【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

284 / 436
part4 サイの豹変

 

 

 

「そうか。山神隊にも会ってきたか」

「お会いできたのは、伊能大佐だけでしたが──

 山神隊長以下、みなチュウザン方面の部隊に参加中とのことです」

 

 自宅でリハビリ中のリンドー・エンジョウにも、サイは一人で会った。

 カズイやミリアリアを伴って伊能からの話をするのは、二人にとって危険すぎる。

 そう判断したからであるが──

 サイは出来る限り平静を保とうと努力しつつ、リンドーに尋ねる。

 

「ご存知だったんですね。

 アマミキョ本来の目的も、副隊長は……」

「元、だろ」

 

 両脚の重い義足を引きずるようにしながら、リンドーはリハビリ用に設置した通路の往復を続けていた。額の汗が妙に似合わない。

 

「ちぃ……これがプラントなら、重力制御で少しは楽になるものを。

 地上は全く融通がきかんでな」

「副隊長っ!」惚ける相手に、サイは少しばかり声を荒げる。

「俺は、本当のことが知りたいんです」

「知ってどうする? どうにもなりゃせんさ……

 儂らはみんな、国の掌で動かされているだけだ」

 

 そんなことはもう分かっている。

 掌の上と分かっていても、その中で少しでも動けるならば──

 サイはリンドーの細い眼の奥を、必死で覗き込んだ。

 

「二度と同じミスをしたくないんです。

 アマミキョを二度と、利用されない船にする為に!」

 

 次第に高くなる声。

 

「フレイのこと、ナオトのこと、マユやカイキのこと……

 アマクサ組のことも! 

 今俺がつかんでいる事実を、貴方はどこまで知っていたんですか」

 

 知っていながら、俺たちにのうのうと講釈垂れてたのか──

 その言葉をぐっと飲み込む。

 サイの感情を知ってか知らずか、リンドーは飄々とした態度を崩さなかった。

 

「アーガイル。言ったはずだがな……

 世の中にはどうあっても、抗えない流れがある。

 儂がある程度の事実を知っていたとしよう。どの局面で、儂に何が出来たと思う? 

 あの頃のお前らに話したところで誰も信じやしないどころか、秘密裡に消された上に全否定されるのがオチだ。

 せいぜい、運命とやらにみすみす呑まれないための説教をするぐらいが、手一杯でな」

「弁解は、聞きたくありません」

「そう言うな。……といっても、無理か。

 だがおかげさまで、死ぬはずだったお前が生き残ったろう?」

 

 サイはそれには答えず、手も貸さず。

 黙ってリンドーが床に腰を下ろすのを待った。

 

「やれやれ。老体にこいつはキツイ……

 ところでアーガイル。連れは?」

 

 不意の質問に、サイは一瞬戸惑った。

 

「え? 

 ……ホテルで待たせてますが」

「いい判断だ」

 

 何が言いたい。相変わらず、思考の読めない親父だ──

 とりあえず一緒に腰を下ろしながら、サイは次の言葉を待つ。

 

「お前には、人を惹きつける――

 とまではいかずとも、自然と人を周囲に呼びこむ習性がある。

 もうそろそろ自覚してもいい歳だろうが」

 

 正直自覚は出来ないが、何人かに指摘されたことはある。

 リンドーの講義でも教えられたことがあった――

 人には2種類ある。特に何も考えなくとも、いつの間にか誰かが周りにいてくれる人間。

 そして、どれだけ必死で努力しても、いつの間にか誰も寄り付かなくなる人間――と。

「サイさんはどう考えても前者ですね」と、その講義を聞いた時にヒスイから指摘されたものだ。多少皮肉っぽく。

 

 カズイにはそれが原因で、嫉妬までされた──本人の言葉によれば。

 

「それが極端になったものが、いわゆる『人たらし』と呼ばれる力だ。

 上に立つ者にとって不可欠の能力だが、時として禍を呼ぶこともある。

 ティーダの力がアマミキョを沈めたように、どんな力にも正と負がある」

 

 リンドーは何を言い出したのか──

 何となく、サイには読めた。

 

 

 脳裏でフラッシュバックする、炎と雪の中のネネの上半身。

 光の中で潰され破壊され散り散りになっていく、風間の肉体。

 首から血を流したまま操縦桿を握る、オサキの死体。

 指が半分ちぎれた手で、自分に小瓶を渡すハマー。

 

 

 そして――

 ナオトとマユの、まだ幼い笑顔。

 

 

 みんな、俺の近くにいたが為に、死んでしまった。

 ナオトとマユについては分からないが、少なくともナオトは、俺に関わろうとさえしなければ――

 

 そして俺が責任者になったばかりに、アマミキョは沈んだ。

 二度とみんなを、あのような目に遭わせない為に、俺に何が出来る? 

