【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
part1
黒い空に、炎が満ちる。
光が一閃し──
地表の街が、ビルが、道路が、一瞬にして吹き飛ばされ、崩れ、溶け落ちていく。
助けを求める絶叫すらも光の中へ呑まれ、ただ、肉の間から漏れる空気の擦過音となって消えていく。
逃げ惑う人間たちをあざ笑うように、光がその身体を、塵も残さず吹き飛ばす。
人々を集めて守るはずの避難所は殆どその意味を成さず、むしろ人の集まる場所は集中的に叩き潰されていた。
地獄の上空を舞う、その光の根源は──ストライク・フリーダム。
名前通りの自由奔放なる攻撃のもとに、その鋼鉄の魔人はたった一機で、殺戮に殺戮を繰り返していた。
但しその機体は、よく知られたキラ・ヤマトのストライクフリーダムとは正反対の、血の紅で染められている。
キラの機体の青い部分をそのまま血で塗りつぶしたらこのような感じであろうという、紅。
銀色に光る関節。闇夜に迸り紅蓮に燃える、10枚の光の翼。
ヴァリアブル・フェイズシフト装甲によって頑丈に守られた、そのコクピット内で──
「あ~あ、動くモノがなくなっちゃった。
つまんなぁ~い……」
機体と同系色の、真紅のパイロットスーツに身を包んだ少女が、気だるげにヘルメットを脱いで、長い黒髪をふわりと解放する。
「もうっ、汗だらけ!」
そこへかなり切れ切れになりつつも、通信が入った。
《良く言うぜ。
さっきまで、ゲラゲラ大爆笑しながら撃ちまくってた癖に》
「黙れ、トール!
フレイに言ったら殺すよっ」
通信と同時に上空から接近してきたスカイグラスパーに向けて、少女は元気よく言い放つ。
《おおコワ……
さっすが、チグサ様ですなぁ》
紅の機体のカメラアイから逃れるように、スカイグラスパーは二、三度バーニアを吹かしておどけるように旋回してみせた。業火の中を。
「ち、馬鹿にして」
少女は一方的に通信を遮断しようとしたが、ふと手を止めた。
「キラはまだなの?
シン・アスカも? アスラン・ザラは?
まだ誰も来ないじゃないか!」
《もうちょっとの辛抱でございますよ、お嬢様》
完全にからかわれている──
その不快さに、少女の眉がさらに険しく吊り上った。
「あんなのばっかり撃ち落としたって、つまんない!」
その眼下には、完膚なきまでに叩き潰され、真っ黒に焼け焦げたモビルスーツの残骸が山と積みあがる。
「もう、とっくに重力には慣れたってのにさ……退屈すぎるってんだよ~!
早く来てよぉ、キラ・ヤマトぉ! お兄ちゃあんん!!」
少女の、幼い怒りいっぱいの叫びが──
炎と血と黒煙と、大量の黒ダガーLに埋め尽くされた天空に響き渡った。
PHASE-36 再会、トノムラ
「お前の回復を喜びたいところだが、急がせてすまないな」
オーブ首都オロファト・内閣府官邸にて。
サイとカズイはカガリ・ユラ・アスハに伴われ、執務室裏に隠されたエレベータで、官邸地下へ降下していた。
カガリは腕組みをしたまま、にこりともせずサイに状況を話しだす。
「チュウザン周辺の国も、次々にタロミの侵攻を受けている。
それも一方的に、あの紅のストライクフリーダムと、大量のダガーLコピーにやられているという話だ。
ストライクフリーダムも脅威だが、一体どこからあんな大軍を呼び寄せているのか……」
だとすれば、キラやアークエンジェルも──
サイは懸念しつつ、カガリに尋ねる。
「やはり、オーブも動きますか」
彼女の返答はそっけなくも、サイの予想通りだった。
「動かさざるを得ないだろうな。
奴らの攻撃を、黙って見ているわけにはいくまい……アジアが火の海になる」
その時サイの後ろで、カズイがぼそりと呟いた。
「他国の争いに介入せず──じゃなかったのか」
だが、それを聞き逃す今のカガリではない。
「理念は理念だ──
律儀に解釈していたら、私はお前たち元ヘリオポリス住民も、オノゴロ住民も処刑しなければならなくなるぞ。
オーブは『他国の侵略を許さず』でもあるからな。完璧に理念に則るならば、ザフトの侵攻を許したお前たち住民の首まで刎ねなければならん」
「え、ちょ……」
全く笑みを浮かべずに、こんな冗談を言えるようになったのか。
サイは改めて、カガリの背中を見つめる。
「つまり、理念の解釈を変更すると?」
その問いにカガリは振り向きもせず、廃坑にも似た暗い地下通路をとっとと歩きながら吐き捨てた。
「──お前たちは、悔しくはないのか。
お前たちの努力が一瞬で、あの女に破壊されたんだぞ!
