【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
※ほんの僅かですが、同性同士の性的暴行を示唆する描写があります。苦手なかたはご注意ください。
――私が、殺した?
サイには意味が分からない。分かりたくない。
ナオトは母親と一緒に、フレイに連れられて──
そして──どうなった?
心音が跳ね上がる。
頼むから、その先を言わないでくれ──
「連合の山神隊・広瀬を覚えているか?
奴に唆され、ナオト・シライシはセレブレイト・ウェイヴシステムの中枢に触れた。
やむを得ない措置だった」
措置……って、何だ?
君は何を言っているんだ。やむを得ず、ナオトを殺しただと?
「私はセレブレイト・ウェイヴシステム起動の為、マユ・アスカをシステムに組み込んだ。
それを解除しようと、ナオト・シライシは広瀬と共に、モビルスーツを使って所内で暴動を起こした。
結果、システムは暴走寸前の状態に陥った。
その過程で、カイキ・マナベ、そして、マスミ・シライシも落命した。
よって、私がナオト・シライシと広瀬を処分した」
では──死んだのか。
ナオトも。
カイキも、マスミ・シライシも。
絶望的状況ながらも、伊能がひたすら生存を信じていた、広瀬少尉も。
セレブレイト・ウェイヴについての全貌は不明だが、伊能から託された広瀬の報告書によって、サイもある程度は把握していた。
少なくとも、ティーダパイロットの素養があるマユ・アスカが起動キーとして使われることぐらいは。
――だとすると、アマミキョであの夜、俺たちが感じたあの光は。
シネリキョの爆発事故、その真相は。
「君は……
アマミキョや俺たちのみならず──
マユまで利用して、ナオトを殺したってのか」
「その通りだ」
──否定してほしかった。
みっともなくてもいい。未練がましくてもいい。
どんな形であってもいいから、何らかの弁解が欲しかったのに。
自分の本意ではなかったとか、少しでもいいから、言ってほしかったのに。
フレイから返ってきたものは、何の感傷もない、完全肯定。
「セレブレイト・ウェイヴの完成により、ティーダもあの子供も不要となった。
そのまま大人しくしていれば、まだ実験台としての価値もあったが──
必要以上に中枢部へ首を突っ込み、暴走した」
「だから殺したってのか!」
サイは思わず、目の前の女――そのドレスの襟ぐりを両手で掴む。
フリルがちぎれるかという勢いで。
「嘘だと言え……
嘘だと言えよ!!」
いや、嘘じゃなくてもいい。
ナオトを殺したのも、アマミキョを沈めたのも、俺たちを実験台にしたのも。
全て、自分の本意じゃなかったと──
せめて、それだけでも。
――それでも。
フレイは決して、サイの求める答えを返さなかった。
「それは出来ないな。
我が未来の夫に、嘘はつけない」
「ふざけるな!」
もう少し前に出れば接吻が可能な距離で、サイとフレイの視線が激突し火花を散らす。
笑いの形に歪む、女の唇。
「私はアマミキョを散々利用し、ティーダとそのパイロットを利用し、最後には全て捨てて破壊した。
これが、私の真実だ。
それでもお前は、受け入れられるか? サイ・アーガイル」
──話をすれば、分かるかも知れないと思っていた。
会って話さえすれば、フレイに対する誤解がとけ、その行動もやむを得ないものだったと、納得出来るかも知れないと──
心のどこかで、俺はそんな甘い期待を抱いていた。
だが、明かされたのは、絶望的なまでに真っ黒く、人の道を外れた、狂った女の姿。
否定どころか弁解の一つすらしないのは、このフレイらしいのかも知れない。
だが、俺は──
精一杯の否定と弁解を求めていた。
俺は話をしたかったんじゃない。ただ、フレイから、弁解の言葉を聞きたかっただけだった。
そんな俺の甘さと情けなさを、真っ向からこの女は破壊してのけた。
「……いつか言ってたな、君は。
君を好きな気持ちの分だけ、俺は君を憎むって」
フレイの眼を、まともに見られない。
彼女の襟を握りしめた両手に、さらに力がこもる──
殴ろうと思えば殴ることも出来た。だが、それだけはやらない。
俺は、それだけは――
そんなサイの心さえも突き放すような、フレイの言葉。
「その通りに、なったようだな」
サイは消え入るような声を絞り出し、肯定せざるを得ない。
「……ホントだよ」
何だったんだ。
一体、何だったんだ。
俺が、ここまでやってきた意味は。
俺がここまで、この女を追ってきた意味は。
何もないじゃないか。
何もないどころか、俺はこの女に利用されるだけ利用され。
ナオトもマユも守れず、ただひたすらに人を傷つけ、死なせて……!!
