【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
時間は戻り。
オーブ・内閣府官邸――その地下壕。
「そうだね、お父上の言う通り。
ナオト君もティーダも、煙のように消えてしまった……
一体、どこへ行ったんだろ~ねぇ?」
半分茶化すように、サイの話を聞いているユウナ。
そんな彼に、またしてもカガリが沸騰した。
「貴様、よほどナオトが気に入らんようだな……
あいつは、オーブの報道にとっても大事な!」
「ハーフムーンで直接会うまでは、僕もそう思っていたがね。
あそこまでの恩知らずはいないよ。あんな偏見を恥ずかしげもなく主張する子供に、バラエティはともかく報道は任せられないね。
どのくらい酷かったかって? カガリ、君よりよほど酷いといったら分かるかな?」
「どれだけの減らず口を!」
「その点、サイ君は公正だったよ! ちゃんと僕に謝ってくれたし」
「この……っ!」
ねっとりとサイを見るユウナの視線に、ますます猛るカガリ。
それをサイは辛うじて無視して続ける。
「それでは、官邸にもティーダの行方についての情報は、何も入っていないと?」
「そ~んなことはないよ。
僕が何の手土産もなく、君に逢いたいなんて言うと思う?」
ユウナは残された左腕、その袖口から、器用に一枚の写真を取り出した。
それは、どこかの森の中──
巨大な紅の、宇宙船にも似た鋼鉄の物体が撮られている。全貌は分からないが、おそらくモビルスーツの一部だろう。脚部か、乗降口か、腕部か。
その手前に、鋼鉄と同系色の紅いパイロットスーツを着用した少女が写っていた。
少女だと分かったのは、その人物がヘルメットを脱いで豊かな黒髪を晒していた為でもあるし、背後から撮影されたせいかその腰つきがやたら肉感的だったのもあるが、何より──
おぼろげにしか分からないが、この無邪気な、それ故残酷さを秘めた幼い表情に、サイは見覚えがあった。
「……マユ、か?」
信じたくない──強烈にそう思った。
しかも、写真だけではよく分からないが。
彼女が愛しげに関節駆動部らしき部分を撫ぜている、このオブジェは──
「今、全世界を駆け巡るじゃじゃ馬。
ストライクフリーダム・ルージュと、そのパイロットだそうだよ。
アングラ雑誌記者が撮ったヤツで、とある方面ではかなりの話題だよ~。
特にこの、大人になりきらない未熟なお尻の艶感が」
サイより先に、カガリがユウナに掴みかかった。
「ユウナ! 貴様、いつの間にこんなものをっ……
重大な情報を、よくも今まで黙って!」
「今報告したじゃないか」
「馬鹿者! 何の為に、ある程度貴様と外部との接触を自由にしていると思っている!」
「あれ? 僕の男としてのストレス処理の為じゃ」
「……奇跡的に残った股間まで潰されたいようだな」
「カガリ~、一国のトップともあろう者が、そんな言葉づかいは良くないなぁ」
「穏便に言い直してやろう。
貴様は、自身に残された無駄すぎるローエングリンを処分されたいのか」
「光栄だね。イーゲルシュテルンと言われたら、正直解釈に困ったところだけど」
ゴミを見る目でユウナを見下げつつ、パキポキ指を鳴らすカガリ。
そんな漫才の横で、サイはひたすら写真の少女を睨みつける──
写真が語る事実を、何とか見つけ出そうとして。
このモビルスーツは──俺たちが守ろうとした街を破壊していた。
そのパイロットが、マユ・アスカだと?
マユはナオトやアマミキョの出来事を通じて、痛みを理解する娘になったと思っていた。
初めはいかにもこういうことをしそうな娘だったにせよ、彼女は変わったはずだ。
アレに乗っているのが、この写真の少女が、マユであるはずがない。
よくよく見れば、表情や雰囲気はマユのそれとは奇妙な違いがあった。
無邪気そうな点は同じだが、眼はこんなに好戦的な光をたたえていただろうか?
少しでも刺激すれば咬みついてきそうな危うさは、マユにはなかったはずだ。
サイが溜息をついたその時――
ユウナとは別の、ひどく懐かしい声が響いた。
「何時間眺めていたって、マユちゃんは答えてくれないよ」
同時に肩を叩かれ、サイは顔を上げ
──思わず叫んでいた。
「しゃ、社長!