お前たちまで殺されかけて……っ!」
背中を見ているだけで、怒りが伝わってくる。
この前アークエンジェルで会った時より、カガリは随分大きくなった気がする──
勿論、体格的な意味ではない。アスランとはどうなったかなどと、とても聞ける雰囲気ではなかった。
あれだけ拘っていたオーブの理念さえ、かなり柔軟に考えられるようになっていたとは。
「フレイがやったとは限りません」
サイは冷静に口を挟む。
「あの演説と、空襲の映像は同時配信ではありましたが、フレイの意図したものかどうかは分からない。
大衆の心を掴む目的でフレイがあの演説を行なったのなら、空襲の映像を流すのは全く逆効果です」
「自分たちの力を誇示したいのだろう。威迫だ!」
「なら、どうしてフレイはそれを演説中に言わなかったんです?
あれではむしろ、自分たちを攻撃しろと言わんばかりだ」
カガリはちらとサイを横目で睨んだだけで、歩みを止めない。
「誰かがフレイを嵌めようとしていると言いたいのか? おめでたい奴だなお前も」
「もしくは──
フレイ自身がそうさせようとしているか、です」
「何故?」カガリはそこで初めて、サイに向き直った。「もしや……
世界の敵意を、自分たちに集中させようとしているだと?」
「信じられないかもしれませんが……
あのフレイなら、ありえます」
そう──俺はずっと、「あの」フレイを見ていたんだ。
彼女が敢えて俺たちに見せつけようとしていた嫌な部分は、今にして思えば、アマミキョ統率の原動力となっていた。
彼女が悪役に徹しなければ、あそこまでアマミキョは成長しなかった。
アマミキョはフレイが育て──彼女自身の手で壊した。俺ごと。
彼女が、俺を含めた世界中を敵に回すとは考えたくないが──
そうする可能性はある。そして、そこには必ず何らかの理由があるはずだ。
「それにしても、あの演説内容も不可解だ。
ディスティニープラン以上に」
カガリは二人を先導しつつ、曲がりくねった通路の最奥──
洞窟の底の如き場所へ到着した。
金庫のドアにも似た、鋼鉄の重い扉が眼前にある。低い天井からは汚水が少しずつ漏れ出し、雫となってサイの首筋にも落ちてくる。カズイも同様らしく、彼はその冷たさに思わず悲鳴を上げていた。
「すまんな。
先の戦闘で、一部地下水が漏れ出してる」
カガリはカードキーを懐から取り出すと、石壁から若干突き出したセンサーに押し当てる。
すると、人の手ではどうやっても開けられそうにない扉が、音もなく奥へと開いた
──と同時に、酷く粘ついた声がその場に響きわたった。
サイにとっては、この世で最も鬱陶しい部類に入るであろう声が。
「アーガイルくぅ~ん!
来てくれたんだねぇ~、心配したんだよぉ~!!」
ほの暗い洞窟の奥で、紫色の頭髪のミイラがベッドに横たわりつつ、こちらに向かって片手を振っている──ように、サイには見えた。
カズイはあまりの不気味な光景に慌てて岩陰に隠れ、サイも思わず半歩後ずさった。
さらに声は追いかけてくる。
「つれない顔をしないでおくれよアーガイル君、いやサイ君!
僕たちは二人とも奇跡の生還を果たしたんだ、再会を祝おうじゃないか!
