【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
「ちょっと待ってっ、冗談でしょ!?」
戦闘を続けるナオトの眼前で、オーブ軍の戦闘ヘリのうち数機が一条の火線のもとに叩き落される。
上空に生まれた火球。その向こうから現れたものは、ジェットストライカー装備のウィンダム。
ザフトのみならず、連合の量産機から攻撃を受けてるってのか。しかも今度は空から。
炎に包まれるウーチバラ上空を舞うウィンダムは、2機。
そのうち1機は次から次へとオーブ軍ヘリを、ハエでも叩き落すように粉砕していく。落とされるヘリによって、さらに拡大していく被害。
上空から攻撃が来る可能性は、ナオトも予測はしていた。しかしそれが連合機だとは……
《坊主、災難だな。
奴ら、コロニーへの被害っての考えてやしない》
ヨダカの音声が、ナオトのモニターから再び漏れた。
マユの機転によりビームカービンを叩き落し、バーニアを噴かして全速力で逃げたティーダだったが、黒ジンはなおも追ってくる。
「何で連合まで、ここを撃つの!?」
「社長の人徳だって、フレイが言ってた。
ちょっと目立つけど、飛ぶよ!」
大通りに出たティーダは再びバーニアを噴かし、低空飛行を始めた。
血液が全て背中に回るような圧力がナオトの身体に来る。モビルスーツの急激なジャンプにより、魂が半分がた持っていかれるという話は、本当だった。
開いたままの回線から、SunTV支局からの通信が入っている。
「もうすぐウーチバラ支局だ。
どうにか連絡つけて、スタッフの人たちも避難させて──」
その時、爆光がティーダの行く手を遮った。ウィンダムの空襲だ。
ナオトの心が逸る。あの先には支局がある――!
回線からは、スタッフが混乱しながらもなお、放送を続けようとしているのが聞こえる。
ナオトの実況まで電波に乗せてくれた、優秀で無謀なスタッフたちだ。
これ以上、大事な人たちを失うのは嫌だ。フーアもアイムも失った今、支局までがなくなったら
──自分は、何処へ帰ればいいのだ?
「皆さん、感謝します!
でももう危ない、早く逃げてぇ! お願いしますっ」
ナオトは空を舞うウィンダムを、目から血が出るほど睨みつけながら叫ぶ。
支局の、かなり目立つ「SunTV」の碧いロゴのついた巨大な看板、そして真新しい卵色の建物はあの下のはずだ。
回線から響く女性の声は明らかに空襲に怯えていたが、ナオトを懸命に呼び続ける。
ナオトもそれに応え、出来うる限り状況を伝えていたが、その時──
上空のウィンダムの翼──ジェットストライカーから、空対地ミサイルドラッヘASMが地上に向けて発射された。
再び閃光が一帯を支配した瞬間
支局からの音声が、激しい金属音や悲鳴と共に途絶えた。
相変らず、優雅なバイオリンの音が響く中。
突然別回線から轟いた少年の絶叫が、アマミキョブリッジの空気を切り裂いた。
――ナオトだ。
サイは急いで呼びかけるが、相手は意味不明の言語を叫ぶばかりで、こちらの声は聞こえていない。
「ティーダのそばだ。TV局がやられた」
副隊長が社長に目線を送った。
社長の組まれた脚が元に戻り、欠伸でもしそうだった表情が急激に引き締まる。
まだティーダは健在だが、ハイマニューバ2型とウィンダムが2機、肉迫している。
ナオトの心情を思い──サイは思わず、コンソールパネルをぶっ叩いた。
たった14歳の少年が、一瞬にして同僚を全て失ったのだ。しかも、目の前で。
ナオトの、もはや意味をなさぬ叫びがサイの心臓をえぐる。
一方で、砲撃の音が徐々に近づいてくる。
侵入したジンが港口内部で暴れているのだ。アマミキョの揺れも激化する。
オーブとチュウザンの合同軍が既に出動していたが、港口にいるのは作業用のアストレイM1が大半だった為、ジン1機に苦戦しているという状況だ。
そんな中、アムルがモニター内の母親を指さし、ディックに尋ねた。
「ね。
今ジンとあそこ、どのくらい離れてる?」
演奏中の母の姿を凝視しながら、アムルの横顔は依然として動かない。
「お願い──」
──ジン、撃って。
信じられない呟きを聞いた気がして、サイは思わずアムルと、その横のディックを振向いた。
サイとアムルの視線がかち合う。
ディックは何も気づかず、状況をまとめようと苦慮している。
勿論、カズイも気づいてはいない。
気のせいだ。サイは必死でそう思おうとする。
俺がおかしいんだ。いくらなんでもそんな母娘がいるはずがない!
