【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part6 そして始まる『黙示録』

 

 

 

 外部からひっきりなしに響きわたっていた轟音が、ようやく少しばかりおさまり――

 アマミキョブリッジクルーたちを乗せた救助艇は、冷たい海の底から浮上した。

 

 戦闘空域の中心部から東へ、5キロほど離れた海上。

 上部ハッチを開き、慎重に頭を出したトニー隊長はまず、周囲の安全を確かめる。

 意外なほどに、海面は静かだった。しかしすぐに、炎と煙と熱気の充満した真っ黒い空気がトニーの頬を打った。

 彼にしがみつくようにして、ヒスイ・サダナミもこわごわと救助艇の外、黒い大気の中へ這い出た。

 湿気と灰混じりの風で、彼女のストレートの黒髪は一気に汚れていく。

 

「……これは」

 

 ――そして、ヒスイは見た。

 美しかったウルマの青い海を埋め尽くすように燃え上がる、無数のモビルスーツの残骸を。

 四散して波に揉まれる機体からは血のような潤滑油や推進剤が漏れ出して引火し、水の上で弱々しく最後の炎を上げている。

 昼間のはずなのに、空は灰に覆われ、真夜中よりも暗い。

 

 さらに彼女は見てしまった。

 葬送の行列の灯のように海を覆って揺れ動く炎の向こうに――

 今もなお、激しい炎柱を噴き上げて崩壊を続ける、自分たちの船──アマミキョを。

 

「……!!」

 

 ヒスイが密かに誇りとしていた、伝説のアークエンジェルにも似たトリコロールの美しいカラーリングは、無惨なまでに溶け崩れている。

 自分たちの家も同然だった、幾多の避難民たちの希望だった船は今まさに、漆黒の海へと燃え落ちようとしていた。

 ヒスイにとって一番大切だった仲間──サイ・アーガイルとサキ・トモエの命も、恐らく飲み込んだまま。

 その炎を目にした途端、彼女の全身は氷のように固まってしまった。

 もう震えることすら出来ず、その唇はただただ新鮮な空気を求めて喘ぐ。

 両手は胸の前で、二度とほどけないだろうというほど強く組み合わされていた。

 

「…………」

 

 声も出せなくなってしまったヒスイを、トニーは背中からそっと抱きしめる。

 母を失った娘を、父親が抱きしめるように。

 

 ヒスイに続いてハッチから数人のクルーが出てきたが、彼らもあまりの光景に、一瞬誰もが押し黙ってしまった。

 そして次の瞬間、力が抜けて座り込む者、その場で泣き崩れる者、サイたちの名を声を限りに叫ぶ者──

 

 皆、分かっている。ここで一体何が起きたか。

 何故かは分からないが、ほぼ全員が、失われたいくつもの魂の重さを感じている。

 

 かすれた嗚咽と絶叫が、やがて降ってきた黒い雨と交差した。

 それでもトニーはヒスイを支えながら、油の塊が降り注ぐ空を敢然と睨む。

 隊長として、これはまず絶対に言わねばならなかった。

 

「さぁ、みんな。戦闘は終わったんだ。

 探しに行くぞ! サイ君たちを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──サイ、さん? 

 

 

 無機質なステンレス製の台車の音に刺激され、少年はうっすらと目を開いた。

 全く見覚えのない白い部屋。

 網膜にとってかなり無遠慮な光量の蛍光灯が、視界に飛び込んでくる。

 少し頭を回してみると、どうやら自分はベッドに寝かされているらしいことが分かった。

 色とりどりの点滴が見え、そこから伸びるチューブは全て自分の身体へ繋げられている。

 

 

 ──僕は……

 フレイさんにやられて、死んだはずじゃ? 

 ──ここはどこ? 僕は、確か……

 マユ。母さん。ウィンダム。フレイさん。カイキさん。

 ──アマミキョのみんな。サイさん。

 僕が、帰る場所。

 ここは、アマミキョなのか? 

 でもこんな病室、見覚えが……

 

 

 あらゆるキーワードとイメージが記憶の整理よりも早く次々に浮かび上がり、少年の意識を混乱させていく。

 身体を動かそうとしたが、麻酔でもかけられているのか、両手ぐらいしか動かせない。

 少し腕を上げてみると、両腕はほぼ全て包帯に覆われていた。

 全身を走る痛み。頭を回す程度が精一杯だ。

 

「あ、見て、シン! 

