【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
「そうか。山神隊にも会ってきたか」
「お会いできたのは、伊能大佐だけでしたが──
山神隊長以下、みなチュウザン方面の部隊に参加中とのことです」
自宅でリハビリ中のリンドー・エンジョウにも、サイは一人で会った。
カズイやミリアリアを伴って伊能からの話をするのは、二人にとって危険すぎる。
そう判断したからであるが──
サイは出来る限り平静を保とうと努力しつつ、リンドーに尋ねる。
「ご存知だったんですね。
アマミキョ本来の目的も、副隊長は……」
「元、だろ」
両脚の重い義足を引きずるようにしながら、リンドーはリハビリ用に設置した通路の往復を続けていた。額の汗が妙に似合わない。
「ちぃ……これがプラントなら、重力制御で少しは楽になるものを。
地上は全く融通がきかんでな」
「副隊長っ!」惚ける相手に、サイは少しばかり声を荒げる。
「俺は、本当のことが知りたいんです」
「知ってどうする? どうにもなりゃせんさ……
儂らはみんな、国の掌で動かされているだけだ」
そんなことはもう分かっている。
掌の上と分かっていても、その中で少しでも動けるならば──
サイはリンドーの細い眼の奥を、必死で覗き込んだ。
「二度と同じミスをしたくないんです。
アマミキョを二度と、利用されない船にする為に!」
次第に高くなる声。
「フレイのこと、ナオトのこと、マユやカイキのこと……
アマクサ組のことも!
今俺がつかんでいる事実を、貴方はどこまで知っていたんですか」
知っていながら、俺たちにのうのうと講釈垂れてたのか──
その言葉をぐっと飲み込む。
サイの感情を知ってか知らずか、リンドーは飄々とした態度を崩さなかった。
「アーガイル。言ったはずだがな……
世の中にはどうあっても、抗えない流れがある。
儂がある程度の事実を知っていたとしよう。どの局面で、儂に何が出来たと思う?
あの頃のお前らに話したところで誰も信じやしないどころか、秘密裡に消された上に全否定されるのがオチだ。
せいぜい、運命とやらにみすみす呑まれないための説教をするぐらいが、手一杯でな」
「弁解は、聞きたくありません」
「そう言うな。……といっても、無理か。
だがおかげさまで、死ぬはずだったお前が生き残ったろう?」
サイはそれには答えず、手も貸さず。
黙ってリンドーが床に腰を下ろすのを待った。
「やれやれ。老体にこいつはキツイ……
ところでアーガイル。連れは?」
不意の質問に、サイは一瞬戸惑った。
「え?
……ホテルで待たせてますが」
「いい判断だ」
何が言いたい。相変わらず、思考の読めない親父だ──
とりあえず一緒に腰を下ろしながら、サイは次の言葉を待つ。
「お前には、人を惹きつける――
とまではいかずとも、自然と人を周囲に呼びこむ習性がある。
もうそろそろ自覚してもいい歳だろうが」
正直自覚は出来ないが、何人かに指摘されたことはある。
リンドーの講義でも教えられたことがあった――
人には2種類ある。特に何も考えなくとも、いつの間にか誰かが周りにいてくれる人間。
そして、どれだけ必死で努力しても、いつの間にか誰も寄り付かなくなる人間――と。
「サイさんはどう考えても前者ですね」と、その講義を聞いた時にヒスイから指摘されたものだ。多少皮肉っぽく。
カズイにはそれが原因で、嫉妬までされた──本人の言葉によれば。
「それが極端になったものが、いわゆる『人たらし』と呼ばれる力だ。
上に立つ者にとって不可欠の能力だが、時として禍を呼ぶこともある。
ティーダの力がアマミキョを沈めたように、どんな力にも正と負がある」
リンドーは何を言い出したのか──
何となく、サイには読めた。
脳裏でフラッシュバックする、炎と雪の中のネネの上半身。
光の中で潰され破壊され散り散りになっていく、風間の肉体。
首から血を流したまま操縦桿を握る、オサキの死体。
指が半分ちぎれた手で、自分に小瓶を渡すハマー。
そして――
ナオトとマユの、まだ幼い笑顔。
みんな、俺の近くにいたが為に、死んでしまった。
ナオトとマユについては分からないが、少なくともナオトは、俺に関わろうとさえしなければ――
そして俺が責任者になったばかりに、アマミキョは沈んだ。
二度とみんなを、あのような目に遭わせない為に、俺に何が出来る?
