【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part2 その翼は爆光を浴びて

 

 

「フン。全く予想どおりの動きだ」

 

 フレイはドレスの裾を翻し、実にしなやかにコクピットに飛び乗る。

 そこは、サイたちが先ほど目撃した、8基の砲塔を背負う紅の機体。

 かつて、フレイ・アルスターを殺したプロヴィデンスガンダム──

神の意思(プロヴィデンス)』を模した上、血に染まり蘇ったかのようなモビルスーツ。

 その機体に今、フレイを名乗る彼女は颯爽と乗り込んでいた。

 コンソールパネルに浮かび上がった文字は、単純な12文字のアルファベットだけ。

「GUNDAM」が何の略称であるかを示す文字列が、その起動画面に表示されることはなかった。

 

 

 “GUNDAM Sirene”

 

 

 ガンダム・セイレーン。

 漆黒の巨大な砲塔を背負いながらも、彼女の象徴とも言える紅蓮に染められた機体。

 そのコクピットに、突如通信が入る。

 

《ねぇ、フレイ! 

 ホントに、『お兄ちゃん』が来るの!?》

 

 セイレーンのすぐ隣に待機していた、ストライクフリーダム・ルージュからだ。

 同じ紅を持ち、まるで姉妹のように並び立つ2機。

 ルージュの装甲は当初、全面紅になるようセッティングされていたが、現在は翼や胸部装甲の一部のみが紅に染められ、他の部分はほぼ純白に近い色彩となっている。

 これはセイレーンとの区別を明確にする意味もあるが、パイロットの好みによる処が大きい。

 フレイから見て右サイドに表示された小さなサブモニターの中で、マユ・アスカ──

 否、チグサ・マナベが、面白そうにフレイを見つめている。これから遊園地に行く子供のように。

 そんな彼女に、フレイは諭すように言った。

 

「そうだ、待たせたな。

 キラ・ヤマトの按配はどうだった?」

《うん……

 とりあえず、だいじょーぶ。取り乱してたけど、だいぶ落ち着いたよー。

 ちゃんと話せば、分かるヤツだった。あとはフレイの扱い次第だね!》

「……そうか」

 

 チグサの言葉で、フレイの表情がやや曇る。

 だが、その唇から発される言葉はあくまで穏やかだった。

 

「苦労をかけるが、あともう少しだ。

 我に続け、ルージュ」

《アイアイー!!》

 

 チグサの無邪気な声。

 それと同時に、反対側のモニターに何かが光った──

 コメットのカタパルト付近を映していたモニター。そこから、光る紙飛行機のように、何かが飛び出していく。

 それが何か、フレイはとうに見抜いていた。

 

 

 ──サイ。

 このままではお前は、()()()私を敵に回すことになるぞ。

 

 

 誰にも悟られないほどの溜息をつき、一旦瞼を閉じるフレイ。

 だが、それも一瞬。

 

「ガンダム・セイレーン、フレイ・アルスター、出る!」

 

 邪魔なドレスの裾を跳ね除けるように、彼女は一息に操縦桿を押し込む。

 パイロットスーツによる緩和効果を得られないその身体に凄まじい加速がかかったが、フレイの表情は微塵も変わらない。

 頭部カメラアイを紅に輝かせたガンダム・セイレーンはそのまま一気にカタパルトを滑り、雲海へ飛翔した。

 

 

 

 

 劫火を避けつつ、雲の中へ突入したサイとカズイのコメットだが──

 雲海の下は強烈な嵐が吹き荒び、コメットは洗濯機に放り込まれた落ち葉のように、もみくちゃに引っ掻き回されていく。

 何しろ、空中で生身剥きだしでサーフィンをしているようなものだ。

 細かなガラスの粒子の如き雨粒が、裂けよとばかりに次々とサイの身体を打つ。タキシードどころか、中のシャツまでが剥がされそうだ。

 背中にくっついたままのカズイがひっきりなしに何やら叫んでいるが、あまりの嵐で何を言っているのだが、全く聞き取れない。

 周りは全て白い闇。さらにすぐ下には、稲妻まで閃いていた。

 

 それでもサイはハンドルだけをしっかり握りしめ、手元のナビを確認することを忘れなかった。

 ──この雲じゃ、たどり着けるものも着けなくなる。

 そう判断し、再びバーニアを軽く吹かす。

 

「な、何するんだよ、サイ!? 上は

 ……うわぁあ!!」

 

 カズイの叫びも、急激な方向転換によりかき消される。

 雫で濡れた手がハンドルから離れそうになり、サイは慌ててスーツの袖ごとハンドルを握り直した。

 

 ──今この手を離したら、俺は勿論、カズイの命も終わる。

 

 コメットはほぼ垂直に上昇を開始し、数秒もしないうちに雲の上へ戻っていった。

 二人の眼前に再び、眩いほどの青空が戻ってくる──

 と、同時に。

 

「……サイ! 

