【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part4 フレイの求婚、動き出すカガリ

 

 

 眼前に輝くCG上のコロニーを眺めながら、フレイは淡々と語っていた。

 

「コロニー・ウーチバラはあの事件の後、南チュウザンの手による改修が行われた。

 あのテロは、あらかじめ秘密裡に計画されたものだった。南チュウザンと、そして、セレブレイト・ウェイヴの恩恵にあずかる者たちの手によって──」

「文具団が──

 あの社長が、そういう手を使う人間だっていうのは知ってたよ」

「なら、話は早いな」

 

 フレイが指を鳴らすと同時に、白く輝くコロニー・ウーチバラはその開口部を大きく変化させていく──サイの眼前で。

 そのさまは、コロニーのエネルギーを丸ごと使用する巨大砲塔のようにも見え、また、宇宙いっぱいに花開こうとする光のヒマワリのようにも思えた。

 ヒマワリの中心部が黄金に輝き、その光は数秒のうちに収束し──

 一筋の、巨大なエネルギーを湛えた青白い線となる。

 その閃光は広大な銀河の中を、何度か小さなコロニーらしき中継地点を経由しては屈折を繰り返し、わずか数秒の間に地球へと到達する。

 

「これは……!?」

 

 サイは息も出来ずに、光の筋の行方を見守る。その到達地点は──

 北チュウザン首都・ヤエセ。

 あくまでこれは、予想進路図。CGによる仮の映像だと分かっていても、サイは動揺を隠せない。

 

「どうして……

 何故、この光がヤエセに!?」

「お前たちが、新たなるアマミキョをヤエセに建造しようとしているのは我々も知っている。

 それはタロミ・チャチャにとっては不都合だ。一度撃沈したとはいえ、システム周りが漏れている可能性もあるからな。

 だからこそ、セレブレイト・ウェイヴの試射に、真っ先にヤエセが選ばれた」

 

 フレイはCGを眺めながら、相変わらず淡々と語る。

 

「もっともタロミにとって、この光は人類の革新へ向けた(さきがけ)とも言える光だ。

 その祝福を最初に浴びられること、光栄に思うがいいと──彼なら、そう言うだろうな」

「何が魁だよ……」

 

 最早サイは怒りを抑えられない。

 

「君は本気で、そう思っているのか? 

 君はどう思ってるんだ。タロミじゃなく、君自身は! 

 ヤエセは今まで、君が命がけで守ってきた街だぞ!?」

 

 その言葉にフレイは顔を背け、ぽつりと呟く。

 

「私も、光栄に思う。

 この時の為に……私はチュウザンを、ヤエセを、守ってきたのだから。

 あの光はサイクロプスや核爆発、レクイエムやジェネシスなどという破壊兵器とは全く異なるものだ。人体には何らの影響も……」

「俺の目を見て言えよ!」

 

 強引にフレイの肩を掴もうとするサイ。

 だがそうする前に、彼女に右手首を酷い力で捕らえられた。

 

「まぁ、急くな」

「……!!」

 

 口元は微笑んでいるが、その灰色の瞳は全く笑っていないフレイ。そんな彼女に包帯だらけの手首を押さえつけられ、サイは思わず呻く。

 

「サイ──よく、聞いてほしい。

 ()()()()()()()、タロミ・チャチャは受け入れる。

 これがどういうことか、お前には分かるはずだ」

 

 

 ──そうか。

 サイは何となく理解した。酷く心が踏みにじられていく感覚と共に。

 

 

 ヤエセには今、カガリ・ユラ・アスハの一声によって、新生アマミキョの乗員が続々と集められている。

 トニー隊長も、スズミ先生も、ヒスイも、ディックやマイティも……

 知った顔が次々と脳裏をよぎる。

 恐らく、希望と強い意志を持って集った新たな仲間も、大勢いるだろう。

 彼らがセレブレイト・ウェイヴとやらを浴びたら、一体どうなる? 

 身体に影響はない? ナオトやマユまで犠牲にして生み出された光が? 

 ティーダのあの、強烈な閃光が元になったであろう光が? 

 冗談じゃないぞ、何の影響もないはずがない。

 例え本当に「身体には」影響がなかったとしても──あれは──! 

