【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part7 新生ティーダ、出撃!

 

 

 炎熱で吹き飛ばされ、今度こそ全ては終わったかと思ったが──

 ナオト・シライシは、まだ生きていた。

 そして奇跡的に、ティーダのコクピットに再び戻ってきた。爆風から咄嗟に逃げこんだら、シートに座っていたという形でだが。

 眼前に迫る炎。網膜までを焼いてくるその熱から、今――

 ヴィーノが身体を張って、ナオトを守っている。

 ナオトに覆いかぶさるようにして、いつになく冷静に彼は指示を下した。

 

「……いいか、ナオト。

 ここまでやるからには、絶対にそいつを助けろ。

 そんで必ず、戻ってくるんだ。ここに」

 

 ヴィーノの左肩あたりに血が滲みだしているのを、ナオトは見逃さなかった。その赤がどんどん、彼の左上半身を侵食していくのも。

 彼の身体に阻まれ、その向こうで何が起きているのかもよく分からなかったが──

 

 

 それでも、僕は行く。

 行かなきゃいけない。

 

 

 ナオトは、まだ乗り慣れないコクピットの状況を確認する。

 メイン操縦席の後部にもう一つ、サブ操縦席があるのは元のティーダと同様だった。

 かつてのコクピットよりも、若干両サイドが広い。ちょうど、両側に後一人ずつ人間が乗れそうな感じだ。

 そして、ちょうど両膝の真ん中に当たる位置に、例のハロがちょこんと乗せられている。

 

 ナオトにはすぐ分かった──

 これは、ずっと自分とマユを導いていた、あの黒ハロだと。

 黒かった塗装が完全に剥がれ、銀色と見まがうばかりの純白に塗り替えられてはいたが。

 ハロに顎をしゃくりつつ、ヴィーノは淡々と説明を続ける。

 

「一番の秘密兵器たるアレに関しちゃ、どうなるか分からないが……

 なるべく使うなと言いたいが、状況が状況だ。囲まれてどうしようもなくなったら、最終手段として使え。

 起動手順は元のティーダとほぼ同じと考えていい。若干の変更はあるが、ハロがオートで調整してくれるだろ。

 そのへんのデータと、お前のパーソナルデータの上書きだけはそいつ、断固拒否しやがってな。殆ど手は入ってない。

 ただ、重心と基本動作パターンの設定は完了してる。自動制御システムはその右下パネルで──

 そうそう、ニューラルリンケージネットワークもそいつで構築完了、あとは……」

 

 そんなヴィーノの指示に従い、ナオトは手早くメインコンソールパネルを起動させる。

 コーディネイターらしくヴィーノの指示は早口だったが、ナオトは一つも迷うことなく手順を追っていった。

 灰と煙と炎の粉の舞い散る中、新生ティーダの操縦席に次々と光が灯っていく。

 前方270度を見渡せるメインモニターに、周囲の状況が一息に映し出された。

 

 

 

 ナオトの手元に配置された小型システムモニターには、起動画面が輝いている。

 そこに表示されていた文字列は、かつてのティーダと全く同じものだった。

 

 

 

 Generation

 Unilateral

 Neuro-link

 Dispersive

 Autonomic

 Maneuver

 

 

 

 それを見て、ナオトは若干首を傾げた。

 どうして。ティーダは、ザフトのものになったのではないのか。

 何故、以前の起動画面と同じメッセージが表示されている? これは元々、連合製GAT-Xシリーズの起動画面ではないのか。

 不思議に思うナオトに、ヴィーノは即座に説明した。

 

「元が、モルゲンレーテと連合のシステムだからな。しかもろくに手を入れられないときちゃ、OSがほぼそのまんまでもしょうがねぇ。

 ──まぁ、考え方を変えりゃ、ザフトの最新鋭機体がオーブと連合製のOSを使うっての、ちょっとしたロマンじゃないかと思うぜ。

 あのチュウザンのカス共に対抗するにはな!」

 

 そんなヴィーノの言葉に応えるがの如く、それらの文字列にクロスするように赤く表示される文字。

 

 

 

 ──T I I D A

 

 

 

 さらにそこへ、画面いっぱいに大きく重なったのは、“Z”の文字。

 全ての終わりを意味する、ラテンアルファベット最後の文字。

 それを確認しながら、ナオトはモニターごしに周囲の状況を眺める。

 

 

 

