【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part4 愛の女神は憤怒に満ちて

 

 

 アマミキョブリッジ付近から、天空を割る勢いで噴出する火柱。

 フレイの眼前で、今までサイがいたはずのブリッジは無残にひしゃげ、装甲ごと潰れて見えなくなる。

 ブリッジへの絶望的損傷が他パーツへの誘爆を引き起こし、アークエンジェルにも似たトリコロールの船体は今、真っ黒な煙と紅蓮の炎に包まれ、海に呑まれていく。

 

 

 誰も、どうすることも出来ない。

 フレイも、ミゲルも、ラスティも、誰も。

 アフロディーテのコクピットで、操縦桿を折れよとばかりに握りしめるフレイ。

 その全身は、痙攣と見まがうほどに震えていた。

 身体を貫く熱い痛みと共に、フレイは喉から叫ぶ。

 

 

 

 守れなかった。

 使命を破ってでも、守りたかったのに。

 何があろうと自分は、あの男を絶対に守らなければならなかったのに──

 自分に組み込まれた遺伝子に逆らってでも。

 自分が一番大切にすべきものを切り捨ててでも、守りたかったのに! 

 

 

 

「サイ……

 サイイイイイイィいいいいいいっっ!!!」

 

 

 

 フレイの悲痛な絶叫が、炎の柱と共に青空を切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

「違う……違う。

 私、違う……」

 

 その瞬間――

 インパルスのコクピットで、ルナマリア・ホークはひたすらガタガタ震え続けていた。

 フレイ以上に。

 

「ち、が……!」

 

 こんな状況は、その場の全員が俄かには信じられないものだったが──

 一番信じられない、信じたくなかったのは間違いなく、撃った本人だったろう。

 自分の射撃能力の低さを嘆いたのは一度や二度ではなかったが、今この瞬間ほど、こんな自分の無能ぶりを恨んだことはなかった。

 焼き尽くされ崩壊し、炎の中で海へ溶け崩れてゆくアマミキョを凝視しながら、ルナマリアはただ、呟くことしか出来なかった。

 持ち前の根性で操縦桿だけは離さなかったが、その両拳は最早、脳の命令を受け付けない。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……

 ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい……私、絶対にそんなつもりじゃ!」

《ルナ! しっかりしろ、ルナ! 

 ルナアァア!!》

 

 自分を呼び続けるシン・アスカの必死な声さえ、ルナマリアには聞こえていない。

 

「私、私……あの紅いのがやろうとしたのと、同じことした。

 とんでもない……こと、を……!」

 

 

 いや、違う。

 あの紅のモビルスーツは、今考えれば多分レイの言う通り、ブリッジの中の人間を助けようとしていたんだ。

 必死で手を伸ばして、無理矢理にでも助けようとしていた。

 多分あの、血まみれの青年を。

 私はそれすら勘違いして、妨害した挙句、あの人を撃った──! 

 

 

 空中でほぼ棒立ちとなってしまったインパルスを、紅の機体──

 ストライク・アフロディーテが振り返る。

 見えなくとも、すぐに分かった──

 血濡れの鬼神の眼球の如く、真っ赤に煌くカメラアイ。その光を通じて、パイロットの怨讐の呟きが響いてくる。

 

 

 ──許さない。

 許さない、許さない、許さない、許さない、許さない……!! 

 

 

 ルナマリアの目に、その機体の紅は血の色にしか見えない。

 両肩のIWSPは、血を塗り固めた真っ黒な悪魔の翼。

 右腕のみでビームサーベルを抜き放ち、フレイの絶叫を乗せ、アフロディーテはインパルスに突撃する。

 

《ルナ! 

 逃げろ、ルナ!!》

 

 何度も自分を呼ぶシンの叫びにも、ルナマリアは反応出来ない。

 アフロディーテの紅い刃がそのまま、インパルスの胸部に突き立てられようとする──

 

《くそ……ルナっ!!》

 

 だがその寸前、舞い降りてきたデスティニー・ガンダムのビームシールドが、アフロディーテに一息に押しつけられた。

 間一髪でデスティニーに救われるインパルス。

 デスティニーにより、一気に引き離されるアフロディーテ。そのまま2機は揉みあいながら、海面へと突っ込んでいく。

 さらに叫ぶシン。

 

《レイ! ルナを頼むっ!》

 

 その瞬間にはもう、レジェンドがインパルスの背後に回り込んでいた。

 

《ルナマリア、撤退しろ。

 今のお前は交戦可能な状況にない!》

「で、でも……

 ヨダカ隊長、が……」

 

 レイの忠告に、ルナマリアはやっとそれだけを応答する。

 必要最低限に感情を抑えた彼の声が、強くコクピットに響いた。

 

《狼狽えるな、お前は何も悪くない。

 俺たちがヨダカ隊長の援護に回る、先にミネルバに帰投しろ!》

 

 

 

 

 

 

