【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
カオスγは一旦制止したかのように見えたが、それでも執拗にファイヤーフライを撃ちこんできた。
ダガーLの装甲にそいつが着弾する寸前、サイは一気にスラスターを限界まで噴射。
コメットを上空へ、力任せに飛翔させた。
当然、頭の血管が一斉に5本は切れたかというほどの激烈な加速がサイを襲う──
でも、これで何とか、あの2機が相討ちになってくれれば。
そう天に祈りながらの、サイの行動だった。
コンマ数秒で上昇しきり、コメットのスラスターが限界を迎え自動的に噴射を終えた次の瞬間──
盛大な爆風が、コメットを吹き飛ばしてくる。
おかげでサイたちの身体は、海面に対してほぼ逆さになってしまった。内臓までが口から飛び出しそうだ。
カズイは気を失う寸前か、最早言葉を発していない。ただ、その手はしっかりとサイと共に、操縦桿を握りしめている。
背中から何やら胃液の臭いまで漂っていたが、そんなことを気にしている場合ではなかった。
頭のすぐ下に咲き誇る、炎の華。
これ以上熱風に巻かれないようにしながら、サイは必死でコメットのコントロールを保とうとする
――しかし。
「サイ!
危ないっ!!」
少し体勢を立て直せたかと思った、その瞬間だった。
気絶同然だと思っていたカズイが、背中にがばと縋りついてきた。
さすがに怒鳴ろうとして、サイは振り返る──
そして、目撃した。
夥しい血液が、カズイの背中から噴出していく光景を。
サイの目の前の空を、数瞬で染めていく赤。
ほぼ同時に、サイとコメットを支えていたカズイの腕から、一気に力が抜けていく。
「カズイ!!」
声を限りに、サイは叫ぶ。
──俺をかばったんだ。
俺の背を守って、恐らく機体の破片にやられた。
畜生! こういう事態は、十分想定出来ていたはずなのに!!
だから、俺のそばにいるべきじゃなかったのに──
やがてカズイの全身から、血と共に力が失われる。
サイに力いっぱい縋りついていたはずの身体が、ずるりと後方に滑る。
その頬は既に表情を失い、青白く変色していた。
──こんなところで、カズイを失うわけにはいかない。
気力の極限まで耐えながらコメットをコントロールしていたサイの理性は、その時、その想いだけで吹き飛んでしまった。
反射的にサイの左手が、カズイを取り戻そうと操縦桿を離れる。
しかし、カズイの上着を強引に掴みかけたサイの左腕に、またしても酷い痛みが走った。
「───!!」
駄目だ。激痛で、力が入らない。
それでなくとも、俺の左腕はもう大分前から、神経がまともに通っているかすら怪しくなってきている。
引力に任せて、自然落下を始めるカズイの身体。
それでもどうにか彼を取り戻そうと、サイはあらん限りの力を振り絞ったが──
無情にもサイの左手は、落ちゆくカズイを引き留めることが出来なかった。
そして、この時のサイの行動の結果として──
コメットはいともたやすくそのバランスを崩し、翼が海面に対して垂直近くまで、大きく傾いてしまった。
しかもカズイの重さに引きずられるように、サイの身体までもコメットから離れかかる。右手で操縦桿を掴むぐらいが精いっぱいだが、その状態でコメットのコントロールがまともに出来るはずもない。
二人をコメットに繋いでいた命綱がわりのワイヤーも、こうなっては最早、全くその意味をなさない。
ただ、二人の脆弱な身体が海面に叩きつけられ四散する、その時を待つだけだ。
ほぼ天空に投げ出される形になったサイの脳裏を掠めたのは、未だ瞼に焼きつくトノムラの死にざま。
レイダーの鉄球の下敷となり、黒い血の塊となって死んでいった、かつてのアークエンジェルの志士。
──あぁ。
俺はやっぱり、何も守れなかった。
トノムラ軍曹と同じように、俺はここで終わる。
フレイも、アマミキョも、何もかも放り出したままで。
一番近くにいたカズイさえ、こんな風に死なせてしまうのか。
上空約1500メートルから、自然落下を始めるサイの身体。
カズイのパーカーを掴んだ手は、今すぐ引きちぎれてもおかしくないほどの激痛に襲われていた。
額から左頬にかけて、酷く生暖かいスライム状の何かが、べしゃっと跳ねたのを感じる。それは一瞬だけ温度を保っていたが、すぐに冷たくなった。
それが、カズイの血が自分に跳ね返ってきたものだと気づくまで、そう時間はかからなかった。
その血はやがてサイの目にまで入り、激痛と共に視界全体が真っ赤に染まる。
紗がかかったような景色の中で──
先ほど吹き飛ばしたはずのカオスγが、何故かはっきりと見えた。
ダガーLの爆発などものともせず、こちらに向かって右腕部を伸ばしてくる──
それは明らかに、サイを助ける為などではなく。
こちらを一方的に嬲り、痛めつけ、完膚なきまでに屈服させようという意志を持つ者。
一体、俺の何が、あんたをそこまで追いつめた?