俺は、何をすればいい?
「──連れがいないなら、ちょうどいい。
久しぶりの講習会をしてやろう」
サイがアマミキョ復活へ動き出して、2週間。
「良かったわよ、アスハ代表のテレビ演説!
あれできっと、こんなひと昔前の刑事ドラマみたいなことしなくても、アマミキョにもどんどん人が戻ってくるって」
サイとカズイの二人と喫茶店で落ち合ったミリアリアは、元気よく告げた。
彼女は思う――
サイとは数日前に会ったばかりなのに、随分久しぶりに会うような気がする。
伊能という連合軍人や、元副隊長だったリンドーと会って以降のサイは、どうも単独で行動しがちだった。少し前からカズイまで遠ざけて。
何故、自分やカズイを頼らないのか──
そんなサイが、ミリアリアにはもどかしい。
コーヒーには申し訳程度に口をつけつつ、サイは眼鏡の奥から訝しげに彼女を見つめる。
「演説? 代表が?」
「えぇ。SUNテレビから大々的にね。
あそこはナオトゆかりのテレビ局だし、色々と協力的だったみたいよ。
『チュウザンを救う為、意思ある者は集え!
トニー・サウザンとサイ・アーガイルのもとへ!』ってね」
「な……」
サイは一瞬絶句していたが、すぐに俯いてコーヒーに視線を落とす。
喜ぶというより、むしろ逆の感情がその顔に現れている。
怒りでもないが──諦念に近いものが。
「あの人らしいな……
何の断りもなく、いきなりか」
カズイが横から、小声で口を挟む。
「それって……大丈夫なのかな」
「大丈夫って?」
ミリアリアには意味がつかめない。
サイの代わりにカズイが説明した。
「だって南チュウザンにしてみたら、サイは死んだことになってるはずなんだ。
フレイの手で、サイは殺された。アマミキョと一緒に。
──そうなっているはず、なんだよね?」
確認するように、カズイはサイを覗き込む。
彼はゆっくり頷いた。
「フレイが今のフレイになるには、恐らく俺を殺す必要があった。
アマミキョの他のクルーはともかく、俺だけは殺さなけりゃいけなかった」
「この前も聞いたけど、どうしてなの? 確証は?」
「フレイ自身が、そう言ってたんだ。彼女が船を離れる前に。
他の奴にも、何度も警告された。
それに実際、俺だけを狙った奴だって……」
そこまで言いかけて、サイは口ごもった。
ミリアリアの顔を一瞬凝視してしまい、強引に視線を引きはがす。
――何だ? 今のは一体何だろう?
そんな仕草をされたら、余計に気になる──それが分からないサイでもあるまいに。
サイは答えない。
じっと右手の甲を口に当てたまま、そっぽを向いているだけだ。
カズイも不思議そうに、そんな彼を見ている──
多分、サイしか知らないことなんだ。
「とりあえずさ。
俺のそばには……いない方がいいよ」
サイはコーヒーの代金をさりげなくテーブルに置きながら、いきなり席を立つ。
──何よそれ。
コーヒーだって全然減ってもいないじゃない。バルトフェルドさんが見たらキレるレベル。
「俺、ホテルに戻る。
ミリアリアも気をつけて」
「え?」
視線も合わせずに立ち去ろうとするサイ。
そんなことを言われて、放っておけるわけがない。
「冷たいこと言わないでよ!
みんな、貴方の力になりたくて……」
思わずサイの右袖を掴むミリアリア。
だが、思いのほか強い力で、その手は振り払われる。怒声と共に。
「触るなよ!」
全く似合わない冷たい声で、サイはミリアリアを見下げていた。
「力を利用して、力を手に入れて、上から目線で俺を助けてあげますなんて言われたって……
ちっとも嬉しくない!
ジャーナリストになりたいって言ってエルスマンまで振った癖に、結局やったことと言えば、自分たちの正義を振り翳して相手を一方的に叩き潰しただけだろ!」
──何、これ?
