【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part7 ルナマリアの謝罪

 

 

「SEED?」

 

 ほぼ初めて耳にする単語に、当事者であるキラもアスランも戸惑いを隠せない。

 

 あのラクスが、恐怖を感じている──

 そんなキラの言葉と凄味に圧され、サイはフレイの狙いについて、可能な限り話した。

 尤も、さっきまでのラクスからは、何の怯えも驚きも感じられなかったのだが。

 

 フレイの狙いがキラ、アスラン、ラクスといったSEED保持者にあること。

 その為に彼女はサイに近づき、キラの情報を得ようとしていたこと。

 元々彼女はフレイ・アルスターとは何の関係もない少女で、何らかの理由でフレイと名乗り、その姿を模していたこと──

 彼女と遂に結ばれたことだけは伏せて、サイは淡々と語った。

 

「フレイだけじゃない。

 アスラン。君も会ったはずだろ? あの連中と」

「あの……連中?」

 

 アマミキョとミネルバが激突し、アスランに銃を向けられ、さらにそこへニコルたちが現れた時のことを示唆したつもりだったが、彼の反応はどうも芳しくない。

 あの時のことは、思い出したくもないのか? 

 

「アマミキョの船底でさ。俺、アスランに撃たれるところだったんだけどなー。

 色々ありすぎて覚えてないか、俺のことなんて。

 でもさ、あいつらのことは忘れようったって忘れられないだろ?」

「あいつら? 

 ……すまない、何のことだかさっぱり分からないんだが」

「おいおい、冗談もいい加減に……」

 

 サイは笑い飛ばそうとしてやめた。

 アスランが真顔すぎる。

 

「ミネルバが、ティーダを確保しようとして失敗したって話は聞いてたけど……」

 

 キラがそんなアスランを気遣い、顔を覗き込んだ。

 

「何故か記憶も記録も、なくなったんだよね?」

 

 まさか──

 その時のニコルたちのことは、全て忘れたってのか? 

 

 あまりのことに、アスランを凝視してしまうサイ。

 さすがに申し訳なさげに、視線を逸らすアスラン。

 

「本当にすまないが、あの時のことは不自然なまでに、何も覚えていない。

 一緒にいたシンも同じだ。

 戦闘ログも何もかも消失していたし、何が起こったのかは──

 情けないが、全く記憶がない」

 

 

 

 

 

 

 

 ごっ、という平仮名二文字が相応しい鈍い音に続いて――

 点滴台が素晴らしい衝撃音と共に、床に落ちる。

 だがシンは、何も打撃は受けていなかった。

 シンの代わりに、そのダメージを喰らったのは──

 

「……全く、あんたって奴は!」

 

 ルナマリアがシンとナオトの間に座り込み、じっと額を抑えていた。

 抑えた指の間から流れ出す、一筋の血。

 その紅を見て──

 少年はようやく、暴れるのをやめた。

 あまりのことに呆然として、二の句が継げないナオト。

 尤も、最初から言葉を紡げないナオトではあったが、それはシンも同じだった。

 血が流れ続ける指。その間から、ルナマリアの濃い青の眼球がじろりとシンに向く。

 低い声。

 

 

「シン──

 だったら、あんたも、忘れなさいよ」

 

 

 まさか。

 嫌な予感に、シンは思わず顔を上げる。

 ナオトもルナマリアの血に余程ショックを受けたのか、その場にへなへなと座り込んでしまう。

 そんな二人を見下ろしながら、ゆらりと立ち上がるルナマリア。

 血が白い床に二滴、ぽたりぽたりとしたたり落ちる。

 顔を抑えていない方の手には、桜色の何かが握られていた──

 殴られている間に飛び出したのか。彼女が手にしていたものは、シンが持っていたはずの携帯電話だった。

 

 

 何より大事にしていた、家族の唯一の形見。

 シンに家があったことを示す、唯一のもの。

 ──マユ・アスカの携帯電話。

 

 

 ルナマリアはそれを、思い切り振り上げる。

 その眼からは、血と一緒に涙が流れていた。

 

 

「こんな……

 こんなものがあるから、おかしくなる!」

「やめろ、ルナ!」

 

 

 我に返ったシンは立ち上がろうとする。

 だが、ルナマリアの方が一瞬早かった。

 軽い衝撃音と共に、床に叩きつけられる携帯電話。

 シンが手を伸ばすより早く、畳まれていた電話はぱかりと自動的に開き、転がった。

 

 怒りに突き動かされながらも、それでもルナマリアの情はどこかで彼女自身を押しとどめたのか。

 幸い、電話は割れも壊れもしなかった──

 明滅する画面。

 同時に、録音されていた声が流れ出す。

 

《はーい、マユでーす》

 

 

 

 

 

 