ところが、次にフレイが発したのは、思いもかけない一言。
「サイ。
私の、お前への気持ちは──
変わってはいない」
「……何を言いだすんだよ。
何を、今更!」
「言ったはずだぞ。我が未来の夫、と」
言うが早いかフレイは、そっとサイの腰のあたりへ、細い手を回す。
それだけで、情けなくも──
両腕の力が、ほんの少し抜けてしまった。
その機を逃さず、フレイはあっという間に彼の両手首を掴み取る。
「ふ、ふざけるな!
お前……っ!!」
一瞬の隙をつかれた。
フレイの白い手は、サイの手首を簡単にねじり上げ──
唇が塞がれる。女の唇によって。
優しくはない。強くねじ伏せるが如き、再会の接吻。
それ以上の抵抗を、甘い薔薇の香りと腕力で、強引に抑え込まれてしまう。
眼前で揺れる、アメジストの小さな煌き。そのまま口腔に侵入してくる、女の舌。
サイの全てを絡め取ろうとする、舌の動き。
──違う。
サイの中で、再び忌まわしい記憶が蘇る。
──これは違う。絶対に違う。
こんなもの、あの時と一緒じゃないか!!
それは、収容所の寒空の下、無理矢理男に汚されかけた記憶。
泥まみれにされた俺の身体を、奴は無遠慮に撫で回して──
俺の傷までほじくり返し、悲鳴を上げ続ける俺を、奴は嗤いながら押さえ込んだ。
そして、顔と言わず口内と言わず──
もう、思い出したくない。
容赦ないトノムラ軍曹の銃弾がなければ、俺は──
──フレイと、再び会えたのに。
これほどの失望を、憎しみを、彼女に感じてしまうなんて。
あの狂った男と同じものを、彼女に感じてしまうなんて。
「……サイ?」
彼の中の酷い拒絶を感じたのか。
フレイはふと唇から、サイを引き剥がした。そしてじっと彼を見つめる。
自分をまっすぐ見つめてくる彼女の灰色の瞳に、狂気は何も感じられない。
いや。狂気を感じ取らせないからこそ、真の狂人なのか。
「──サイ。今一度言う。
私の夫となれ」
それはずっと、フレイから待ち望んでいたはずの言葉。
自分がフレイにかけるつもりだった、言葉。
もう、絶対にフレイとの間で交わされるはずのなかった、言葉。
「お前にはずっと、私のそばにいて欲しい」
だが──
サイが返せる答えは、ただ一つ。
「……出来ない。
出来るわけない。
こんな気持ちのまま、君の願いに答えられるわけないだろ!」
心の底からの叫びが、こだまする。
それでもフレイは、淡々としたものだ。
その揺らがなさが、逆に憎しみさえかきたてる。
「願いではない。命令だ」
「命令だとしてもだよ!
俺に、そんな大切なこと、この状況で選べっていうのかよ!!」
大切な言葉だから──
もっと大切に、言ってほしかった。
それなのに、散々俺の心をかき乱した直後に、君は!!
そんなサイの心も知らず、フレイは言い放つ。
「拒否は出来ない。
そしてもうお前に、悩んでいる時間はない」
「は?」
――その言葉に、サイが顔を上げると。
周囲を満たしていた広大な銀河が、不意に切り替わる。
現実の、宇宙の景色に。
それが現実だと分かったのは、自分の眼前に、突然シリンダ型コロニーの巨大な威容が現れたからだ。
宇宙で輝く蛍光灯にも似た、白く輝くコロニー。
あれは──
大分、改装されてはいるが──
「まさか……コロニー・ウーチバラか?」
「その通り。
サイ・アーガイル。よく聞くがいい。
今から説明することは、幻想でも妄想でもない。現実だ」
所はカーペンタリア基地。
ザフト地上施設たるこの場所へ戻ってきたミネルバJr、そのハンガー最奥部。
「あのズタボロセイバーが、ここまで修復されたなんて。
さすがはマッドさんねぇ」
他から隔離され、1機のみで静かに屹立しているモビルスーツ。
それをキャットウォークから見上げつつ、ルナマリアが腕組みしていた。
セイバーと彼女は言ったものの、VPS装甲はかつての紅とはまるで違う純白に輝いている。形状自体はセイバーのものだが、受ける印象が全く違った。
横からヴィーノが口を出す。
「それもあるけど──
ヨウランにも、感謝しないと。
ここまであのシステムをセイバーに組みこめたのって、あいつの研究のおかげだし」
少し俯いてしまったヴィーノに、ルナマリアは励ますように微笑んだ。
「インパルスもデスティニーも、万全じゃないから……
本当に助かったわよ。セイバーがここまで修復してくれて」
彼女に言われ、ヴィーノも少しだけ、取り繕ったような笑顔になる。
「正確には、もうセイバーとは言えないね。
ティーダ・Z(ズィー)と言ってほしいな」
「ティーダ……Z?」
「ナオトを拾った時、一緒に拾った黒ハロがあっただろ? あいつが、何よりもの鍵だったんだ。
ハロから抜き出したブック・オブ・レヴェレイションシステムを組み込み、
システムにも少しばかり改良を加えてる。大きな変更はとりあえず、変形機構がオミットされたことかな。
詳しくは、ルナのパイロット登録を終えたら話すけど──」
手元のコンパクトモニターを眺めながら語るヴィーノの声には、抑揚も快活さもない。
――いつも一緒にいたヨウランがあんなことになっては、当然だろう。
いくら死んでいないとはいえ、あれは惨いものだ。恐らくヴィーノは、今アスランやアークエンジェルの人間と会ったら、刺し殺してもおかしくない。
──そこまでルナマリアが考えた時。
出入口のあたりで、何かが激しく倒れる音がした。
彼女とヴィーノが振り向くより先に響いたものは、いつもはもの静かなはずのオペレータ、アビー・ウィンザーの悲鳴。
「ちょっと、何をやっているの!?
