【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
「やっぱり、戻った方がいいんじゃないかな。サイ」
「その台詞、そのままお前に返すよ。
俺はもう大丈夫だ」
「俺だって……」
朝焼けが広がりつつある浜辺を、サイとカズイはたった二人で歩いていた。
二つの影は砂浜へ長く伸びながら、ゆっくりと進んでいく。
あの、フレイの演説から十数日──
まだサイの怪我は完全に回復したわけではないが、目覚めて以降リハビリを重ね、どうにか一人で歩けるレベルには治ってきていた。
骨折箇所があまりないのが幸いした。尤も、左腕はまだ吊ったままだし、頭の包帯も取れないが。
「先は長い。
引き返すなら今だ、カズイ」
ややびっこを引きつつも、サイは振り返りもせず歩く。
そんなサイの荷物を半分ぐらい抱えながら、カズイも歩く。
「俺は決めたんだ。
今度こそサイと一緒にいるって」
サイの服は真新しい、濃いブラウンの背広にクリームイエローのワイシャツ。
そしてアマミキョの制服のそれとよく似た色の、紅のネクタイだ。袖口でまるでお守りのように、ブルークリスタルのカフスボタンが光る。
それらの服はどういうわけか、今朝目覚めた時点で枕元に用意されていたものだった。
もう、サイには分かっていた。
――内緒で、出ていくつもりだったんだがな。
明るくなりゆく空を見上げると、機械じかけのエメラルド・グリーンの鳥が風の中を舞っている。サイたちを導くように。
海風に乗って、微かに聴こえる歌声。
少し進んでいくと、カズイがはっとして思わずサイの背後に隠れた。
朝陽を背にして、熊のように盛り上がっている岩。その上に──
ふわりと長い髪を靡かせながら、少女が優雅に腰かけている。
その腕は大事そうに、2体のハロを抱いている。
子守唄のような「水の証」が、唇から流れていた。
鳥がゆっくりと舞い降りて、岩陰に止まる。
そのすぐ下から、一人の青年が顔を出した。
「やっぱり、行くんだね──
サイ」
流れていた歌が止まり。
少女の空色の瞳と、青年の紫水晶の瞳が、同時にサイを見つめる。
――こうなるのは予測していた。
「何もかもお見通しなんだろ。
特に、ラクス様にはね」
サイはわざと皮肉を含めた言葉を、笑いながら投げつけてみる。「わざわざ服まで用意してくれて、感謝してますよ」
キラはそんな皮肉など、全く意にも介さない。
そして、笑顔にもならなかった。
「フレイに、会いに行くんだね?」
「……あぁ」
サイも笑みを顔から消した。
「どういうことなのか、話を聞いてくる。
アマミキョの皆をもう一度集めて、アマミキョを復活させて──
フレイと、話をする」
それが、サイがここ数日で考え出した結論だった。
死んでも変えるつもりはない。今自分に出来ること、自分にしか出来ないことを考えに考え抜いた結果だ。
キラは静かに尋ねる。
「もし、君の望む答えが得られなかったら?」
「お前の口から、そんな言葉が出るとは思わなかったな」
サイは少しだけ首を傾げた──
結果がどうなろうとまず行動するのが、良くも悪くもキラたちの行動特性じゃなかったか。
「俺の望む答えなんてないさ。
ただ、納得いくまで話をする──それだけだよ」
「僕たちも、力になるよ」
キラが一歩進み出る。
「あのフレイの狙いは僕だ。なら……」
「駄目だ」
サイはその言葉を思い切り、否定でねじ伏せた。
「チュウザンは、フリーダムやアークエンジェルだけでどうにか出来るような場所じゃない。
お前たちのやり方じゃ、オーブは守れてもチュウザンは混乱させるだけだ」
「だったらなおのこと、アマミキョだって無理じゃないの?