 ミゲル・アイマンは唇を噛みながら、眼前の爆炎を眺めている他なかった。

 確かにこれで、目的は達成された。おそらく「御方様」の目的までも。

 途中でフレイによる指示変更はあったものの、とりあえず、当初の目的は達したのだ。

 しかし──と、ミゲルは考えずにいられない。

 

 何という、後味の悪い結果だろう。

 こんな醜態を晒すくらいなら、最初から俺が先行してサイ・アーガイルごとアマミキョを撃沈させた方が、どれだけマシだったか分からない。

 そうなればフレイは、俺を串刺しにぐらいはするかも知れんが──

 今の彼女の錯乱ぶりを目撃するよりは、その方がどれほど良かったか。

 

 一本だけ残ったビームサーベルで、無謀にもデスティニーに突撃していくアフロディーテの姿は、いつもの彼女を知っているミゲルとしては、実に痛ましかった。

 IWSPのバッテリーもそろそろ尽きることだろう。ザフトも、目的が達成出来なかったならとっとと退くはずだ──

 実際、アマミキョを撃ってしまったインパルスは踵を返し、素早く空の向こうへ撤退していく。

 その機体を追うつもりは、ミゲルにはさらさらなかった。

 

 ――俺が悪かったのか。偶然とはいえ、インパルスとアマミキョを結ぶ射線上に来てしまった俺が。

 しかし、そこまで俺は計算したはずだ。例え俺が貫かれたとしても、その閃光がアマミキョに及ぶことがないように。

 だが、相手がいつもいつでも自分を正確に狙ってくるとは限らない。

 射撃下手な奴なら、数撃ちゃ何とやらとばかりに無茶苦茶に乱射することもあるのだ。そのうち一発がドハズレ中のドハズレだとしても、何も不思議は──

 いや、それにしてもあの射撃能力の低さは特筆ものだろう。ザフトの射撃訓練は一体どうなってやがる? 

 そもそも何故、そのような人物が最新鋭の機体に乗せられているのか。ザフトの人材不足はそこまで深刻なのか。

 ──違う。不運にもルナマリア・ホークが選ばれてしまったからだ、恐らく。

 議長のお眼鏡に適った能力を持つシン・アスカ。彼と最適な『(つがい)』として……

 ……って、そんなこたぁ、今はどうでもいい!! 

 

「神様……ウラむぜ」

 

 ミゲルの呟きもまるで無視して、なおもアフロディーテは追おうとしていた。とうに背中を向けているインパルスを。

 

「おい、フレイ! 

 もうやめろ、俺たちの目的は!」

《駄目だ。今のフレイには、何を言っても!》

 

 追随してきたラスティのスカイグラスパーから、諦めに近い叫びが響いた。

 

 

 

 

 

 

 インパルスに追い縋ろうとするアフロディーテ、それを追うデスティニー。

 そのコクピットに、また別の通信が入る。

 

《こちらヨダカ! 

 船体データの回収は完了した、これより全員帰投する!》

 

 シンが素早くモニターを確認すると――

 炎と水柱を上げて崩壊していく船のすぐ後方から、ヨダカ・ヤナセのジンハイマニューバ2型が浮上してくるのが見えた。

 黒ダガーLどもの攻撃を巧みにかわしつつ、海上を滑るように炎の間をぬってこちらへ向かってくる。あの速さは恐らく、グーンに跨りその速度に任せているのだろう。

 だが、シンやレイがヨダカに応答するより早く、アフロディーテが黒ジンに気づいた。

 

 ──サイを殺させたのは、貴様か。

 

 刹那、シンは紅の機体に、凄惨なまでの怨念を感じた。

 インパルスに向けるよりもずっと根深い怨恨が、機体のあちこちから呪術の紫煙の如く放散されている。関節部からの激しい摩擦熱と共に。

 それは、怒りに燃えるシンの背筋すら一瞬凍らせるほどの、恨み。

 

 

 

 

 

 

「あの黒ジン……

 貴様か。ミネルバ隊を惑わせ、アマミキョを壊した者は!」

 

 アフロディーテのエネルギーゲージが紅く点滅を始め、警告音が鳴り出した。

 稼働時間は残り50秒を切っている。フレイは一旦インパルスを諦め、黒い寸胴の機体に標的を変更した。

 インパルスのパイロットが故意にサイを撃ったわけではないくらい、フレイは分かっている。だが──

 インパルスを撃たなければ、どこへこの怒りを持っていけば良いのか、彼女には分からなかった。

 自分の感情がどうにもコントロール出来ず、ミゲルやラスティの声も聞こえていながら――

 彼女は、何も聞いていなかった。

 サイが殺されたことで、これほど自分が錯乱するとは、予想していなかった。

 これほど自らの感情が制御出来なくなることも、今の彼女にはかなり久しぶりの経験だった。

 

 ――インパルスが悪くないというなら、では、誰がどうやってサイの仇をとるというのだ。

 誰に怨讐をぶつければいいのだ。

 

「どうやって癒せというのだ。

 自分に残された最後の希望すら奪われた、その痛みを──!!」

 

 そんな状態のフレイの眼前に現れた、ジン・ハイマニューバ2型。

 その漆黒を見た瞬間、彼女は確信した。

 