 炎を噴きだしカタパルトにめり込みながらも、未だに紅のカメラアイを明滅させる黒ダガーL。

 熱風に呑まれかけながら、伏せたまま動けない整備士たち。

 天井にまで黒煙の充満するハンガー。

 さらに白い空の向こうから、迫ってくるダガーLの反応。

 今、ミネルバJrの命運は、この空で尽きかけていた。

 

 

 

 ──いつか、ティーダに初めて乗った時と、何も変わらない。

 フーアさんもアイムさんもいなくなって、たくさんの人が死んで。

 だけどあの時僕は、マユを、サイさんたちを助ける為に、ティーダに乗った。

 そして今も僕は、彼女を、彼らを取り戻す為に、ティーダに乗る。

 いつも隣にいて当たり前だった人たちを、取り戻す為に。

 

 

 

 最終確認を済ませると、ヴィーノは素早くワイヤーを手繰り寄せ、跳ねるようにコクピットから飛び降りた。

 ワイヤー伝いにするするとその身を滑らせ、熱くなりかかった床に到達し何とか重力に耐えたと思うと、すぐに壁沿いの簡易操作パネルに飛びつく。

 パネルが開かれ、彼の血みどろの左手がいくつかキーを操作した。すると──

 

 ティーダを拘束していた整備用装甲が爆砕され、一瞬にして強制的に解かれる。

 防護用シートも外され、その全てがマントのように、ひらりとハンガーの床に落ちていく。

 コクピットハッチも閉じられ、メインモニター全面に、カメラが捉えた周囲の状況が映し出される。

 これでティーダは、いつでも出動可能な状態にはなった。だが──

 

 目の前には、未だに燃えさかるダガーLの残骸。

 そして行く手の空からは、同じ紅のカメラアイを光らせた黒の機体が、執拗に迫る。

 バーニアは既に自動点火していたが、一瞬逡巡するナオト。

 だが、ヴィーノの怒声が通信越しに飛んできた。

 

《大丈夫だ! 

 ダガーの火力如きで、このティーダ・Zは壊れやしない! 

 行け、ナオト!!》

 

 その声と同時に、ナオトは胸ポケットのお守りの感触を確かめる。

 フーアとアイム、メルー、ネネ。そして、マユ・アスカ。

 多くの人々の魂と祈りがこめられたお守りに、ナオトが触れた瞬間──

 

 

 

 ガンダムティーダ・Zの双眼が、再びエメラルドに煌き──

 純白に輝く機体は勢いよく、ミネルバJrカタパルトから射出された。

 ダガーLの残骸を、力まかせに蹴散らしながら。

 

 

 

 病み上がりのナオトの身体に、急加速によるGが酷くのしかかる。

 これも、初めてティーダに乗った時と同じ。でも、大分慣れてしまった。

 それに耐えながら彼は、ふとサブモニターを確認する。

 

 ヴィーノさんは──

 彼は、どうなった? 

 

 しかしその時には既に、ヴィーノの姿は炎に呑まれ、見えなくなってしまっていた。

 ナオトの思考も追いつかぬまま、やがてティーダ自体が射出の凄まじい衝撃と共に、空中に放り出される。

 同時に背部の白い翼が、パラシュートのように勢いよく空へと広がった。

 元のティーダにはなかった、十分に地球の重力に対抗しうる双翼が。

 

 

 

 

 

 

「何ですって? 

 ティーダが……発進?!」

 

 その異変を最初にキャッチしたのは、ミネルバJrブリッジで通信任務にあたっていたアビー・ウィンザー。

 ただでさえマイクロウェーブの発振により、ブリッジは大混乱に陥っている。何名かは吐き気に耐えられず、医務室へ運ばれてしまった。

 しかもデスティニーのシグナルまでがロストし、アーサーが真っ青になった、ちょうどその時のことだった。

 珍しく声を上げてしまった彼女のモニターを、慌てふためいたアーサーが覗き込んでくる。

 

「今度は何だ。ティーダが、どうしたって?!」

「分かりません。

 カタパルトとの通信が、先ほどから途絶したままで……痛っ……」

 

 アーサーに急かされるように、アビーが頭痛をこらえつつ何度もパネルを意地になって連打し、5番目のバックアップ回線まで開いた結果──

 ようやく、カタパルトとの通信が復旧した。

 途切れ途切れの画面の向こうにいたのは、煤だらけになった整備班リーダー、マッド・エイブス。

 

