【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
場面は再び、プラント――
シンとルナマリアはほぼ同時に、抗議の声をあげていた。
「何でまた!? デスティニーもインパルスも修理中なんですよ!」
「ナオトを乗せるって、無茶です! あの子に何をさせるつもりですか!?」
慌てたアーサーは、シンの反論にのみ回答する。
「デスティニーとインパルスの修理は、予定の倍のペースで進んでいる。
何せ、今はプラントの一大事だ。作業用にでも構わないから、少しでも動かせる機体が欲しいんだよ。
一緒に乗るのは元ミネルバの仲間だから、特に問題もないだろう」
最後にちょっと照れてみせて、アーサーは頭をかく。
「私が艦長というのは不安だろうが、我慢してくれ」
何でこんな時に軽口なんか──ルナマリアは彼を責めたてる。
「私の質問に答えてください!
どうしてナオトを!?」
と、ヨダカが代わりに答えた。
「デスティニーやインパルスと一緒に、ティーダもミネルバJrに搭載予定だ。
知ってのとおり、ティーダを動かせるのはあの子供だけだからな」
シンが訝しげに聞く。
「ティーダ……
あの機体まで、修復されたんですか?
俺たちが見つけた時は、ほぼコクピットだけの状態だったはずなのに」
「修復じゃない、アレはほぼ新機体だ。
だがセキュリティ等のシステム周りは生きていたから、やはり彼にしか動かせないんだよ」
「そうじゃなくて!」
猛然とヨダカに噛みつくルナマリア。「何で、ティーダが必要なんです!?
あの子の状態、分かっていますよね?」
「ルナマリア・ホーク!」
出過ぎたルナマリアの反論に、ヨダカは廊下中に鳴り響くほどの声を轟かせた。
「それ以上の発言は上官への反抗と見做される。口を慎め!
アスラン・ザラ及びメイリン・ホーク脱走事件への関与の疑いが、完全に晴れたわけではないのだぞ!」
その一声で、ルナマリアの全身が縮こまる。
メイリンのことを出されると、どうにも固まってしまう彼女だった。
「ルナマリア、落ち着いてくれ」アーサーが諭しつつ、説明を始める。
「我々がかつて調査した南チュウザンの動きが、最近とみに活発化している。
プラントの混乱と連合の無力化に乗じ、タロミ・チャチャは一気に勢力を拡大してきた。
北チュウザンはほぼ乗っ取られたに等しく、東アジア共和国はほぼ全域、彼の息がかかっているとみて間違いない。
位置的にはカーペンタリアも近く、非常に危うい──近々、大きな一手を打って出るという噂もある。
そこで、我々ミネルバ隊とティーダの出番というわけだ。
ティーダとあの子供の調査が進み、奴らに対抗しうる手段となりうるならば……」
その時、ルナマリアが反論するより先に、叫んだのはシンだった。
「無茶ですよ!
口もきけない、コミュニケーションもままならない民間人の子供に、何が出来るってんです!?
まさか、無理矢理ティーダに詰め込んで出撃でもさせるんですか」
「シン! 君も調査中に見たはずだろう。
神経を蝕むあの光が、もしジェネシス級になったらどうなると思っている!?」
声を張り上げるアーサーに、ヨダカは大仰に頭を振った。
「やれやれ……
メサイア戦を経ても、反抗期は相変わらずか」
シンは唇を噛みしめる。
彼が思わずナオトを庇ったのは、ルナマリアに同調すると共に、ステラ・ルーシェを思い出したからだろう──
本能的に、ルナマリアはそう感じていた。
シンはまだ、やっぱり、彼女を忘れられていない──妹のことも。
アーサーに一礼し、ヨダカはミネルバ隊に背を向ける。
彼に同行していた女性が、ふとルナマリアに視線をやった──
が、すぐに目を逸らして去っていく。
長い金髪をお団子にまとめ、新しくしつらえたザフトの緑服を身にまとっている。
目は若干、白目の面積が広いように見えるが、プラントにおける容姿のレベルでいえば、ごく普通の女性のように思えた。
──あの人、どこかで会った?
妙な既視感をルナマリアは覚えたが、その時はどうしても思い出すことが出来なかった。
「どうして……
どうして、貴方がここに?
というか、ここはどこです? 俺は一体どうしたんだ?
