【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

304 / 436
part4 女神が謳う『黙示録』

 

 

「これは……!?」

 

 シンを救出するべく、デスティニーに追いつきかけていたインパルス。

 その中でルナマリアは、何故か鐘の音を聞いた。

 何度も聞いた、忌まわしき音。

 こちらの神経を麻痺させてくる音。

 しかも──

 

「前より、ずっと力が増している!?」

 

 この時の為に、あらかじめ整備班が調整していた遮光フィルタとVPS装甲。

 しかしそれだけでは最早抑えきれない段階まで、あの不可思議な光は勢いを増していた。

 

「……っ!?」

 

 突然わきあがってきた嘔吐感に、ルナマリアは思わずメットごしに左手だけで口を覆った。

 決して右手は操縦を怠らなかったが、それでもこの吐き気はたまらない。

 そんな彼女の眼前で──

 セイレーンが、揺れた。

 正確には、セイレーンの周囲の大気が、揺れていた。肉眼でも判別出来るほどに。

 

 

 

 

 

 

 その光景は、荒れ狂う風をどうにか制御しようと奮闘するサイの目にも、はっきりと見えた。

 戦闘中のセイレーンの装甲全体が不意に、紅の輝きを帯び始め──

 機体の周りが、まるで急激に温度を上昇させたかのように、ぐらりと揺れる。

 その背に負った8基の砲塔の先端で、微かな光が明滅している。雷にも似た紫の光が。

 

「──!!」

 

 襲いくる、強い吐き気。肌を直接突き刺してくる、軽い痺れ。

 激しい滑空によるものかと思ったが、違う。

 そして──鐘の音。

 ティーダが黙示録を発動させた時、何度も聞かされた音。

 この音が、あの機体から発せられているということは──

 

「ティーダと同じ……

 いや、それ以上の機能が、あの機体に──!?」

 

 その時、サイの両手を後ろからしっかり押さえていたカズイが、がくがく震えながら何事かを呟き始めた。

 

「……サイ。逃げろ、早く」

「もう逃げてる! 今更何言ってるんだ、カズイ!?」

「違うんだ。

 あ、アムルさんが……アムルさん……

 生きてたんだ、あの人」

 

 サイは思わず、カズイの視線の示す先を振り返る。

 この鐘の音がティーダと同じものだとすれば、カズイの言葉は間違いなく事実だ。

 ──アムル・ホウナ。忘れられるはずもない。

 オサキことサキ・トモエを殺し、アマミキョ沈没の最大の要因となった女。

 そして、サイとカズイの視線の先には――

 今なお執念深く彼らを追いつめようとしている、先ほどのカオスもどき。

 

 そんな気はしたが、まさかと思っていた。

 あそこに乗っているのか。アムル・ホウナが。

 

 アマミキョ轟沈時、俺を傷つけながら叫んでいた、血塗れの彼女。

 俺の血を浴びて高らかに笑い、勝ち誇っていた女。

 アマミキョと一緒に、ハマーやオサキの命と共に、彼女も果てたかと思っていた。

 しかし──感じる。

 確かに感じる。アムルの怨念を、あの中に。

 

「しつっこい……! 

 まだ、俺が憎いってのかよ! あんたは!!」

 

 サイは思わず、カオスもどきに向かって絶叫する。

 彼の背中に、カズイはしっかりとしがみついていた。殆ど泣き笑いのように、顔をくしゃくしゃにしながら。

 その表情は――

 憧れの人が、生きていた嬉しさと。

 自分が彼女を刺した瞬間の、恐怖の記憶と。

 サイを守らねばという意志。

 その全てがないまぜになり、まさしく混沌(カオス)となっていた。

 

 

 

 

 

「しつこいのは、お前だ! 

 あれだけ叩き潰したのに、いつまでもいつまでも、私の前に現れて!!」

 

 モビルアーマー形態のカオスγの中で、空に向かって咆哮するアムル。

 彼女もまた、強烈な吐き気に襲われていた。

 実際に吐くまでは至らなかったものの、その嫌な感覚と鐘の音は、彼女の苛立ちを倍増させていく。

 

 この空には、私にとって忌まわしいものが多すぎる。この鐘の音のおかげで、色々なものが見える──

 サイ・アーガイルと、そこにアブラムシみたいにくっついているナチュラル。

 そして、フレイ・アルスター。

 あのザフトのひよっ子どもも、だ。

 大したこともない腕の癖に赤服なんか着ちゃって、結果、こうしてフレイに手玉に取られている。

 特にあの、インパルスに乗ってる娘は何なのよ。ろくに射撃も当てられない分際で、私を生意気な目つきで睨んで──

 

 そのルナマリアの声が、通信から轟く。

 

