【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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※ほんの僅かですが、同性同士の性的暴行を示唆する描写があります。苦手なかたはご注意ください。




part3 彼女の真実――絶望と非道と

 

 

 ――私が、殺した?

 

 

 サイには意味が分からない。分かりたくない。

 ナオトは母親と一緒に、フレイに連れられて──

 そして──どうなった? 

 

 心音が跳ね上がる。

 頼むから、その先を言わないでくれ──

 

「連合の山神隊・広瀬を覚えているか? 

 奴に唆され、ナオト・シライシはセレブレイト・ウェイヴシステムの中枢に触れた。

 やむを得ない措置だった」

 

 措置……って、何だ? 

 君は何を言っているんだ。やむを得ず、ナオトを殺しただと? 

 

「私はセレブレイト・ウェイヴシステム起動の為、マユ・アスカをシステムに組み込んだ。

 それを解除しようと、ナオト・シライシは広瀬と共に、モビルスーツを使って所内で暴動を起こした。

 結果、システムは暴走寸前の状態に陥った。

 その過程で、カイキ・マナベ、そして、マスミ・シライシも落命した。

 よって、私がナオト・シライシと広瀬を処分した」

 

 

 では──死んだのか。

 ナオトも。

 カイキも、マスミ・シライシも。

 絶望的状況ながらも、伊能がひたすら生存を信じていた、広瀬少尉も。

 

 

 セレブレイト・ウェイヴについての全貌は不明だが、伊能から託された広瀬の報告書によって、サイもある程度は把握していた。

 少なくとも、ティーダパイロットの素養があるマユ・アスカが起動キーとして使われることぐらいは。

 

 ――だとすると、アマミキョであの夜、俺たちが感じたあの光は。

 シネリキョの爆発事故、その真相は。

 

 

「君は……

 アマミキョや俺たちのみならず──

 マユまで利用して、ナオトを殺したってのか」

「その通りだ」

 

 

 ──否定してほしかった。

 みっともなくてもいい。未練がましくてもいい。

 どんな形であってもいいから、何らかの弁解が欲しかったのに。

 自分の本意ではなかったとか、少しでもいいから、言ってほしかったのに。

 フレイから返ってきたものは、何の感傷もない、完全肯定。

 

 

「セレブレイト・ウェイヴの完成により、ティーダもあの子供も不要となった。

 そのまま大人しくしていれば、まだ実験台としての価値もあったが──

 必要以上に中枢部へ首を突っ込み、暴走した」

「だから殺したってのか!」

 

 サイは思わず、目の前の女――そのドレスの襟ぐりを両手で掴む。

 フリルがちぎれるかという勢いで。

 

「嘘だと言え……

 嘘だと言えよ!!」

 

 いや、嘘じゃなくてもいい。

 ナオトを殺したのも、アマミキョを沈めたのも、俺たちを実験台にしたのも。

 全て、自分の本意じゃなかったと──

 せめて、それだけでも。

 

 ――それでも。

 フレイは決して、サイの求める答えを返さなかった。

 

「それは出来ないな。

 我が未来の夫に、嘘はつけない」

「ふざけるな!」

 

 もう少し前に出れば接吻が可能な距離で、サイとフレイの視線が激突し火花を散らす。

 笑いの形に歪む、女の唇。

 

 

「私はアマミキョを散々利用し、ティーダとそのパイロットを利用し、最後には全て捨てて破壊した。

 これが、私の真実だ。

 それでもお前は、受け入れられるか? サイ・アーガイル」

 

 

 ──話をすれば、分かるかも知れないと思っていた。

 会って話さえすれば、フレイに対する誤解がとけ、その行動もやむを得ないものだったと、納得出来るかも知れないと──

 心のどこかで、俺はそんな甘い期待を抱いていた。

 だが、明かされたのは、絶望的なまでに真っ黒く、人の道を外れた、狂った女の姿。

 否定どころか弁解の一つすらしないのは、このフレイらしいのかも知れない。

 だが、俺は──

 精一杯の否定と弁解を求めていた。

 俺は話をしたかったんじゃない。ただ、フレイから、弁解の言葉を聞きたかっただけだった。

 そんな俺の甘さと情けなさを、真っ向からこの女は破壊してのけた。

 

 

「……いつか言ってたな、君は。

 君を好きな気持ちの分だけ、俺は君を憎むって」

 

 

 フレイの眼を、まともに見られない。

 彼女の襟を握りしめた両手に、さらに力がこもる──

 殴ろうと思えば殴ることも出来た。だが、それだけはやらない。

 俺は、それだけは――

 

 そんなサイの心さえも突き放すような、フレイの言葉。

 

「その通りに、なったようだな」

 

 サイは消え入るような声を絞り出し、肯定せざるを得ない。

 

「……ホントだよ」

 

 

 何だったんだ。

 一体、何だったんだ。

 俺が、ここまでやってきた意味は。

 俺がここまで、この女を追ってきた意味は。

 何もないじゃないか。

 何もないどころか、俺はこの女に利用されるだけ利用され。

 ナオトもマユも守れず、ただひたすらに人を傷つけ、死なせて……!!

