【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part6 ティーダに、乗せてください

 

 

 ダガーLの特攻を受け、激しく炎を噴き上げるミネルバJrカタパルト。

 気が付いた時、ヴィーノは白く輝く機体・ティーダの足元で身を屈めていた。

 病衣のままの、ナオト・シライシを庇いながら。

 

「げほっ……

 お前、何だって、こんな時にこんなトコに!?」

 

 猛烈な煙に咳き込みながら、ヴィーノは思わずナオトを怒鳴り散らす。

 だがナオトは素早く、そんな彼の襟ぐりに掴みかかった。

 ヤバイ。こいつ、意外と腕力はあるんだっけ。民間人とはいえ、一応モビルスーツ乗りではあるし。

 ヴィーノを押し倒しかねない勢いで、ナオトは何かを訴えようと口を開き、喘ぐ。

 分かってる癖に。お前の声、もう出ないこと──

 しかしナオトは、少しはだけてしまった胸元から何かを取り出した。

 それは、いつも彼が会話に使っているメモ。

 そこには、前に見たものよりずっとしっかりした文字で、こう書かれていた。

 

 

 ──乗せてください。僕を、ティーダに。

 ──僕は、サイさんを助けたい。

 ──マユも! 

 

 

 反射的に、ヴィーノはナオトの顔をまじまじと見返す。

 そして仰ぎ見る。炎が迫る中でも、未だに拘束を解かれず屹立しているガンダム・ティーダ──

 ティーダ・(ズィー)を。

 ナオトを乗せる? 冗談じゃない。

 ここはルナを待つべきだ。

 

「馬鹿野郎! 

 お前、自分がナニ言ってるか分かってんのかよ!? 

 あれはルナの機体だ、お前なんか誰が乗せられるか!」

 

 それでも少年は首を横に振り続け、頑なにメモをヴィーノの鼻先につきつける。

 

 

 ──僕しか、乗れないから。

 ──ティーダには、僕しか。

 

 

 灰でも入ったのか、ナオトの目からはかなり濁った涙が流れ出していたが、眼光は猛禽類のそれだった。

 その黒い目に真っ直ぐ見つめられながら、ヴィーノは考える。

 確かに、ここでルナマリアが戻ってこられたとしても、すぐにティーダで飛び出せるとは限らない。むしろ、ティーダが起動すらしない可能性も高い。

 幾度も徹夜してティーダのシステムに取り組んだ経験と、整備士の勘から、ヴィーノはそう感じていた。

 ならばこの状況を打開するには、既にこいつを動かした経験のあるナオト・シライシが──

 

 そこまで考えて、ヴィーノは首を振る。

 駄目だ駄目だ、何を考えている。

 こんな民間のド素人に、最新鋭の機体を任せる気か──

 だがそれでも、ナオトは執拗にヴィーノの胸にしがみつき、必死でメモに追記した。

 

 

 ──このままじゃ、みんな死にます! 

 ──もう僕は、そんなのは嫌なんだ!! 

 

 

 震える手で、不器用に綴られた言葉。

 しかしその言葉は、ヴィーノにまたしても、あの日の悪夢を思い起こさせた。

 目の前で炎上するダガーLの黒い姿が、仲間たちを一瞬にして圧し潰したインフィニット・ジャスティスのファトゥムと重なる。

 

 

 ──あの時と同じだ。

 あの時もこんな風に、大勢の仲間が呆気なく押しつぶされ、身動き出来なくなって、焼かれた。

 その中には──ヨウランもいた。

 艦から脱出する時、俺はあいつの血まみれのグローブを握りしめて、情けなく涙を流すしかなかった。

 あいつは何とか救出されたけど、でも──

 

 

 あの時の俺は、あいつにも、仲間にも、何も出来なかった。

 だけどあの時から、俺はずっと思ってる。

 もう二度と、俺は、仲間をあんな目には遭わせたくない! 

