【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part2 どんなに軽くたって、命は命だろ

 

 

 カズイが謎の事件に巻き込まれ、解決したかどうかも判明しないまま、更に数日が経過。

 この環境にも大分慣れてきたカズイは、隣のブロックの子供たちとそこそこ気さくに会話をする余裕ぐらいは出てきていた。

 そうしなければろくな情報交換が出来なかったということもあるが、何といってもやはりあの夜──

 サイの優しい眼を、見られたことが大きい。

 思い出すのは、ここに囚われる前夜のサイ。

 あの時、あいつが伝えた言葉は何だったか。

 

 

 ──何があっても、俺を信じろ。

 

 

 それは監視下の為、肉声では伝えられなかった言葉。

 

 

 ――サイは俺に、指でメッセージを残した。掌に。

 サイにしてみれば、これだけは必ず俺に伝えなければいけなかった言葉だったろう。

 それを俺は、あまりの混乱で、ずっと忘れていた。

 おそらくサイには意図がある。俺を遠ざけなくてはならなくなった理由が──

 だがそれは、一体何だ? 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、私ね。

 お父さんからこんな話、聞いたことあるよ」

 

 ある時、自由時間に子供たちとカズイが話していたところ──

 おもちゃをいじっていた一人の女の子が、ふとお喋りを始めた。

 随分昔にもらったらしい、真っ赤なイチゴの色をしたキャンディの中に、白いクリームが渦を巻いているおもちゃ。但し勿論、舐めて甘味を噛みしめることは出来ない。

 それを魔法のステッキのように振り回しながら、女の子は話す。

 

「昔々あるところに、仲の良い家族がおりました。

 お父さんとお母さんと、その娘。3人は貧しくも、仲睦まじく暮らしていました。

 ところがある日、お母さんが病気になると、お父さんは家を出て行ってしまいました。

 そのままお母さんは帰らぬ人となり、娘は親戚の家に引き取られ、お父さんを恨んだまま十数年を過ごしました。

 しかし、成長した娘がある日森へ出かけると、その奥深くで奇妙なドクロを見つけました。

 何故かそのそばにはお父さんのペンダントが落ちていて、周りには病気を治す薬草がいっぱいに生えておりました。

 そう──お父さんは、家族を見捨てたのではない。

 お母さんを治す為、薬草を探して森で迷いに迷い、そして──」

「帰らぬ人となっていた、か」

 

 年の割に意味深な話をする女の子を、カズイはまじまじと見つめる。

 

「君のお父さん、結構スゴイ話するね。

 それとサイと、何か関係が?」

「カズイとサイの話聞いたら、何となく思い出しただけ」

 

 そこまで言うと、彼女はうなだれる。

 

「私のお父さんも、いつの間にかいなくなっちゃった。

 ここにいる子は、大体そう。だから多分サイも……」

「ちょっと待てよ」隣にいた男の子が彼女をたしなめた。

「それ、あんまり大声で言わない方がいいぜ」

「何故?」

 

 さらにその奥にいた別の男の子が、見回りを続ける連合兵の方をチラ見しつつ、さらに小声になる。

 

「何故って……

 もしカズイの言う通りだったらさ。今の話、奴らに聞かれてみろよ」

「そうだよ。サイのやってること、全部無駄になっちまう」

 

 ここの子供たちは年齢よりもやや大人びており、警戒心もそれなりに強い。

 そうしなければやっていけない場所だからであり、また彼らは生まれながらに、そうしなければ生きていけない境遇下にあった。

 多くは中立支持者、及び戦争反対派の子供であり、中にはハーフコーディネイターの子供さえいる。だからこそ、カズイも彼らを信頼してサイの件を話すことが出来たのだが。

 そして彼らは最悪、連合軍の施設に連れていかれて実験体にされるなどという、まことしやかな噂すらあった。

 

「だとしたら……

 トノムラはもう、気づいてるんじゃないかな」

 

 女の子は呟いた。「私たちに分かることが、あいつに分からないとは思えない。

 そのぐらい、危ない奴だよ」

「……昔は、そうじゃなかったんだけどね」

 

 カズイはポケットから、玩具ではない本物の飴玉を取り出すと、お礼がわりに女の子に渡した。

 

「考えるよ──

 どちらにせよ、このままじゃサイも俺も参っちまう。

 アスハ代表の助けばかり、期待するわけにもいかないしね」

 

 

 

 

 

 

 所はオーブ。オロファトの首相官邸。

 

「どういう事だ! 