 

 

 ところが、次にフレイが発したのは、思いもかけない一言。

 

 

「サイ。

 私の、お前への気持ちは──

 変わってはいない」

「……何を言いだすんだよ。

 何を、今更!」

「言ったはずだぞ。我が未来の夫、と」

 

 言うが早いかフレイは、そっとサイの腰のあたりへ、細い手を回す。

 それだけで、情けなくも──

 両腕の力が、ほんの少し抜けてしまった。

 その機を逃さず、フレイはあっという間に彼の両手首を掴み取る。

 

「ふ、ふざけるな! 

 お前……っ!!」

 

 一瞬の隙をつかれた。

 フレイの白い手は、サイの手首を簡単にねじり上げ──

 

 

 唇が塞がれる。女の唇によって。

 優しくはない。強くねじ伏せるが如き、再会の接吻。

 それ以上の抵抗を、甘い薔薇の香りと腕力で、強引に抑え込まれてしまう。

 眼前で揺れる、アメジストの小さな煌き。そのまま口腔に侵入してくる、女の舌。

 サイの全てを絡め取ろうとする、舌の動き。

 

 

 ──違う。

 サイの中で、再び忌まわしい記憶が蘇る。

 ──これは違う。絶対に違う。

 こんなもの、あの時と一緒じゃないか!! 

 

 

 それは、収容所の寒空の下、無理矢理男に汚されかけた記憶。

 泥まみれにされた俺の身体を、奴は無遠慮に撫で回して──

 俺の傷までほじくり返し、悲鳴を上げ続ける俺を、奴は嗤いながら押さえ込んだ。

 そして、顔と言わず口内と言わず──

 もう、思い出したくない。

 容赦ないトノムラ軍曹の銃弾がなければ、俺は──

 

 

 ──フレイと、再び会えたのに。

 これほどの失望を、憎しみを、彼女に感じてしまうなんて。

 あの狂った男と同じものを、彼女に感じてしまうなんて。

 

 

「……サイ?」

 

 

 彼の中の酷い拒絶を感じたのか。

 フレイはふと唇から、サイを引き剥がした。そしてじっと彼を見つめる。

 自分をまっすぐ見つめてくる彼女の灰色の瞳に、狂気は何も感じられない。

 いや。狂気を感じ取らせないからこそ、真の狂人なのか。

 

 

「──サイ。今一度言う。

 私の夫となれ」

 

 

 それはずっと、フレイから待ち望んでいたはずの言葉。

 自分がフレイにかけるつもりだった、言葉。

 もう、絶対にフレイとの間で交わされるはずのなかった、言葉。

 

 

「お前にはずっと、私のそばにいて欲しい」

 

 

 だが──

 サイが返せる答えは、ただ一つ。

 

 

「……出来ない。

 出来るわけない。

 こんな気持ちのまま、君の願いに答えられるわけないだろ!」

 

 

 心の底からの叫びが、こだまする。

 それでもフレイは、淡々としたものだ。

 その揺らがなさが、逆に憎しみさえかきたてる。

 

「願いではない。命令だ」

「命令だとしてもだよ! 

 俺に、そんな大切なこと、この状況で選べっていうのかよ!!」

 

 

 大切な言葉だから──

 もっと大切に、言ってほしかった。

 それなのに、散々俺の心をかき乱した直後に、君は!! 

 

 

 そんなサイの心も知らず、フレイは言い放つ。

 

「拒否は出来ない。

 そしてもうお前に、悩んでいる時間はない」

「は?」

 

 ――その言葉に、サイが顔を上げると。

 周囲を満たしていた広大な銀河が、不意に切り替わる。

 現実の、宇宙の景色に。

 それが現実だと分かったのは、自分の眼前に、突然シリンダ型コロニーの巨大な威容が現れたからだ。

 宇宙で輝く蛍光灯にも似た、白く輝くコロニー。

 

 あれは──

 大分、改装されてはいるが──

 

「まさか……コロニー・ウーチバラか?」

「その通り。

 サイ・アーガイル。よく聞くがいい。

 今から説明することは、幻想でも妄想でもない。現実だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 所はカーペンタリア基地。

 ザフト地上施設たるこの場所へ戻ってきたミネルバJr、そのハンガー最奥部。

 

「あのズタボロセイバーが、ここまで修復されたなんて。

 さすがはマッドさんねぇ」

 

 他から隔離され、1機のみで静かに屹立しているモビルスーツ。

 それをキャットウォークから見上げつつ、ルナマリアが腕組みしていた。

 セイバーと彼女は言ったものの、VPS装甲はかつての紅とはまるで違う純白に輝いている。形状自体はセイバーのものだが、受ける印象が全く違った。

 横からヴィーノが口を出す。

 

「それもあるけど──

 ヨウランにも、感謝しないと。

 ここまであのシステムをセイバーに組みこめたのって、あいつの研究のおかげだし」

 