サイだけじゃ、どう考えても無理だよ」
思ったとおりの答えだ。キラの、この無邪気とも思える傲慢さは危険すぎる。
何かを忘れたいが為に、戦いに身を投じてしまいそうな危うさすら感じる。
――何としても、ここで止めなければ。
「俺だけで何とかしようなんて、思ったこたないさ。
勿論、使えるものは何だって使ってやる。
ただ──キラ。お前だけは、絶対に手を出すな」
サイとキラの視線が、朝陽の中で静かに衝突する。
キラの表情には、もはや上辺の笑みすらもなかった。
「僕だって、真実を知る権利はある」
「その身勝手さで、自分がどれだけたくさんのものを壊してきたか分かってるのか?」
自分でも信じられないほどの低い声が、サイの喉から出た。
――多分、今の俺の眼には優しさなどかけらもない。
身勝手なのは俺の方だなんてことは、百も承知だ。
2年前も今も、キラに散々助けられたからこそ、俺は生きていられるのに。
それを言わないのが、キラの優しいところかも知れない。
すると、ラクスが岩から滑り降りて来てキラの横に立った。
サイから彼を守るように。
「キラの言うことは、間違ってはいませんわ。
私も、行きます。キラと共に」
サイの右拳が、音もなく握りしめられる。
満足に動けば左拳も握っていただろう。
「チュウザンを、甘く見るな」
押し殺した、しかし憤怒を秘めた呟きが、サイの唇から漏れる。
「あそこへ行けば、キラも貴方も、アークエンジェルも壊される!」
「その根拠は、何でしょう?」
ラクスの眼差しがサイを射る。
凛とした姿勢に、一瞬気圧された──
だが、ここで引くわけにはいかない。
「貴方がたがどうやってオーブを守り、デュランダル議長に打ち勝ったかを知ったからです。
同じやり方で、どうにかなる所じゃないんだ」
「私だから、行かねばならないのです」
しかしラクスも決して引かない。
あまりの強引さに、キラまでが思わず彼女を見つめた。
「どれだけ危険であろうと──
私は、行きます」
一体何が、彼女をここまで頑なにさせるのか。
あの夜サイに告げた言葉の意味も、さっぱり分からない。
だが、一度やると言い出したら絶対に引かない女性であることはサイも知っている。彼女の強さには、2年前も助けられた。
今ここでやり合っても、貴重な時間を喰らうだけだ──
サイは敢えて、ふっと笑みを浮かべて態度を和らげた。
「しょうがないなぁ……
じゃ、約束です。
俺がフレイと話をしてから、ってことにしてもらえますか?」
ラクスも笑顔になる。
──サイの言葉には、はっきりと答えないまま。
「無理は、なさらないで下さいね」
「はは……
その言葉、そっくりそのままお返ししますよ」
何とか分かってもらえそうだ──
そう判断したサイは、心の底から安心した。
やっと、キラたちの前で本当の笑顔になれた。そんな気がして。
「あと、忠告です。
アークエンジェルにつけられた盗聴器の類は恐らく、まだ生きています。
忘れないでください」
──じゃあな、キラ。
──うん、元気で。
そんな言葉を交わした後、二組の影は朝の光の中、離れていった。
そしてサイは、この時、二人と刺し違えてでも止めるべきだったと──
後々、酷く後悔することになる。
サイとカズイが行ってしまった後の浜辺で。
キラはふと、ラクスに尋ねた。
「ねぇ、ラクス。
どうしてそんなに、チュウザンへ行きたいの?」
「不思議、ですか?」
「うん。
それに、唐突だなと思って」
「キラは、フレイさんにお会いしたくないのですか?」
「あのフレイは、フレイじゃない。
どうして僕のSEEDを狙うのか、理由は知りたいよ。でも……
サイも言ってたけど、やっぱり、危険だと思うんだ。
いくらアークエンジェルやエターナルがあったって、今度は」
そこでキラは、ふと言葉を止めた。
──ラクスの、ハロを抱く手が小刻みに震えている。
こんな彼女を見るのは初めてだ。
「ラクス?
やっぱり、君には──!」
「分かっています。それでも私は、行きます。
行かねばなりません。──今すぐに」
「え? だって、サイには……」
戸惑うキラに、震えながらも精一杯笑ってみせるラクス。
何かにひどく怯えながらも、それを必死で隠そうとしている。
「私──
分かりました、とは言ってませんわ」
サイとフレイが話をしてからにしろ、と言われた件のことか。
確かに、彼女は笑顔を返しただけで、はっきりと約束はしなかった。
「だけど……」
「分かるのです。絶対に、私は行かねばならないと。
あのフレイさんの背後にいるのは、恐らく──」
そしてラクスは、キラにはおよそ信じられない言葉を吐いた。
今まで聞いたこともない、低い声で。
「――私の、母です」
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次回予告
フレイによって幕を開けた、新たなる歴史
人々の止まった時間が、再び動き出す
だが、過去からの刺客がサイたちの前に立ちはだかる
思わぬ人物に歩みを止められた時、サイが下した決断は──
次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation
「再会、トノムラ」
戦火を超え、集結せよ! アマミキョ!!