 見ろ、あれ!!」

 

 カズイの狼狽の声。

 

 

 それは、初めてまともに目にする、オギヤカの威容。

 かなり離れたと思っていたのに、その艦体の巨大さは未だ、サイたちを押し潰さんとするように眼前に立ちはだかっていた。

 そこに取りついていこうとするザフトのモビルスーツが、小鳥のように思える。

 だがそれ以上に、サイを驚かせたものは──

 

 

 雲海のほぼ半分を覆い尽くさんばかりの、黒いモビルスーツの編隊。

 それらは全て、オギヤカから次々と発進していた。

 

 

 サイはそのモビルスーツ群に、見覚えがあった。

 ──あれは、アマミキョを潰そうとしたダガーLだ。

 真っ黒に塗装され、紅蓮のカメラアイで相手を威嚇するその様は、忘れるに忘れられない。

 どれほどの攻撃を受けようと、どれだけ装甲を破壊されても、どれだけ仲間を落とされようとも全く意に介さず、ただひたすらにアマミキョを破壊しにきた者たち。

 

 確か、伊能大佐が言っていたな。

 あれには、人が乗っている気がしないと──

 

 ザフトのモビルスーツが小鳥なら、あいつらは蝗の如くだ。あっという間に相手にとりつき、一斉攻撃をかけていく。

 紅の翼をもつ例のモビルスーツも必死で応戦していたが、劣勢に追い込まれているようだ。

 どうも最初から、機体の一部を破損していたらしい。マニピュレータの動きが、サイから見ても明らかに遅く、不完全だった。

 

 ──そんな武装でこのオギヤカに挑もうとしたのか、ザフトは。

 

 ビームブーメランまで展開しつつ、次々と漆黒のダガーLを落としていく紅の翼。

 だが多勢に無勢、次第に追い込まれていく。

 ザフト側の援護も非常に乏しい。他にはあの、ストライクによく似た機体しかいない。

 こちらもまた、サイは見覚えのある機体だった。

 

 

 ──やはりそれだけ、南チュウザンは危険な兵器を有したということか。

 ザフトがこうして、補修不全の機体すら使おうとするほど。

 

 

 しかしサイがそこまで考えた、その瞬間――

 一人の女の声が飛び込んできた。何故か彼の脳に、直接。

 

 

「生きていたか、サイ・アーガイル!!」

 

 

 突然の事態に、サイは反射的にオギヤカとは反対方向へ振り返る。

 彼らの眼前に、不意に現れたものは──

 あの、カオスガンダムもどき。不味いココアのような色の機体。

 それが、雲から出たばかりのサイたちの真正面に躍り出て、紫のカメラアイを不規則に明滅させる。

 構えられた高エネルギービームライフルは、どういうわけか真っ直ぐにサイたちのコメットを狙っていた。

 間違いなく、サイたちだけを。

 

 何故だ。

 何故、オギヤカではなく、俺たちまで? 

 

 あまりのことに、サイは一瞬、頭が働かなかった

 ──カズイの叫び。

 

「サイ! ぼさっとすんな!!」

 

 そんなカズイの、彼にしてはいささか乱暴な言葉のおかげで、サイは撃たれずにすんだと言える。

 彼の声に弾かれるように、サイは咄嗟にバーニアを吹かした。直後――

 ビームライフルの火線が、それまでコメットのいた場所を貫く。

 それは轟音と共に雲を吹き飛ばし、雲の下で荒れる黒い海が一瞬、露わになった。

 身体中から、どっと汗が噴き出る。恐怖による汗が。

 当たらなければ問題ないと分かっていても、これは──

 その機体から放散される凄まじい怨念に、サイは覚えがあった。

 ──まさか。

 

 

 

 

 

 

 彼らを撃ったのは勿論、カオスγパイロット──アムル・ホウナ。

 そのコクピットで、彼女は激情と憎悪、そして何故か湧き上がる快楽に身をゆだねていた。

 通信からは、ヨダカの怒声が響いている。後方から援護してくる、グフ・イグナイテッドからの指示だ。

 

《アムル! 前に出過ぎるな! 

