【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part5 破壊される国

 

 

「何を……

 言ってるの? 彼女?」

 

 幾分かのタイムラグはあったものの、プラントにもフレイの映像は堂々と流れ。

 ルナマリア・ホークもまた、キラたちとほぼ同様の面持ちで、彼女の演説を凝視していた。

 

 そこから少し離れたソファに凭れかかり、シン・アスカもまた映像を見ている──

 ルナマリアよりは、若干突き放した表情で。

 

 デュランダル議長が提唱した、ディスティニープランは失墜した。

 そして今、プランの代替案が南チュウザンの手で全世界に提示されている。

 案というにはいささか抽象的にすぎ、代替となる存在があると示されただけの話だが。

 映像がプラントと地上へ同時配信されているのは、かつてラクス・クラインが使ったような強力な電波ジャックか。もしくは連合もプラントも、この演説には配信の価値があると判断したのか。

 

 ディスティニープランが力を失った今、プラントを救い、世界を混乱の渦から遠ざける敏速かつ確実な手段は最早、ありえない。シンはそう思っていた。

 だが──

 人の、自由進化を止める? 自由意思そのものを失くす? 

 今流れたフレイの言葉をそのまま解釈すれば、そういうことだろう。

 

 

 しかし、シンに言わせれば──

 そんなことは、不可能だ。

 

 

 ――俺は家族を殺され、力が欲しくてプラントに上がった。

 ステラを失って、フリーダムを倒す力を欲した。

 キラ・ヤマトに完膚なきまでに敗北した今でも、あの激しい感情までを否定することは出来ない。

 ひどく強い憎しみの感情があったから、俺はここまで来ることが出来た。その結果はともかくとして。

 そんな意思まで──消すというのか、フレイ・アルスターは? 

 

 

 いつの間にか部屋から出てきたのか、ナオトがルナマリアのそばに、リスのように寄り添っていた。

 大きな目をさらに見開いて映像を凝視しながら、小刻みにガタガタ震えている。

 ルナマリアはそんなナオトを、思い切りぎゅっと抱きしめた。

 

 シンはふと思う。

 ――俺、あんな風に抱きしめられたこと、あったかな。

 

 演説をひととおり終えたとみられるフレイ・アルスターは、背後からそっと現れた幼い少女から、儀礼用と思われる大仰な剣を受け取った。

 その剣を鞘から抜き放ち、天高く振りかざす。

 銀色に輝く切っ先は月の光を浴びて煌き、観衆が一気にどよめいた。

 

 だがシンが何となく、フレイの背後の少女に視線を移した瞬間──

 彼は驚愕のあまり、思わず感情を肉声に出してしまっていた。

 

「……まさか!?」

 

 短めに切り揃えられた金髪。サファイヤにも似た大きな瞳。

 病的に白い肌。

 大きな紅のリボンをつけているせいで、一見少女のようにも見えた。

 だがその服装は身体の線を見事に隠す、袖の膨らんだブラウスに幅広のスパッツだった為、性別は映像からははっきりと判別出来ない。

 

 ──そういえば()()()も、赤服着ていないとどっちなのか、よく分からない顔だちをしていた。

 けど……

 そんな馬鹿なこと、あるはずがない。

 あいつはもういない。

 俺に自分の身上を告白してから、あの戦いで消えてしまったんだ。

 艦長や議長と一緒に、メサイアの炎に呑まれて──

 キラ・ヤマトもアークエンジェルも、アスランも、あいつを助けようとはしなかった。

 それにあの子は、あいつとは全然年が違う。

 あの子が、あいつな訳がない──なのに。

 

「レ、イ……?」

 

 シンは思わず、直感を口にしてしまっていた。

 誰にも聞こえない声で。

 

 

 

 

 

 

 その時――映像は突如切り替わる。

 燃えさかる、北チュウザンの街へ。

 

 

 カズイ・バスカークは、その街の──

 その街の元の風景を、よく覚えていた。

 自分たちアマミキョが、暮らしていたはずの街を。

 街は燃えていた。完膚なきまでに燃やされていた。

 

 