 

 ――間違いない。アマミキョが残した魂が、奴が仇と教えている。

 アマミキョの過去が、奴が敵だと教えている──

 あいつはずっと、執拗に私たちを追っていた。

 分かっている。本当の敵は誰か、私には分かっている。

 本当に私が倒すべき者が、誰なのかも。それは決して、あの黒い寸胴ではないことも。

 

 

 だが奴は、サイに手をかけた──

 その一点のみで、十分だ。

 

 

 瞬間、アフロディーテはビームサーベルを腰にマウントし、素早く背部のIWSPから9.1m対艦刀を抜き放った。

 レールガンを連射しつつ、黒ジンに斬りかかる──

 このレールガンの一斉射が、海中からヨダカ機の支援に回っていたグーンに命中し、水柱が上がった。

 その飛沫を貫いて、ヨダカ機の目前に現れる血の女神。

 

 

 

 

 

 

 ヨダカはとっさに斬機刀を構え、アフロディーテのあまりにも速い刃の一撃をどうにか打ち払う。

 実体剣同士による火花が、水飛沫の中で飛び散った。

 

「何をそれほど恨んでいるか知らんが──

 データが目的なら、渡すわけにはいかんな!」

 

 アフロディーテは右腕一本のみで斬りつけてきながら、同時にヨダカ機のどてっ腹に膝蹴りの要領で右脚部を喰らわせていた。

 激しい衝撃によろめきながらも、ヨダカは機体左腰部に喰いこんだらしきブツを確認する。

 

「く……

 貫通弾(スティレット)かっ!」

 

 ヨダカ機は咄嗟に斬機刀を大きく一閃し、離れようとしない紅の機体を跳ね除けた。

 アフロディーテの右脚部はその一撃で呆気なく切断され、重量のある刃に吹っ飛ばされた機体は宙を舞う。

 だが黒ジンに喰いこんだ右脚部は、決して離れなかった──

 機体そのものが飛ばされても、その脚は食らいついて離れない。爆弾を抱えたまま。

 それは、フレイの執念か。

 

「ここまでかっ……

 脱出機構を!」

 

 次の瞬間、衝撃と警告音と共に──

 ヨダカの眼前で、盛大な花火が閃いた。

 機体に喰いこんだアフロディーテの脚が、大爆発を起こしたのである。ヨダカ機を巻き込んで。

 

《隊長! 

 隊長おおおおおおおおっ!!》

 

 デスティニーからビームブーメランが投擲されたが、それより数段速く──

 アフロディーテの対艦刀が、黒ジンを支えていたグーンごと、黒い無骨極まる機体を縦に一刀両断していた。

 

 

 

 

 

 

「そんな……

 隊長! ヨダカ隊長っ!!」

 

 火柱に包まれる歴戦の志士・ジンハイマニューバ2型を見つめながら、シンは血が出るほど唇を噛みしめた。

 口中に広がる鉄の味。

 

《シン、もうやめろ。これ以上の犠牲は必要ない。

 俺たちの任務は失敗に終わった。ならば、早急に撤退することが最善の──》

 

 この状況においても冷静さを忘れない、レイの声。

 だが、シンは到底納得出来ない。レイの言葉を遮断し、左拳をパネルに叩きつけて叫ぶ。

 

「俺は割り切れないんだよ!」

 

 この後味の悪さが、シンにはどうしても我慢がならなかった。

 救えるはずの人間を、誰も救えなかった。

 敵も味方も、傷つかなくともいいはずの者たちが、大勢傷ついてしまった──

 撃ってしまった当人であるルナマリアを想いながら、シンは肩を震わせる。

 

 ――あの機体。

 あの、紅の機体のせいだ。

 

 ついこの間まではアマミキョを守っていたはずなのに、どういうわけか今は船を壊す側に回っている。

 それだけでもシンには理解しがたいのに、船を意図せずして自分たちが破壊してしまったら、とち狂って襲いかかってきた。

 その行動の一貫性のなさが、シンにはどうあっても不快でならなかった。

 ──とある人物を思い出させて。

 

 

 任務を果たして帰ってきたら、いきなり自分を殴りつけてきたあの男。

 敵のはずなのに、「キラは敵じゃない!」などと堂々と言い放った、あの男。

 挙句の果てにはメイリンまで巻き添えにしてザフトを裏切り、「議長の言葉は世界を壊す!」とか、訳の分からないことを叫んでいたあの男。

 

 

「分かったよ。

 アスランそっくりだ、アンタは!」

 

 

 不快感を身体中から爆発させると同時に、シン・アスカの脳裏で紅の光が弾けた。

 それはもう何度目かになる、彼のSEED覚醒の瞬間。

 デスティニーは飛沫を巻き上げながら、一気にアフロディーテに迫る。

 アロンダイトと9.1m対艦刀がかち合う──

 

 最早、機体のパワーの差は歴然としていた。

 一瞬の間にアフロディーテの対艦刀が弾き飛ばされ、宙を舞う。

 

 

 

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