ご無事だったんですか?」
「無事、でもないかな。腹の脂が特にねぇ」
数か月の間にげっそり痩せ細ってはいたが、その余裕たっぷりの声は間違いなく、アマミキョ最大のスポンサーであり文具団社長の──
トレンチ・ムジカノーヴォその人だった。
ロゴスの一員であることが公表されて以降、行方をくらましていた社長。てっきり、どこかの暴徒の手にかかったものと思っていた。
かつてより目方が半分以上減ったかに思える身体でありながら、社長は豪快に笑って見せる。
「今は元・副隊長のご自宅にてお世話になっている身だよ。
いや、僕のことはいい──
サイ君。君には早急に、お詫びをしなければと思ってね」
サイは全く笑わず、身体を固くした。
社長が何を語るつもりか──覚悟はしている。
再び思い出すのは、数時間前の父の言葉――
『サイ。社長と話がついた──
恐らく、アマミキョの真実は彼が語ってくれるだろう。アスハ代表の御前でな』
別室から戻ってきた後、父は静かに告げた。
何でもないことのように言ってのける父だが、あのムジカ社長と堂々と渡り合うとは──
自分の家柄や父の権力などにはそこまで興味を持っていなかったサイは、今更のようにその力に驚愕させられた。
黙って頭を下げるサイに、父はこう言った。
『どんな真実が待っていたとしても、彼を恨んではいけない。
私は旧キリスト教信者ではないが、ビジネス上でも重要なことだ。本気でアマミキョを再建するつもりならな。
今資金を出せるのは、まだ地下で勢力を保つムジカ社長でもある。
それに、セイラン家の力も未だ侮れん』
サイは父の言葉を噛みしめつつ、社長の語りに耳を傾けようと努力したが──
その心を砕くかの如き言葉が、社長の口から飛び出した。
「──最初から、全て計画済のことだったんだよ。
ウーチバラでの襲撃事件から、アマミキョの撃沈まで。
ザフトと連合が再び開戦に向けて動き出していたのも織り込み済みで、その中で、ティーダやアマミキョが激戦地でどう動くか──
それが、僕たちに用意された課題だった」
それは一体誰が。何のために。
サイは冷静さをどうにか保ちながら、拳を握りしめる。
黙りこくった彼を横目に、社長は語り続けた。
「AD時代は、戦争とは非常に大きく経済が動くものと信じられていた。
損失も甚大だが、チャンスさえあれば、良い利益を生み出すことも可能だった。
そして戦争は、技術の革新を推し進める。これも、AD時代には良く言われていたね──
だが、今は違う。
大量破壊兵器が惜しげもなく使用され、とんでもない額の損失が計上されまくる。
モビルスーツを作っても作っても、鉄くずの山が出来るだけ。損にはなっても、誰の得にもなりはしない。
費用をかけてモビルスーツを開発しても、工場が次々潰されたうえに土地まで使えなくなっちゃ、何の利益にもならない。優秀な人的資源も戦争で失われてしまうから、技術の革新も望めない。
さて――ならば、どうするか?
ロゴスだって、一枚岩なわけじゃない。
一部の人間は戦争での利益より、それによる損失の方がはるかに大きいと知っていた。ジブリールを始めとするブルーコスモス一派は、積極的に戦争したがってたみたいだがねぇ……
未だに根強い彼らの勢力を、どうにか出来ないか。僕らは常に考えていた。
そこへ話を持ちかけてきたのが、南チュウザン──タロミ・チャチャだよ」
社長が一旦言葉を切ると、カガリの金髪が激しく逆立った。
「お前たちはっ……それに乗ったというのか!
