【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
「あ~ん~た~達ぃ~っ!!」
社長からアマミキョ復活の約束を一応取りつけ、カガリからデータを拝借し、官邸を飛び出し。
意気揚々と、アマミキョ乗員探しに乗り出したサイとカズイの前に立ちはだかったのは──
社長よりユウナより何より恐ろしい、怒りのオーラを全身から放散する、ミリアリア・ハウだった。
外に跳ねた髪をさらに逆立てて迫る彼女に、サイは引きつり笑いを返す以外の術を持たない。
「や、やぁミリィ、久しぶり……元気?」
「すっとぼけてんじゃないわよ!
キラたちはともかく、この私にも黙って出てくって一体、どーいう了見かしら!?」
つい数週間前まで、傷ついたサイに抱きついて泣いていた少女と同一人物とは思えない。
素直に謝るしかない。
「ごめん、ミリアリア。
ただ、君たちにはアークエンジェルの仕事があるだろ? みんなを巻き込むわけにはいかないよ」
「だからって、あんな書置きだけじゃ、余計みんな心配するじゃないの!
ラクスさんが大丈夫、って言ってくれたから良かったけど!!」
と、サイと一緒に彼女は歩き出す。
カズイの手から住所データの詰まった端末を奪って。
「お、おいミリアリア、何す……」
「使えるものは、何だって使うんでしょう?
だったら私だって、サイに使われてあげたいのよ。
みんなで手分けすれば、もっと早くアマミキョだって復活出来るでしょ?」
立ち止まりながら早口で喋りつつ、片手で端末を操作しデータを眺める。
慣れた手つきで画面を動かしながら、てきぱきと情報を整理していくさまは、さすがアークエンジェルのオペレーターといったところか。
「あ、この人たち今は駄目ね……プラントに行っちゃってる。あそこ、今も大変だから。
……この人もだわ」
「え?」サイもカズイも驚いて彼女を見つめた。「そんなこと、一体どうやって」
「メイリンが教えてくれたの。オーブからプラントに向かった救助隊のデータを、あの子が拾ってくれたのよ。
照合すれば一瞬で……あぁ、この人も」
「メイリンって、アスランと一緒にザフトから逃げてきたっていう娘か?
空恐ろしいな」
「だってあの子、元ザフトの情報エキスパートよ。
個人情報覗くぐらい、朝飯前」
エルスマン経由の情報じゃなかったんだ……などと言いたいのを、サイはぐっとこらえた。
今そんなことを口にすれば、今度こそ殺されてしまう。
しかしミリアリアはふと真顔になり、歩きながらサイの顔をじっと見つめた。
「……みんな心配してるのよ、サイのこと。
それを無碍にしたら、バチが当たるわよ」
──無力を味わった女は、力を求めるものなの。
力を利用するものなのよ。
そう言い放ち、数か月前、俺の手を拒絶した女。
あの時見たミリアリアの、女としての部分の片鱗――未だに忘れられない。
わずかに覗いたそんなサイの感情を読み取ったのか、彼女は静かに言った。
「私たちのやったこと、貴方は軽蔑するかも知れない。
二年前と今とじゃ、貴方と私の考え方に乖離があって当然だと思う。
だけど、信じて──
私たち、サイを助けたいの」
「分かってる。
……ありがとう」
サイはその言葉に、心からの真摯さを感じながら答えた。
キラやラクスに対して、少しでも何か思うところはないのだろうか。
正直サイは、ミリアリアの心の内が以前にも増して読めなくなっていたが――
とりあえず、彼女の優しさには甘えることにした。そうしろと、彼女が言っているのだから。
力を求めてアークエンジェルに戻った彼女は、世界最強の剣と行動を共にして。
結果、勝利を手にした。
――それでいいじゃないか。
「それにしても……
プラントを助けようって人が、こんなにたくさんアマミキョにいたのね。
それだけの意思と技術を持った人が」
「あぁ。
多分、フレイとリンドー副隊長、トニー隊長のおかげだよ」
サイの言葉に、ミリアリアは首を横に振る。
「また、そういうこと言う。
勿論それもあるけど……
サイ、分かってる? 貴方がこの人たちを避難させていなかったら、多分、この人たちも……」
「俺の力なんて微々たるもんだよ。
そもそもあの時のフレイは、クルーまで殺すつもりはなかった。
フレイは俺だけを殺せれば、それで良かったんだ。推測だけどね」
「自虐にならないでよ。あのフレイの心なんて、サイにも私にも、誰にも分からないんだし。
そもそもあの『フレイ』は……
私に言わせれば、フレイの皮を被って彼女を汚し続ける、ただの鬼よ」
小さく吐き捨てるミリアリアの言葉を、サイは否定も肯定もしなかった。
――ただ俺は、前を向くだけだ。
「鬼──か。
それも含めて、俺は確かめる。
行こう」
それから1週間というもの――
サイ、ミリアリア、カズイの3人はアマミキョクルー集めに奔走した。オーブ国内のみならず、連合領にまで飛び出して。
その過程で、サイはよく見知った顔数人と再会出来た。
医療ブロックチーフ──スズミ・トクシ。
サイもネネも失ったと思い込み、無力感にうちひしがれた彼女は自宅に引きこもり、かつてのハマーもかくやという程の酒浸りの生活に陥っていた。
しかしサイと再会した瞬間、彼女は艶を失った金髪をふり乱して彼に抱きつきながら、何度も何度も謝った。涙ながらに。
そして責めた。サイの取った最後の行動を。
頭の包帯や左腕の傷を、精一杯労わりながら。
ブリッジオペレータ──ヒスイ・サダナミ。