「人を、いかようにでも操作できる技術──

 そんなものを、南チュウザンは開発したというのか」

 

 サイの口から、ニコルたちアマクサ組の件をひと通り聞かされたアスランは、静かな怒りで拳を握りしめた。

 

「人の命を弄ぶばかりか、思い出までも愚弄する行為だ!」

「記憶操作の技術なら、恐らく連合にもあったはずだ」

 

 スティング・オークレーの件を思い出しながら、サイは語る。

 

「だが俺の知る限り、南チュウザンにはかなり高度に完成されたクローン技術がある。それに、情報収集力がとんでもない──

 フレイやニコルたちだけじゃない。あいつらのモビルスーツも、オーブやザフト、連合の技術を巧みに盗んで改造された代物だ。あの紅いストライクフリーダムも。

 次はアークエンジェルそっくりの戦艦が出てきたって、俺は驚かない」

 

 それを聞いて、アスランはばっさり切り捨てた。

 

「奴らに倫理を求めるのは無理だな」

 

 キラはそんなアスランを横目に見ながら、静かに呟いた。

 

「しかも、まだ南チュウザンは僕たちみたいなSEED保持者を求めているんだよね……?」

 

 サイは考え込む──

 

 気がついた時には、とんでもない力の中心にフレイがいた。

 俺たちやティーダ、アマミキョを踏み台にして。

 この状況で、俺に出来ることは何だ。

 このままオーブに引きこもってフレイを野放しにする選択肢だけはありえないが、それ以外に俺に出来ることは──何がある? 

 2年前とは違う。俺にも出来ることが、絶対に何かあるはずだ。

 

 

 

 

 

 

『でも、ごめんなさい。

 いま、マユはお話できません。あとで連絡しますので、お名前を……』

 

 流れてきた音声に、ナオトはびくりと肩を震わせる。

 

 ──マユだ。

 間違いない、マユの声だ! 

 

 あまりにも懐かしい、大好きな少女の肉声。

 ルナマリアが叩きつけた携帯電話から、何故か流れ出している。

 開いたままのメイン画面に映し出されていたのは、間違えようもない──

 マユ・アスカの笑顔。

 ナオトが知っている彼女よりも、若干幼く見える。こちらに向けて、焼いたばかりのクッキーを差し出している。

 だが――

 

 ナオトが反射的に手を伸ばすよりも先に、シンが脱兎の如く飛び出して、携帯電話を奪い取った。

 ルナマリアの声が、そんな彼の背中に襲いかかる。

 

「何よ……

 ナオトに忘れろなんて言ってる癖に、一番忘れられてないのはあんたじゃない! 訳が分からないわよ! 

 あんた、アスランに言われたこと、ちっとも分かってないじゃない! 

 いつアスランが、過去は忘れろなんて言ったのよ? 

 あの時、キラ・ヤマトと握手したのは何だったの? 

 一緒に戦おうって言われて、めそめそしながら頷いてたのは何だったのよ!」

 

 ルナマリアの頬から、血と一緒に涙が飛び散った。

 爆発する感情と共に。

 

「結局あんたは、前に進めないままじゃない……

 なのに、家族のこともステラのことも全然忘れてない癖に、ナオトには忘れろって? 

 何でそういうこと言うの? どうしてそんな酷いこと言うのよ!!」

「──あいつらは、そう言っただろ」

 

 注意して聞かなければ分からないほどの低い声で、シンは反論する。

 

「憎しみに囚われたまま戦うのはやめろとか……

 やっぱり、綺麗ごとばかりだった!」

 

 シンは携帯電話を抱きしめ、ルナマリアたちに背中を向けたまま、押し殺したように叫ぶ。

 

「俺は認めない。

 絶対にあいつらを認めない──

 認めるもんか」

 

 最後は最早、呪詛にも似た呟き。殆ど聞こえなくなってしまった。

 そんな中、ルナマリアはナオトを振り返る。

 血が飛び散った白い額を拭きもせず、彼女は少年を見つめた。

 震える唇から、紡ぎだされる言葉。

 

 

「ごめんね、ナオト。

 貴方が謝ることなんか、ないのよ。

 だって私──貴方に殺されても、仕方ないんだもの」

 

 

 何? 

 ルナさん──どういうこと? 