その為にアマミキョを、サイたちを犠牲に!!」
社長に今にも殴りかからんとするカガリを、サイは黙って右手を上げて制した──
代表に対して若干無礼かも知れない、と承知しながら。
社長はなおも、滔々と喋る。
「世界から、戦いをなくす為のツールを作らないか──
それが、彼らの提案だった。
報酬は約束されていた。何より、殲滅戦がなくなること自体が相当の利益になる。
アマミキョの計画は非常に順調に進んだよ」
「全くステキな話だねぇ」
いかにも皮肉です、という口調でユウナが口を挟む。
「人類から、戦う意思そのものをなくす──
それこそが、実験船・アマミキョ開発の目的だった。
ティーダも、パイロットも、アマミキョのクルーも、全員が崇高なる実験台だったんだ。
もっとも、僕がコレを知ったのはつい先日だがね。早くに知ってたら、ハーフムーンでサイ君たちにあんな醜態を晒さずにすんだのになぁ」
ユウナのジョークを聞き流しつつ、社長はサイに微笑む。
「アマミキョとティーダは連動する。
君も、既に勘づいているだろう。アマミキョが人の感情を束ねる船だということを」
そう──俺はもう、知っている。
この真実は、フレイから直接伝えられたんだ。
サイは静かに正面から社長を見据え、淡々と要約を始めた。
「南チュウザンでは、人の戦闘意思を消失させる効果のある兵器を開発している。
アマミキョとティーダは、救助隊の名を借りた試作兵器だった。
どういう経過か詳しくは分からないが、とにかく実験は成功した。恐らく、俺たちアマミキョクルーがアマクサ組の手で統率されてきたことによるものだと思いますが。
実験船としての価値を失ったアマミキョは不要なパーツとして処分され、南チュウザンは世界へと大きな一歩を踏み出した──
そして文具団は報酬と、戦いのない世界を手に入れる。そういうことですね」
一切の感情を交えず、言い放つサイ。
社長は笑みを崩さないが、その目には何の感情も見えなかった。
「理解が早くて助かるね。君に殴られに来たと思ってるよ」
――殴る価値すらないと思ってますよ。
言いかけたその言葉を、サイはぐっと飲み込んだ。
そのかわり、満面の笑みを貼りつけて社長に挑む。
「であれば――
自分にも、報酬をいただければ嬉しいです」
ほんの少し、計算上の利益が上回ったから。
社長は俺たちを、ろくでもない運命の坩堝に放り込んだ。なら──
「その権利は、あるはずでしょう?」
そんな回答も織り込み済みだったか、社長の笑みは全く変わらない。
「賠償として、アマミキョを復活させろ。
そう言うと思っていたよ」
サイは真顔に戻る。ここはストレートに押した方がいい。
「再度アマミキョを建造・構成するだけの資金と技術、人員を自分に下さい。
それが自分の求める、唯一の報酬です」
静かで、しかしはっきりとしたサイの主張。
それに対し、社長は少しばかり口の端を歪めた。笑いとも皮肉とも取れる表情。
「唯一とはいえ、少し高すぎやしないかい?
僕が君に力を提供することで、君は何を齎してくれる?」
このサイコパス野郎と、心中で毒づいたが──
サイは全力で感情を伏せ、なおかつ好意的な表情を貼りつけて話し続ける。
「社長に、復興した工場や農地、道路や公共施設などのインフラを提供できます。
いくら世界が平和になろうと、残された土地が今のように破壊された荒地ばかりでは、どうにもならないでしょう?
アマミキョの再生が成れば、平和になった世界にいち早く農地や施設、住宅を用意できる。
文具団の名声は上がり、社長の評判も回復します。
損はしないと思いますが?」
評判の回復という点に、サイは少しばかり力を入れて話した。恐らく、現在のこの男の、一番のウィークポイントであろう部分に。
さて、社長はどう出るか──
「ふぅん……なかなか成長したね。
感情論で来るなら、席を立たせてもらうところだったが」
ひとつほっと息をつきつつ、社長は答えた。
油断することなく、サイは尋ねる。
「そのお答えは、OKと考えてよいのですか?」
「この騒動でこちらも結構資金繰りが危うくなっている中、軽々と約束は出来ない。
だが──
せっかく、君も僕もここまで来たんだ。最大限の努力はしてみよう」
この言葉を聞いた瞬間、サイは重くのしかかった肩の荷が、ほんのわずかだけ軽くなった気がした。
父の言った通りだ。恨みつらみの感情を最低限にとどめ、あくまで損得に重きを置いて交渉したのは正解だった。
「サイ、お前……!?」
カガリは信じられないといった面持ちでサイを見つめる。恐らく、狐と狸の化かし合いを見ているしかないといった按配だったろう。
サイの後ろで、ひたすら気配を消して隠れるように縮こまっているカズイも同じだ。
何せ、一国の首長と元首長格、そして大企業の社長相手の秘密会談である。一般人であるカズイは消えたくて仕方なかったに違いない。
「話は早い方がいいでしょう──アスハ代表!」
サイは半分強引に話を進め、カガリを振り返った。
ここは、勢いで持って行った方が勝つ。
「今、分かっている分だけで結構です。
アマミキョクルー全員の、現在の連絡先データを下さい」