──アムル・ホウナ。
──でも、もういい。
俺は結局、カズイを振り払うことも守りきることも出来ないまま、死なせてしまう。
ナオトも、マユも、ネネも、スティングも風間さんもオサキもハマーさんも、アマミキョのみんなも──
俺は、誰も守れない。
フレイ、ごめん。
君の名を騙る偽者に翻弄された挙句、俺はあの娘に、何も出来なかった。
仕方ないのか──
2年前、あれだけの力を持ちながら、キラさえも君を守れなかったんだ。
俺なんかが、何かを、誰かを、守りきれるはずが、なかったんだよな。
血液が目に入ったせいか、痛みのせいか、それとも絶望のせいか──
久方ぶりに、サイの眦から涙があふれ出した。
頬から離れ、宙に浮かぶ涙の粒。
そこにはカズイの血がわずかに混じり、ほんの少し紅に染まった透明の雫となり、空へと消えていく。
その時、涙の向こうの天空に、サイは何故か太陽を見た。
おかしいな。
あの分厚い雲からずっと落ちているはずなのに、陽の光がこんなに眩しく見えるなんて──
落下しながらも、サイはもう一度、しっかりと目を開いた。
違う。
あれは、太陽じゃない。
太陽だが、太陽じゃない。
正確には、「太陽」の名を持つモビルスーツだ。
機体の形こそまるで違うし、翼まで生えているが、俺には分かる。
あれは──
「……サ……イ、さ……!!」
声が、聞こえる。
必死で、喉から振り絞るように、叫ぼうとあがく声が。
散々泣き喚き呻いた挙句、最後に爆発するように絶叫する、あの声が。
「──イ……さん!!
サイ・アーガイル副隊長おぉおおおぉおぉおおおおおおッッ!!!!!」
「──ナオト!!?
ナオト・シライシなのか!?」
雲を突き抜け、太陽の光を燦々と浴び、銀に近い白に輝く機体。
それが一瞬、サイの目には太陽そのものに映った。
なんてこった──
あの日、母親やマユと一緒に連れられて、アマミキョを離れた時と、あいつは全く変わらない。
特に、あの突拍子もなさは。
なんで、どうして──全くもう、お前は!
一体どうやったら、コクピットハッチ開けたまま、俺のところへ飛んでこられるんだよ。
しかもノーマルスーツどころか、病院着のままで。
──ずっと、いなくなったとばかり思っていたのに!
叫んだ。
見えた瞬間、叫んでいた。数か月ぶりの声で。
メインカメラでその姿を確認するだけでは飽き足らず、ナオトは自らコクピットハッチまで開いた。
──目の前の奇蹟を、直接、肉眼で確かめようとして。
僕にはもう、誰もいなくなったと思っていた。
フーアさんたちも、母さんも、父さんも、メルーも、アマミキョも──
僕に優しくしてくれた人たちは、みんな消えたと思っていた。
──サイさん。僕、言いましたよね。
僕は必ず、ティーダでサイさんのところへ戻るって。
その約束は、もう永遠に守れなくなったと思ってた。
でも──!
数か月ぶりに出した自分の声は、以前よりかなり低く、くぐもっているような気がした。
それでも──
僕の喉なんか、何度裂けても構わない。
サイさんを、呼ぶんだ。
もう二度と、決して、手離さないように──!