 

 

 ──要するに。

 彼らの命全てと引き換えに、俺に結婚を迫っている。この女は。

 

 

 そんな非道極まる現実に、サイはぽつりと呟いた。

 

 

「悲しいよ。

 こんなことをしなくても、俺は──

 俺は、君と一緒になるつもりだったのに」

 

 フレイはそんなサイの言葉にも、眉一つ動かさない。

 

「それは、受諾の証か?」

「違うって言ってるだろ」

「では、拒絶か?」

「……!!」

 

 

 どうする。どうすれば、フレイにうまく伝えられるんだ。

 どうしたら、アマミキョを助けられるんだ。

 サイの中で、思考がぐるぐる回る。

 畜生。フレイの眼を見ていると、何も冷静になれない! 

 

 

 沈黙してしまったサイを前に、フレイはそっと伝えた。

 

 

「……今より24時間、待ってやる。その上で決めるがいい。

 それ以上は、私でもタロミを説得出来ない」

 

 

 

 

 

 

「キラとラクスは、まだ行方知れずか……」

 

 オーブ首都・オロファト。内閣府官邸・執務室にて。

 アスラン・ザラとミリアリア・ハウを前に、カガリ・ユラ・アスハは溜息を隠せなかった。

 そんなカガリに、ミリアリアは畳みかける。

 

「つい先ほど、通信が入りました。

 南チュウザン軍は、北チュウザン首都ヤエセに向けて大規模侵攻を開始。

 複数のモビルスーツ部隊が順次、移動を始めているそうです。その総数は確認されただけでおおよそ、300機超」

「遂に、北チュウザンを丸ごと刈取りに来たか……タロミ・チャチャは」

 

 カガリはそれでも比較的冷静さを保ちつつ、じっと両手を唇の前で組み合わせながら、報告の続きを促した。

 

「それで、ヤエセの状況は? アマミキョはどうなっている?」

「時節柄の大雨の影響で、住民の避難が遅れている」アスランが言葉を繋ぐ。

「新たな人員も含め、アマミキョも可能な限り稼働している。

 しかし、パーツの30%以上が未完成の状態では、やれることはどうしても限られる。何とかフル稼働出来ているのは医療ブロックぐらいだ」

 

 ミリアリアも唇を噛んだ。

 

「ヤエセには連合の山神隊も待機していますが、どこまでもつか……

 せめて、サイがいてくれれば」

 

 そんな彼女に、カガリは呟くように答える。

 

「サイたちの保護に関しては、何度も連合と交渉した……

 だが、のらくら逃げられるばかりでな。

 恐らく、我々の救出の手は握りつぶされているのだろう」

 

 カガリは机に手を置きながら、ゆっくりと立ち上がった。

 

「先ほど、キサカからも連絡が入った。

 ベンガル湾北端にて、正体不明の巨大戦艦が浮上した。それと前後して、バングラデシュ首都近郊の、連合の軍用施設が襲撃を受けたらしい。

 戦艦の進路は推測だが、北チュウザンと思われる。

 同様の情報は恐らく、ザフトにも流れている。カーペンタリアでも動きがあったようだ」

 

 どうやっても、新たなる争いは避けられないのか。

 ディスティニープランを巡る戦いがようやく終わったと思ったら、今度は──

 アスランは歯噛みを隠せない。

 

「北チュウザンをめぐって、連合とザフトとタロミが三つ巴となるか……

 何としてでも、早くキラとラクスを見つけ出さないと! バルドフェルドからの連絡は!?」

「全く無い」

 

 にべもなく答えるカガリに、アスランは感情を爆発させてしまう。

 

「カガリ! キラとラクスがいなければ、アークエンジェルだってどうなるか分からない!! 

 今のラクスがどれだけの力を持っているかは分かっているだろう、彼女はザフトを一斉に止められるだけの力を……」

「いない者をあてにしたところで、どうしようもない。

 その為にアークエンジェルには、お前の機体とアカツキを引き続き配備しているんだ」

 

 そう言いながら、アスランを冷徹に見つめるカガリの黄金の瞳。

 そこに、以前彼に縋り涙目になってばかりだった頃の弱々しさは、全くなかった。

 

「今はそれよりも、状況の分析が先だ。

 アスラン──コロニー・ウーチバラはどうなっている? ジュール隊から情報は入っていないか?」

「あ、あぁ……」

 