船のみんなは……カズイは、トニー隊長は、ナオトは!?」
サイの乾ききった唇から、矢継ぎ早に飛び出す言葉。
「まぁまぁ」ラクスはサイの叫びを受け止めつつも、タオルケットを顎のあたりまでかけてくる。黙れと言いたいのか。
「大丈夫ですわ、じきに全て分かります。
酷い怪我をされていたのですから、今は養生した方が」
「養生なんて、してられない!」
ラクスの声を遮るように、サイは叫ぶ。
腕が動けばタオルケットを投げ飛ばし、何本も突き刺さっている点滴を引きはがすぐらいはしていただろう。
「アマミキョは……脱出したみんなは、どうなったんです!?
俺は、みんなの所へ行かなきゃいけない!」
その言葉に──ラクスの表情から一瞬、笑みが消えたような気がした。
だが同時に、全く別の方向から声が三つも飛び込んできて、彼女は再びふわりと微笑んだ。
「サイ!
サイっ、気がついたのね! 良かった……本当に良かった!!」
「凄いよラクス。そろそろかもって言ってたら、本当になるなんて」
「……サイ!」
涙まじりの少女の声と。
ちょっとびっくりしたように呆けた、青年の声と。
最後は他の二人より一段階も二段階も小さめの、押し殺した叫び。
サイにはすぐに分かった。
ミリアリア・ハウに、キラ・ヤマトに……カズイ・バスカーク。
ずっと遠いような気がしていた、懐かしい顔が、次々に視界に飛び込んでくる。
真っ先に、サイに抱きつくように駆け寄ってきたのはミリアリアだ。両腕で、彼の頭を抱きしめるように飛びついてくる。
「サイ、サイ、サイ……!
貴方1か月近くも、ずっと寝てたんだからぁ!
ずっとずっと呻いてばかりで、みんな本当に心配したのよ!!」
わんわん泣き出したミリアリア。彼女の、外に跳ねた髪が頬を撫でてくる。
僕たちにはこういう真似できないね、と言わんばかりに、キラとカズイが顔を見合わせている。
だが当のサイは、それどころではない──
1か月だと?
そんなにもの間、俺は何もせず、寝てたってのか?
「ちょっと待ってくれ……
キラ、教えてくれ。ここはどこだ?
アマミキョはどうなった? みんなは……」
必死に事情説明を求めるサイに、ミリアリアは少し悲しげにかぶりを振る。
そして助けを求めるようにキラを見たが、キラはそんな彼女からラクスに視線を移す。
そのラクスはゆっくりと、カズイに視点を定めた。
──まず最初にお話するのは、貴方でしょう?
何も言わずとも、彼女の瞳が語っていた。
抵抗不可能な無言の要請を受け、カズイはぽつぽつと喋り始める。
「ここは、オーブのオロファト郊外の病院だ。
あの後、俺たち二人はキラに助けられて、アークエンジェルに収容された──
そこまでは、覚えてるか?」
頭にまだ鈍い痛みが走ったが、サイは頷く。
「やっぱり、あのモビルスーツは……
キラ。お前だったんだな」
大分、フォルムが変化していた記憶がある。
おそらく、撃墜されたというフリーダムの代替となる機体なのだろう。
その言葉を否定しない代わりに、キラは促した。
「その後は?」
──何も分からない。覚えていない。
ただずっと、炎の中に巻かれる悪夢を見ていた気がする。
炎上するカタパルト。
自分の身体から発される、猛烈な血と煙のにおい。
そんな自分の身体を抱き上げ、炎の中をのそのそと進む男。
──その男の背中には、十字架のようにも見える、大きな金属片が突き刺さっている。
目覚めた今もなお、サイの眼前には幻影のようにその十字架がちらついていた。
胸の傷がひどく痛み、思わず呻く。
その拍子に胸元、病院服のポケットの中で、何かが軽く音をたてる。
サイにはそれが何なのか、もうはっきりと思い出せていた。
──俺のせいで、
「サイが治療されている間に、アマミキョのみんなは散り散りになってた。
脱出したメンバーはみんなどうにか生き延びたって話も聞いたけど、今はどこにいるのか、殆ど分からない。
アスハ代表が調べてくれているけど、あの混乱の中じゃ……」
カズイはその後を続けられず、言葉を濁す。
だがサイは、それだけでどこか安堵していた──
そうか。みんな無事だったのか。
あの時船に残った、「彼ら」を除いては。
オサキの笑顔を思い出し。
あの悲痛な最期を思い出し――
胸がまた、酷く傷んだ。
思わず咳き込むサイを、慌ててミリアリアが支える。
「サイにはまだ時間が必要だ。
僕がゆっくり話すよ」
そして、キラは話し始める。
サイたちが救出された、その後の物語を。
ユウナ・ロマ・セイランがジブリールを匿った為に、オーブが再び危機に晒されたこと。