一瞬、怪訝そうな表情を浮かべてアムルはサイを見つめた――
しかしすぐに心配げな色を瞳に浮かべ、彼女はまた母の姿に視線を戻した。
聞いてはいけないことを聞いた。見てはいけないものを見た。
サイはそんな気がしてならなかったが、状況はそんな人々の思惑とは全く関係のない方向へと転がっていく。
「ナオト、帰れなくなっちゃったねー」
マユは笑って前部座席のナオトを覗き込む。
――何故、笑える。何故、この状況で。
ナオトの絶叫は、虚しく炎の中へ消えうせていく。
かつてTV局だった建造物が、真っ黒な瓦礫となって燃え落ちていく光景を前に
ティーダはただ、立ち尽くす。
──何も、出来なかった。
モビルスーツに乗りながら。レポーターという職業についていながら。
フーアさんもアイムさんも、支局の人たちも、誰も助けられなかった。
濁流に飲まれていくしかない自分を痛いほどに感じながら、ナオトはうつむいたまま、膝の上に涙を落としていた。
身体中に激痛が走る。胃の内容物が喉までせりあがっていたが、どうにか飲み込んだ。
半分ナチュラルの身では、所詮これが限界なのか。
敵接近の警告音がけたたましく響いていたが、ナオトは何もかもがどうでもよくなりかけていた。
呻くこと、叫ぶこと、泣くこと、そして──同僚の後を追うこと。
そんなことしかできないのか、僕は。
フーアの指が、ポケットの中で静かに揺れる。
《――ナオト。ナオト・シライシ!
大丈夫か、応答をくれ!!》
聞き覚えのある声に、思わずナオトは顔を上げる。
コンソールパネルのディスプレイ上に、アマミキョからの映像が映し出されていた。
眼鏡の青年の、心配げな表情が見えた。
ナオトの顔を回線ごしに見たであろう相手が、一瞬息を飲むのが分かった。よほど酷い顔をしていたんだろう、実際唇からはまだ血が滴っている。
だが、相手の青年──サイ・アーガイルはすぐに気を取り直し、通信を続けた。
その背後から流れている、気持ちよさそうな音楽は何だろう?
《良かった。ずっと応答がなかったから、心配だった。
君が無事でいてくれて、俺は嬉しい》
「違う――僕は無力です。
何もできなかった、誰も助けられなかった! 今だって囲まれて……っ!」
あとは嗚咽にしかならない。マユは後部座席でコックピット脇のキーボードを操っている。
シャコンと乾いた音と共に、ミニサイズのディスプレイが飛び出した。
《そんなこと、ない》
サイのしっかりした口調が、ナオトの胸に意外なほどの強さで響く。
《君たちの誘導のおかげで、港口付近の居住者はほぼ9割避難完了したんだ。
君たちがいなければ、君の声がなければ、この人数は助けられなかった》
回線の向こうで爆発音が轟く。
画像が一瞬乱れ、サイの表情も険しくなりかける。
しかし彼はすぐに笑顔になり、ナオトとの通信を続けた。明らかに、ナオトを励ますための作り笑顔だったが──
今のナオトには、笑顔を作ってくれるだけの思いやりが、嬉しかった。
異常極まりない状況の中での、普通の笑顔と強い言葉が、嬉しかった。
《こっちは大丈夫、心配するな。
必ずティーダと、マユ・アスカをアマミキョに帰還させるんだ。
いるんだろ、彼女》
ナオトは後ろのマユをそっと振り返る。
と、ハロがマユの脚の間にあるコンソールに飛び乗った。そこにはちょうどハロが乗れる──というよりも、ハロが乗る為であろう、電極つきの円形の窪みがあった。
ハロの頭蓋とも言うべき部分、上部の蓋が開く。マユが同時に、ピアノを弾くようにキーボードを操り出す。
剥き出しになったハロ内部のディスプレイに、凄まじい速度で文字列が流れ出した。
「え……?
な、何するんだマユ!」
「囲まれてるってば、上と後ろから」
上空には2機のウィンダム、後方にはハイマニューバ2型の状況に変化はない。
もっとも、ウィンダムとハイマニューバ2型は互いに牽制し合い、ちょうど濃い黒煙に隠されたティーダは今の所、攻撃を受けずにすんでいる。
さらに後方から、味方であるソードカラミティの機体も肉眼で確認できるまでに接近していた。
《泣くなよ、ナオト。
君の帰る場所はまだある、この船に!》
回線の向こうで爆発音が轟き、女性の悲鳴や絶叫まで聞こえてきたが――
サイは唇を噛みしめつつ、笑顔を作る。
軽く親指まで突き出してみせるサイを見て、ナオトの全身に再び、熱い波が蘇った。
この人まで、死なせてたまるか──!
心にそう念じた時、後部座席でマユが叫んだ。
「ナオト、聞いて。
黙示録を使うっ!」
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次回予告
遂に発動するティーダの新システム、「黙示録」。
それは混迷の時代の中人々を導く光か、それとも破滅への招待状か。
歌は途切れ、運命も自由も動かぬ今
純白と紅蓮のモビルスーツが、爆光を駆け抜ける。
次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation 「太陽と開闢神」
混沌の宇宙、舞い上がれ! アマミキョ!