 単独行動は危険だ、デスティニーとインパルスの援護へ……》

 

 だが彼女は、その言葉にきっぱりと否定で応答する。

 

「隊長、それは無理です」

《何!?》

「あの船から射出された飛行物体を発見しました。援軍を呼ばれる可能性があります。

 これより当機は、追跡を開始します。必要とあらば撃墜いたしますので」

《撃つ必要はない。それよりも、あの艦を止めるのが最優先だ!》

「南チュウザンの艦から射出されたものですよ。奴らがどれだけ危険かは、隊長とてご存知のはず」

《待て! 無茶を……》

 

 皆まで聞かず、アムルは一方的にヨダカとの通信を切断した。

 改めて、メインモニターに捕捉したコメットの姿を、アムルは凝視する。

 

 

 ──やはり、生きていた。サイ・アーガイルは。

 さすが、あの母の執念。どれだけ叩き潰しても、ここまで私を追ってくるか。

 今度こそ、殺さなければ。いいえ、殺すだけではもう飽き足らない。

 あれだけ叩き潰したのに、こうしてまだ生きているのだもの、あいつは。

 ならば──

 

 

 舌なめずりをしながら、アムルは呟く。

 

「捕まえて、辱めて、握りつぶす」

 

 そう。殺しても殺しても、こうして蘇って私の邪魔をするのなら──

 その魂ごと、叩き潰すしかないじゃない? 

 お前を屈服させて、お前を喰らって、お前が全部私のものになれば、私は──

 母を超えられる。

 

 

 

 

 

 

 カオスγの機動兵装ポッドが、再び開かれる。サイたちの眼前で。

 あれを使うつもりか。俺たち如きを相手に! 

 

「カズイ! 前に回れ!!」

 

 サイは咄嗟に、背中にくっついたままのカズイを強引に右腕で抱え込もうとする。自分の身体で庇うために。

 だが、カズイはそれには頑なに応じなかった。

 

「だ、大丈夫……大丈夫だから。

 俺、サイを守るって、決めたから!」

 

 先刻と同じ言葉を、カズイはもう一度自らに言い聞かせるように叫び、サイの腰をぎゅっと掴む。その声は完全に震え、目も瞑ったままだったが。

 ここで揉みあっても、仕方ない。

 サイはカズイをそのままにしておくと、前だけを見据える。

 とにかく、奴から逃げなければ──

 そう思った瞬間、辺りが爆光に包まれた。

 カオスもどきのメイン武装・ファイヤーフライ誘導ミサイル。その双肩に装着されたポッドがサイたちの眼前で、一斉に光の華を咲かせた。

 

 

 ──神様!! 

 

 

 サイは必死でコメットの操縦桿をたぐり、壊れんばかりにバーニアを吹かしてそのミサイルから逃れようとする。

 とにかく、振りきれ。振りきるんだ。奴に囚われては駄目だ。

 

 

 十何発ものミサイルが、一斉にコメットに接近しては、その周囲で花火のように爆発する。

 まるで、サイたちの必死さを嘲笑うように。

 いや、嘲笑うように──ではない。実際、嘲笑されている。あのパイロットに。

 あの、カオスもどきのパイロットに。

 あいつは恐らく、俺たちに当てようと思えばいつでも当てられる。だからこうして──

 

 

 

 

 

 

 サイの推測は、全くその通りで。

 四苦八苦しながら逃げ惑うコメットを、アムル・ホウナは満足げな表情で眺めていた。

 

 ──呆気なく散られては、困るわ。

 私のもとで、私の手の中で踊りながら、息絶える。

 それが貴方の運命よ、サイ君。

 

 彼女の唇に仄暗い笑みが浮かんだ、その時

 ――コクピットにアラートが鳴り響いた。

 

 

 

 爆光で目が眩みそうになりながら、サイは空を翔ける。

 火の粉混じりの熱風に身体をじりじり焼かれながら、木の葉のように揉まれながら、彼はそれでも冷静に風を読んでいた。

 時には、いつぞやのアークエンジェルのバレルロールもかくやという空中回転をかまし、巧みに砲弾を避けながら、どうにか墜落を免れている。

 そしてカズイも、そんなサイの背中から、決して手を離そうとはしなかった──

 しかしそんな彼らの眼前に、さらに立ちはだかるものが現れた。

 それは、どこまでも冷酷な紅のカメラアイを持つ、黒ダガーL。その数、およそ3機。

 

 

 

「邪魔を、するなぁっ!!」

 

 不意に現れた黒ダガーLの姿に、アムルは激昂を隠せない。

 コメットを捕らえるかのように動くダガーLを、彼女は一瞬でターゲッティングする。

 数瞬の後、無防備な黒い機体どもに向けて、ファイヤーフライが火を噴いた。

 

 

 

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