【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
炎熱で吹き飛ばされ、今度こそ全ては終わったかと思ったが──
ナオト・シライシは、まだ生きていた。
そして奇跡的に、ティーダのコクピットに再び戻ってきた。爆風から咄嗟に逃げこんだら、シートに座っていたという形でだが。
眼前に迫る炎。網膜までを焼いてくるその熱から、今――
ヴィーノが身体を張って、ナオトを守っている。
ナオトに覆いかぶさるようにして、いつになく冷静に彼は指示を下した。
「……いいか、ナオト。
ここまでやるからには、絶対にそいつを助けろ。
そんで必ず、戻ってくるんだ。ここに」
ヴィーノの左肩あたりに血が滲みだしているのを、ナオトは見逃さなかった。その赤がどんどん、彼の左上半身を侵食していくのも。
彼の身体に阻まれ、その向こうで何が起きているのかもよく分からなかったが──
それでも、僕は行く。
行かなきゃいけない。
ナオトは、まだ乗り慣れないコクピットの状況を確認する。
メイン操縦席の後部にもう一つ、サブ操縦席があるのは元のティーダと同様だった。
かつてのコクピットよりも、若干両サイドが広い。ちょうど、両側に後一人ずつ人間が乗れそうな感じだ。
そして、ちょうど両膝の真ん中に当たる位置に、例のハロがちょこんと乗せられている。
ナオトにはすぐ分かった──
これは、ずっと自分とマユを導いていた、あの黒ハロだと。
黒かった塗装が完全に剥がれ、銀色と見まがうばかりの純白に塗り替えられてはいたが。
ハロに顎をしゃくりつつ、ヴィーノは淡々と説明を続ける。
「一番の秘密兵器たるアレに関しちゃ、どうなるか分からないが……
なるべく使うなと言いたいが、状況が状況だ。囲まれてどうしようもなくなったら、最終手段として使え。
起動手順は元のティーダとほぼ同じと考えていい。若干の変更はあるが、ハロがオートで調整してくれるだろ。
そのへんのデータと、お前のパーソナルデータの上書きだけはそいつ、断固拒否しやがってな。殆ど手は入ってない。
ただ、重心と基本動作パターンの設定は完了してる。自動制御システムはその右下パネルで──
そうそう、ニューラルリンケージネットワークもそいつで構築完了、あとは……」
そんなヴィーノの指示に従い、ナオトは手早くメインコンソールパネルを起動させる。
コーディネイターらしくヴィーノの指示は早口だったが、ナオトは一つも迷うことなく手順を追っていった。
灰と煙と炎の粉の舞い散る中、新生ティーダの操縦席に次々と光が灯っていく。
前方270度を見渡せるメインモニターに、周囲の状況が一息に映し出された。
ナオトの手元に配置された小型システムモニターには、起動画面が輝いている。
そこに表示されていた文字列は、かつてのティーダと全く同じものだった。
Generation
Unilateral
Neuro-link
Dispersive
Autonomic
Maneuver
それを見て、ナオトは若干首を傾げた。
どうして。ティーダは、ザフトのものになったのではないのか。
何故、以前の起動画面と同じメッセージが表示されている? これは元々、連合製GAT-Xシリーズの起動画面ではないのか。
不思議に思うナオトに、ヴィーノは即座に説明した。
「元が、モルゲンレーテと連合のシステムだからな。しかもろくに手を入れられないときちゃ、OSがほぼそのまんまでもしょうがねぇ。