《アムルさん、危険です! それ以上の深追いは!!》

 

 彼女の言葉を弾くように、アムルは怒鳴る。

 

「いいから、貴女はデスティニーの援護に!」

 

 私に文句を言う余裕があるなら──と言いたいのを、何とかアムルはこらえた。

 

 

 

 

 セイレーンと、激しい力の拮抗を続けるデスティニー。

 そのコクピットではシンも、やはり猛烈な吐き気に襲われていた。鐘の音を聞いた瞬間から。

 彼を嘲笑うように、セイレーンのスピーカから響く、女の声。

 

《どうした? そのままでは、メットの中が汚物で溢れるぞ?》

「ふ……ふざけるな!!」

《別に冗談ではない。密閉状態のメット内で吐けば、窒息の危険もある。

 私はお前を、死なせるつもりはないのでな》

 

 畜生が。最初から、本気じゃなかったってことかよ!! 

 

「……聞くか、そんなたわ言!!」

《そうか。

 なら、あれはどうだ?》

 

 コクピットに鳴り響くアラート。

 咄嗟にシンは、上空を確認する──

 

 

 そこで彼が目撃したものは、

 太陽を背に、ビームサーベル1本のみでこちらに飛び込もうとしている、ストライクフリーダム。

 ただしそれは、シンが仇としていたあのストライクフリーダムとは違い――

 翼を始めとして、青かったはずの部分が真っ赤だった。

 そして、飛び込んできた声は。

 

 

《おっひさー、「お兄ちゃん」!!》

 

 

 あまりにも唐突なその声に、シンの呼吸は一瞬、停止した。

 どうして。

 何故、ここに──あの子は、死んだはずなのに。

 

「マユ……!?」

 

 汗だくになり、嘔吐をこらえるシンが幻視したものは──

 紅のストライクフリーダム。

 そのコクピットで、紅のパイロットスーツに身を包み、自在に機体を操っている、幼い少女の姿。

 それは失ったはずの、愛する妹の姿でもあった。

 

 

 

 

 

 

 ──マユ……? 

 マユ・アスカなのか、これは?

 

 

 戦闘空域より、数キロほどの距離を保ちつつ状況を見守っていたミネルバJr。

 だが、反撃部隊たる大量のダガーLに襲われ、艦も安全とは言い難い状況となっていた。

 敵の砲撃で、医務室までもが揺れている。

 そこで、ナオト・シライシは奇妙な声を聴いた──

 

 

 確かに、マユだ。

 僕の知っている、マユだ。

 

 

 チグサ・マナベに今は抑えられてしまっているけれど、まだ確かにマユはそこにいる。

 しかもこの声は──ずっと、強くなってる。

 

 そう感じた時はもう、ナオトはふらふらと医務室から出ていた。

 

 この艦は今、南チュウザン軍と戦闘状態に入っている――

 多分、そこにマユがいるんだ。

 

 頭の中で声はずっと響く。吐き気まで感じる。

 どうやらその嘔吐感はナオトだけではないようで、そばを通りがかったザフト兵たちも同じようだ。

 いつもならナオトを強引に医務室に押し込める彼らだったが、今はそれどころではなく、持ち場へ戻るので精一杯のようだ。中には、呻きながら倒れてしまった看護兵すらいる。

 

 ──でも、僕は。

 僕だけは、倒れるわけにいかない。

 

 いつしかナオトの足どりはふらつかず、しっかりとした歩みに変わっている。

 

 ──あそこに、マユがいる。

 ──そしてもう一つの、この感覚。これは……

 

 その瞬間、胸の中に感じたとても暖かな確信が、ナオトを覚醒させた。

 

 

 ──()()()が、生きている。

 

 

 ずっと腕に巻きついていた点滴を引きちぎって投げ捨て、ナオトは通路を駆けだした。

 吐き気も怠さも吹き飛ばすような、喜びと共に。

 

 ──生きていたんだ。

 今にも消えてしまいそうだけど、今、確かに、あの人は生きている!! 

 

 その想いひとつで、ナオトの全身に、一気に力がみなぎってくる。

 つい先ほどまでずっとベッドで寝たきりだった身体が、小鹿のように跳ねる。

 殆ど裸足のまま、少年は全力で走った。

 

 目的は、ただ──

 もう一度ティーダに乗り、マユに逢う為に。

 そして、あの人を──

 サイ・アーガイル副隊長を、助ける為に。

 

 

 

 

 

 

 ミネルバJrのハンガー内──

 敵の攻撃が激化する中、ヴィーノ・デュプレはハンガー最奥部に配備されたモビルスーツ、その脚部に取りついていた。

 整備長マッド・エイブスの怒声が、背中から彼を打つ。

 

「急げ! 