 破壊される学校。

 逃げ惑う人々を吹き飛ばす炎。子供を抱いた母親が爆発の中へ、散り散りになって消えていく。

 育っていたトウモロコシ畑が、モビルスーツによって踏みつぶされる。

 畑を守ろうとした、男と犬ごと。

 河川を一斉に登ってきた黒いモビルスーツ群が、やっと津波から復興してきた海沿いの街を、一瞬で焼いていく。

 

 その地獄の中に──

 アマミキョがかつて守り、復興させてきたヤエセや、ヤハラの光景もあった。

 

 

 俺たちが喧嘩を繰り返しながらやっと建てた学校が、文字を覚えたばかりの子供たちごと焼かれていく。

 俺たちにトウモロコシや豚肉を奢ってくれた、猫好きのおじさんが、猫ごと吹っ飛んでいく。

 俺たちの馴染みのコーヒーショップが──

 テロで半分焼けたけどそれでも営業していて、従業員の可愛い女の子が頑張っていたはずのあの店が、今度こそ完全に潰されていく。

 人々を守るべき国軍はどこからも姿を見せず、見慣れた河は血と炎で染められていく。

 家が、瓦礫に変わっていく。

 俺たちが、サイが、命がけで守ろうとした街が──

 人が、破壊の光に一瞬で呑まれていく。

 

 

 その上空を優雅に飛び回っているのは──

 真っ赤に輝く、ストライク・フリーダム。

 

 

「何、考えてんだよ……

 フレイ!」

 

 

 それはカズイがその場で初めて漏らした、小さな呟きだった。

 フレイだって、あれだけ身体張ってこの街を守っていたはずなのに。

 アマクサ組だって、一番命張ってたはずじゃないか。

 

 既にフレイの姿は、モニターからかき消えている。

 カズイがどれほど心で号泣しようが罵倒しようが、もう決して現れない。

 一体どういうつもりなのか──

 ストライクフリーダムが消え、ようやく画面に現れたアナウンサーの説明によれば、今の1分にも及ぶ圧倒的な破壊の映像まで含めて全て、南チュウザンから配信された映像だという。

 ということは、南チュウザンは意図的に、フレイの演説とストライクフリーダムの映像を同時に配信したのだ。

 逆らう者は全て屠ると言いたいのか、それとも──

 いや、それよりも。

 

 この光景を、絶対に今のサイに見せちゃ駄目だ。

 こんなものを見せたら、その瞬間にサイの次の行動は決まってしまう。

 

 カズイは慌てて、腰を上げようとした──

 が、もう遅かった。

 彼が振り向くより先にミリアリアが背後の気配に気づき、小さく悲鳴を上げていた。

 その場の全員が息をのむ中、苦笑交じりの低い呟きが、病院ロビーを流れる。

 

 

「冗談、キツイぜ……

 勘弁しろよ、おい」

 

 

 全身包帯だらけで歩くことすらままならず、点滴台を杖代わりにして必死で身体を支えるサイの姿が、そこにあった。

 

 

 右足首がまだ十分に動かず、左腕はだらんと重力に任せて垂れ下がったまま。

 右手だけで点滴台につかまりながら、それでもその両目はモニターを睨みつける。

 ガーゼの当てられた口端が、不器用に持ち上げられていた。怒りのあまり笑いの形に表情が歪んだようで、先ほどの呟きはその唇の間から漏れていた。

 カズイは、反射的に思い出す。

 サイがM1アストレイで無断出動して重傷を負い、生死も危うかったあの雨の夜を──

 

 あの時も同じようにふらふらになりながら、サイは戻ってきたっけ。

 俺たちのところへ。

 

「サイ! 