《艦長、緊急事態だ。

 ナオト・シライシが、ティーダで飛び出した!!》

「え、えぇええぇえぇえ!!?」

 

 アーサー・トライン艦長のこの叫び、久々に聞いたような気がする──

 アビーはそんなことを考えつつも、口では努めて平静を装いながら通信を続けた。頭痛による発汗は隠せなかったが。

 

「ブリッジではメインカタパルト、及び第3格納庫での火災発生が確認されています。

 チーフ、詳しい状況説明をお願いします」

 

 不安定に揺れて今にも途絶しかねない通信モニターが、カタパルトの状況を少しだけ映し出す。そこでは、整備士たちが決死の消火活動にあたっていた。

 スプリンクラーの作動音をかき消すように、マッドの大声が響く。

 

《あの黒いモビルスーツどもめが、機体ごと突撃してやがった。

 マイクロ波に対抗するならティーダしかないが、ルナマリアも帰投していない今、アレをまともに動かせるのはナオト・シライシしかいなかったんだ!》

 

 そんなマッドの言葉に、アーサーは食らいつく。

 

「それは──

 整備班が率先し、ティーダを……ナオト・シライシを、発進させたということか?」

 

 唇を噛みしめるアーサーに、アビーはそっと告げる。

 

「仕方ありません。

 先ほどまでブリッジとカタパルトの通信は途絶していましたし、やむを得ない判断だったのでは」

「そうは言ってもなぁ……こいつは厄介だよ。

 ヨダカ隊長に何と言われるか」

《艦長、申し訳ない。責任は自分が全て……》

 

 マッドは謝罪するが、それだけで事が済めば苦労はない。

 このろくでもない事態を前に、困り果てたアーサーが思わず眉間を押さえた、その時。

 

《違います! 

 ナオトを出したのは俺だ、艦長!!》

 

 マッドを押しのけるように通信に割り込んできたのは、ヴィーノの叫び。

 

《申し訳ありません! 

 でも、俺、そうせずにはいられなかった! 

 ゆ、許してください! 懲罰房入りでも、便所掃除でも、なんでもしますから!!》

《バカ、お前! 寝てろっつっただろうが》

 

 アーサーが答えるより先に、アビーは少しばかり息を飲んでしまった。

 モニター向こうのヴィーノの左半身は真っ赤に染まり、額から右の頬あたりまで酷く焼けただれていたから。

 そのおかげで、彼の象徴とも言える紅の前髪までも、すっかり黒く焦げていた。

 

「ヴィーノ、貴方……!? 

 すぐに救護班を」

 

 しかしアビーの気遣いを蹴飛ばすかのように、ヴィーノは絶叫する。

 

《そんなことより! 

 早く! ナオトの援護を!!》

 

 その瞬間──

 索敵担当のバート・ハイムの声が、ブリッジに響いた。

 

「艦長! 

 3時方向より、モビルスーツ接近。数2! 

 出撃したティーダに迫っています!!」

「何!?」

 

 即座にアーサーは、メインモニターを振り返る。

 

 

 そこに映し出されていたのは、今まさに天空を滑る純白の翼──ティーダ。

 そして、必死で空を翔けようとする機体に向かって散開しつつ、ビームカービンの銃口を向ける黒ダガーLが、2機。

 たった今、生まれたばかりの小鳥に群がるように。

 

《ある程度の操縦はあいつも出来るはずですが、実際の戦闘となると未知数です。

 艦長! どうか、ティーダを援護願います!》

 

 喉も裂けよとばかりに、血まみれの顔で叫び続けるヴィーノ。

 しかし今のティーダを援護することは、ナオトの出撃を認めたことになる。

 艦長職を任されたばかりのアーサーに、その責任を取る覚悟はあるか。

 しかもマイクロ波の影響で、彼自身もついさっき嘔吐しかけた。その状況下、正常な判断が出来るのか。

 アビーはほんの少し逡巡しつつ、アーサーを振り返る──

 だが、彼の決断は早かった。

 

「──了解。CIWS、イゾルデ起動。

 ランチャー2、全門パルジファル装填!」

「艦長!?」

 

 火器管制担当のチェンが思わず驚愕の声を上げたが、アビーはどこかほっとしている自分を感じていた。アーサーの迅速な決断に。

 ブリッジの動揺も構わず、アーサーは的確に指示を送った。

 

「民間人の子供に、戦闘をさせるわけにいかん! 