その最中に、やっとのことでカガリ・ユラ・アスハがアークエンジェルを伴ってオーブに戻り、セイランから政権を取り戻したこと。
直後、宇宙に逃亡したジブリールの手でレクイエムが放たれ、プラントを直撃。血のバレンタインを上回る犠牲者が出たこと。
反撃に転じたザフトによってジブリールは葬られ、ロゴスは事実上壊滅したこと。
それから間もなく、ザフトのデュランダル議長が「ディスティニープラン」を発表。
それに反駁したラクスらクライン派とオーブ軍は一斉蜂起。議長率いるザフト軍を壊滅させたこと──
どれをとっても、今のサイには俄かに信じられぬ現象ばかりだった。
キラが話している最中にミリアリアとカズイは病室を出ていたが、ラクスはじっとキラとサイを交互に見ながら、隅の椅子に腰かけていた。
その過程で、自然とミーア・キャンベルについての話も出てきた。
彼女がラクス・クラインとなった経緯と、その結末についても。
「ミーアさんのことは……」
この件に関しては、キラはひどく話しづらそうだった。
「ラクスもアスランも、ひどく傷ついた。
ラクスを騙っていたのは確かだけれど、そうさせたのは議長だからね」
「偽りは、その存在だけで忌むべきもの──
果たして、そうでしょうか? ミーアさんはそのことを教えてくれました」
ラクスの周りではいつの間にか桃色のハロと、もう一体の紅のハロが仲良さげに飛び跳ねている。
恐らくその紅いハロが、ミーアという人物の持ち物だったのだろう。
ラクスが愛しげに紅ハロを見る瞳だけで、サイには分かった。
「ミーアさんは、私以上に本物でした。
プラントの平和を彼女なりに懸命に考え、自分なりのラクス・クラインを演じていた──
いえ、ラクス・クラインを『降ろしていた』という形容がよろしいですわね」
サイは思い出す。
「あの」フレイと、たった今、話に聞いただけのミーア・キャンベルが、別人に思えない。
「あの」フレイだって、フレイ・アルスター像を自ら創り上げ、単なる模倣に留まらない段階まで昇華させていた。
ラクスとサイの視線が、空中でかちあう。
「恐らく貴方は、彼女と似た方をご存知のはずです」
「ああ……知ってます。
とても良く知ってる」
何故だろう。
この人と、「あの」フレイの眼光はどこか似ている。
「そのミーアさんを、議長は消した」キラは俯きながらも、はっきりとした口調で続けた。
「人の運命を好きに操って、人は最初からこうだと決めて、限られた可能性しか生きられないなんて──
そんなの、僕は許せなかった」
「それが、議長の本来の夢だったのか」
お前にとっては許せないかも知れないが、かなりの人間にとってはありがたいことだったのかも知れない──
そう言いたかったが、胸がまだ痛くてうまく喋れない。
ディスティニープランとは、要するに遺伝子を調べて最初から人の適性や職業、ひいては未来を決めるものだった。
その概要をキラから聞いた時、サイは反射的にある人物を思い出していた。
思い出したくもない彼女──アムル・ホウナを。
親から強制的に、明らかに自分と合わないバイオリンを押しつけられ、それ以降の人生でずっと迷走を続け。
遂には親と婚約者の死すら願い、サイとアマミキョに対してあれだけの凶行に及んだ彼女を。
彼女は、どうしたろう。やはりあの後、死んでしまったのか。
「そういう人たちにとっては、必要だったのかも知れないね」
アムルの話をサイから聞いても、キラはまるで他人事のように言った。
実際、他人事なのだから当然か──
「だけど僕もラクスも、人から決められた運命におとなしく従うのは嫌だった。
嫌、だったんだよ。それだけ」
サイはため息をつかずにいられない。
それだけの理由で、数百万数千万のアムル・ホウナが救われる可能性を潰したというのか。
「どこまでも高みに行きたい。
男の本能、ってヤツか」
サイの呟きに、ラクスがすかさず反論する。
「あら、男女はあまり関係ありませんわ。
だって私も、想いはキラと一緒ですから」
「じゃあ、人間の本能だ。それも……
優秀な人間のな」
サイは少し疲れ、思わず吐き捨てる。
その言葉に、キラの顔から完全に柔らかさが消失した。
――多分、モビルスーツを操っている時と同じ表情を、俺はキラに向けられている。
それでもサイは、言わずにいられない。
「何でも出来る人間は、そりゃ可能性を拘束されるのは嫌だろうさ」
「僕やラクスが、そうだと言いたい?」
キラの言葉には、明確に冷たい棘があった。
――俺はキラの心を刺激する言葉を、また吐いてしまっている。
だが、構うもんか。殴るなら殴ればいい。
本音を言った方が、お前だって気が楽なんだろう?
