【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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PHASE-39 クロス・オーバー
part1 サイとフレイ、世界を賭けた問答


 

 

 一切動揺することなく、水色のドレスを風に翻らせて立ちはだかるフレイ。

 そんな彼女に対し、さすがのレイラも唇を噛む。

 

「お姉様……」

「いい加減にしろ、レイラ。

 お前の演技など、トールは騙せてもこの私には、とうにお見通しだ」

 

 冷たく言い放つフレイに、サイの腕に抱えられたままのレイラは反論出来ない。

 可哀想なのはトールだ。姉妹の間に突っ立ったまま、銃を下げることも出来ずに戸惑っている。その背後の警備隊も同様に。

 そんな彼らを見ながら、レイラは呟いた。

 

「サイ様……ごめんなさい。

 完全に、私のミスでしたわ」

 

 まさに、絶体絶命──

 サイの腕の中で唇を噛むレイラ。すぐ後ろで震えているカズイ。

 そんな彼らを守るような体勢になりながらも、サイには何故か余裕があった。

 自分の中に、余裕を感じていた。

 土壇場に立たされる経験があまりにも多すぎて、こういう時の度胸がやたらついてきてしまったのか。

 

「全くだね。

 何だかんだ言っても、君は世間知らずのお嬢様だ。フレイの妹らしいよ」

「そ、そんなぁ……酷いですわ」

「大丈夫。後は俺に任せて」

 

 そんな会話を小声で交わした直後、サイは言い放った。フレイに向かって。

 突風に吹き飛ばされないよう足を踏ん張り、大声で叫ぶ。

 

 

「フレイ──

 君はいつか、俺に言ったな。

 進化と停滞、どちらを望むかと。俺が選択する時が来ると。

 そして君は、どちらをも叶える力があると言った。

 今なら分かるよ、その意味が」

 

 

 そう――君はとてつもなく大きな力を手にしてしまった。セレブレイト・ウェイヴなる、とんでもない力を。

 それは恐らく、人の歩みを停滞させる力。

 あの時君は、俺に選択を迫ったのだろう。その力を使うか否か。

 人の命運を、平凡極まりない俺の選択一つに任せてしまうような君の心中が、俺には分からないけど。

 ならば──

 

 

「俺が望むのは、進化だ。

 俺は、人の成長を望むよ」

 

 

 ドレスと髪を靡かせながら、フレイはじっとその答えを聞いていた。

 そして数瞬の後、静かにサイに問う。

 

「何故、それを望む? 

 お前が望んだのは、安寧の世界ではないのか? 

 皆が土を耕し、自然に感謝し豊かに生き、寿命を全うする世界を」

「勿論、今でも望んでるさ。それが出来るなら、すごく嬉しいって。

 だけど、人が自然にそうなるのと、人を()()()()()()()()()()()のは、違うだろう?」

 

 それを聞いて、フレイの眉が少しばかり顰められたと感じたのは、気のせいだったろうか。

 

「自然になど、ならぬ。

 人がそこまで賢くないのは、お前も分かっているはず。

 少なくとも、お前が生きている間は!」

「だったら、嫌でも成長を選ぶしかないんじゃないのか? 

 生きている限り、人は成長する。植物状態になったって、髪も爪も勝手に伸びる。

 人って、そんなもんだろ」

「そのように奔放な成長を続け、制御を失った結果が、今の有様だ」

「でも、それが人の本質だろ? 

 出来なかったことが、出来るようになる。

 例え出来なくとも、出来ることを探す。

 それが成長で、それが人だろ?」

 

 

 サイはそう話しながら、ふと瞼を閉じる──

 

 

 そういえば、君は言っていたな。

 ヒトがヒトでなくなっても、と。人間の定義から外れても、と。

 あの時は、全く意味が分からなかったけど、今なら──

 

 

 そんなサイの思惑とは全く無関係に、フレイの唇は動いた。

 

「あの男を捕らえ、レイラを保護しろ。

 決して傷つけるな」

 

 彼女の言葉に、トールと警備兵たちが再び動く。

 一斉にサイに向かって、突進してくる警備兵たち。

 カズイやレイラと共に、強引にでもコメットで飛び立とうかと、サイが逡巡したその瞬間──

 艦全体が、激震に揺れた。

 

 

 

 

 

 

PHASE-39 クロス・オーバー

 

 

 

 

 

 

「何、これ……

 要塞?」

 

 インパルスガンダムのコクピットにて。

 雲海の上から「オギヤカ」の黒い威容を見定め、ルナマリアは呆気にとられていた。

 今まで見てきた連合やザフトの艦とは、桁違いの大きさだ。

 全長1.2キロのゴンドワナ級も相当の巨大さを誇るが、これはそれよりも──

 下手すると、ゴンドワナ級の2倍だろうか? 

