのだから。

 邪魔をするダガーLを全て、ドラグーンで吹っ飛ばしながら。

 

 

 

 

 

 

 気がついた時――

 カズイの上に、サイの身体が乗っていた。

 撃たれたと思って一瞬目をつぶり、両腕を目の前にかざした直後、誰かに大きく突き飛ばされた──

 そして、もう一度目を開けたら、こうなっていた。

 うつぶせになっているサイが少しだけ身を起こし、カズイを振り向く。

 血まみれの笑顔で。

 

「良かった。

 大丈夫か……カズイ」

 

 見ると、サイの右腹部のあたりから血が溢れ出し、まだ右半分が染まりきっていなかったワイシャツを、今度こそ真っ赤に染め始めていた。

 熱い血の感触が、カズイの太ももにも感じられる。

 

「あ……」

 

 全て理解した。

 俺をかばって、サイが、アムルさんに撃たれた──

 

 

 その現実を認識した瞬間

 カズイは、これほど叫ぶ経験は過去にも未来にも絶対にないだろうほどの声で、絶叫していた。

 

 

「あ……あ、アァアアァアァアアア! 

 イヤだ、嫌だイヤだイヤだあぁああぁあああぁああああぁ、やめてくれぇえぇええぇえっッッツ!!」

 

 

 俺は、サイを助けようとしたのに。

 サイを助ける為に、アムルさんを刺したはずなのに。

 どうして、どうして、どうして!! 

 

 

 ──いや、どうしてもクソもないだろう。

 俺が悪かったんだ。

 まだ、アムルさんを信じていたかった俺が。

 こんな光景を見ても、あんな言葉を聞いてもなお、アムルさんを信じていたかった俺が。

 アムルさんを止めたかった。アムルさんの笑顔を取り戻したかった……ただ、それだけなのに。

 

 その思いさえ、あの人には通じなかった。

 最初から俺の想いなんか、あの人には通じなかった。

 彼女の言う通り、彼女にとって俺の想いなんか「自分を救ってくれない愛情」であり。

 そんな鬱陶しい想いを捧げてくる俺は、ゴミ同然の存在だったんだろう。

 

 俺自身、自分でそれを認めたくなかった。

 認めたくないあまり、俺が彼女を正気に戻せるとかいう妄想にとりつかれて──

 彼女を、刺した。

 

 その罰が――この結果だ。

 サイを助けるどころか、さらに傷つけることになってしまった! 

 

 

 カズイの絶叫を耳にしながら、サイは血と一緒に言葉を吐き出していく。

 

「ごめん。

 ごめんな、カズイ。

 俺、お前に、とんでもないこと、させてしまった。

 好きな人を……刺すなんて、お前に、絶対、させちゃ……いけなかったのに。

 出来るわけ、なかった、のに。

 俺……酷いこと、させちまった」

 

 苦しくなっていく息の中で、サイはこれだけを呟く。

 カズイは子供のように泣きじゃくり、首を振り続けることしか出来ない。

 

 そしてふと見回すと、アムルの姿はどこにもなかった。

 サイにとどめを刺したと考えてすぐに逃げたのか、それとも──

 炎と煙が充満し、海水が流れ込むブリッジの中で、サイとカズイはたった二人きりで取り残されていた。

 オサキの身体は魂を失ったまま、今もなお操舵輪を握り続けている。

 

「きっと、カズイのおかげだ。

 カズイが、アムルさんを……正気に、戻したんだよ」

 

 アムルを目で探すカズイに、サイはそう言って、力なく笑った。

 それが意味のない励ましであることも、カズイには分かっている。

 

 そんな奇跡が起こるはずがない。そんな妄想が実現するはずがない。

 サイだって分かっているはずなのに……

 それでもまだそういうことを言えるのか、サイは。

 

 カズイは涙を袖で拭きながら、彼の身体をゆっくりと丁寧に、床に横たえた。

 

「サイ……

 傷、見せてくれよ。手当てしなきゃ」

「駄目だカズイ、早く、逃げろ。

 ここはもう……」

「サイ一人置いて、逃げられるわけないだろ! 

 どうしていつも、そういうこと言うんだよ! 畜生っ」

 

 どうやらアムルの銃弾は、サイの右脇腹を削っていったらしい。

 幸いにも弾が貫通したとか体内にめり込んだというわけではないようだが、それでも傷口から溢れる血は止まらない。

 ハンカチで押さえても押さえても、流れる血液はサイとカズイに染みこんでいくばかりだ。

 

 誰か。

 誰か、助けてくれ! 

 このままじゃ、サイが死んでしまう。

 命がけで俺なんかを守ってくれた友達が、死んでしまう! 

 

 流れ込む海水がサイとカズイの身体に染み込み、傷を洗っていく。

 そのあまりの痛みで、サイの全身が酷く震え出した。

 呼吸が速く浅くなり、唇が真っ白だ。

 カズイは慌てて彼を海水から起こし、ずぶ濡れになった上半身を抱きしめる。

 

 

 

 死ぬな。

 死なないでくれ。

 どうか、こんなところで死なないで──

 

 

 

 だが、カズイのパニックが限界に達したその時。

 思いもかけない人物の声が、救世主のように響いた。

 

 

「お前ら! 

 何、グズグズしてやがるんだっ!!」

 

 

 涙を拭きもせずに振り向くと、壊れて開いたままの中央エアロックに──

 ハマー・チュウセイが仁王立ちになっていた。

 

 

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