 敵機を回避しつつ、迎撃行動に入る。絶対にティーダに当てるな! 

 ランチャー2、1番から3番、撃てェッ!!」

 

 

 

 

 

 ティーダを駆り、ミネルバJrを飛び出して数秒も経たない頃合いで──

 オギヤカから大量射出された黒ダガーL。そのうち2機に、ナオトは包囲されてしまった。

 

 モビルスーツには、当然人が乗っているはず。

 そう思い込んでいる民間人たるナオトに、黒の機体を撃ち落とす判断がすぐに出来るはずもなく──

 

 ものの数秒で、ビームカービンの閃光がティーダに襲いかかった。

 コクピットに響きわたるアラート。

 ナオトは咄嗟に、左腕に装着された空力防盾でビームを防ぐ。

 殆ど反射的な行動ではあったが、この盾は対ビームコーティングを施されているようで、カービンの光をほぼ完璧なまでに防ぎきった。

 しかし、そんな小手先の防御がいつまで続くか。

 雲の向こうからも次から次へと、紅のカメラアイを光らせた黒ダガーLが、ミネルバJrに向かってくるのが見える。

 

 ──他に、武器は? 

 

 ナオトが確認出来たティーダの武装は他に、高エネルギービームライフルと、両肩アーマーのヴァジュラビームサーベル。

 そして背部に装着された、プラズマ収束ビーム砲。サブモニターで綴りを確認する限り、「アムフォルタス」と呼称するらしいが──

 ナオトは頭を抱えたくなった。

 

 ──無理だ。こんなの、僕に扱えるわけがないだろ。

 元のティーダの武装だって、殆どマユに任せっきりだったのに! 

 

 だがそんな弱気も、一瞬。

 ナオトは気力を振り絞るように、激しく頭を振った。

 

 ──いや、駄目だ。

 ここで怯んでちゃ、サイさんも、マユも助けられない。

 

 どうにか自分を奮い立たせ、正面のダガーLを睨み返した――

 その時。

 

 

 

 空を切り裂くが如く、背後から飛んできた閃光。

 その光が、見事にダガーLの頭部を直撃する。

 サブモニターで鮮やかに青く輝くシグナルにより、ナオトはそれがミネルバJrからの援護だとすぐに理解出来た。

 続けざまに、ティーダからダガーLを振り払うかのように、ミネルバJrからの艦砲射撃が轟く。

 艦自体が攻撃を受けてもいたが、ダガーLのビーム直撃だけは巧みに回避しながら。

 その集中砲火に、ティーダに取りつこうとしていたダガーLは咄嗟に逃げていく。

 

 ──行けってことか。

 

 ミネルバJrブリッジの意図が掴めないまでも、ナオトはとにかくティーダを飛ばすことだけを考えた。

 

 ──行くんだ。

 ()()()のところへ! 

 

 

 

 

 

 

 サイとカズイを乗せたコメットは、未だにアムル・ホウナのカオスγによる追撃を振り払えずにいた。

 ナビ通りに目的地に向かおうとするものの、激烈に襲いかかるファイヤーフライがそれを許さない。

 まるで自分たちを弄ぶかのように、続々と至近距離へ撃ち放たれる劫火。

 十何度目かにその炎を間一髪でよけながら、サイは激しい眩暈を最早抑えられなかった。

 フレイが、オギヤカが、ザフトがどうなったのかもほぼ分からないまま、二人を乗せた翼はひたすら飛び続ける。

 幸い、雷鳴は少しおさまりつつある。雲に紛れて敵の目を眩ますことが出来れば、まだ何とか逃げおおせる。

 だがそれを遮るように、またしてもサイたちめがけて、上空から突撃してくる者がいた。

 

「いい加減にしろ……ッ!!」

 

 今度やってきたのは、あの黒ダガーL。単機だが、それでも追っ手には違いない。

 口を塞ぐことも出来ないのにやってくる吐き気は、薬を水なしで飲みこんだことでさらに酷くなっている。そのかわり、左腕の痛みも引いてきていたが。

 そんなサイの様子に背後から気づいたのか、カズイがそっと呟いた。

 

「さ、サイ。具合悪かったら、吐いてもいいよ?」

「冗談じゃないよ。絶対に御免だからな! 

