【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part2 奇跡の再会は苦渋に満ちて

 

 

 サイが一歩、足を踏み入れると──

 そこはいつか見た、不可思議な闇に包まれた、宇宙にも似た空間だった。

 扉が音もなく閉められると、足元の床が消失し、まるで無重力であるかのような錯覚が襲ってくる。

 身体の周囲を一気に、流星にも似た小さな光がいくつも駆け抜ける。

 その光はやがて少しずつ大きくなり、花びらのような輪郭を形成していく。

 やがて、それが色づいていく──血のような紅に。

 

 サイは気づいた。

 ──これは、あの空間だ。フレイがフレイじゃないと明かされた時の。

 ヤエセの、あのプラネタリウムとほぼ同じだ。

 

 彼はゆっくりと、闇の中に足を踏み出す。

 すると、前方にぼんやりと誰かの姿が見えてきた。

 

 紅の長い髪。薄い水色のロングドレス。

 剥き出しになった両腕もうなじも、ほのかに青白い。

 胸元のネックレスに嵌められた小さなアメジストが、闇の中で妖しく輝いた。

 亡霊のようにも見えた彼女は、やがてサイを振り向く。

 薄い灰色の瞳。

 

 それを確認してサイは一つ、ため息をついた。

 

「間違いなく、君だね。

 フレイ・アルスター」

「久しぶりだな。

 サイ・アーガイル」

 

 約三か月ぶりの、二人の再会──

 だが、残念だ。

 記念すべきこの奇跡の再会が、これほどまでに憎悪に満ちたものになるとは。

 

 

 

 

 

 

「ずっと、聞きたかった。

 何故、アマミキョを沈めた? 

 何故、みんなを殺そうとした? 

 南チュウザン代表を名乗り、一方的に北チュウザンへ攻め込むのみならず、多くの国へ喧嘩を売るような真似をするのは何故だ? 

 君は今、世界中を敵に回しているんだぞ!」

 

 サイの質問には、直接答えることなく──

 フレイ・アルスターは、ただじっと彼を冷たく見据えたまま、言った。

 いつの間にか二人の距離は、手を伸ばせば届くほどまで近づいている。

 

「ジョージ・グレンによる地球外生命体の発見。

 及び、それに続くパレスティナ公会議で宗教界の権威が失墜したことにより、世界から神は失われた。あらゆる宗教が否定される形で──

 史実には、そう記されているのは知っているな」

「今、歴史の授業を聞いている余裕はない」

「そう急くな。

 あの会議の主目的は、神を秘密裏に殺すことだった。

 西暦時代から続く度重なる宗教戦争により、人は疲れ果てていたからな」

「殺す? 神を?」

「コーディネイターの出現により、人類は神を超える進化を始めた。

 人が、神など要らぬと叫んだ時代だ。

 既に神は不要とする人々の手により──

 あらゆる宗教指導者たちが、会議の直後から、紛争により意図的に歴史から消された。

 それだけではない。信者たちもまた、殆どが紛争に駆り出され、もしくは大量破壊兵器の犠牲となり、壊滅した」

 

 サイの心情を知ってか知らずか、滔々と語り続けるフレイ。

 

「争いの中で命を落とした指導者は、大概の場合信者から、殉教者として祀り上げられる。そして宗教の勢力そのものはさらに拡大する。それが、宗教戦争が泥沼化する一因でもあった。

 だが、その信者さえも消えてしまえば──

 後は、何も残らない。

 神が消えたという事実があるだけだ」

「それが、パレスティナ公会議の真相だとでも言うつもりか」

「つもりではなく、真相だ」

「では、それが真実だとしよう。

 今、何故チュウザンは──君は、神を復権させようとしている?」

「人には神が必要だ。信じるものが。

 お前も、先の大戦を見ただろう? つい数か月前の、ディスティニープランを巡る騒乱も。

 神の不在により、多くの人々が、人の死に方ではない死に方をした光景を」

 

 サイの拳が、静かに握りしめられる。

 

「……神が健在ならば、あのような惨劇は防げたとでも言うつもりか? 

 神がいたから、人はその倫理を外れ、どんな卑しい手段にも出た。それが、血で血を洗う宗教戦争だったと──

 神の名の元に、人はどんな殺戮でも行なったと!! 