──まぁ、考え方を変えりゃ、ザフトの最新鋭機体がオーブと連合製のOSを使うっての、ちょっとしたロマンじゃないかと思うぜ。
あのチュウザンのカス共に対抗するにはな!」
そんなヴィーノの言葉に応えるがの如く、それらの文字列にクロスするように赤く表示される文字。
──T I I D A
さらにそこへ、画面いっぱいに大きく重なったのは、“Z”の文字。
全ての終わりを意味する、ラテンアルファベット最後の文字。
それを確認しながら、ナオトはモニターごしに周囲の状況を眺める。
炎を噴きだしカタパルトにめり込みながらも、未だに紅のカメラアイを明滅させる黒ダガーL。
熱風に呑まれかけながら、伏せたまま動けない整備士たち。
天井にまで黒煙の充満するハンガー。
さらに白い空の向こうから、迫ってくるダガーLの反応。
今、ミネルバJrの命運は、この空で尽きかけていた。
──いつか、ティーダに初めて乗った時と、何も変わらない。
フーアさんもアイムさんもいなくなって、たくさんの人が死んで。
だけどあの時僕は、マユを、サイさんたちを助ける為に、ティーダに乗った。
そして今も僕は、彼女を、彼らを取り戻す為に、ティーダに乗る。
いつも隣にいて当たり前だった人たちを、取り戻す為に。
最終確認を済ませると、ヴィーノは素早くワイヤーを手繰り寄せ、跳ねるようにコクピットから飛び降りた。
ワイヤー伝いにするするとその身を滑らせ、熱くなりかかった床に到達し何とか重力に耐えたと思うと、すぐに壁沿いの簡易操作パネルに飛びつく。
パネルが開かれ、彼の血みどろの左手がいくつかキーを操作した。すると──
ティーダを拘束していた整備用装甲が爆砕され、一瞬にして強制的に解かれる。
防護用シートも外され、その全てがマントのように、ひらりとハンガーの床に落ちていく。
コクピットハッチも閉じられ、メインモニター全面に、カメラが捉えた周囲の状況が映し出される。
これでティーダは、いつでも出動可能な状態にはなった。だが──
目の前には、未だに燃えさかるダガーLの残骸。
そして行く手の空からは、同じ紅のカメラアイを光らせた黒の機体が、執拗に迫る。
バーニアは既に自動点火していたが、一瞬逡巡するナオト。
だが、ヴィーノの怒声が通信越しに飛んできた。
《大丈夫だ!
ダガーの火力如きで、このティーダ・Zは壊れやしない!
行け、ナオト!!》
その声と同時に、ナオトは胸ポケットのお守りの感触を確かめる。
フーアとアイム、メルー、ネネ。そして、マユ・アスカ。
多くの人々の魂と祈りがこめられたお守りに、ナオトが触れた瞬間──
ガンダムティーダ・Zの双眼が、再びエメラルドに煌き──
純白に輝く機体は勢いよく、ミネルバJrカタパルトから射出された。
ダガーLの残骸を、力まかせに蹴散らしながら。
病み上がりのナオトの身体に、急加速によるGが酷くのしかかる。
これも、初めてティーダに乗った時と同じ。でも、大分慣れてしまった。
それに耐えながら彼は、ふとサブモニターを確認する。
ヴィーノさんは──
彼は、どうなった?
しかしその時には既に、ヴィーノの姿は炎に呑まれ、見えなくなってしまっていた。
ナオトの思考も追いつかぬまま、やがてティーダ自体が射出の凄まじい衝撃と共に、空中に放り出される。
同時に背部の白い翼が、パラシュートのように勢いよく空へと広がった。
元のティーダにはなかった、十分に地球の重力に対抗しうる双翼が。
「何ですって?