一体サイは、何を言い出したのか。何を突然怒り出したのか。
コーヒーに毒でも入っていたのか?
「さ……サイ?
貴方、何言ってるの? 本気で言ってるの?」
「あぁ、本気だよ。
君の言うとおり、使えるものは何でも使わせてもらう。
けど、力こそ全てみたいな思想に迎合する気は微塵もないからな!」
「違う!
サイ、貴方も分かってるでしょ。アークエンジェルはそんな船じゃ!」
「じゃあどんな船だよ!
少なくとも俺には、戦いを止める船には見えないよ。
あれは、戦いを混乱させるだけの船になっちまっただろ」
違う。サイはやっぱり、何か隠してる。
こんな奴が、サイな訳がないんだから。
「サイ、みんなを侮辱しないで!
みんな、そんなつもりで戦ったわけじゃ!」
「結果的にはそうだろ。
そして最強の騎士様と最強の歌姫様と最強の船は、今日も戦いを止める為に出撃していくと!
良かったな、将来安泰で。いずれは世界征服でもするつもりかい?」
その、いかにも不慣れな乱暴な言葉で――
ミリアリアは何となく理解した。
ああ、そうか。このお人よしの馬鹿は……何故かは分からないけど、わざと……!
それにしても、ちょっと不器用すぎじゃない?
周りに人が結構いる場所なんだけど、その気遣いも出来てない。
いつものサイならあり得ない。それだけ、必死なんだろうけど──
もうこの時点でミリアリアはサイの真意に勘づいてはいたが、とりあえず付き合ってみることにした。
「サイ、お願いよ……
私たち、みんなを守りたいだけなの」
精一杯、健気な少女の表情をしてみせる。わざとらしいほどに。
その顔を見た一瞬、サイの眼鏡の奥に動揺が見えた。
気づかれた? って声が聞こえてきそうだ。
気づいたわよ……馬鹿。
「……今更何だ。いい加減に離れてくれよ!
俺をいらないって言ったのは君だろ!」
唖然として立ち尽くした──ふりをしたミリアリアを尻目に、サイはさっさと店を出ていく。
カズイも慌てて、それを追いかけていった。
しばらくは騙されててあげるけど、あとで覚えてなさいよ。
慣れないことして怪我したって、知らないから。
犯人は伊能か、もしくはリンドーとかいうオヤジか。一体、何を吹き込まれたらああなるのか。
それにしても──
──俺をいらないって言ったのは、君だろ。
そんな言葉を吐いた理由が薄々分かったとはいえ、サイの今の言葉は何だ。
胸に深々と刺さったまま、離れない。
「あんな言葉……
言えるように、なっちゃったんだ」
胸元のモバイルが反応したのは、そんな時だった。メイリンからの緊急通信だ。
《ミリアリアさん、大変です!
キラさんとラクスさんが……》
そして通信を続けた彼女の表情も、声も――
次第に呆れと怒りが、ないまぜになっていった。
「………どうして?」
《───!!》
「………何でみんな、そういうことするんだろう?」
《───、────! ───……!!》
「そう、分かった。
すぐ戻るわ」
とんでもない状況にも関わらず──いや、そんな状況になったからこそ。
逆にミリアリアは、妙に冷静になれたと言える。
全く。私の周りは何でこうも、馬鹿ばっかりなのか。
舌打ちと共に呟きながら、支払もそこそこに通りに飛び出した。
──しかし。
まだ通りにいるはずと思っていたサイたちは、忽然と消えていた。
タクシーがなかなか来ない細い裏通りで、しかもホテルまではほぼ真っ直ぐな一本道のはず。
なのに見渡す限り、道路のどこにもサイたちの姿は見えない。
何故?
今の、たった一分ほどの通信の間に?
まさか──
ミリアリアの脳裏に、ある恐ろしい可能性が雷光のように閃いた。
《戻って下さい、ミリアリアさん!
多分サイさんたちもすぐに……》
「もう、遅いわ」
──貴方、本当に馬鹿ね、サイ。
貴方があんなことを、長く続けられるわけがないのに。あんなことをしたって、貴方が傷つくだけなのに。
本当に馬鹿な上に、──運も悪い。
下手をすると、アレを永久に続けないといけなくなる。