 大きさだけでも異様なのに、この巨大な建造物が地上の重力に逆らって浮いていること自体、ルナマリアには信じられなかった。

 それでも、同時にミネルバJrから出撃したシンのデスティニーガンダムは、躊躇することなくインパルスを追い越していく。

 右モニターを流れていく、修復不完全な紅の翼。トリコロールの機体。

 

「シン、待って! まだ敵の出方も分からないのに、危険よ!」

《あんなの、放っておく方が危険だろ! 

 図体だけ大きくったって、動きは!!》

 

 ちっとも分かってないじゃない──

 ルナマリアがそう言いかけた瞬間、今度は左からカオスγが現れた。

 

《彼の言う通りよ、ルナマリア》

「え? アムル……さん?」

 

 ヨダカ・ヤナセと共に出撃してきた、アムル・ホウナの声。

 彼女もやはり、この戦闘に参加するのか。

 

《あの船はアマミキョとティーダのデータを元に、改良を加えられているはず。

 だとしたら、妙な真似をされる前に叩いておくのが先決よ》

 

 濁った血の色をしたカオスγは、あくまで優しげにルナマリアに語りかける。

 確かにその情報は、出撃直前に艦長からもヨダカ隊長からも言われた。

 ガンダム・ティーダが発振したような光を、あの艦が放ってこないとは限らない。

 その為に装甲も、ある程度調整を加えてきた。以前、アマミキョと交戦した際のデータを元に。

 しかし──

 

 シンもアムルも、無闇に前に出過ぎではないか。

 そんなルナマリアの思惑を振りきるように、独り言のようなアムルの言葉が流れた。

 

《それに、私は感じるの。

 あの艦には、嫌なものがいる。消さないといけないものが》

 

 

 

 

 

 

「敵襲! 

 ザフトの編隊です!!」

 

 オギヤカ全艦に、酷く鳴り響くアラート。

 サイを捕らえようとしていたトールや警備兵たちも、完全にそちらに気を取られてしまっていた。

 しかしそれでも、フレイが慌てることはない。それどころか、微笑みすらたたえて両腕を組んでいる。

 

「遂に来たか。

 待ちわびたぞ、シン・アスカ!」

 

 さらに続けざまに船体が揺れ、サイたちのいる床が僅かに傾き始める。砲撃まで受けているようだ。

 自分たちの企みが全て露見している今、もう、ナイフをレイラにつきつけておく必要は微塵もなかった。

 サイはナイフを素早く懐へしまうと、レイラをしっかりと左腕で支え直す。彼女が放り出されないように。

 服ごと飛ばされそうになりつつも、雲の海を振り返ると──

 

「……!」

 

 果たしてそこには、こちらに向かって突撃してくる数機のモビルスーツが見える。

 そのうち2機に、サイは見覚えがあった。

 

 

 ──あれは、アマミキョが撃沈された時の機体か。

 ストライクに似た意匠を持つ、トリコロールのモビルスーツ。何度もアマミキョを襲ったヤツだ。

 そして、やはりストライクと似ているが、背部の巨大な紅の翼が血を連想させるモビルスーツ。

 息も絶え絶えな俺の眼前で、フレイと激闘を繰り広げた機体。

 

 

 同時に、サイは感じた。

 紅の翼のモビルスーツに追いつけ追い越せとばかりに、雲を突き破り、こちらに突き進んでくるもう一つの機体──

 その中に潜む、執拗な悪意を。

 冷めたココアを思わせるカラーリングに、随分重量のありそうな双対のポッドをその背に負っている。頭部意匠はやはり他と同じ。

 ガンバレルにも似たあの武装は、かつてスティング・オークレーが操っていたカオスガンダム、その機動兵装ポッドとほぼ同様だ。

 

 

 弾幕をひらひらとかわし、あっという間にオギヤカに接近したカオスもどき。

 そのポッドが、真っ赤な柘榴のように開く。

 同時に発射されたものは、ファイヤーフライ誘導ミサイル。あれは確か、片側だけで12基搭載されていたはず──

 サイがそこまで思い出した瞬間、その柘榴の中から、炎を纏った無数の種が飛び出した。

 真っ直ぐに、彼らのいるカタパルトに向けて。

 

 

 

 

「きゃあぁあああっ!!」「うわあぁああっ!?」

 

 ファイヤーフライ誘導ミサイルが、至近距離で炸裂したコメットカタパルト。

 レイラやカズイ、警備兵たちの悲鳴が交錯する。

 空に向けて無防備に開かれたままだったカタパルトは、内部への直撃こそ逃れたものの、開閉口付近に火線を喰らった。

 

「危ない! 