 

 

「……

 来い! ナオト!!」

 

 熱風に煽られながらも、ヴィーノはナオトの手を掴んで立ち上がった。

 メモでナオトが必死に訴えてきた、サイやマユの名は、ヴィーノも聞いたことがあった

 ──ナオトの、かつての仲間。

 既に死んでしまったはずの、仲間。

 だけど、ナオトは確信している。すぐそばに、その大切な仲間が生きていることを。

 奇妙なことに、ヴィーノもそれを、何の疑念もなく信じてしまった。信じこんでしまわせる何かが、ナオトの言葉にあったから。

 それを自覚しつつ、ヴィーノは唇を噛む。

 

 ──敵艦から放たれたっていう、例のマイクロウェーブのせいかもな。

 さっきから急に謎の吐き気がこみあげてきているのも、そのせいか。

 

 彼はナオトの手を引っ張り上げながら、もう一方の手をティーダ左脚部脇の整備用操作パネルに伸ばす。

 慣れた手つきでパネルを開き、電光石火の速さでキー入力を行なうと、静かにティーダコクピットハッチが開いた。

 中から乗降用ワイヤーが、するすると飛び出してくる。まるで、ナオトを招き入れるように。

 その時──

 

 

「やめるんだ、ヴィーノ! 

 その子供を、またティーダの呪いにかけるつもりか!」

 

 

 ミネルバJr整備班チーフたる、マッド・エイブスの絶叫。

 それにより、ヴィーノとナオトの動きも一瞬、止まってしまった。

 

 ――全くの偶然によりナオトが最初にティーダを起動させたことで、彼はティーダに縛り付けられ、結果、このような事態に陥った。

 その事実は、ヴィーノも知っていた。ヨダカからの情報と、ティーダの内部システムの解析で。

 かなり強引にその厳重なセキュリティをこじ開けることに成功したとはいえ、もう一度同じことが起こらないとは限らない。ザフトの技術をもってしても、未だにティーダの起動システムはブラックボックス同然なのだ。

 

 しかし、だからといって──

 ヴィーノは逡巡したものの、それでも身体は動く。

 当然、ナオトも意外なほど素早くワイヤーを掴んだ。その尻を持ち上げるように支えながら、ヴィーノは怒鳴る。

 

「仕方ないでしょ! 

 ここでティーダを出さなきゃ、みんな、あの波に呑まれちまう!」

「しかし、その子供は民間人だぞ! 

 ルナマリアを待つんだ、彼女なら……」

「んな時間、ありませんよ! 

 だいたい、ルナが動かせるって保障もない! 彼女はあくまで、サブパイ登録しただけなんですから!」

 

 マッドの怒声も聞かず、ヴィーノはそのままナオトと共にワイヤーを伝い、コクピットへ昇っていく。

 

「俺だってね! 

 もう誰も、死なせたくないんですよ!!」

 

 そんな部下の反論に、マッドも一瞬おし黙る。

 そりゃそうだろ。あの親父だって、ヨウランたちが潰されるのを間近で見ていたんだ。

 ヴィーノが内心ほくそ笑み、ナオトをコクピットに押し上げた瞬間──

 

 

 

 開かれたままのカタパルトの向こうに、彼は見た。

 炎に包まれた黒ダガーLが1機、まっすぐにこちらに向かって突っ込んでくる光景を。

 その右腕に装着されたままのビームカービンから、閃光が走っている。

 そしてそいつは、先ほどのヤツと全く同じく、カタパルトに機体ごと激突しようとしている。

 一発の、巨大な砲弾となって。

 

「退避だ、ヴィーノ!」

 

 マッドの絶叫の直後──

 ヴィーノとナオトは、激しい爆風によりワイヤーごと吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故、あいつを逃がしたんです?」

 

 外部で戦闘の続く、オギヤカ艦内。

 当然だがオギヤカは全艦にわたりほぼ完全なマイクロウェーブ遮蔽が施され、内部の人間にはほぼ何の影響もなかった。

 

 そんな中──

 先ほどまでサイ・アーガイルを捕らえていた一室で、トール・ケーニヒはレイラと二人きりになり、対峙していた。

 

 ベッドの上にレイラを座らせ、トールはそれを見下げて腕組みしながら質問する。

 チュウザン王妃の妹に対する礼儀としてはありえないと自覚しつつも、彼はそうせずにはいられなかった。

 相手が間違っていると感じた時には、王族相手といえども厳しく直言する。いや、そうしなければならない。

 それはトールだけではなく、オギヤカ全体における礼儀でもあった。

 彼を真正面から見据え、レイラは切り返す。

 

「トールは、姉上を助けたいと思わないのですか?」

「質問を質問で返さないでくださいよ。

 それって、フレイの最も嫌うことですよね?」

「質問者本人が答えを分かっているはずの問いに、わざわざ答える必要はありませんから」

 

 あくまで平静なレイラに、トールは思わず両拳を握りしめる。

 

「いや、俺は全く分からんから聞いてるんですが。

 何故、貴方がサイたちを逃がす必要があったんです? 

