【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
サイたちのコメットを撃墜しようとはせず、あくまで捕らえようとしてマニピュレータを伸ばしてきた、黒のダガーL。
その頭部に、ファイヤーフライが十何発と、凄まじい劫火をもって撃ちこまれる。
結果として、サイたちの至近距離でダガーLは爆砕された。
「わ、うわああぁあああっ!」
絶叫するカズイ。
サイは咄嗟にコメットを反転させ、爆風から身を守ろうとした──
このような時、最も恐ろしいのは炎に巻き込まれることだ。それはこれまでの経験から、分かり過ぎるほど分かっていたつもりだったが──
それでも、このような状況下では勝手が違ったのか。
「──!!」
左の二の腕あたりに、突如酷く熱い衝撃が走る。
見ると、左肩あたりの布地が裂け、そこから噴きだした真っ赤な血が、空中に一筋の帯を作っていた。
爆散した機体の破片でも当たったのか──
だとすれば、この至近距離。銃弾を撃ちこまれたようなものだ。
「サイ!!」
何が起こったのかをすぐに理解したカズイだったが、悲鳴を上げるしかない。
爆発の勢いで、コメットの台座からサイの両足も一瞬、宙に跳ねあがる。
それでも彼は激痛に耐えながら、操縦桿から決して手を離さなかった。
──今俺が手を離したら、二人とも死ぬ。
──アマミキョも、また、沈む。
じわじわと肩を濡らしてくる嫌な血の感覚に耐えながら、サイは必死でコメットの制御を続けた。
爆風の威力で雲に叩き付けられ、さらにサンドバッグか何かのように突風で左から右から身体を殴られながらも、サイは諦めなかった。
──ダガーLを盾に、奴を撒く。
幸い、あのダガーLはこちらを殺すつもりはないようだ。恐らくフレイの指示により、俺を捕らえようとしてるんだろう。
なら、カオスもどきと奴らが揉みあっている間に逃げおおせれば、勝機はある。
破片に当たらぬよう、カズイを振り落とさぬよう、爆風に巻き込まれぬよう。
とにかく風をつかまえ、この場から逃げおおせる。それだけをサイは考えた。
数時間にも思える何秒かの間、奮闘を重ねた結果──
危うく叩き落とされかかっていたコメットも、どうにか立て直しに成功し始める。
左腕は少々傷ついたが、コメット自体の損傷はそこまでではない。少し、翼が炎熱で焦げた程度か。
──少しだけ胸を撫で下ろし、突風に身を任せて再び雲から出ようとした時、
操縦桿を握るその左手に、そっとカズイの手が乗せられた。
「カズイ?」
「……俺も、やる。
さ、サイにばっか、任せてらんないし……」
その腕力は、サイが思っていたよりも、強かった。
──そうか。
カズイだって、アークエンジェルの一員だったし、今は立派なアマミキョの一員だ。
この間なんか、あの収容所の地獄から、俺を救い出そうとすらしてくれた。
もしかしたらカズイの奴、俺よりも腕力はついたのかも知れない。少なくとも、左手の力は、今の俺よりはずっと強い。
左腕の傷がそのレベルまで悪化している事実が悲しくはあったが、それでもサイはほんの少しだけカズイに微笑み、改めて操縦桿を握り直しつつ言った。
「分かった。
後ろは任せる、カズイ!」
炎に巻かれる寸前になりながらも、間一髪で閃光をかわしていくサイのコメット。
それを眺めながら、アムルはさらに嗤う。
「さて……どこまで逃げおおせるかしらね。
どこへ逃げようと、お前は私の手のうちだというのに!」
そんなアムルが駆るカオスγを前に、ダガーLは3機とも呆気なく爆散した。
しかし未だに、アラートは鳴りやまない。鬱陶しげにアムルが上空を確認すると──
ダガーLの爆炎に紛れて、いつの間に近づいたのか。
全身紅のガンダム・セイレーンが、彼女の直上から斬りつけてきた。
血の如き閃光を放つ、双対のビームジャベリンで。