 伏せろ、カズイ!」

 

 サイは思わずレイラを抱きしめ、着弾したと思われる方向から彼女を背中で庇った。同時にカズイもサイの指示に従い、素直に床に伏せる。

 一瞬の後に来たものは、全身を焼き尽くすかという勢いの熱風。

 サイは、どうにかコメットから弾き飛ばされないようにするのが精いっぱいだった。

 無数に飛んできた炎の粉が、頬や袖をもチリチリと焼いていく。細かな破片も幾つか、背中に当たった。

 

「くそ……

 フレイ……っ!!」

 

 爆風に煽られながら、何とかフレイの方を見上げると──

 彼女はドレスを大きくはためかせ、仁王立ちのまま、面白そうに空を睨んでいた。興味深い生物が来たとでも言いたげに。

 

「トール! 出撃だ。

 セイレーンの用意はいいな?!」

 

 彼女の声に弾かれたように、トールも頭を上げる。

 

「はい! 

 し、しかし……サイたちの処遇は!?」

 

 息せききったトールの言葉。

 その問いに、一瞬だけサイとフレイの視線がかちあった。

 どこまでも読めない、灰色の瞳。それは炎の光を映し、紅蓮に輝く。

 

 

 ──今フレイを見放したら、彼女とは二度と逢えなくなるかも知れない。

 そんな想いが一瞬、サイの脳裏をよぎる。

 幸か不幸か、コメットは殆ど傷ついてはいない。バーニアを噴射しさえすれば、今すぐに飛び立つことも可能だった。

 

 

 ──しかし、いいのか。本当にいいのか。

 このままフレイから逃げ出せば、俺は2年前と同じように……

 

 

 だが、サイが逡巡しかけたその時。

 彼の迷いを断ち切るように、サイの腕の中からレイラが頭を出し、フレイに叫んだ。

 

 

「姉上! どうか……

 どうかもう、遺伝子に惑わされるのはやめてください! 

 姉上の服従遺伝子は、完全なものではないはず! 

 お母様に操られ、サイ様を殺める愚を、今一度繰り返すおつもりですか!?」

 

 

 ──何? 

 今レイラは、何と言った? 

 服従遺伝子? お母様? 

 フレイの母は、大分前に亡くなったはずだ。

 いや、それを今のフレイに問うたところで無意味なのは分かっている。しかし──

 

 

 わけの分からない単語の羅列に、戸惑うサイ。

 その間にも誘導ミサイルは次々に着弾し、カタパルトを大きく揺らす。

 炎が、カタパルトにも迫っていた。爆風に巻き込まれた警備兵が、何人か倒れているのが見える。

 

「時間がない。

 サイを捕らえろ、トール。その後にルージュ、及びレイダーの準備だ!」

 

 フレイは無情に指令を下すと、何の未練も見せずにさっとドレスを翻し、サイの前からあっという間に姿を消した。

 大きく開いた白い背中と、靡く紅の髪。それを遮るが如くの炎の華。

 それが奇妙に美しく見え、サイは一瞬動くことが出来ないでいたが──

 トールが再び、サイたちに向かって飛び込んでくる。

 

「サイ、諦めろ! レイラも!! 

 御方様に目ぇつけられちゃ最後、いずれ消されちまうんだよ……どこへ行ったって! 

 だからフレイだって、お前を守ろうと必死なのに! それをお前は!!」

 

 すかさずレイラは、トールの言葉を打ち消すように叫ぶ。

 

「サイ様、行ってください! 

 オギヤカは狂気の場所。ここに取り込まれてはなりません!」

 

 彼女の言葉に弾かれるように、サイはコメットのバーニアを点火させた。

 

 

 ──そうだね、レイラ。

 君やフレイの言動から考えて、多分オギヤカには、俺には決して想像も出来ないおぞましい何かで満ちている。

 それは多分、人倫なんて言葉が軽く吹き飛んでしまうほどの。

 

 でも、外の世界だって、同じくらい狂気に満ちているんだ。

 その狂気から、俺は君を守り通せる自信は正直、ない。

 ならば──

 

 

「俺も、君を危険には晒せない」

 

 

 そんな呟きと共に──

 バーニアに火が入るとほぼ同時に、サイはレイラを自分の腕から引きはがした。

 

「トール! 

 頼む、彼女を!!」

 

 噴射と共に、勢いよく滑り出すコメット。カズイの両腕が、サイの腰を折れよとばかりに絞めつけてくる。

 凄まじい風圧に顔を叩かれながらも、レイラの小さな身体をサイはそのまま、トールのいる方向へ力まかせに投げ飛ばした。

 

「さ……サイ様!?」

 

 驚愕のレイラの表情と、バスケットボールのように宙に放り出された彼女をしっかり抱きとめるトール。

 それを確認出来たのは、ほんの一瞬だけ。

 

 

 ──ごめん、レイラ。

 今のフレイには、恐らく君が必要だ。

 それに、君を守ることが出来るのは、トールだ。俺じゃない。

 

 

 次の瞬間には、サイとカズイを乗せた小型凧は、火線飛び交う天空へ飛び出していた。

 

 

 

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