 二人して空中でゲロまみれなんざ……」

「いや、実は俺も、出来れば吐きたいんだよね……うぷ……」

「え? 

 あ、いや、お前こそ無理するな! 俺は全然構わないから」

 

 畜生、どんな地獄だこれは。

 喉元にせりあがってきたものを無理矢理に飲みこみながら、サイは前方だけを見据える。

 今ここで油断したら、ゲロまみれどころの話じゃないだろうが。

 背後にはカオスγ。眼前にはダガーL。

 完全に挟み撃ちだが、サイは未だ、希望を捨てていなかった。

 

 ――モビルスーツに比べて人間はあまりにも小さいが、その分、小回りも効く。

 奴らの死角にさえ回り込めれば、逃げるのは案外たやすい。

 それは、とっくに証明されてるじゃないか。あのフレイと最初に出会った時に。

 自分に彼女ほどの運動能力はありえないが、それでも! 

 

「カズイ。いくら吐いてもいいが絶対に、俺から手を離すなよ。

 歯ァ食いしばれ、急加速する!」

「へ!? 

 さ、サイ、一体何を……うわぁあぁ!!?」

 

 カズイの絶叫にも構わず、サイはコメットをそのままダガーLのカメラアイに向け、滑空させる。

 スラスターが再び火を噴き、速度も一気に上昇した。

 これは、サイの賭けでもあった──

 

 

 眼前のダガーLには、人間は乗っていない。

 少なくとも、()()()()()()()()()を持つ者は、乗っていない。

 それは今、サイの中で確信に変わりつつあった。

 まるで一定のプログラミングでもされたかのように、規則的で正確な射撃。

 恐らく今も、サイたちを殺さぬようにと命じられているのであろうか。

 銃口を向けはしても、直接サイたちに撃ってはこない。それどころか、ビームカービンを持たない方の腕部を差し伸べてくる。

 

 ──俺たちを、捕らえようとして。

 

 今なお自分たちを執拗につけ狙うカオスγの挙動と比べ、ダガーLのそれには殆ど人間味が感じられない。

 しかし、だからこそ恐ろしくもある。

 ダガーLに人間が乗っていないとするなら、艦船への自爆攻撃を躊躇うはずもないからだ。

 身を捨てるが如きあの攻撃により、アマミキョも甚大な損傷を負った。

 巨大なモビルスーツは同時に、巨大な人型ミサイルにもなりうる。

 奴らの回避行動が、機体に致命的損傷を与えない程度の最低限に留まっているのも、そのせいだろう──

 乗っているのが、命を惜しまぬ何かであるなら。

 

 そんなものに命を奪われるのは、絶対にゴメンだ。

 だからといって、カオスγにいたぶられるつもりは微塵もない。

 ならば──サイの行動は、一つ。

 

 

「両方とも、潰れてしまえぇえぇ!!」

 

 

 サイの叫びと同時に、コメットは急制動をかけて空中に見事なカーブを描きつつ、巧みにカメラアイの死角へと回り込む。

 そして、ダガーLの左腕部の内側──

 人間で言うところの懐に、飛び込んだ。

 案の定、追いかけてきたカオスγは一瞬の迷いを見せる。

 

 

 

 

 

 

「ナチュラルらしい……小癪な真似を!!」

 

 もうお前は、私の手中だというのに──

 アムル・ホウナは、カオスγの中で吼える。

 夢中になって深追いしすぎたかも知れない。いつの間にか、正面からダガーLの接近を許していた。

 その腕の中へ、誘い込まれるように飛び込んでいくコメット。

 

「小手先の抗いが、通用すると思うな!」

 

 それでも彼女は強引に飛行速度を落とし、それによるGに耐えつつ、またしても黒の機体にファイヤーフライをぶちこんでいく。サイのコメットもろとも、墜とすつもりで。

 今回の撃墜数だけなら、今の彼女はシンにも負けていなかった。

 

 ──さぁ、私に屈服しなさい。

 お前は母なんかじゃない。ただの、素直で優しい、お人好しの男の子でしょう? 

 だからさっさと、私の前でボロボロになって這いずりまわって、土下座すればいいのよ。

 

「……もう一度、うんと、可愛がってあげるから」

 

 アムルが舌なめずりをしながら、そう呟いた瞬間──

 酷い衝撃と共に、メインモニターが爆光に包まれた。

 

 

 

 

 

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