 先生の言ったとおりだ。この子、やっと気づいたよ!」

 

 唐突に響きわたる声。

 途端、少年の視界に、蛍光灯の光を遮るようにして、一人の少女の頭が飛び込んできた。

 少し紫がかった赤毛で、ちょっと特徴的なショートカット。

 大きな群青の瞳は、本心から嬉しそうにこちらを見ている。その前髪は真ん中あたりだけやたら癖のある毛らしく、下手をすればその毛先だけ少年の額に刺さりそうなほど尖がっていた。

 人なつこい笑顔に、少年もつられて笑いそうになったが――

 その服を見て、表情は凍りついてしまった。

 

 

 ──ザフトの、赤服だ。

 

 

 僕たちに、何度も襲いかかってきたザフト。

 僕の大事な人たちを殺し、大切な場所を僕から次々に奪ったザフト。

 そのザフトに、どうして僕がいるんだ? 

 マユ、マユ、マユ! 返事をしてよ! 

 母さん、どこにいるの? 

 キラさん、アスハ代表、ミリィさん、アークエンジェル!! どうして誰もいないんだよ!? 

 ねぇ、サイさん! カズイさん! みんな!! 

 マユやサイさんたちをあれだけ感じることが出来たのに、どうして今は誰もいないの? 

 助けて……助けて、助けて!! 

 

 

 痛みも構わず、狂ったようにベッドでじたばた暴れだした少年を、少女は慌てて押さえつける。

 

「あぁ、駄目! まだ動いちゃ駄目だってば!! 

 1か月も意識なかったのよ、貴方は!」

 

 少女の柔らかな頬と豊かな胸が、一息に覆いかぶさる。さらに、やけに強烈な腕力で両手首を押さえられ、少年の抵抗はたやすく終わった。

 それでもザフトへの恐怖は収まらない。全身が痙攣のように震えだす。

 

 

 助けて、助けて、助けて……

 今度は何を、僕から奪うつもりなんだ、ザフトは? 

 

 

 どんなに叫ぼうとしても、どうしてか声が出ない。

 どうして? 声は僕の武器だったはずなのに。

 荒い息だけが、虚しく少女の耳を掠めるだけだ。

 

「落ち着いて、落ち着いて。お願いだから。

 大丈夫……大丈夫よ。

 誰も、貴方に何もしないから」

 

 少女はいつしか、少年にほぼ馬乗りになりながら、彼の頭を抱きしめていた。

 彼の頬にはガーゼが当てられていたが、その体温ははっきり少年にも伝わっていく。

 肌の暖かさを感じ、少年の震えはわずかながら治まった。

 ザフトの、血の色にすら見える制服への恐怖は消えなかったが、髪をゆっくり撫ぜてくる手のひらの感触に、彼は思わぬ安らぎを覚えた。

 

「……ルナ。

 お前こそ落ち着けよ」

 

 ふと壁際から、どこか投げやりな声が少女の背中へ飛んでくる。

 少女の左の脇ごしに、少女と同じ赤服の少年の姿が見えた。

 ややぼさぼさの黒髪に、目の覚めるような白い肌。年齢は自分より2つほど上といったところか。

 ひときわ印象的なのは意志の強そうな黒い眉と、その紅の瞳だった。

 

 

 ──マユに、似てる? 

 

 

 唐突に浮かんだその思考に、思わず頭を振る。

 何を考えてるんだ、僕は……この人は、どう見ても男じゃないか。

 

「どう見ても、俺たちを怖がってるだろ。

 ザフトはずっと、こいつらにとって敵だったんだから」

 

 こちらを見下げながら、壁に凭れかかって面倒そうに腕組みをしている。

 少女と同じ赤服ではあるが、その襟元は若干はだけている。

 よく見ると少女の方も、やたらと太ももが目立つミニスカートの制服だ。というよりも、明らかに制服を改造している。

 

「今は違うでしょ」少女は反論する。

「というか、元からこの子は、敵なんかじゃなかったわよ。

 だって、民間船の……」

「そいつはそう思っちゃいない。

 ステラと同じだよ」

 

 黒髪の少年は腕を組んだまま、ぷいと顔を背ける。

 その言葉に、今度は少女の微笑みが一瞬だけ消えた。

 

「また、ステラ……ね」

 

 だがすぐに彼女は気を取り直し、笑顔に戻る。

 

「でも良かった、本当に心配したのよ。

 見つけた時は正直、もうこれは無理かって思ったけど……

 そうだ、名前聞かなきゃね」

「何言ってんだルナ、隊長から聞いてるだろ」

「バカね。こういう自己紹介から、コミュニケーションが始まるんじゃないの」

 

 黒髪の少年を横目で睨みつけ、少女はまたすぐ満面の笑顔になる。

 まるで可愛い子犬を拾った、幼子のような笑顔だった。

 

「私はルナマリア・ホーク。

 あっちの、黒いのはシン・アスカ。

 ぶっきらぼうだけど、気にしないでね。意外といい奴だから」

「おい、黒いのって何だよ」

「髪真っ黒だから黒いの、文句ある?」

 

 

 シン・アスカ──……

 って、そういえば……マユの……? 