 北チュウザンに、キラが……!?」

 

 ラミアスからの連絡を受け、カガリ・ユラ・アスハは思わず勢いよく立ち上がる。

 キサカが落ち着くよう諌めたが、彼女は止まらない。

 

「あれだけ、誘いには乗るなと言っておいたのに……馬鹿が!!」

 

 普段無表情なはずのキサカも、明らかに困惑の面持ちで首を振る。

 

「ラクス嬢、そしてバルトフェルド。

 配下のダコスタの部隊も北チュウザンに現れ──忽然と姿を消した。

 ウーチバラ周辺宙域に留まっていたエターナルも、同様に……

 何という」

「こんな時に!」カガリは苛立たしげに、ドッカリ腰を下ろす。

「キラたちの捜索を急がせろ。

 全く、エターナルも……あの宙域で、何をしていたんだ」

「南チュウザン経由の貨物が、大量輸送されていたらしい。確認に向かっていたようだ」

「アークエンジェルは無事だな」

 

 目配せするカガリ。すぐにキサカは頷く。

 その時、不意に執務室の扉が開いた。

 カガリの前に現れたのは、一組の若い男女。

 

「ミリアリアに……アスラン? 

 こんな処で何を」

「カガリ! 

 すぐに俺を、南チュウザンに行かせてくれっ」

 

 アスランは髪を激しく振り乱し、いきなりカガリにくってかかる。

 まるで彼女が親の仇でもあるかのような勢いだ。

 慌ててミリアリアが止めたが、彼はその手を振り払い、机に両拳を叩きつける。

 

「キラが……ラクスまで! 

 あいつらがどうして、チュウザンの争いに巻き込まれなきゃならない!? 

 どうしてキラが!!」

 

 猛るアスランを前に、カガリは急に自身が冷静になっていくのを感じた。

 やっぱり彼は、何のかんのあってもキラが大切なんだな──

 その熱情は大事だが、今、全員が激するのはまずい。

 

 カガリは落ち着きを幾分か取り戻し、アスランに告げた。

 

「キラとラクスは、自ら現地へ向かった。

 それは、ラミアスからの報告でも明らかだ」

 

 

 アスランと一緒に混乱したのでは、恐らく奴らの思う壺だ。

 考えろ。考えるんだ──

 今、自分が為すべきことは何だ。

 そして、これから起ころうとしていることは何だ? 

 

 

「キラとラクスはバルトフェルドたちと共に、何らかのテロに巻き込まれた。恐らく、エターナルやストライクフリーダムごと。

 だが、サイの情報から判断して、タロミ・チャチャがキラたちの力を利用しようとしていることは間違いない。特にラクス・クラインの政治力とカリスマは──

 それを考えれば、キラたちは生存している可能性が高い。タロミの手に囚われた可能性も高いがな。

 それに、アスラン。サイの話を聞いていなかったのか? 

 お前が行けば、確実に奴らに絡めとられる。お前もターゲットの一人だろう」

「だから黙っていろと!?」

 

 カガリの落ち着きに、アスランはさらに沸騰する。

 

「みすみす、手をこまねいているわけには!」

「勿論、黙ってなどいない」

 

 カガリはつと立ち上がり、靴音を響かせながら部屋を横切る。

 

「南チュウザンの動き──

 どうにも散発的過ぎる。まるで、指導者が複数いるかのような違和感がある」

 

 ミリアリアが首を傾げた。

 

「全体的に、統率が取れていないと?」

「フレイの演説と同時に行われた、テロ映像の公開が典型例だ。

 あれについてはサイも疑問視していた──というか、サイに気づかされたんだがな。

 タロミの意思ではなく、その下で複数の勢力が絡み合っている印象すら受ける。

 そもそも、これまでタロミ・チャチャなる人物が、表舞台に出たことがあるか? 

『神の復活』宣言にしても、写真と文字ベースの報道で流れただけだ。映像や音声はどこにも出ていない」

「そんな訳の分からない場所に、アスランを行かせるわけにはいかない……

 そういうこと、ですか?」

「そうだ。

 それに、サイたちのことも気になる──というよりも連合の動きが、だがな。

 ロゴス壊滅により連合も大幅に力を失ったとはいえ、未だ絶対的勢力の一端。

 このまま、チュウザンの横暴を見過ごしているとは思えない。だからこそ……」

 

 ミリアリアはカガリの思惑に気づき、息を呑む。

 

「だから、フレイの婚約者だったサイを人質にした!?」

「私はそう考えている。

 これまで連合には散々、お前たちやサイ、そしてアークエンジェルの件で色々言われてはいたが、実力行使に出られたことはないからな。

 今になって、サイを捕らえるなど──それ以外に目的は考えられん」

 

 アスランもそこでようやく落ち着きを取り戻し、暫し考え込んだ。

 

「連合は、フレイ・アルスターの動きを待っている……か」

「そうだ。

 だが――おめおめと出てくる相手かどうか」

 

 しかしその時、妙な確信をもって、ミリアリアが言い放った。

 

「私は、動くと思います。フレイは」

「何故そう思う?」

「女の勘です」

 

 即答するミリアリア。

 そんな彼女に、カガリは少しだけ微笑んだ。

 

「奇遇だな……

 私の予測も、女の勘だ」

 

 

 

 

 

 

 カズイたちが囚われ、10日が経過したある日。

 やっと長時間の農作業が終わった後の夕暮れ──

 狭いバラックの床で横になっていたカズイは、何やら酷い煙と石油の臭いに気づいた。

 