 貴方自身が、危険を冒してまで!」

 

 最後の言葉は、本心から出たものでもあった。

 こんな無茶をしていれば、いずれ彼女は消されてしまう。

 いくらフレイの庇護下にあるとはいえ、レイラの行動が御方様の逆鱗に触れれば、それは彼女ら姉妹にとっても、非常に良くない結果を招く。

 それは、レイラだって分かりきっているはずなのに。

 

 そんなトールの胸中を知ってか知らずか、レイラはそっと呟いた。

 

「──今の姉上では、サイ様を守りきることは出来ません。

 最悪の場合、姉上ご自身がサイ様を殺める愚を、もう一度犯してしまうでしょう。

 それに……」

 

 言い淀むのは、レイラには珍しい。

 トールは敢えて、突き放すように先を促した。

 

「それに?」

「姉上は、まるで自らを追い詰めるように動いていらっしゃる。

 ご自分がいなくなることを、望んでいるかのように。

 むしろ――サイ様さえ、遠ざけるかのように」

 

 そのことは、末端の兵にすぎないトールも感じてはいた。

 世界中に大々的に配信された映像といい、チグサを好き勝手に暴れさせていることといい。

 サイに強引に婚姻を迫った件も、正直理解が出来ない。

 しかし、仕方がない。それがフレイの指令であり、ひいては御方様の命令なのだから。

 

 ──俺たちアマクサ組は、彼女たちによって名と命を与えられたようなものだ。

 彼女たちの意図しない方向に物事が進みそうな時以外に、俺たちが命令に背くわけにはいかない──

 

 少なくとも、トール自身はそう考えていた。

 例えフレイ自身が、自らを滅ぼすかのように動いたとしても。

 

「……レイラ。

 それがフレイ・アルスターと御方様の意思であるなら、自分は背くことは出来ない。

 背こうとも思いません」

「トール。

 姉上の行動が、貴方自身を破滅させることになったとしても?」

「当然です。それが、彼女の意思である限り。

 俺たちアマクサ組の存在意義は、そこにあります」

 

 彼の言葉に弾かれたかのように、レイラは突然声を荒げる。

 

「私は、そんなことは望みません! 

 姉上も、貴方がたも、サイ様も──私は、皆の幸せを望んでいます」

「だから、サイを逃したとでも言うんですか」

「その通りです。

 あのまま婚姻を進めれば、サイ様はいずれ消されてしまう」

「それでもフレイは、彼を守りきるつもりだった」

「守るつもりで守れなかった結果が、アマミキョの沈没ではないですか?」

 

 レイラの発言に、今度はトールが口ごもる。

 

 

 同時に思い出したのは、チュウザンで目にした、血みどろのフレイの姿。

 あの時フレイは、身体を張ってサイを守ろうとしていた。

 

 ――御方様は、俺に命じたはずなのに。サイを消し去れと。

 考えたこともなかった。最初に聞いた時は、信じられなかった。

 何故なら、あり得ないはずだったから。

 フレイと御方様──

 ラクス・クラインの思惑が、矛盾するなどと。

 そんな、あり得ない『イレギュラー』を生じさせたのが、サイ・アーガイル。

 

 

「サイ様なくして、姉上の幸せはありえない。

 姉上が破滅の道を自ら歩まれようとしても、サイ様がアマミキョを取り戻せたなら……

 きっと彼は、姉上を止めてくださる」

 

 その為に、サイをアマミキョに帰したとでも言うのか。

 買いかぶりがすぎるのではないかと、トールは思ったが──

 

「それに──

 姉上は、まだ何かを隠していらっしゃる」

 

 レイラは酷く憂鬱そうな表情になり、トールから顔を背けた。

 

「隠していること、とは?」

「予感はありますが、はっきりとは分かりません。

 恐らく今は、どなたにも打ち明けられていないのでしょうが……

 その秘密がいずれ、姉上を壊してしまうような気がしてなりません」

 

 それきりレイラは、固く口を噤んでしまった。

 まだ微かな戦闘音がここまで響いていたが、どうやらそれも小さくなってきている。

 不自然な沈黙だけが、二人の間を満たしていくのだった。

 

 

 

 

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