ティーダが……発進?!」
その異変を最初にキャッチしたのは、ミネルバJrブリッジで通信任務にあたっていたアビー・ウィンザー。
ただでさえマイクロウェーブの発振により、ブリッジは大混乱に陥っている。何名かは吐き気に耐えられず、医務室へ運ばれてしまった。
しかもデスティニーのシグナルまでがロストし、アーサーが真っ青になった、ちょうどその時のことだった。
珍しく声を上げてしまった彼女のモニターを、慌てふためいたアーサーが覗き込んでくる。
「今度は何だ。ティーダが、どうしたって?!」
「分かりません。
カタパルトとの通信が、先ほどから途絶したままで……痛っ……」
アーサーに急かされるように、アビーが頭痛をこらえつつ何度もパネルを意地になって連打し、5番目のバックアップ回線まで開いた結果──
ようやく、カタパルトとの通信が復旧した。
途切れ途切れの画面の向こうにいたのは、煤だらけになった整備班リーダー、マッド・エイブス。
《艦長、緊急事態だ。
ナオト・シライシが、ティーダで飛び出した!!》
「え、えぇええぇえぇえ!!?」
アーサー・トライン艦長のこの叫び、久々に聞いたような気がする──
アビーはそんなことを考えつつも、口では努めて平静を装いながら通信を続けた。頭痛による発汗は隠せなかったが。
「ブリッジではメインカタパルト、及び第3格納庫での火災発生が確認されています。
チーフ、詳しい状況説明をお願いします」
不安定に揺れて今にも途絶しかねない通信モニターが、カタパルトの状況を少しだけ映し出す。そこでは、整備士たちが決死の消火活動にあたっていた。
スプリンクラーの作動音をかき消すように、マッドの大声が響く。
《あの黒いモビルスーツどもめが、機体ごと突撃してやがった。
マイクロ波に対抗するならティーダしかないが、ルナマリアも帰投していない今、アレをまともに動かせるのはナオト・シライシしかいなかったんだ!》
そんなマッドの言葉に、アーサーは食らいつく。
「それは──
整備班が率先し、ティーダを……ナオト・シライシを、発進させたということか?」
唇を噛みしめるアーサーに、アビーはそっと告げる。
「仕方ありません。
先ほどまでブリッジとカタパルトの通信は途絶していましたし、やむを得ない判断だったのでは」
「そうは言ってもなぁ……こいつは厄介だよ。
ヨダカ隊長に何と言われるか」
《艦長、申し訳ない。責任は自分が全て……》
マッドは謝罪するが、それだけで事が済めば苦労はない。
このろくでもない事態を前に、困り果てたアーサーが思わず眉間を押さえた、その時。
《違います!
ナオトを出したのは俺だ、艦長!!》
マッドを押しのけるように通信に割り込んできたのは、ヴィーノの叫び。
《申し訳ありません!
でも、俺、そうせずにはいられなかった!
ゆ、許してください! 懲罰房入りでも、便所掃除でも、なんでもしますから!!》
《バカ、お前! 寝てろっつっただろうが》
アーサーが答えるより先に、アビーは少しばかり息を飲んでしまった。
モニター向こうのヴィーノの左半身は真っ赤に染まり、額から右の頬あたりまで酷く焼けただれていたから。
そのおかげで、彼の象徴とも言える紅の前髪までも、すっかり黒く焦げていた。
「ヴィーノ、貴方……!?
すぐに救護班を」
しかしアビーの気遣いを蹴飛ばすかのように、ヴィーノは絶叫する。
《そんなことより!
早く! ナオトの援護を!!》
その瞬間──
索敵担当のバート・ハイムの声が、ブリッジに響いた。
「艦長!
3時方向より、モビルスーツ接近。数2!
出撃したティーダに迫っています!!」
「何!?」
即座にアーサーは、メインモニターを振り返る。
そこに映し出されていたのは、今まさに天空を滑る純白の翼──ティーダ。
そして、必死で空を翔けようとする機体に向かって散開しつつ、ビームカービンの銃口を向ける黒ダガーLが、2機。
たった今、生まれたばかりの小鳥に群がるように。
《ある程度の操縦はあいつも出来るはずですが、実際の戦闘となると未知数です。
艦長! どうか、ティーダを援護願います!》
喉も裂けよとばかりに、血まみれの顔で叫び続けるヴィーノ。
しかし今のティーダを援護することは、ナオトの出撃を認めたことになる。
艦長職を任されたばかりのアーサーに、その責任を取る覚悟はあるか。
しかもマイクロ波の影響で、彼自身もついさっき嘔吐しかけた。その状況下、正常な判断が出来るのか。
アビーはほんの少し逡巡しつつ、アーサーを振り返る──
だが、彼の決断は早かった。
「──了解。CIWS、イゾルデ起動。
ランチャー2、全門パルジファル装填!」
「艦長!?」
火器管制担当のチェンが思わず驚愕の声を上げたが、アビーはどこかほっとしている自分を感じていた。アーサーの迅速な決断に。
ブリッジの動揺も構わず、アーサーは的確に指示を送った。
「民間人の子供に、戦闘をさせるわけにいかん!