 俺は、何をすればいい? 

 

 

「──連れがいないなら、ちょうどいい。

 久しぶりの講習会をしてやろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サイがアマミキョ復活へ動き出して、2週間。

 

「良かったわよ、アスハ代表のテレビ演説! 

 あれできっと、こんなひと昔前の刑事ドラマみたいなことしなくても、アマミキョにもどんどん人が戻ってくるって」

 

 サイとカズイの二人と喫茶店で落ち合ったミリアリアは、元気よく告げた。

 彼女は思う――

 サイとは数日前に会ったばかりなのに、随分久しぶりに会うような気がする。

 伊能という連合軍人や、元副隊長だったリンドーと会って以降のサイは、どうも単独で行動しがちだった。少し前からカズイまで遠ざけて。

 

 何故、自分やカズイを頼らないのか──

 そんなサイが、ミリアリアにはもどかしい。

 

 コーヒーには申し訳程度に口をつけつつ、サイは眼鏡の奥から訝しげに彼女を見つめる。

 

「演説? 代表が?」

「えぇ。SUNテレビから大々的にね。

 あそこはナオトゆかりのテレビ局だし、色々と協力的だったみたいよ。

『チュウザンを救う為、意思ある者は集え! 

 トニー・サウザンとサイ・アーガイルのもとへ!』ってね」

「な……」

 

 サイは一瞬絶句していたが、すぐに俯いてコーヒーに視線を落とす。

 喜ぶというより、むしろ逆の感情がその顔に現れている。

 怒りでもないが──諦念に近いものが。

 

「あの人らしいな……

 何の断りもなく、いきなりか」

 

 カズイが横から、小声で口を挟む。

 

「それって……大丈夫なのかな」

「大丈夫って?」

 

 ミリアリアには意味がつかめない。

 サイの代わりにカズイが説明した。

 

「だって南チュウザンにしてみたら、サイは死んだことになってるはずなんだ。

 フレイの手で、サイは殺された。アマミキョと一緒に。

 ──そうなっているはず、なんだよね?」

 

 確認するように、カズイはサイを覗き込む。

 彼はゆっくり頷いた。

 

「フレイが今のフレイになるには、恐らく俺を殺す必要があった。

 アマミキョの他のクルーはともかく、俺だけは殺さなけりゃいけなかった」

「この前も聞いたけど、どうしてなの? 確証は?」

「フレイ自身が、そう言ってたんだ。彼女が船を離れる前に。

 他の奴にも、何度も警告された。

 それに実際、俺だけを狙った奴だって……」

 

 そこまで言いかけて、サイは口ごもった。

 ミリアリアの顔を一瞬凝視してしまい、強引に視線を引きはがす。

 

 ――何だ? 今のは一体何だろう? 

 そんな仕草をされたら、余計に気になる──それが分からないサイでもあるまいに。

 

 サイは答えない。

 じっと右手の甲を口に当てたまま、そっぽを向いているだけだ。

 カズイも不思議そうに、そんな彼を見ている──

 多分、サイしか知らないことなんだ。

 

「とりあえずさ。

 俺のそばには……いない方がいいよ」

 

 サイはコーヒーの代金をさりげなくテーブルに置きながら、いきなり席を立つ。

 

 ──何よそれ。

 コーヒーだって全然減ってもいないじゃない。バルトフェルドさんが見たらキレるレベル。

 

「俺、ホテルに戻る。

 ミリアリアも気をつけて」

「え?」

 

 視線も合わせずに立ち去ろうとするサイ。

 そんなことを言われて、放っておけるわけがない。

 

「冷たいこと言わないでよ! 

 みんな、貴方の力になりたくて……」

 

 思わずサイの右袖を掴むミリアリア。

 だが、思いのほか強い力で、その手は振り払われる。怒声と共に。

 

「触るなよ!」

 

 全く似合わない冷たい声で、サイはミリアリアを見下げていた。

 

「力を利用して、力を手に入れて、上から目線で俺を助けてあげますなんて言われたって……

 ちっとも嬉しくない! 

 ジャーナリストになりたいって言ってエルスマンまで振った癖に、結局やったことと言えば、自分たちの正義を振り翳して相手を一方的に叩き潰しただけだろ!」

 

 

 ──何、これ? 