 俺は、そう習ったが?」

「それは違う。

 そんな旧時代においても、人道はあった。神を信じることで、人は人でいられた。

 神さえいれば、人は倫理を外れなかった──

 タロミ・チャチャは、そう考えている」

「つまり、俺が受けた授業とは真逆の考えってことか。タロミは」

「だから新たな神となり、人を導くものが必要だと──」

「それが、SEEDを持つ者たちということか? 

 キラやラクスさんを神に仕立て上げ、自分は神官となり裏で彼らを操るのが、タロミ・チャチャの目的か?」

 

 フレイは、唇に笑みすらたたえてしれっと言い放つ。

 

「よく調べたようだな。流石だよ」

 

 その白々しさがさらにサイを苛立たせたが、彼女はなおも聞いてきた。

 

「トール・ケーニヒや、アマクサ組の者らの正体は知っているか?」

「予想はしているが、当たってほしくないと思ってる。

 SEEDを持つ者たちを集める為に、死者から造られた人間──ってとこか?」

 

 否定で答えてほしかったが、フレイはあっけなく肯定で答える。

 

「ご明察だな」

 

 思い切りため息をつきかけ、サイはどうにかその感傷を喉元で抑えた。

 

「収容所で、考えを巡らせる時間は結構あったもんでね。

 SEEDを持つ者たちと縁の深い死者たちに似せて、死者の人となりなどのデータを収集し、完璧なまでの演技でSEED持ちたちの心を揺さぶり、取り込む為の、死神部隊。

 その筆頭が君、ってわけかい?」

「訂正すべき点が何もないとは、驚きだ」

 

 訂正してほしかった。というか、真っ向から否定して欲しかったがな。

 右の拳がいつのまにか、血が出るほどに握りしめられる。

 

「死者の復活は、何よりも人の心を揺さぶる──たとえそれが、偽りであろうとも。

 死神部隊の目的は、単にSEED持ち集めだけに留まらない。君たちの存在そのものが、人にとっては奇跡であり、脅威だからね。

 君たちは多分、南チュウザンの宣伝部隊の役割も担っているんだろう──

 でも、倫理を取り戻すと言いながら倫理から外れているのは、君たちの方じゃないのかい」

 

 フレイの矛盾を突いたサイだったが、それでも彼女の表情は崩れない。

 

「人道に外れる行為を成すのが、歴史上、私たちが最後になると言ったら?」

「へぇ……」

 

 サイの唇の端が、笑いの形に歪む。あまりの怒りで。

 

「タロミ・チャチャを始めとして、君たち全員が外道となりその罪を被って──

 その結果、人類は平和になるとでも? 

 アマミキョを潰したのは、その一環にすぎなかったと!? 

 馬鹿げた妄想だ」

「馬鹿げた妄想はどちらかな。

 死神部隊とやらのお前の推測は正しいが、どうやってそれを実現出来たのか、何も立証出来てはいないだろう? 

 何故、何から何まで死者とそっくりの人間を、我々が用意出来たのか」

「クローン技術の使用、じゃないのか?」

「似ているようだが、違う。

 正確には、カーボンヒューマンと呼ばれる技術によるものだ」

 

 カーボンヒューマン──

 サイには聞き覚えがあった。伊能から受け取った、広瀬少尉から命がけで齎された報告書。

 その中に、その忌まわしい単語は存在した。

 

「知っているよ。

 クローンでは寿命の問題がある。だから君たちは、とある組織から提供された、カーボンヒューマンの技術を使っている。

 蓄積された特定の人物の情報に基づき、記憶や遺伝子などのパーソナルデータを、全くの別人に植え付けることで生み出されるモノだ。

 特に、遺伝情報の入手がたやすいコーディネイターなら、正確なコピーが出来る。

 情報さえ豊富であれば、身体の完全なコピーだけでなく、感情や記憶の再現すら可能なようだな。

 ……吐き気がする」

「全く、勉強家だなお前は。満点に近い回答だよ」

 

 本当に嬉しそうに、屈託なく笑うフレイ。だが勿論、サイに相好を崩す気はない。

 ──今、君はどういう話をしているのか、分かっているのか。

 

「ただ、疑問はある。

 パーソナルデータを植え付けるには、その為の身体が必要だ。

 君たちは……いわゆる『移植先』を、どうやって用意した?」

 