敵機を回避しつつ、迎撃行動に入る。絶対にティーダに当てるな!
ランチャー2、1番から3番、撃てェッ!!」
ティーダを駆り、ミネルバJrを飛び出して数秒も経たない頃合いで──
オギヤカから大量射出された黒ダガーL。そのうち2機に、ナオトは包囲されてしまった。
モビルスーツには、当然人が乗っているはず。
そう思い込んでいる民間人たるナオトに、黒の機体を撃ち落とす判断がすぐに出来るはずもなく──
ものの数秒で、ビームカービンの閃光がティーダに襲いかかった。
コクピットに響きわたるアラート。
ナオトは咄嗟に、左腕に装着された空力防盾でビームを防ぐ。
殆ど反射的な行動ではあったが、この盾は対ビームコーティングを施されているようで、カービンの光をほぼ完璧なまでに防ぎきった。
しかし、そんな小手先の防御がいつまで続くか。
雲の向こうからも次から次へと、紅のカメラアイを光らせた黒ダガーLが、ミネルバJrに向かってくるのが見える。
──他に、武器は?
ナオトが確認出来たティーダの武装は他に、高エネルギービームライフルと、両肩アーマーのヴァジュラビームサーベル。
そして背部に装着された、プラズマ収束ビーム砲。サブモニターで綴りを確認する限り、「アムフォルタス」と呼称するらしいが──
ナオトは頭を抱えたくなった。
──無理だ。こんなの、僕に扱えるわけがないだろ。
元のティーダの武装だって、殆どマユに任せっきりだったのに!
だがそんな弱気も、一瞬。
ナオトは気力を振り絞るように、激しく頭を振った。
──いや、駄目だ。
ここで怯んでちゃ、サイさんも、マユも助けられない。
どうにか自分を奮い立たせ、正面のダガーLを睨み返した――
その時。
空を切り裂くが如く、背後から飛んできた閃光。
その光が、見事にダガーLの頭部を直撃する。
サブモニターで鮮やかに青く輝くシグナルにより、ナオトはそれがミネルバJrからの援護だとすぐに理解出来た。
続けざまに、ティーダからダガーLを振り払うかのように、ミネルバJrからの艦砲射撃が轟く。
艦自体が攻撃を受けてもいたが、ダガーLのビーム直撃だけは巧みに回避しながら。
その集中砲火に、ティーダに取りつこうとしていたダガーLは咄嗟に逃げていく。
──行けってことか。
ミネルバJrブリッジの意図が掴めないまでも、ナオトはとにかくティーダを飛ばすことだけを考えた。
──行くんだ。
サイとカズイを乗せたコメットは、未だにアムル・ホウナのカオスγによる追撃を振り払えずにいた。
ナビ通りに目的地に向かおうとするものの、激烈に襲いかかるファイヤーフライがそれを許さない。
まるで自分たちを弄ぶかのように、続々と至近距離へ撃ち放たれる劫火。
十何度目かにその炎を間一髪でよけながら、サイは激しい眩暈を最早抑えられなかった。
フレイが、オギヤカが、ザフトがどうなったのかもほぼ分からないまま、二人を乗せた翼はひたすら飛び続ける。
幸い、雷鳴は少しおさまりつつある。雲に紛れて敵の目を眩ますことが出来れば、まだ何とか逃げおおせる。
だがそれを遮るように、またしてもサイたちめがけて、上空から突撃してくる者がいた。
「いい加減にしろ……ッ!!」
今度やってきたのは、あの黒ダガーL。単機だが、それでも追っ手には違いない。
口を塞ぐことも出来ないのにやってくる吐き気は、薬を水なしで飲みこんだことでさらに酷くなっている。そのかわり、左腕の痛みも引いてきていたが。
そんなサイの様子に背後から気づいたのか、カズイがそっと呟いた。
「さ、サイ。具合悪かったら、吐いてもいいよ?」
「冗談じゃないよ。絶対に御免だからな!