あぁ~、僕に両脚と右腕があれば、今すぐ君を抱きしめられたのに!」
「うるさい、少し黙れ! 変態犯罪者がっ」
カガリが反射的に腰から拳銃を抜き、ミイラを威嚇した。
「警告したはずだ、サイに何かしたら撃つと!」
「嫌だなぁカガリ、君は相変わらず嫉妬深いねぇ。そういうところも可愛いよ~
でもね、許しておくれよ。僕は君もサイ君も好きなんだよぉ~!」
このおぞましい光景に、サイはいつしか半笑いになっていた。
「代表……
……えっと、まさか、この方は」
必死でこめかみを押さえつつ、大きなため息と共にカガリは答える。
「その、まさかだ……
ユウナ・ロマ・セイラン。
オーブを売りかけた、元・代表補佐だよ」
「落下したグフに押し潰されたけど、奇跡的に右腕以外の上半身は無事で命を取りとめた神の子と呼んでおくれよ、カガリ~」
「……追加しよう。
元・代表補佐で現・変態妄想狂だ」
その、数時間前。
サイは実に久しぶりに、自宅へ戻っていた。
勿論寝る為などではなく、父と母に会う為だ。
──もう一度、アマミキョを建て直す為に。
外務次官であったアルスター家と深いつながりのあった父から情報を得て、協力を取り付ける。それがサイの──
ほぼ1年ぶりの、帰宅の目的だった。
サイは居間に着くなり、出来るだけ簡潔に父に用件を切り出した。
アマミキョで起こった事件。船に隠された秘密。
ティーダに巻き込まれた、ナオトの運命。
フレイとの再会、別離、彼女の正体──
話は取り留めなく続きそうだったが、最終的に自分はアマミキョを復活させ、もう一度チュウザンに行ってフレイと話をしたい。
その意思は、父に伝えることが出来た。
サイが話している間、父は必要以上の質問をせず、息子の言葉にじっと耳を傾けていた。
母が時折紅茶と菓子を運びつつ、笑いながら「いいんじゃないの?」とサイたちに相槌をうってくる。
彼女の口元には朝食の残りだろうか、ブルーベリージャムがついたままだった。
潔癖症で、行儀には厳しかったはずの母なのに。
──そりゃ、そうだろう。サイは思う。
2年前、殲滅戦争の地獄からようやく息子が帰ってきたと思ったら、脱走兵扱いになり、しかも婚約者は死んでいた。
その後家出同然で飛び出していったと思ったら、今度は乗っていた船が撃沈。
奇跡的に生きて帰ってきたと思ったら、次はまた死地へ行きたいと言い出す。
しかも、死んだ筈の元・婚約者の為に──
おかしくもなるさ。母親なら。
「アマミキョのブラックボックスなら、噂レベルではあるが聞いたことがある」
勘当されてもおかしくないと思っていたが、父の口から出てきたものは意外な情報だった。
「タロミの一族が、かなり深層まで絡んでいるらしいな。
アルスター嬢があのような演説にうって出たのも、準備が整ったからだろう」
「準備……
つまり、人の業を取り去るっていう力が、完成したってことか」
思考に耽溺しかかる息子に対し、訥々と言葉を継ぐ父。
「アマミキョにティーダが、彼女の『力』を形作る為のツールとなっていたのは間違いない。
この記事を見ろ」
サイの前に突き出されたものは、2カ月ほど前の新聞記事。
地方版に載った小さな記事らしく、手のひら半分ほどの文章しかない。だが、2、3行読んだだけで──
サイの背筋に、冷たいものが走った。
「まさか──
これは、ナオトとマユの行った海域で?」
空中を切り裂いた謎の巨大な光の柱、としか書かれていない記事。
不可思議な自然現象の一つのように扱われていたが、サイは明確に心当たりがあった。
記事の日付は、ナオトたちが出発して数日後。
あの時アマミキョで感じた妙な戦慄は、勘違いでも何でもなかった!
「これ以上は何も公表されていないが、オーブ官邸と連合本部からの情報をまとめると間違いなく、お前の言うギガフロートのあった海域だ。
そこにティーダ、そしてナオト・シライシたちもいたようだ。
ザフトが調査に入ったという情報もあるが、他は何も分からん。
ティーダは勿論、ギガフロートの存在そのものが消失していたという他はない」