 駄目よ、まだ立てる身体じゃ!」

 

 一番にミリアリアが飛び出し、倒れかかって床に顔を打ちつける寸前だったサイを抱きとめる。

 続いてメイリンもサイに駆け寄り、二人は両側から彼を支える形になった。

 

 

 ──ああ、やっぱり同じだ。

 あの時も同じように、ネネたちがサイを助けたじゃないか。

 

 

 カズイは何度となく繰り返したサイへの嫉妬を、再び胸の内に感じる。

 だがカズイはもう、その嫉妬を冷静に見つめられるだけの余裕があった──

 自分より優秀な奴に妬くなんて、当たり前すぎることだ。

 

「ねぇ、どうして? どうしてこんな無茶するのよ!」

「出血してますよ、早く戻らないと……」

 

 ミリアリアとメイリンが口々にサイを責めたてるが、彼はテレビモニターを凝視したまま、動こうとしない。

 モニターは先ほどの映像を、再び繰り返し映し出している。何も知らない解説者の、心のこもらないコメントと一緒に。

 名乗りを上げるフレイ。破壊されていくヤエセの街。

 現実を見据えたまま、サイはその場から動かない。

 

 キラはしばらくの間、そんなサイたちを物憂げに見つめていたが――

 やがてゆっくり、その背後に視線を移す。

 

「……いつから見てたの? 

 ラクス」

 

 間髪入れず、よく通る声が空気を震わせる。

 

「ほぼ最初から、ですわ。

 彼には必要なことと思いましたので」

 

 ふわりと桜色の髪が揺れ、サイの後ろからラクス・クラインが現れた。

 ぜいぜいと全身で喘ぎ、息をするのもやっとのサイとは対照的な姿だ。

 カズイは小さめに抑えながらも、吼えずにはいられない。

 

「貴方は……っ!」

 

 そうか、こういう女だったのか彼女は──

 話によれば2年前、負傷したキラにフリーダムを渡したのも、アスランを裏切りに走らせたのも。

 そして今また、キラやアスランを戦わせる原動力になっているのも、ディスティニープランを止めたのも彼女だったらしいじゃないか。

 カズイはややどもりながらも、ラクスに尋ねる。

 

「あの。ちょっと……! 

 サイがどう思うか、分かってのことですか? 

 まさか、サイ用のモビルスーツを用意しているとでも?」

 

 そんなカズイに、ラクスはひたすらに笑顔で答える。

 再び映し出される、炎にまかれた街を背景にして。

 

「この方がそう望むのであれば、用意はありますわ」

「あるのか?」

 

 それまで黙っていたアスランさえ、思わず真顔で突っ込みかける。

 しかし、ラクスは静かに言葉を紡いだ。

 

「ですが、彼のなすべきことは違います。望むものも違うはずです。

 彼が必要とするものは、物理的な力ではありません──」

 

 

 

 

 その時──

 ムウ・ラ・フラガはロビーから少し離れた廊下にふらりと逃げ、直接サイとは顔を合わせなかった。

 そんな彼を、マリューが追ってくる。

 

「どうしたの? 突然……」

「いや、なに。

 今俺と会ったりしたら、アイツは余計にパニくっちまうだろ?」

 

 未だに自分の存在に気づかないサイを軽く親指で示しながら、フラガは茶化す。

 だがマリューは笑わないまま、彼の真正面に回った。

 

「そんな感じじゃなかった。

 何かを見たのね──あの映像に」

「あぁ。

 ろくでもない真似をする奴が、まだいたんだな」

「違うでしょ」

「違わないさ」

 

 空回りする会話。

 マリューは否定を続けるフラガを、じっと見つめるしかない。

 

 

 ――完全に、彼の記憶は戻ったはずだと思いたいのに。

 まだ、何かが違うと感じる自分がいる。何か、決定的なものが違う。

 それが、マリューの喪失感をさらに深める。

 

 彼が帰ってきた直後には気づかなかった、違和感。

 記憶を取り戻すだけではすまない何かが、この男の奥底にはある。

 あの破壊の映像の中に、フレイ・アルスターの演説の中に、彼に対する疑念を解くきっかけがあるのか。

 真実、彼の魂を取り戻す為の何かが──

 

 いや。そんなものは望むべくもないのかも知れない。

 ムウは帰ってきた。それでいいじゃないか──

 私は、何を疑っている? 

 身体も、身体に刻まれた記憶も、確かにムウのものだ。

 確かめたんだから――自分の身体で触れた時に。だから決して、間違いはないはず。

 

 ――なのに。

 彼の横顔に感じる、この空虚は何だろう? 