 

 

 記憶が徐々に鮮明になる。思い出したくない血の記憶が。

 しかし残酷に蘇ってきたのは、ある言葉。

 最期の最期まで、任務を完遂するべく戦い抜いた軍人の言葉。

 そして恐らく今はもう、どこにもいない男の。

 

 

 ──マユ・アスカにも、本物の兄貴がいた。

 名はシン・アスカ。オーブ解放戦後の生き残りで、今はザフトとして戦っている。

 

 

 思わず右手で頭を押さえこむ。

 どうやら頭もほぼ包帯で覆われていることに、初めて気づいた。

 

 

 あの後、僕は……

 僕は、母さんを守れなくて。

 カイキさんを殺して、マユも消えてしまって、フレイさんに殺されて。

 殺されたと思ったら、広瀬さんが助けてくれて……

 でも、その後が……

 

 

「どうしたの? 

 もしかして、名前、思い出せない?」

 

 ルナマリアが心配そうに、顔を覗き込んでくる。

 

「────…………!」

 

 違う、自分の名前ぐらいわかる。バカにするな。

 僕は子供じゃないんだから。

 必死で頭を振る。

 

「──…………?」

 

 だが、いつものように声を張ろうとしても、喉に力が入らない。

 何か鉄塊のようなものが、一杯につかえているような感じだ。

 喉の奥が重くてたまらない。

 それでも彼は、無理に声帯を震わせようとする──

 が、その途端鋭い痛みが喉に突き刺さり、少年は遂に一言も言葉を発せないまま、激しく咳き込んでしまった。

 

「え、ちょっと、大丈夫!?」

 

 酷く震え続ける小さな背中をさすりながら、ルナマリアは青ざめる。

 肺が破れるかというほどのあまりの咳き込みに、シンも思わずベッドに駆け寄った。

 

「大丈夫かよ……

 まさか、声が出ないとか?」

 

 シンが漏らしたその一言は、少年を酷くえぐった。

 汗と涙でぐしゃぐしゃになった頬は苦しさで上気し、唇からはぜぇぜぇと喘ぐ呼吸音しか出ない。

 底の知れない絶望が、少年の心に満ちていく。

 

 

 ──僕は……

 声まで、失った。

 

 

 

 

 

 メサイア攻防戦終結から、約3週間。

 これが、ナオト・シライシとシン・アスカ、ルナマリア・ホークとの、最初のまともな邂逅だった。

 

 

 

 ~~~~~~

 

 次回予告

 

 記録は語る、彼女たちの秘密を

 過去と罪を、血の運命を

 密かに育まれ、そして無惨に潰された「奇跡」を

 だが、「奇跡」は――消えないからこそ「奇跡」と呼ばれる

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation

「ニコル・アマルフィの記録」

 

 運命を超え、覚醒せよ! ガンダム!! 

 





※今回で、種運命の時間軸のお話は終了となります。
そしていよいよ次章から、種運命直後~種自由までの空白期間へと突入! とはいえ次章は総集編(というか前半の解答編)みたいなものですが!
もしよろしければお気に入り登録、評価など、どうぞよろしくお願いいたします!

W主人公もヒロインも全員退場したも同然の状態ですが、そういえば種無印でもキラもアスランも同時に退場していた時期があったな……
その頃はサイ君、結構ガチで主人公していたような。自分が種を見始めたのもその頃。

ちなみに自分、映画を未だ観ておりません(2024/2/23現在)
しかし色々ネタバレは聞いております。当初、映画の設定は一切無視すると書きましたが、ここにきてどうしようかちょっと悩んでおります……勿論話の筋そのものの改変するつもりはないですし、映画の新キャラや新機体新設定を出すつもりも全くないですが、キャラや設定の認識違いや認識漏れも色々あったのでその微調整微修正ぐらいは(;´Д`)
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