「甘いわ!」
そんなアムルの舌打ち混じりの呟きと共に、カオスγから再びファイヤーフライが撃ち放たれる。
しかし、誘導ミサイルの嵐を巧みにかわしながら、瞬く間にカオスγとの間合いを詰めてくるセイレーン。
懐に飛び込ませまいと、アムルはファイヤーフライの射出を一旦止め、咄嗟にカオスγを変形させた。
かつてのカオスガンダムと同様、この機体にも可変機構がある。ビームサーベルやファイヤーフライなどの武装を保持しつつ、モビルアーマー形態への変形が可能だ。
その機動力に任せ、カオスγは全力でセイレーンから一旦退く。
カマキリのようでアムル自身は好きにはなれない変形だが、この際仕方がない。
この形になっていなければ、やられていた──
考えようによっては、あの忌まわしい男を捕らえるには、モビルアーマー形態がちょうどいいのかも知れない。
そう考えたアムルは体勢を立て直し、唇を舐める。
逃げ去ろうとするコメットを追わせまいとするように、セイレーンはカオスγの前に立ちはだかる。だが──
アムルが予想だにしなかった少年の声が、コクピットに響いた。
《どいてくれ! そいつは、俺が!!》
それは、ダガーLの集団を全て火球に変えて殲滅しながら、猛然とセイレーンに迫ってくるデスティニー・ガンダム。
そのパイロットたる、シン・アスカの声。
「その機体……
レイのもんだろうが!!」
怒りに燃えるシンの叫びが、天空に響く。
そんなセイレーンとデスティニーを、インパルスに乗るルナマリアは呆然と眺めているしかなかった。
特にセイレーンの姿は、彼女にとっても信じがたい。
「もしかして、レジェンドの改造機……
もうそこまで、ザフトの情報が洩れていたの?」
レジェンドガンダムは、かつてレイ・ザ・バレルが搭乗した最新鋭の機体だ。
インパルスなどと同様、ザフトのセカンドステージシリーズに当たる機体ではあるが、その性能から事実上、「サードステージ」に当たると言われるものである。
そしてレジェンドは、かつてのプロヴィデンスガンダムにさらに改良・強化を施した、いわば発展機でもあった。
ニュートロンジャマーキャンセラーを始めとして、ユニウス条約違反の武装も積んでいる
──それが、外見だけとはいえ、こうも易々と技術を寝取られるとは。
「まさか、性能まで同じじゃ……」
彼女が戸惑っている間に、シンのデスティニーはセイレーンへと迫る。
シンにとって、かけがえのない友だったレイ。
彼の乗機だったレジェンドを、勝手に模された──それも、ザフトの最高機密に近い機体を。
それがシンの怒りにさらに油を注いだのか。デスティニーは一直線に、紅の機体へ向かっていく。
しかし今のデスティニーは、メサイア戦で破損した脚部も腕部も、修復が完了していない。
一応パーツだけは揃え、何とか接合はしているが、それだけだ。
――通電機能が不十分だから無茶をするなって、ヴィーノも言ってたのに。
それでもデスティニーは、アロンダイトを手に斬りかかる。
シンの叫びを乗せて。折られた翼を、無理矢理に広げて。
そのビーム刃の光量は、ルナマリアが知るかつてのアロンダイトよりも相当落ちていた。
勿論シンだって、今のデスティニーがどういう状況かぐらいは分かっている。
でも──
そうせずには、いられないんだ。
シンはまだ、あのメサイアでの悪夢から脱け出せていないから。
ナオトへのあの態度からも明らかだ。手にした力を使うべきところを、見失ったまま──
この時、ルナマリアはそれを痛烈に感じないわけにはいかなかった。
追撃体勢に入ったカオスγから、どうにか逃げおおせたと思ったら──
皮肉にも、俺はフレイに助けられた形になったのか。
未だに決死の逃避行を続けるサイの眼前で、セイレーンのカメラアイが2、3度、紅に閃く。まるで、ウインクでもしているかのように。