 ムウではなく、彼を未だにネオ・ロアノークたらしめているものの正体は。

 

 

 

 

 

 

 オーブ首都・オロファト。

 内閣府官邸内にて。

 

「お前にはいくつ貸しがあると思っている? 

 何も知らんとは言わせんぞ!」

 

 関係者以外立入禁止とされた執務室で、ダイヤル式電話相手にかれこれ1分以上も怒鳴り散らしていたのは勿論、カガリ・ユラ・アスハ。

 その双眸はじっと、手元の小型モニターを睨みつけている──

 フレイ・アルスターと、炎上するチュウザンを映し出すモニターを。

 

「ムジカノーヴォと話がしたい。

 奴と接触出来なければ、お前の命はないと思え!」

 

 何やら猫なで声で、カガリを宥めようとしている電話の相手。

 だが彼女はさらに憤る。

 

「何がカガリンだ! 今、どういう状況か分かっているのか貴様は! 

 オーブの派遣した救助隊が潰された! その上、彼らが精一杯残した成果までが今、粉みじんにされているんだぞ! 

 しかも、アマミキョと共にいたはずのフレイ・アルスターの手でっ!!」

 

 横に控える、オーブ軍服の巨漢──

 レドニル・キサカがそっと胸元から携帯電話を取り出し、声を低くして通信をかわす。

 やがて、驚異の素早さで走り書きしたメモをカガリに手渡そうとした。だが彼女は気づかず、その怒りは止まらない。

 

「アマミキョとティーダのブラックボックスについて、全て教えてもらう。

 オーブの志を継ぐ救助隊を、タロミとあの女がここまで破滅させたとなればっ!」

 

 相手がさらに鎮まるように忠告したようだが、カガリは怒鳴るばかりだ。

 

「そんなことは分かっている! 奴らの罠だろうが、これが吼えずにいられるか! 

 アマミキョクルーは散り散りになって、サイは未だに──」

 

 キサカに改めて肩を叩かれ、そこで初めてカガリは手元のメモを見た。

 

「……なに?」

 

 ――そこでやっと、彼女は押し黙る。

 少し口調を改め、咳払いをする。

 

「一つ、朗報だ。

 ――サイ・アーガイルが、目を覚ましたそうだ。

 個人的に非常に抵抗はあるが、会わせてやる。勿論、回復状況によってだが……

 って、何をはしゃいでいるっ!」

 

 カガリの頭がまた沸騰する。

 キサカが無理もない、とばかりに軽くため息をついた。

 

「言っておくが、当然私も同席だ。

 サイに何かしたらその場で射殺する。覚悟しろ」

 

 それだけ言い放つと、カガリは思い切りガチャンと音を立てて受話器を叩きつけた。

 官邸に執務室はいくつかあるが、ここの執務室の電話は特別製。父の代からずっと、実に旧時代的なダイヤル式の、由緒正しき金色の受話器のついた電話機だ。

 最初見た時はそのアナログさに驚いたものだが、怒りを分かりやすく表現するにはちょうどいいツールだと最近のカガリは思っている。その程度しか利点はないが、セキュリティ・レベル自体はどの国の官邸にも引けは取らないはずだ。

 そして彼女はすぐに立ち上がり、きっぱり言い放った。

 

「サイに会いに行くぞ。

 あいつには私が必要だろう、アマミキョ復活の為にも!」

 

 だがキサカは、首を縦には振らなかった。

 

「駄目だ。今の彼に、無茶をさせてはいけない。

 時期が来れば、彼の方から会いに来る。それまで──」

 

 思わずカガリは反論しようとしたが、逸る心を一旦止めた。

 怒りを示しつつもどこかでこの状況を静かに受け止めつつある自分に、自分で驚きながら。

 

 ――よく考えたら、ついさっき目を覚ましたばかりらしいじゃないか。確かに、キサカの言う通りだ。

 私もようやく、物事を冷静に考えられるようになったか。

 そういえば、あの野郎を一方的に怒鳴りつけられるようになるなんて、夢のようだしな。

 

「分かったよ、キサカ。

 ただ、コンタクトを取りたいとだけ伝えておいてくれ」

 

 

 

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