【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
「先ほどは、大変失礼いたしました。
こちらです!」
カタパルトへの出口からさらに奥へ進んだ場所に、少し小さめのハッチがあった。レイラはサイたちに向かって、嬉しそうに微笑む。
そこでカズイが、当然の疑問を口にした。
「モビルスーツで出ないとするなら、他に手段があるの?
作業用モビルアーマーとか……」
「似たようなものですわ」
レイラはいそいそとハッチを開く。その先には、先ほどのものよりはだいぶ小規模なカタパルトがあった。
天井も一段と低く、整備員らしき者の姿もない。モビルアーマーが一機、ようやく射出出来るか否かというほどに小さなカタパルトだ。
「ここは、私専用のカタパルトです。
主に、コメット操縦練習用です」
ハッチからそっと上半身を乗り出しながら、サイはあたりを見回してみる。
カタパルトの隅には、ザフトのグゥルをかなり小型にしたような形のサブフライトシステム(SFS)がぽつんと置かれているだけだ。それ以外に機体らしきものはない。
「コメット?」
「あら、ごめんなさい。私の愛機の名前ですわ。
正確には、民間用小型SFSのことです。ご存じありません?」
「いや、何度かやってみたことはあるけど……」
サイは思い出す。そういえば学生時代に、アレに似たものを操縦した経験はある。
ちょうど、モビルスーツがグゥルに乗る時と同じ要領で人間が乗って、一定時間滑空することが出来る。バーニアと、機首に取り付けられたハンドルだけで方向調整し、あとは風に任せて飛行するタイプのものだ。
意外と乗り心地は良く、慣れてからはサイも滑空を楽しむことが出来たのを覚えている。
但しそれは、コロニー内の調整された気圧、それもかなり限定された空域で飛ぶことを想定されたものだ。勿論、地上で乗ったことはない。
そしてカズイは全く経験がないようで、その言葉だけで縮み上がってしまった。
「ま、まさか……アレに乗って、飛んで逃げろって?」
そんなカズイにも、レイラは当然と言いたげに返す。
「それ以外に、どんな方法がありまして?」
「ひ、ひぃ! 俺、高いところ苦手……」
思わずタキシードにしがみついてくるカズイ。サイも内心同感だった。
飛行中の艦から生身で飛び降りるようなものだ。誰だって怖い!
しかしサイたちの恐怖を、レイラはこともなげに笑い飛ばした。
「心配ご無用、ちょっと変わったグライダーのようなものですわ。
通常はコロニー内での飛行に使うのですが……
今は緊急時ですから、仕方ありませんね」
コロニー内? ということは、この艦はコロニーでの運用も可能なのか。もしかしたら、宇宙までも。
ちょっとした街ひとつを形成するほどの規模を誇る海底要塞が、大気圏内を飛ぶということだけでも驚きだ。というか、現在の技術でそんな芸当が可能とも思えない。
恐らくこの艦は、海底のオギヤカから分離されたパーツの一部なのだろう。
かつてアマミキョがアークエンジェルを追ってオギヤカから飛び立った時も、アマミキョを収容した部分だけを切り離していた。この艦も同じように──
レイラはサイたちにお構いなしに喋り続ける。
「ここ、スプラトリー諸島のあたりは連合領となっていますが、調べたところ、アスハ家と親交の深いベント家の買い上げていた島がいくつかありました。
そこには私有の軍も駐留しているはず」
「ここから飛び出して、その島へ不時着して救援を求めろってのか……
危険すぎる賭けだな」
「そんなことは百も承知です。しかし、そうでもしなければサイ様もカズイ様も、ここからの脱出は叶いません。
既にナビはその島へ向けて設定してあります。後は飛ぶだけですわ」
レイラは言いながら、サイに身体を押しつける。
「さぁ、私にナイフを。ここからは監視カメラだらけと言ってもいいですわ。
私は貴方に囚われた、力なき姫です。サイ様!」
ウインクしながら言う台詞ではないだろう。
サイは溜息をつきながらも、ゆっくりレイラの首に後ろから左腕を回す。
カズイは一瞬ぎょっとしたが、サイの目配せ一つで黙りこくった。
「じゃあ……失礼します」
そろそろとレイラを抱きかかえながら、彼女から渡された折り畳みナイフ――
その刃を、ハンドル部分からカチリと出した。
彼女の柔らかい首筋に、申し訳程度にその切っ先を向ける。
そのままの体勢で、サイは開かれた天井ハッチからゆっくりと下へ、ステップを足で探りながら壁伝いに降りていく。すぐにステップを手で掴まなければならなくなり、ナイフを口にくわえながら右手でステップを掴んだ。
レイラを落とさないようにしながら、少しずつ下へ降りていくサイ。
指まで包帯の巻かれている彼の左腕を目の前にしても、レイラは驚かなかった。
しかし先ほどまでのはしゃいだ様子は消え、彼女はふと労わるようにサイを見上げる。
「無理をなさらないで。
……本当に、苦労されたのですね」
サイはその気遣いに、少し微笑みさえ見せながら答える。
「大丈夫。
貴女を抱き上げられないほど、弱っちゃいませんよ」
どうにか床に足を降ろすと、サイはそのままコメットの横の壁にすり寄る。かなり整備は行き届いているようで、すぐにでも飛べそうだ。
レイラをかかえたまま、サイはコメットに跨ってみる。
ハンドルを握りしめるだけで、手が汗ばんだ。包帯を取らないでいて良かったのかも知れない。
「カズイ様、そこのコンソールを開いてくださいませ。
私の言う通りに操作出来ましたら、すぐにサイ様と一緒にコメットに乗ってください。
コメットは二人乗りですので」
「え? は、はぁ……」