 例のマイクロウェーブもどきが、敵艦付近から発振されたらしい!!」

 

 戦闘の詳細はここからでは分からないが、最前線にいるデスティニーやインパルスが大混乱に陥ったことだけは、マッドの声の調子からヴィーノにも薄々分かっていた。

 

 彼が今、脚部関節の最終調整を急遽行なっているモビルスーツは、勿論──

 ガンダム・ティーダ。

 システムの回収のみ何とか成功した、南チュウザンの機体。

 修復中のセイバーガンダムにセットアップを行ない、もう少しで動かせるかというタイミングでの、出撃命令だった。

 

 いくらなんでも、今回の戦闘での出撃はありえないだろう──

 ヴィーノ自身はそう思っていたが、どうやらそうそう楽に事は運ばないようだ。

 デスティニーもインパルスも、奴らの卑劣なマイクロ波の網に捕まりかけている以上、今の状況を逆転出来るのは、恐らくこのモビルスーツしかない。

 ティーダの左脚部関節によじ登りながら、ケーブルの接合状況を確認していたヴィーノの背中に、さらにマッドの声が飛ぶ。

 

「もうすぐルナマリアが帰還する! 

 今、インパルスに緊急信号を送ったそうだ!」

「了解!」

 

 他の整備士たちは全員、インパルスの帰還に備えてカタパルトへ走る。

 相変わらずの激しい揺れに耐えながら、ヴィーノも接合部を閉じたその時──

 

 彼は眼下に、信じられないものを見た。

 正確には、そこにいてはならないはずの人物を見た。

 

 

「……へっ?」

 

 

 それは、病衣のまま、何故かここまでたどり着いた少年。

 包帯もまだ取れず、揺れの中よたよたと、ティーダに向かって歩いてくる子供

 ――ナオト・シライシ。

 

 

 ヴィーノは彼を止めようと叫びかかったが、ひときわ酷い揺れがまたミネルバJrを襲う。

 その途端、ナオトの身体も一息に吹っ飛ばされ、かなりの勢いで背中から叩きつけられた。

 ティーダの足元へ。

 慌ててヴィーノは彼を助けようと、つい大気圏外と同じ調子で飛び降りかかったが、すぐにその愚かさに気づいて自らを制止する。

 

 ――クソ、地球の重力ってのは何でこう不便なんだよ。

 ひょいって飛び降りて、あいつを助けることすらままならねぇ。

 

 ヴィーノは唇を噛みしめながら、急ぎつつも慎重にステップを降りていこうとしたが──

 その瞬間、先ほどまでよりもずっと強烈な地響きが、彼らを揺らした。

 

 

「う、ウワアァアッ!?」

 

 

 ほぼ同時に来たものは、凄まじい熱風。無重力下と同じように、自分の身体がふわりと浮く。

 交錯する、整備士たちの怒号と悲鳴。

 自分と同じ緑のユニフォームを着た男たちが数人、光や破片と共に、木の葉のように吹き飛ばされていく。

 

 

 ヴィーノはその感覚に、覚えがあった。

 忌まわしい、炎熱の記憶。

 これは、ミネルバが墜とされた時と同じだ。

 ──ヨウランが、潰された時と。

 

 

 同時にヴィーノは、光の向こうに見た。

 ティーダとは正反対の、黒いカラーリングのモビルスーツを。

 ティーダやインパルス、デスティニーとよく似た頭部意匠を持つモビルスーツが、真っ黒に塗りたくられ、まっすぐにこちらに突き進んでくる。

 腕も足も砲撃でもぎ取られ、ほぼ胴体だけになっているのに。

 紅に光るそのカメラアイは、何故か、酷薄に笑っているように思えた。

 マッドの絶叫。

 

「畜生が! 

 奴ら、集団で特攻してきやがった!!」

 

 

 

 

 

 

「カタパルトが!?」

 

 ミネルバJrがひときわ大きな火柱を上げる光景を、ルナマリアはサブモニターで確認することしか出来なかった。

 自分たちがもたもたしている間に、黒ダガーLの集団は次々と、ミネルバJrを始めとするザフト艦隊に襲いかかっていく。

 しかし、どうすることも出来ない。帰還命令が先ほど出されたばかりだが、今は──

 ストライクフリーダムを前に固まっているデスティニーが、目の前にいる。

 

 ――こんなシンを放置するわけには、いかない。

 

 ルナマリアは吐き気をこらえ、果敢にも操縦桿を握り直し、インパルスの体勢を立て直そうとする。

 だがそれよりも、紅蓮と純白に彩られたストライクフリーダムの動きの方が、遥かに速く──

 デスティニーの胸部コクピットハッチが、一瞬で斬り飛ばされた。彼女の眼前で。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。