彼女は自宅ではなく、トニー・サウザン隊長の実家に身を寄せていたものの、スズミと同様に引きこもっていた。
細々とデータ入力の内職をしている彼女に再会した時、サイは最初に出会った時の無気力なヒスイを思い出した。
髪はぼさぼさで目は落ちくぼみ、以前よりさらに痩せ細っていたヒスイ。
再会のその時こそ涙が出るほど彼女は喜んでくれたが、オサキの顛末を話した瞬間──
サイは、頬を張られた。
号泣しながらサイの胸を何度も殴り、彼をひたすら責めた。
──どうして、どうして。
副隊長がついていながら、何故。
涙でサイのワイシャツを濡らしながら。
それでも最後に彼女は、注意深く聞きとらなければ決して聞こえないほどの声で、呟いた──
「副隊長が生きていてくれて、良かった」と。
隊長──トニー・サウザン。
ヒスイを宥めながら、彼は実に素直にサイの生還を喜んだ。
ビールまで引っ張り出してくれたが、まだ彼がギリギリ未成年であることに気づき、やめた。
再会したクルーの中で、最も腰を据えて最初から最後まで話を聞き、じっくり感情移入してくれたのはトニーだったと──
サイは、後から思った。
山神隊──伊能大佐。
たまたま休暇で戻ってきていた彼を一人で訪ねたところ、サイは思いがけない事実を知らされた。
ギガフロート・シネリキョに移送されたガンダム・ティーダを密かに追っていた広瀬少尉について、彼は言葉少なながらも語ったのだ。
「帰ってこいって山神隊長が命令したはずなのに、2か月も3か月も行方知れずのまんまだ。あのトンチキ野郎──
命令違反がどんだけ重罪か、思い知らせてやらァ」
「ナオトたちの情報は、何か掴めていないんですか?」
サイが尋ねると、伊能は首を振った。
「定時報告じゃ、ナオトはママと一緒に楽しくやってた。
──と、言いたいところだが」
伊能はウイスキーのグラスを引っかけつつ、3センチほどのぶ厚さもある報告書をサイに手渡した。
「元は電子データで、何重にも暗号化されて送信されたものだがな。
内容が内容だ、こうして紙ベースにしてデータは廃棄処分にしておいた。
だからこいつを知ってるのは、俺と山神隊長だけだ。
上層部にも渡しちゃいねぇ。お前がお仲間引きつれて来たら、お前にも話さなかったよ」
まず厚さに驚いたサイだったが、その中身は比較にもならぬほど驚愕ものだった。
連合兵に未だに抵抗があるカズイとミリアリアを連れてこなかったのは、結果的に吉と出たのか。
サイがここで初めて知る、マユ・アスカの真実──
彼女は2年前のオーブ防衛戦で末に死亡しており、今までサイ達がマユだと思っていた少女は、チグサ・マナベなる人物の「再生」の為の「入れ物」にすぎなかったこと。
チグサ復活の過程で、フレイが何をしたか。カイキが何をしたか。
マユ・アスカを──否、名前すらもない無垢な少女の魂を使って。彼女を媒介として。
そして、マスミ・シライシの真相。
息子のナオトにSEEDがあると知った母親が、彼に一体何をしたのか──
どうしようもなく震えだす手でページをめくりながら、サイは思いを馳せずにはいられない。
「行かせるんじゃなかった
……ナオト……畜生!」
こんな母親だと知っていれば。
しかも俺は、マスミ・シライシの危険性を薄々察知していながら!
だが報告書は次々に淡々と、現実をサイに告げる。
マユ──そしてカイキ。
戦争さえなければ、ごく普通の仲の良い兄妹に見えたのに。
「何で俺は、何も気づかずに……」
「気づけるわけねぇだろ。
こんな、精神異常者どもの所業!」
伊能はグラスをあおりつつ吐き捨てたが、すぐに言い直す。
「……いや、すまない。
腐っても婚約者だものな、フレイ・アルスターは」
「元、ですよ。恐らく、彼女にとっては」
「お前さんにとっては現、ってこったろ」
報告書はシネリキョの内部構造を明かし、ティーダの遠隔起動の可能性について触れた途中で終了していた。ちょうど、これからナオトに接触する予定というところで。
広瀬がシネリキョとティーダの全貌を把握しかかったところで、シネリキョであの事故は起こったのだろう。
報告書の言葉を借りれば、『セレブレイト・ウェイブ』の暴走事故が。
ナオトやマユたちの安否を思い、黙りこくったサイに、伊能は不器用ながらも告げる。
「広瀬は几帳面な奴だ。何があっても最後まで報告を怠ることはない──
こんな中途半端な報告書、奴が満足する訳がねぇや。
必ず報告は完遂する、それが隊長命令だ。守れないようなら、俺は奴を隊員として認めねぇ」
「広瀬少尉は、生きていると?
もしかして、ナオトも?」
「当たり前だ。そうでなくとも──」
伊能はまた、勢いよくグラスをあおる。
出来ることならその可能性には触れたくない、というように。
「必ず何かの形で、残りの報告をしてくる」
サイの頭の中で、ただただ雑多に混ぜ合わさっただけだったパズルピースが、かちりかちりと組み上がっていく。
――ずっと疑問だったマユやカイキの挙動には、全て理由があった。
アマミキョとティーダ、そして自分たちが利用された理由も、もう少しではっきりと見えてくる。
ただ、その中心にあるものが未だにはっきりしない。ぽかりと空いたパズルの中心。
──フレイ・アルスター。
彼女は周りのピースを混乱に混乱させて渦巻を起こし、その中で一人眠っているようにも思える。
サイは丁寧に報告書を伊能に返し、その日は帰路に着いた。
持っているだけで、背筋が寒くなる報告書だった。