 一体サイは、何を言い出したのか。何を突然怒り出したのか。

 コーヒーに毒でも入っていたのか? 

 

 

「さ……サイ? 

 貴方、何言ってるの? 本気で言ってるの?」

「あぁ、本気だよ。

 君の言うとおり、使えるものは何でも使わせてもらう。

 けど、力こそ全てみたいな思想に迎合する気は微塵もないからな!」

「違う! 

 サイ、貴方も分かってるでしょ。アークエンジェルはそんな船じゃ!」

「じゃあどんな船だよ! 

 少なくとも俺には、戦いを止める船には見えないよ。

 あれは、戦いを混乱させるだけの船になっちまっただろ」

 

 違う。サイはやっぱり、何か隠してる。

 こんな奴が、サイな訳がないんだから。

 

「サイ、みんなを侮辱しないで! 

 みんな、そんなつもりで戦ったわけじゃ!」

「結果的にはそうだろ。

 そして最強の騎士様と最強の歌姫様と最強の船は、今日も戦いを止める為に出撃していくと! 

 良かったな、将来安泰で。いずれは世界征服でもするつもりかい?」

 

 

 その、いかにも不慣れな乱暴な言葉で――

 ミリアリアは何となく理解した。

 

 

 ああ、そうか。このお人よしの馬鹿は……何故かは分からないけど、わざと……!

 それにしても、ちょっと不器用すぎじゃない? 

 周りに人が結構いる場所なんだけど、その気遣いも出来てない。

 いつものサイならあり得ない。それだけ、必死なんだろうけど──

 

 

 もうこの時点でミリアリアはサイの真意に勘づいてはいたが、とりあえず付き合ってみることにした。

 

「サイ、お願いよ……

 私たち、みんなを守りたいだけなの」

 

 精一杯、健気な少女の表情をしてみせる。わざとらしいほどに。

 その顔を見た一瞬、サイの眼鏡の奥に動揺が見えた。

 気づかれた? って声が聞こえてきそうだ。

 気づいたわよ……馬鹿。

 

「……今更何だ。いい加減に離れてくれよ! 

 俺をいらないって言ったのは君だろ!」

 

 唖然として立ち尽くした──ふりをしたミリアリアを尻目に、サイはさっさと店を出ていく。

 カズイも慌てて、それを追いかけていった。

 

 

 しばらくは騙されててあげるけど、あとで覚えてなさいよ。

 慣れないことして怪我したって、知らないから。

 犯人は伊能か、もしくはリンドーとかいうオヤジか。一体、何を吹き込まれたらああなるのか。

 それにしても──

 

 

 ──俺をいらないって言ったのは、君だろ。

 

 

 そんな言葉を吐いた理由が薄々分かったとはいえ、サイの今の言葉は何だ。

 胸に深々と刺さったまま、離れない。

 

「あんな言葉……

 言えるように、なっちゃったんだ」

 

 胸元のモバイルが反応したのは、そんな時だった。メイリンからの緊急通信だ。

 

《ミリアリアさん、大変です! 

 キラさんとラクスさんが……》

 

 

 そして通信を続けた彼女の表情も、声も――

 次第に呆れと怒りが、ないまぜになっていった。

 

 

「………どうして?」

 

《───!!》

 

「………何でみんな、そういうことするんだろう?」

 

《───、────! ───……!!》

 

「そう、分かった。

 すぐ戻るわ」

 

 とんでもない状況にも関わらず──いや、そんな状況になったからこそ。

 逆にミリアリアは、妙に冷静になれたと言える。

 全く。私の周りは何でこうも、馬鹿ばっかりなのか。

 舌打ちと共に呟きながら、支払もそこそこに通りに飛び出した。

 ──しかし。

 

 

 まだ通りにいるはずと思っていたサイたちは、忽然と消えていた。

 タクシーがなかなか来ない細い裏通りで、しかもホテルまではほぼ真っ直ぐな一本道のはず。

 なのに見渡す限り、道路のどこにもサイたちの姿は見えない。

 

 何故? 

 今の、たった一分ほどの通信の間に? 

 まさか──

 

 ミリアリアの脳裏に、ある恐ろしい可能性が雷光のように閃いた。

 

《戻って下さい、ミリアリアさん! 

 多分サイさんたちもすぐに……》

「もう、遅いわ」

 

 ──貴方、本当に馬鹿ね、サイ。

 貴方があんなことを、長く続けられるわけがないのに。あんなことをしたって、貴方が傷つくだけなのに。

 本当に馬鹿な上に、──運も悪い。

 下手をすると、アレを永久に続けないといけなくなる。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。