「火事だぁあっ!!」

 

 同居人たちの叫びに、転がるように外へ飛び出していくカズイ。

 あたりを見回すと、ひしめく粗末なバラックの一角から、黒い煙がごうごうと上がっていた。

 炎の粉が花火の如く舞い上がっている。

 

「!?」

 

 あれは確か、子供たちが集団で住んでいたはずのバラックだ──

 反射的にカズイは走り出して彼らの元へ向かったが、燃えるバラックの周辺は既に、何故か連合兵により立ち入り禁止となっていた。

 数日前、カズイが子供たちと言葉を交わしたはずの建物は、奇妙に勢いよく炎を上げていた。まるで噴火でも起こしたように。

 

「……そんな」

 

 子供たちの姿は──どこにもない。

 炎の周りを連合兵たちが、何者も逃がすまいとして取り囲んでいる。

 その兵士たちを先導していたのは勿論──トノムラ。

 

 

 何故。

 何故。一体、どうして──

 カズイの中で、壮絶な勢いで疑問だけがぐるぐる回る。

 トノムラが何をしたのか、もうカズイには分かっていた。

 

 

 カズイの横から猛然と走り出て、絶叫する一人の女。

 

「レイリィーーーーーーーッッ!!! 

 どうして、どうしてエェ!? あの子は何処なの、レイリィーーーッ!!!」

 

 彼女はその身を捨てて、炎の中へ突っ込んでいこうとする。

 だがトノムラが無言で彼女に視線を向けると、兵士たちが一斉に駆け寄ってきて女を羽交い絞めにした。

 子供たちの誰かの母親であろうか。発狂寸前のその女はさらに暴れまくり、目を剥いてトノムラを罵る。

 

「あんた……何てことを! 

 子供たちが何をしたんだい。レイリィが、一体何をしたっていうんだ!?」

 

 最早老婆の如く顔をしわくちゃにして、炎の前でひれ伏し、女は泣き叫ぶ。

 

「これが、これがヒトのやることか! 

 レイリィ、あぁああああああああああ!!!」

「新型の病原菌が、この棟から発生した」

 

 トノムラは当然のように、顔色一つ変えず告げる。

 

「早急に確実な対応が求められる。

 貴様はこの収容所を壊滅させろというのか」

「レイリィを、レイリィを返せ! この人殺し!」

 

 当たり前だが女は全く聞く耳を持たず、暴れ狂うだけだ。

 そんな母親の額に、トノムラは冷たい銃口を突きつける。

 

 

「抵抗するなら──」

 

 

 燃え上がるバラックの裏口のあたりでは、既に焼け落ちた建材が瓦礫の山となり。

 その下からはあの、キャンディのおもちゃが煙の間から見え隠れした──

 渦巻き型のキャンディを持ったままの、女の子の手のひらも。

 どんなに舐めても溶けなかったはずのおもちゃのキャンディは今、熱で黒く醜く、溶け崩れていた。

 

 

 その瞬間。

 カズイの中で、何か熱いものが猛然と湧きあがる。

 それは、彼の生涯で初めてと言える経験だったかも知れない。

 ――恐怖を超えるほどの、怒りは。

 

 

 サイはいない。

 今、頼れるものは何もない。

 大人たちは諦めたようにうなだれて状況を眺めているだけで、誰も抵抗しようとしない。

 抵抗すれば殺されるだけ。

 子供たちもこうして、あっけなく死んでしまった。

 人の命がまるで、塵芥よりあっけなく吹き飛ばされていく世界。それが当たり前の世界。

 

 ──俺たちの命は、こんなにも軽い。

 子供たちも、俺も、サイも、この母親も、大人たちも。

 トノムラや連合兵の命ですら、この世界にしてみれば紙屑より軽いだろう。

 

 だけど。

 だからこそ、カズイの中で何かが燃える。

 ──どんなに軽くたって、命は命だろ。

 

 

「ま……

 ま、待ってくださいよ!」

 

 

 カズイは自らの中に湧き出た、得体の知れない意思に押されるように進み出ていた。

 泣き叫び続ける母親を、庇うようにして。

 それだけで、連合兵の銃口が一斉に彼に向けられる。銃が構えられる音だけで、カズイは震えあがり立ちすくんでしまったが。

 

 ──銃口の奥には、何もない闇。

 もしそこに光が見えたら、その時が自分の終わりだ。

 

「……抵抗するのか。貴様も」

 

 トノムラは兵士たちを制しつつ、ゴミでも見るようにカズイを眺める。

 

「いいだろう。

 カズイ・バスカーク。軍務妨害の罪により、尋問を行なう。連れていけ。

 他の者はすぐ、持ち場に戻れ!!」

 

 トノムラがそう告げた瞬間――

 カズイは泣き喚く母親と同様に、兵士たちに両脇と頭を押さえつけられ、思い切り地面に額を打った。

 砂塵と煙のひどい臭いが、鼻孔をつく。

 ほんの少し血の臭いが混じった、そんな気がした。

 

 

 

 

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