二人して空中でゲロまみれなんざ……」
「いや、実は俺も、出来れば吐きたいんだよね……うぷ……」
「え?
あ、いや、お前こそ無理するな! 俺は全然構わないから」
畜生、どんな地獄だこれは。
喉元にせりあがってきたものを無理矢理に飲みこみながら、サイは前方だけを見据える。
今ここで油断したら、ゲロまみれどころの話じゃないだろうが。
背後にはカオスγ。眼前にはダガーL。
完全に挟み撃ちだが、サイは未だ、希望を捨てていなかった。
――モビルスーツに比べて人間はあまりにも小さいが、その分、小回りも効く。
奴らの死角にさえ回り込めれば、逃げるのは案外たやすい。
それは、とっくに証明されてるじゃないか。あのフレイと最初に出会った時に。
自分に彼女ほどの運動能力はありえないが、それでも!
「カズイ。いくら吐いてもいいが絶対に、俺から手を離すなよ。
歯ァ食いしばれ、急加速する!」
「へ!?
さ、サイ、一体何を……うわぁあぁ!!?」
カズイの絶叫にも構わず、サイはコメットをそのままダガーLのカメラアイに向け、滑空させる。
スラスターが再び火を噴き、速度も一気に上昇した。
これは、サイの賭けでもあった──
眼前のダガーLには、人間は乗っていない。
少なくとも、
それは今、サイの中で確信に変わりつつあった。
まるで一定のプログラミングでもされたかのように、規則的で正確な射撃。
恐らく今も、サイたちを殺さぬようにと命じられているのであろうか。
銃口を向けはしても、直接サイたちに撃ってはこない。それどころか、ビームカービンを持たない方の腕部を差し伸べてくる。
──俺たちを、捕らえようとして。
今なお自分たちを執拗につけ狙うカオスγの挙動と比べ、ダガーLのそれには殆ど人間味が感じられない。
しかし、だからこそ恐ろしくもある。
ダガーLに人間が乗っていないとするなら、艦船への自爆攻撃を躊躇うはずもないからだ。
身を捨てるが如きあの攻撃により、アマミキョも甚大な損傷を負った。
巨大なモビルスーツは同時に、巨大な人型ミサイルにもなりうる。
奴らの回避行動が、機体に致命的損傷を与えない程度の最低限に留まっているのも、そのせいだろう──
乗っているのが、命を惜しまぬ何かであるなら。
そんなものに命を奪われるのは、絶対にゴメンだ。
だからといって、カオスγにいたぶられるつもりは微塵もない。
ならば──サイの行動は、一つ。
「両方とも、潰れてしまえぇえぇ!!」
サイの叫びと同時に、コメットは急制動をかけて空中に見事なカーブを描きつつ、巧みにカメラアイの死角へと回り込む。
そして、ダガーLの左腕部の内側──
人間で言うところの懐に、飛び込んだ。
案の定、追いかけてきたカオスγは一瞬の迷いを見せる。
「ナチュラルらしい……小癪な真似を!!」
もうお前は、私の手中だというのに──
アムル・ホウナは、カオスγの中で吼える。
夢中になって深追いしすぎたかも知れない。いつの間にか、正面からダガーLの接近を許していた。
その腕の中へ、誘い込まれるように飛び込んでいくコメット。
「小手先の抗いが、通用すると思うな!」
それでも彼女は強引に飛行速度を落とし、それによるGに耐えつつ、またしても黒の機体にファイヤーフライをぶちこんでいく。サイのコメットもろとも、墜とすつもりで。
今回の撃墜数だけなら、今の彼女はシンにも負けていなかった。
──さぁ、私に屈服しなさい。
お前は母なんかじゃない。ただの、素直で優しい、お人好しの男の子でしょう?
だからさっさと、私の前でボロボロになって這いずりまわって、土下座すればいいのよ。
「……もう一度、うんと、可愛がってあげるから」
アムルが舌なめずりをしながら、そう呟いた瞬間──
酷い衝撃と共に、メインモニターが爆光に包まれた。