まだ動いちゃいけないはずでしょう」
見るとそこには、点滴台をつけっぱなしでばったり倒れている、ナオト・シライシの姿があった。
治りかけの身体をおして、ここまで一人で歩いてきたらしい。
ルナマリアもヴィーノも慌てふためき、ナオトの元に駆け寄る。
「なんてことを!」「おい、大丈夫かよ!? 殆ど食事もしてないだろ?」
ナオトを助け起こしながら、アビーは厳しめにとりなす。
「本来、ここは民間人の立入を──
いえ、ザフトであっても限られた人間しか立入を許可されていない。
下手をすれば銃殺ものよ」
言いながら、ルナマリアを睨むアビーの目。
その眼光は雄弁に語っていた──何故、ちゃんと見張っていなかったのかと。
ルナマリアも意外だった。どうして、ナオトがこの場所まで──
ティーダのいる場所まで、一人でやって来られたのか。
思わずヴィーノを睨んだ彼女だったが、彼は慌ててその赤い頭をぶんぶん横に振るだけだ。
その肩越しに、ルナマリアは再び純白の機体を仰ぎ見る。
それが必然であるかのように、ただ静かにその場へ佇む、新生セイバーガンダム。
いや、新生ガンダム・ティーダと言うべきか。
──まさか、ティーダが呼んだ? ナオトを?
突拍子もない思いつきに、ルナマリアはその思考を振り払おうと頭を振る。
激しく息をつきながら、彼女の腕に縋りつくようにして、何かを訴えかけようとするナオト。
だがその声は、未だに言葉の形をなさなかった。無理に声を出そうとして、彼は咳き込んでしまう。
そんな少年の肩を軽く抱きながら、ルナマリアは呟いた。
「……アビー。お願いだから、このことは内密に」
「勿論そのつもりだし、もしバレても艦長なら許して下さるとは思うけど──
二度目はないと思って」
そう言いつつも、アビーは酷い咳を続けるナオトの背中を、不器用ではあるがゆっくり、さすっていた。
ミネルバJrの中で、ナオトの立場は非常に弱い。
ただでさえオーブの民間人である上に、ハーフコーディネイターだ。
ルナマリアやシン、ヴィーノといった顔見知りは、今は特に支障なくナオトを受け入れているものの、まだ乗員の中にはナオトをあからさまに蔑視する者も少なくない。
そんな中アビーは、ナオトを近すぎず遠すぎず、適度な距離を保ちつつ冷静に見守っている数少ない人間だった。
「それよりも──緊急連絡です」
アビーは立ち上がり、まっすぐにルナマリアとヴィーノの二人を見据えて言った。
「正体不明の巨大戦艦が、ベンガル湾北端より浮上。
北チュウザンに向けて発進したとの情報です。ミネルバJrにも出撃命令が出ました」
「出撃!? 今?」
思わず素っ頓狂に叫んでしまったルナマリアに、あくまで冷徹にアビーは伝えた。
「恐らく、所属はタロミ・チャチャの南チュウザン。北チュウザンへの侵攻部隊と推測されます。
北チュウザンが落ちてタロミの勢力が増せば、ここカーペンタリアも危うくなる──
既にシン・アスカはデスティニーの調整を始めているわ。貴方たちも急いで」