カズイは戸惑いながらも、レイラの指示どおりに壁のパネルを開き、言われた通りの操作をしていく。すると、空気音を立てながらシャッターが上下へ開いていく。
激しい突風が吹きこんでくると同時に、彼らの眼前に広がったのは──
果ての見えない、雲の海。
その上は、どこまでも高い紺碧の空と、太陽しかない。
タキシードの裾が激しく煽られ、服ごと持っていかれそうだ。レイラのワンピースも大きく翻り、中のドロワーズがサイにまで見えた。
ここまで上空を飛んでいるとは思わなかった。てっきり海のすぐ上あたりかと、高をくくっていた。
しかし今サイの目の前にあるのは、海は海でも雲海だ。
あまりの高度に、思わず足がすくむ。しかもすぐ下はかなり分厚い黒雲で覆われて全く見えず、わずかに雷光らしきものすら雲間を走っている。
「下は土砂降りのようですわね……」
突風に顔をしかめるレイラに、サイは言った。
「仕方ありませんよ。チュウザンのあたりではこの季節、海は荒れやすいそうですから。
カズイ、早く!」
サイはカズイにもう一度目配せする。カズイは呆気にとられて外の景色を見ていたが、やがて気を取り直すと、空を見ないようにしながらそろそろとコメットに乗ってきた。
目を半分がた閉じてサイの背中に抱きつくと、取り付けられていた命綱がわりのバンドを二人の身体に、縛りつけるように巻きつける。
そしてカズイは、うっかりすると聞き漏らしてしまうほどの小声で呟いた。
「お、俺、もう迷わないから……
決めたから……サイを守るって」
──ちょっと前なら、足がすくんでたか、逃げ出してただろうにな。
ごめんな、カズイ。何で脱出しなけりゃならないのか、お前は半分も理解してないだろうに。
俺だって、ちゃんと分かってるわけじゃない。
ただ、一刻も早くアマミキョに急を知らせなければいけない。それだけだ。
──彼らを救うことが、フレイを救うことにも繋がるのならば。
「大丈夫さ。
必ずアマミキョへたどりつくから」
サイはカズイの体温を背中に感じつつ振り返り、力まかせに微笑んでみせる。
かなりぎこちないと自分でも分かる笑みだったが、それでもカズイはほんの少しだけほっとしたようだ。
──だが、その刹那。
「待ちなよ」
ここにいてはならないはずの少年の声が、はっきりとその場に響く。
振り返らずとも分かった。これは、トール・ケーニヒの声。
同時に、カズイの小さな悲鳴。
サイの腕の中で、レイラがきゅっと身を縮める。金色の頭が僅かに震えだしていた。
「こっちを向くんだ、サイ・アーガイル。
場合によっては撃つ」
俺は何度、トールに銃を向けられなきゃならないんだろう。
姿勢を崩さないよう、サイはコメットに乗ったまま、そろそろと上半身だけで振り返る。
レイラが小声で呟いた。
「サイ様。私は貴方の人質ですわ」
「分かってる」
サイは手にしたナイフの切っ先を、改めてレイラの喉元につきつけた。今度は、少しでも動けば喉を抉りかねない位置へ。
カズイだけは状況がつかめず、サイとトールを交互に見比べている。
「な、え、トール……?
どうして? どうしてだよ、何でお前、こんな……
え?」
それを遮るように、レイラは叫んだ。
「トール! 手を出してはなりません。
どうか、この方々を見逃してくださいまし。サイ様はアマミキョを守りたいだけで……うぅっ……」
さすがはフレイの妹だけはある。
恐怖に満ちた涙声で、しかしいつもの利発さは失わないよう計算された演技。
実に苦々しい面持ちでレイラを見つめ、拳銃を構えたまま首を振るトール。その背後には何人かの警備兵も駆けつけている。
「レイラ……
だから、気をつけろとあれだけ言ったでしょうに!」
囚われたレイラに対しどう対応すればいいか判断出来ないようで、トールは若干の歯ぎしりを隠せなかった。
「サイ!
彼女を離せ、でなければ今度こそお前を殺す!!」
迷うことなく、サイに銃口を向けるトール。
その瞳には、いつか自分を殺しに来た時の余裕は微塵もなく、ただ燃えたぎるような怒りがあった。
元々ちぢれていた髪が風に煽られ、さらにその表情を険しくさせる。
──多分これは、本気だろうな。
『この』トールは、本当にレイラを大切に思っているのだろう。
恋愛感情とはまた違う、一心に姫を慕い守り続ける、騎士として。
万一俺のナイフが彼女の頬をほんの少しでも掠めれば、間違いなく俺の頭は次の瞬間爆砕されるはずだ。トールの一撃で。
そのことにサイは心のどこかで安堵を感じながら、呟く。
「安心したよ、トール。
お前の必死な顔、久しぶりに見られて」
「な……っ!?
何をほざく! まんまと俺を騙して、彼女を危険に晒しておいて、それが答えかよ!?
これでも俺、お前を信用してたのに!」
サイの言葉にトールはさらにいきり立つ。だが──
その時、彼の背後から凛とした声が響いた。
「待て、トール。
騙されてはいけない」
そこにいたのは勿論、
タロミ・チャチャ第三王妃。
連合の外交官、故ジョージ・アルスターの娘。
アマクサ組一番隊・隊長。
サイの婚約者──フレイ・アルスター、その人だった。
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次回予告
チュウザン到着目前にして、戦いの火蓋は切られた
激しい砲火の中、すれ違う心
天空の戦場を惑わす、女神の唄
だが、新たなる太陽が輝く時、遂に運命は交錯する
次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation
「クロス・オーバー」
蘇った声は、奇蹟を呼ぶか。ティーダ!