【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
砲火とバイオリンの音色が交互に響くアマミキョブリッジでは、カズイがサイに軽くつっかかっていた。ナオトとの通信の件で。
「いいのかよ。サイは励ましたつもりなんだろうけどさ……」
「ああ言わなきゃ、やられてる。
――回線35番、どうなってますか? 不通?
参った、また電波干渉かっ」
チャンネルを手早くいじるサイの顔から、笑みは見事に消えている。
「ごまかすなよ!
あんな子供を戦わす気なのか」
いつものおどおどした態度は何処へやら、カズイは妙に元気だ。アムルの視線があるからだろう。
「戦えなんて言ってない。ただ、帰ってこいと言っただけだ」
「同じだよ、あの状況!
お前はキラにしたのと、全く同じことしたんだぞ……あの子をキラと同じにする気かよ」
「偽善だって言いたいのなら、言えよ。だけど俺は、間違ったことしたとは思わない。
放っとけるか……あの顔」
そんな口論の間にも、外では既にジンが隔壁を突き破り、宙港の外部へ飛び出していた。
度重なる爆発による衝撃が宙港全体を襲い、避難民のパニックも拡大している。回線が3割ほど通信不能になっている。
だが、未だバイオリンの音は流れていた。
港口の爆光が妖しく輝く宙へ飛び出したジンの両脚部には、ミサイルポッドが装着されていた。M68パルデュス3連装短距離誘導弾発射筒入りの──
ちゃっかり操舵席にとりつこうとしていたオサキが叫ぶ。
「D装備!? コロニーでかよ?」
と同時に、またしても最大戦速でジンに攻撃をかけた機体があった。
言うまでもなく、フレイ・アルスター搭乗のストライク・アフロディーテである。
ジンはよけきれず、巨大な翼を持つアフロディーテに組みつかれる。
外壁付近で取っ組み合った両機。鋼鉄同士が擦れ合う。大気中なら凄まじい音響が発生していたことだろう。
そこへウィンダムが2機、待ってましたとばかりに攻勢をかけた。
ビームライフルの閃光がアフロディーテとジンを狙い、両者の機体が流れ、コロニー壁面に激突する。
アマミキョが微かに揺れる。
フレイが回線ごしに怒鳴る。
《管制! 聞こえたら避難民誘導区画データをよこせ、ジン自爆の危険がある!
こいつを外へ弾き出すっ!》
フレイを狙ったウィンダムの一隊に追いついた、ディアッカのザクウォーリア。
大火力に任せ、ウィンダムの上半身を吹っ飛ばしていくオルトロス。
しかし残る1機のウィンダムがザクウォーリア、そしてアフロディーテへ激しい火線を浴びせていく。
フレイもまた、ビームライフルを使いジンの脚部を切り落としにかかった
──コロニーに対してあまりに危険すぎる、爆発物を装着した脚部を。
しかし相手もさるもの、壁にとりつきながら腕で強引にアフロディーテのライフルの砲口を逸らし、壁へと向ける。
さらに強引なアフロディーテの蹴りが、すかさずジンの脚関節部分に炸裂。
何発かの強烈な蹴りの直後、接合部分がむき出しになったジンの右脚部が切断され、真空の宙に舞った。
だが左脚部のミサイルポッドは、まだ残っている。
アフロディーテはさらに、ジンの胸部を狙って頭部バルカンを発射したが
――パイロットは相当の衝撃を受けているはずだが、まだ持ちこたえている。
「さすがは、腐っても元ザフトというわけか!」
アフロディーテの力で無理矢理壁を引きずられることにより激しい摩擦を起こし、ジンの機体が磨り減っていく。無数の粒子となって闇に広がる、赤熱した鋼鉄の破片。
フレイは残弾数とエネルギーゲージを注視しつつ頭部バルカンを連射し、推力に任せてジンを港口から引き離そうとする。だがジンは壁にしっかりと喰らいついたまま離れない。
フレイと、名もなきパイロットとの意地が、コロニー壁面で激突していた。
レールガンや対艦刀を派手に使えば、コロニー内の人間に被害が及ぶ。
ヘタをすれば弾薬庫が──
フレイはほんの少しだけ唇を舐めた。
「それを狙ってか。姑息な戦法を!」
だが、その意地の勝負はフレイに軍配が上がったか。
数瞬後、ジンの胸部がわずかにアフロディーテの正面に傾きだした。
フレイはその隙を逃さず、アフロディーテの右手をジンから一旦離し、拳を作って力一杯コックピット部に叩きつける。
叩きつけられた拳から、ひときわ派手に光の粒子が散った。
アフロディーテの活躍で、ようやくジンが沈静化したかと思われたその時――
アマミキョブリッジでは混乱に乗じて、アムルがサイのモニタを覗き見ていた。
「お願い。私と替わって」
あまりにも唐突かつ非常識な申し出に、サイは即答する。
「何言ってるんですか。駄目です」
しかしアムルはくいさがる。ナチュラルに屈することは、彼女にとって最大の恥辱なのだろう──
ブリッジでの挙動だけで、既にサイにはそれが理解できた。
「あの機体がいる処は私の母と彼がいるのっ、避けるように呼びかけて!
貴方ができないなら私がやるわ。オノゴロで臨時に動員された時、やったことあるもの!」
そんな彼女に、カズイが加勢した。
「サイ。彼女の気持ちぐらいは分かれよ」
するとアムルはサイの頭からインカムを取り上げようと、いきなり彼の肩に掴みかかった。
しかしサイは、直前で彼女の手を押し戻す――どうやら彼女の運動能力は、恐れたほどではない。
サイは頭を振りながら、アムルとカズイにきっぱりと言い放つ。
「絶対にダメだ」
──生意気な子。
アムルの口の中だけでの呟きが、サイにはしっかり聞こえてしまっていた。
この時にはもう、彼は直感で気づいていた
――彼女は母親と婚約者が心配のあまり、自分につっかかったのではない。
むしろ逆だ。それどころか、アムルは出来うるならば──
――
サイはその思考を、無理やり振り払った。
本当は読みたくなんかなかったのに、こんな他人の心の内を。
昔の自分は、こういう他人の心の機微にはむしろ疎い方だったのに。
だからこそ、サイは思う。
彼女の為にも──ジンよ、バイオリンの音色の源を撃つな。撃たないでくれ。
今ミヨシ・ホウナを撃てば、アムル・ホウナが母親から自立するチャンスは永久に来ない。
それに、気になるのは彼女の婚約者だ。あの誠実そうな男は、アムルにとってそれほどまでに邪魔な存在なのだろうか。
――かつて、曲がりなりにも婚約者になるはずだったサイにとって、それは悲しいことだった。
出来うるならば真実、アムルには彼らを想っていてほしい。
どんなに嫌な存在だったとしても、家族であり、家族になるはずの人間だろう。
人間の心理は白黒では語れないと分かっているが、家族同士の想いだけは、真実であってほしい。
――フレイ・アルスターの、父親を失くしたあの瞬間の悲痛な叫びこそが、真実であってほしいんだ。
回線の状況を調査しつつ、サイは横でうずくまるカズイをちらと見る。
こんなことをカズイに話せば、今の彼は間違いなく自分を殴るだろう。
そんな小さな騒動に気づいたオサキが怒鳴った。
「てめぇらガキの喧嘩してんじゃねーよっ、外の状況分かってんのか!」
まだ生きているモニター内で、避難民が隔壁の揺れと轟音に恐怖している映像が明滅した。
それに伴い高鳴り震えていく、バイオリンの音色。