 

 

 恐ろしい予感に、ナオトは思わず首を振る。

 

 

 嫌だ、イヤだ。

 謝らなきゃいけないのは僕だ。ルナさんを殴った僕の方だ。

 何も言わないで。

 何も聞きたくない、お願いだ! ルナさん、お願いだから何も言わないで……

 

 

「ルナ、やめろ! 言うな!」

 

 

 背中ごしながらも、シンは叫ぶ。

 携帯電話のマユを、抱きしめたまま。

 

 

 まさか──

 イヤだよ。やめてよ、そんなの。

 ザフトの人たちともやっと、少しずつ話が出来るようになってきたのに。

 やめて。当たらないでくれ、僕の予感。

 

 

「……私、なのよ」

 

 

 仁王立ちになったままのルナマリアの両の拳が、きつく握りしめられる。

 

 

 やめて。

 そんなのってないよ。あるわけないよ。

 ザフトで一番優しくしてくれたはずのルナさんが、そんな──

 

 

「アマミキョを撃ったのは、私なの。

 シンじゃない」

 

 

 破損した点滴袋から薬液が床に流れ出し、ナオトの膝を汚す。

 針の外れた手首から、わずかに流れ出す血。

 だがその場の3人とも、全くそれには気づかなかった。

 ルナマリアは膝を折り、ナオトの前で頭を伏せる。

 やめて、そんなことしないで、ルナさん──

 

 

「それ以外は、シンの言ったことは本当よ。

 本当に私たちは、アマミキョを守ろうとしたの。

 でも、どうしようもなかった。南チュウザンの大軍と、連合軍との混戦になって──

 気がついたら、撃ってた」

 

 

 ──なんで。

 

 

「撃つつもりなんてなかったの! 

 弁解にしかならないけど、信じて。これだけは信じて。

 お願い!」

 

 

 なんで、今、そんなことを言うの? ルナさん。

 

 

 否定したい気持ちとはうらはらに、ナオトはルナマリアににじり寄っていた。

 胸倉を掴みそうな勢いで。

 

 

 なんで、撃ったの? 

 なんで、撃たなきゃならなかったの? 

 なんで貴方は、サイさんたちを! 

 

 

「……私ね。

 射撃、てんでダメなのよ。

 助けようとしていた船を、撃っちゃうくらいに」

 

 ナオトから目を逸らしたルナマリアの唇には、いつしか自虐的な笑みが張りついていた。

 

「要は、間違えたのよ」

 

 

 ──間違えた。

 まちがえ、た? 

 間違えて、サイさんたちを殺したってのか? 貴方は! 

 

 

「いい加減にするのはお前だ、ルナ!」

 

 シンが思い切り壁を殴る。破壊せんばかりに。

 

「殺るべくして殺りましたって言われた方が、まだマシなんだよ! 

 ミスで家族殺しましたなんて、間違ってステラ殺しましたなんて……

 んなこと言われたら、どうしていいか分からないだろ! 分かれよ!!」

「だからって、本当のこと言わないなんて酷すぎるでしょ!」

「そりゃ、お前だけの理屈だ! 

 黙っているのがつらいからって、吐き出したってスッキリするのは自分だけだろ! 

 ゲロ吐きかけられた方の身にもなれ!」

 

 

 シンさんの言う通りだ。ルナさんは分かってない──

 アマミキョが反撃してきた、だからシンさんが撃った。

 最初からそんな話だったなら、まだ──

 まだ、シンさんを殴りたいだけ殴れば良かった。サイさんがそんな状況で、反撃命令を出すとも思えないけど。

 

 

 ナオトは、いつの間にか床に散らばっていたメモを拾い上げる。

 何度も話した言葉。何度も伝えた言葉──

 

 

 サイ、さん、は。

 

 

 メモに書いたその言葉を、ナオトは震える手で指差した。

 意味を悟ったルナマリアは、うつむきながら呟く。

 

「アマミキョからは、たくさん脱出艇が見えた。だから殆どの人は、逃げられたと思う。

 だけどその人は──責任者だったんでしょう? 

 多分、最後まで残っていたはず。

 ブリッジを確認した時に、見えたの。ナオトの言うその人と、同じような……」

「ルナ!」

 

 撃った時も? 

 貴方が撃った時も、サイさんはそこにいたの? 

 

「私が見た時はもう、酷い怪我をしていたみたいだった。

 その時点で、船も沈みかけてて……ブリッジにも火が回って……

 だから、あそこから動けなかったと思う」

 

 最後通牒のごときルナマリアの言葉を、ナオトはひたすら否定し続ける。

 

 ――嫌だ。

 ルナさんの勘違いであってくれ。

 せめて、他の誰か──あの人とかあの人とか、あの意地悪な人の間違いであってくれ。

 

 そう願いながらもナオトは、どこかで事実を認めざるを得ないことに気づいていた。

 

 みんなを逃がして、最後までブリッジに残ろうとするなんて──

 サイさん以外、ありえない。

 じゃあ、本当にルナさんが、サイさんを……殺した? 

 しかも、間違いで、殺した? 

 僕にずっと優しかったのは、もしかして罪滅ぼしの為だったの? 

 

 

 酷いよ、ルナさん。

 これじゃ僕は、ルナさんを──殴れないじゃないか。

 

 

 

 

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