「ああ、そうだよ。
お前は、出来ることに限界がある奴らの気持ちなんか分からない!
自分の限界に気づけなくて、いつまでも迷走する人間なんて幾らでもいる。
そういう奴らに議長の計画があれば、どれだけ楽になったか──
お前はここまでと定められていれば、無駄な争いもなくなる。
徒労に終わる努力なんて、しなくていいんだ」
「同じことは、議長にも言われたよ。
でも、嫌なんだ」
キラの冷たい眼差しは変わらない。
憐みすらこもっているように思える。
「だって、考えてみてよ。
現実が分かってないって、サイもアスランも言うけど……
君は一生トイレ掃除以外の職業にはつけませんって言われたら、どう?」
思わぬたとえにサイは吹き出しそうになり、また胸の痛みで咳き込んだ。
「お前、トイレ掃除馬鹿にすんじゃないよ!
掃除だって立派な……っ」
だがキラは、全く笑っていない。
完全に真顔のまま、静かに続ける。
「馬鹿にしてるのはサイじゃない?
同じことはパイロットにだって、研究者にだって、スポーツ選手にだって言える。
貴方に適した職業はサッカー選手です。
だけど、それ以外やっちゃ駄目って言われたら? 本人はバスケがやりたいのに」
サイは反論したかったが、咳き込みのあまり後が続かない。
ラクスがくすりと笑った。
「私も、一生歌だけ歌っていろと言われたら……
やっぱり嫌ですわね」
「僕だって……
一生、死ぬまでモビルスーツに乗ってろと言われるのは、嫌だ。
結果的に同じことになるとしても、決めるのは自分でいたい。
それだけだよ」
サイは何となく読めた。
自分が気絶している1か月の間に起こったこと──
それは、キラの本能と、議長の論理の激突。
議長のプランは確かに、混迷するプラントやコーディネイターを導く、現時点での最善の方法だったのだろう。
いずれ彼の研究はナチュラルにも及び、地球上でもプランが採用された可能性はある。
実際、そんなものがあるんだったら、俺だって興味津々で調べてもらうかも知れない。
でもキラは、感情でそれを拒んだ。
自由を望み、可能性を信じて前に進む人間としての本能が、論理上の平和を拒んだ──
どちらが正しいかなんて、これからの歴史しか証明しない。
じゃあ――これから、どうするのか?
「一つの案を拒絶したからには、代替案が必要だ。
議長を失脚させたのであれば、当然お前やラクスさんにその責任が生じる。
お前が正しいと主張するからには、何か他に解決策はあるのか?」
答えが分かりつつも、サイは聞いていた。
そしてキラは、当然のように答える。
「分からない」
予測出来た答えだったが、それでもサイは言わずにいられない。
「分からないって……
お前ら、バカ?」
すかさずラクスが、呆けたように突っ込んできた。
「お前ら?
私もですか?」
サイは一瞬躊躇したが、それでも言い放つ。
刺すなら刺してみろ、この重傷患者を。
「いや……その……
だから……えぇと。
……そうですよ!」
ラクスはサイの一言に目を丸くしてぽかんとしていたが、突然ぷっと吹き出した。
「これから皆さんで、それを探していけばいいだけのことですわ」
「いやその、そんな悠長なことを言っていられる状況じゃ……
今の話だと、プラントはどえらい状況なんですよね?
地上もまだ、火薬庫同然で……」
――サイはふと言葉を切る。
じゃあ、チュウザンは?
一体、今のチュウザンはどうなっているんだ。
アマミキョや山神隊が命がけで守ろうとしたあの島国は、今、どうなっている?