 カガリの落ち着きに内心驚きつつも、アスランは平静さを取り戻す。

 巨大なラクス・クラインの映像が突然コロニー外壁に浮かび上がったという、聞くだに空恐ろしい数か月前の事件。

 そんなものを目撃し一旦退散を強いられながらも、ジュール隊は今なお果敢にコロニー・ウーチバラの調査を続けていた。

 ザフトと袂を分かったアスランだが、ディスティニープランの事件が終結をみた今、少しずつ彼らとも密かに連絡を取り合うようにしている。

 その中に、ウーチバラの情報もあった。

 

「数日前から、急激にコロニー周辺の作業艇が増えたという話だ。

 ほぼ同時に、L4付近での文具団や南チュウザンゆかりのコロニーもいくつか、閉鎖状態になったらしい」

 

 カガリはそれを聞きながら、室内をゆっくり歩きだす。テレビドラマの探偵のように。

 彼女にこんな癖が出来たのはつい最近だった。どうも、こうすると思考が落ち着くかららしいのだが。

 

「北チュウザンへの、連合とザフトの集結。

 それと時を同じくしての、ウーチバラの奇妙な動き。

 何が起きている……?」

 

 彼女が言わんとすることに、ミリアリアがいち早く気づいた。

 

「まさか……

 例の最新兵器を、北チュウザンに向けて?!」

 

 その恐るべき予測を、カガリはいとも簡単に肯定する。

 

「可能性は高い。

 アジアに残るザフトと連合の勢力を一網打尽にし、神の復権を目論み。

 チュウザン及びアジアの王者たらんとするタロミ・チャチャにとっては、うってつけの舞台だろうな」

 

 アスランは彼女の言葉で、忌まわしき記憶を思い出す──

 オペレーション・スピットブレイクの時も、ザフトの主戦力が集められた瞬間にサイクロプスが放たれた。

 核も、ジェネシスも。

 そしてついこの間プラントに放たれ、ザフトが撃ち返したレクイエムも──

 目標は全て、人の多く集まる場所だ。

 

「そうだとすれば──

 ミリアリア。今すぐマリュー・ラミアスを呼べ」

「えっ?」

 

 戸惑うミリアリアに、カガリは間髪入れず言う。「アークエンジェル、出撃だ」

 そんな突然の指令に、アスランも疑問を呈した。

 

「ウーチバラへ向けて、か? 

 しかし、アークエンジェルといえどもあそこまでは日数がかかる。最新兵器の迎撃に向かうには時間がかかりすぎるし、キラもいない今──」

「誰がウーチバラへと言った。

 目的地は北チュウザン、ヤエセ。逃げ遅れた住民の保護、及び救助隊の支援だ」

 

 全く迷うことなく言ってのけるカガリ。

 そのあまりに毅然とした物言いに、アスランは反駁する。

 

「北チュウザンだと!? 

 それこそ無謀だ、アークエンジェルをむざむざ最新兵器の餌食にする気か!?」

 

 そんなアスランの言葉にも、カガリは全く動じなかった。

 

「蘇ったばかりの希望の船アマミキョを、二度も潰させるわけにはいかないだろう。

 そんな事態になれば、オーブの名誉は失墜もいいところだ」

「分かりました。艦長を呼んできます」

 

 アスランが反論するより先に、ミリアリアはさっと踵を返し、風のように執務室から出て行った。

 その行動の早さに呆気にとられつつも、アスランは言わずにいられない。

 

「カガリ……

 君は、アークエンジェルを贄にする気か!? 

 万一レクイエム級の兵器が使用されたら、いかにアークエンジェルとはいえひとたまりもないだろう!!」

「その最新兵器とやらが炸裂する前に、住民を一人でも多く避難させるのが先決だ。その為のアマミキョであり……

 アークエンジェルは彼らの、大きな助けとなるはずだ」

 

 一体いつから、カガリはこんな依怙地な女になった。

 焦りを隠せず彼女を見つめるばかりのアスランを、カガリはふと、微笑みながら見つめ返す。

 

「大丈夫だ、アスラン。

 私はオーブの為に、北チュウザンとアマミキョを守る道を探っているにすぎない。

 アークエンジェルは、その最善手。それに――

 お前も、行くつもりだろう? どれだけ私が止めてもな」

 

 その微笑みは、どこか寂しさをたたえつつも、奇妙に力強く──

 周囲に取りすがってパニックに陥るばかりだった彼女の面影は、空の彼方に消え失せていた。

 

 

 

 

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