 少し俯いてしまったヴィーノに、ルナマリアは励ますように微笑んだ。

 

「インパルスもデスティニーも、万全じゃないから……

 本当に助かったわよ。セイバーがここまで修復してくれて」

 

 彼女に言われ、ヴィーノも少しだけ、取り繕ったような笑顔になる。

 

「正確には、もうセイバーとは言えないね。

 ティーダ・Z(ズィー)と言ってほしいな」

「ティーダ……Z?」

「ナオトを拾った時、一緒に拾った黒ハロがあっただろ? あいつが、何よりもの鍵だったんだ。

 ハロから抜き出したブック・オブ・レヴェレイションシステムを組み込み、救世主(セイバー)の装甲を纏った、新たなるガンダム・ティーダ。

 システムにも少しばかり改良を加えてる。大きな変更はとりあえず、変形機構がオミットされたことかな。

 詳しくは、ルナのパイロット登録を終えたら話すけど──」

 

 手元のコンパクトモニターを眺めながら語るヴィーノの声には、抑揚も快活さもない。

 ――いつも一緒にいたヨウランがあんなことになっては、当然だろう。

 いくら死んでいないとはいえ、あれは惨いものだ。恐らくヴィーノは、今アスランやアークエンジェルの人間と会ったら、刺し殺してもおかしくない。

 

 ──そこまでルナマリアが考えた時。

 出入口のあたりで、何かが激しく倒れる音がした。

 彼女とヴィーノが振り向くより先に響いたものは、いつもはもの静かなはずのオペレータ、アビー・ウィンザーの悲鳴。

 

「ちょっと、何をやっているの!? 

 まだ動いちゃいけないはずでしょう」

 

 見るとそこには、点滴台をつけっぱなしでばったり倒れている、ナオト・シライシの姿があった。

 治りかけの身体をおして、ここまで一人で歩いてきたらしい。

 ルナマリアもヴィーノも慌てふためき、ナオトの元に駆け寄る。

 

「なんてことを!」「おい、大丈夫かよ!? 殆ど食事もしてないだろ?」

 

 ナオトを助け起こしながら、アビーは厳しめにとりなす。

 

「本来、ここは民間人の立入を──

 いえ、ザフトであっても限られた人間しか立入を許可されていない。

 下手をすれば銃殺ものよ」

 

 言いながら、ルナマリアを睨むアビーの目。

 その眼光は雄弁に語っていた──何故、ちゃんと見張っていなかったのかと。

 ルナマリアも意外だった。どうして、ナオトがこの場所まで──

 ティーダのいる場所まで、一人でやって来られたのか。

 思わずヴィーノを睨んだ彼女だったが、彼は慌ててその赤い頭をぶんぶん横に振るだけだ。

 その肩越しに、ルナマリアは再び純白の機体を仰ぎ見る。

 

 

 それが必然であるかのように、ただ静かにその場へ佇む、新生セイバーガンダム。

 いや、新生ガンダム・ティーダと言うべきか。

 

 

 ──まさか、ティーダが呼んだ? ナオトを? 

 

 

 突拍子もない思いつきに、ルナマリアはその思考を振り払おうと頭を振る。

 激しく息をつきながら、彼女の腕に縋りつくようにして、何かを訴えかけようとするナオト。

 だがその声は、未だに言葉の形をなさなかった。無理に声を出そうとして、彼は咳き込んでしまう。

 そんな少年の肩を軽く抱きながら、ルナマリアは呟いた。

 

「……アビー。お願いだから、このことは内密に」

「勿論そのつもりだし、もしバレても艦長なら許して下さるとは思うけど──

 二度目はないと思って」

 

 そう言いつつも、アビーは酷い咳を続けるナオトの背中を、不器用ではあるがゆっくり、さすっていた。

 

 ミネルバJrの中で、ナオトの立場は非常に弱い。

 ただでさえオーブの民間人である上に、ハーフコーディネイターだ。

 ルナマリアやシン、ヴィーノといった顔見知りは、今は特に支障なくナオトを受け入れているものの、まだ乗員の中にはナオトをあからさまに蔑視する者も少なくない。

 そんな中アビーは、ナオトを近すぎず遠すぎず、適度な距離を保ちつつ冷静に見守っている数少ない人間だった。

 

「それよりも──緊急連絡です」

 

 アビーは立ち上がり、まっすぐにルナマリアとヴィーノの二人を見据えて言った。

 

「正体不明の巨大戦艦が、ベンガル湾北端より浮上。

 北チュウザンに向けて発進したとの情報です。ミネルバJrにも出撃命令が出ました」

「出撃!? 今?」

 

 思わず素っ頓狂に叫んでしまったルナマリアに、あくまで冷徹にアビーは伝えた。

 

「恐らく、所属はタロミ・チャチャの南チュウザン。北チュウザンへの侵攻部隊と推測されます。

 北チュウザンが落ちてタロミの勢力が増せば、ここカーペンタリアも危うくなる──

 既にシン・アスカはデスティニーの調整を始めているわ。貴方たちも急いで」

 

 

 

 

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