 サイは言葉を選びつつ、懸命に怒りを抑える。

 だが、フレイは飄々としたものだった。

 

「何かと思えば、単純な質問だな。

 安心しろ。どこかで普通に生活している人間を拉致して無理矢理、というわけではない」

「それをしていたら、最早絶対に君たちを許せなくなるところだったよ。

 でも、そうじゃないことは分かってる。なら、君たちの方法は……」

「南チュウザンは貧しい国だが、人口は多い。

 避妊や堕胎の技術はあれど、市井の者が利用するには金がかかる。

 ここまで言えば──後は、分かるな?」

 

 

 考えたくもないが、考えるまでもないことだった。

 恐らく、捨てられた子供を──もしくは、育てられないと分かっている腹の中の子を、胎児の段階から──

 

 

 サイは歯を食いしばる。

 チュウザンの親たちは、自らの子供を、国に売った。

 その身体どころか、存在も、魂も、全て。

 そして出来上がったのが、既に死んだはずの者たちの名と身体と記憶を持ち、人を翻弄する者たち。

 

 

 だが、サイにはまだ分からない。

 何故──

 何故、フレイが、そんなものに加担している? 

 

「君は、そんな外道を最も嫌う人間だと思っていた」

 

 憤怒を抑えるのが精いっぱいの、サイの震え声。

 その言葉にも、フレイは用意された答案を読み上げるかのように、淡々としたものだった。

 

「個人の好き嫌いの問題ではない。

 私はタロミ・チャチャの第三王妃。同時に──

 フレイ・アルスターの名を持つ者として、『連合とザフトの間で運命を弄ばれつつも、奇跡の復活を果たした英雄の乙女』としての、宣伝塔の役割を担っている。

 それと引き換えに、あらゆる自由も保障されているがな。浮気の自由、怠惰の自由、思想の自由はもとより──

 重婚の自由も」

 

 音もなくサイに近づき、そっと唇を近づけるフレイ。

 ドレスの衣擦れの音が小気味よく響く。薔薇のほのかな香り。

 豊かな胸の間で、アメジストの首飾りが揺れる。

 

「それも、タロミ・チャチャの導く未来を創造する為。

 人を、人道に戻す為に。

 人倫を外れた我らが、人の未来の礎となるSEED部隊を導く――

 皮肉だとは思わないか」

 

 

 信じたくない。

 信じられない。

 命をかけてアマミキョを導き守っていたのは、全てその為だったというのか。

 キラにあのような形で接触したのも、全てその為なのか。

 

 

 フレイはさらに、サイの心に突き刺さる言葉を吐く。

 

「その筆頭が私であり、マユ・アスカだ」

「マユ……が?!」

「彼女は今、我々の先鋒として戦っている──なかなかの戦士となったぞ」

「じゃあ……」

 

 やはり、チュウザンや各地を破壊して回っている紅のストライクフリーダムは、彼女なのか。

 いや、正確には彼女はマユではない。

「チグサ・マナベ」なる、元少女兵だ。広瀬の報告書によれば。

 心優しい少女に成長したと思っていたマユ・アスカは、殺戮を繰り返す凶暴な「チグサ・マナベ」に、呆気なく書き換えられてしまったのか。

 目の前の、紅の髪の女によって。

 

 ──ならば。

 サイの中で、どうしても尋ねておきたいことが一つ、残っていた。

 

「ナオトは──

 ナオト・シライシは、どうした? あいつは……」

「あの子供なら、死んだ」

「……は?」

 

 身体中を、予想以上に大きな衝撃が駆け抜ける。

 ナオトは既に殺されているかも知れない。それは想定したくはなかったが、客観的に見れば想定せざるを得ない状況だった。

 

 しかし、でも、あいつは──

 あいつは言ってたじゃないか。

 

 ――僕、必ず戻ってきますから。

 ――必ず、パワーアップしたティーダで、サイさんのところに戻りますから。

 

 幼さと純真さから出たであろう、あの別れの言葉。

 それに無意識に縋りついていた自分に気づき、サイは内心驚いた。

 動揺を隠せないその耳に、さらにフレイは囁く。

 

 

「状況を知りたいか? 

 私が、殺した」

 

 

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