逃げろというのか。それとも、戻れというのか。
サイはその意思が掴めぬまま、コメットをもう一度大きく飛翔させる。口から内臓を吐きだしそうになりながら。
今はとにかく、何も考えずに飛ぶしかない。
この高度で何度も何度も急旋回に急制動を繰り返したおかげで、俺もカズイも気絶寸前だ。
でも俺は今、君に捕まるわけにも、誰に殺されるわけにもいかないんだ。
――アマミキョを救いだす為には。
それだけが今、サイを突き動かしている全てだった。
幸い、あの紅の翼の機体が猛然とセイレーンに突っ込んで来てくれたおかげで、フレイの注意も僅かにそちらに逸れたらしい。
両の手に携えたビームジャベリンを連結させ、空中で回転させつつ構えるセイレーン――
その機動は明らかに、相手を挑発していた。
一撃、二撃と、空中で衝突するビームジャベリンとアロンダイト。
デスティニーのパワーは明らかに落ちていたが、それでもその剣の勢いはセイレーンですらもやや上回っていた。
それとも、シンの強引さがそうさせていたのかも知れないが──
デスティニーは激しく叩きつけるように、アロンダイトでセイレーンに何度も斬りつける。
セイレーンはビームジャベリンでその斬撃を素早く払いつつも、次第に追い込まれていく。
それを凝視しながら、シンの心に僅かな隙が生まれた。
「へっ……
レジェンドを使いこなせるのは、レイしかいないんだ!」
だがその時、セイレーンのスピーカから発されたのは
――シンに直接響く声。
《この動き……
成長したが、迷いがあるな。シン・アスカ!》
言葉と同時に、ビームジャベリンを両側の腰部に一旦マウントするセイレーン。
そして直接、デスティニーに掴みかかる。両腕部から、ビームシールドを展開させながら。
「その声……!」
シンには、確かに覚えがあった。
忘れるはずもない。ミントンで、インド洋で、苦汁を舐めさせられたあの紅の機体──
終始、自分をからかうような挙動を見せていたあの機体。
――デスティニーに突撃しながら、あいつは自爆したはずだ。
アマミキョを攻撃していたはずなのに、沈みゆくアマミキョと共に果てるかのように。
俺は最後まで、あの機体がナニをしたかったんだか、全然分からなかった。
あの声の正体を、俺は知っている。
フレイ・アルスター──
南チュウザン王妃を名乗り、演説していたあの女。あいつの声と同じだ。
同じような紅の機体に乗って、また俺の前にやってきたのか!
「お前もか!
お前も、蘇ってくるのかよ! 俺が倒したはずなのに!!」
シンは咄嗟にアロンダイトでその腕を薙ぎ払おうとしたが、それよりもセイレーンの挙動は恐ろしく速く、デスティニーの左腕関節部を強引に掴んできた。
──出力低下が、ここにきて響いてきたか。
こうも簡単に、間合いを詰められるとは。
シンは冷や汗もそのままに、即座に右掌部の武装を起動させる。
それは、「パルマフィオキーナ」──掌部ビーム砲。
「ウルマの戦いで、ルナは心底傷ついたんだ!
あんたが何したかったんだか、分からなかったおかげで!!」
シンの叫びと同時に、デスティニーの右掌から青白い閃光が溢れる。
それは、機体を掴んできたセイレーンのビームシールドと激突し、空を一瞬、深紅と純白の雷鳴で満たした。
セイレーンからの声。
《怨みはお互い様だ!
貴様の為に、私はラスティを喪った!
奴の借りぐらいは、返させてもらう!!》
その言葉で圧していくように、セイレーンのビームシールドはデスティニーの光を侵食していく。
同時に──
セイレーンの周囲で、ある変化が発生していた。
かつてのティーダと同様に、機体の装甲全てを光輝かせるセイレーン。
機体周囲の空気が、震えだす。
夥しい熱量を伴ってはいるが目視できない何かが、その砲塔から放射される。
不可思議な鐘の音と共に。