降下していくティーダのコクピットから、ナオトは思い切り身を乗り出す。
サイたちを捕らえようとしていたカオスγは味方機のシグナルを発していたが、そんなものが今のナオトに見えるはずもない。
病衣ごと身体が風で吹き飛ばされそうになっても、ナオトはサイから目を離さなかった。
空を割らんばかりの絶叫を、轟かせながら。
何故かは分からないけど、サイさんは今、カズイさんと一緒に空から落ちている。
どういうことだかさっぱり分からないけど、タキシードで小型
でも、とにかく――!
そして、数瞬の後。
カオスγの鼻先を掠めるように、ティーダ・Zはサイたちの身体を、一息に包み込んだ。
彼らの落下速度に合わせて機体に制動をかけ、慎重に両腕を動かして二人を掌部でキャッチする。
怪我をした小鳥を、そっと抱きしめるように。
ハロによる自動制御も功を奏したか、ティーダは何とか二人にそこまでの衝撃を与えずに、彼らを救うことに成功した。
それでも、急降下した機体の速度をすぐに緩めるのは、流石に至難の技で──
雲を突き抜け、下界に飛び出してしまったティーダは、そのまま海面に激突寸前となる。
「サイさん、伏せて!」
黒い掌部に握りしめたままのサイたちに呼びかけながら、ナオトは慌てて操縦桿をいっぱいに引き絞る。噴射に噴射を重ね、スラスターも酷い悲鳴を上げていた。
鳴り響くアラート。
やがて、内臓までが跳ね上がるかという衝撃と共に、機体が海面に接触した。
盛大な波飛沫が、開け放したままのコクピットにまで襲いかかってくる。 ほんの一瞬だが、サイたちを握りしめた掌部までも、思い切り海の中に突入させてしまった。
──だが、そこでようやく、ティーダは静止することが出来た。
「サイさん!!」
波をかぶって咳き込みながらも、ナオトは必死でコクピットのもとへ、サイたちを抱えた掌をたぐり寄せた。
そして、中から海水を零しながら、ティーダの掌がゆっくりと開かれる。
そこには、頭から潮まみれになったタキシードの男が、全身で誰かを庇いながら、膝まで波に浸かりつつ、じっと伏せていた。
左肩が紅に染まり、服は灰で汚れ、髪にも眼鏡にも返り血らしきものがべっとりとついていたが、それでもナオトは──
コクピットを蹴飛ばすように飛び出し、物も言わずに彼に抱きついた。
「おい! ちょ……
こら、苦しいって、ナオト!」
眦から、熱い何かが溢れだす。
この感触。この声。
濡れて冷えきった身体ごしでも伝わってくる、熱い鼓動。
確かに、サイさんだ。生きている。
──僕の、帰る場所。
感極まるあまり、ナオトは次から次へとサイの名を呼ぶ以外に、言葉を発することが出来ない。
あぁ、勿体ないな。せっかく、声を取り戻したのに。
サイはそんなナオトの行為に、一瞬呆然としていたが──
張りに張りつめていた緊張の糸がようやく切れたかのように、ほっと安堵の溜息を漏らした。
ナオトは顔を上げてみる。
ついこの間まで、当たり前にナオトのそばにあった、穏やかな笑顔。
やっと――やっと、取り戻した。
「ナオト……ありがとな。
約束、守ってくれて。
俺も嬉しいよ。お前のこと、死んだとばかり思ってた」
サイの右腕が、ナオトをあやすように優しく背中に回される。
そしてサイはゆっくりと彼の身体を引き離すと、若干厳しい視線でナオトを見つめた。
久しぶりに見る、眼鏡ごしの青い眸。顔は血まみれなのに、その青はどこまでも澄み切っている。
だが、その眼ははっきりと語っていた
──これで全てが解決したわけでは、決してないのだと。
「だけど再会を喜ぶのは、もうちょっと後だ。
まず、カズイの治療をさせてくれ。それと──」
サイがそこまで告げた瞬間──
モビルスーツの爆音が、またしても空から降ってくる。
複数のアラートが、再びコクピットに反響した。
ナオトは涙目もそのままに、慌てて顔を上げる。
空から襲いかかってきたのは、やはり例の、黒ダガーL。
それも、先ほどよりずっと数が多い。10機近くいるだろうか。
「乗って下さい、サイさん!
カズイさんと一緒に!!」
咄嗟にナオトはサイを抱えたままの体勢で、そのまま身体をコクピットへ滑り込ませた。
サイさん、少し痩せたな──などと思いながら。
同時に、血まみれのカズイも、強引にコクピットに引きずり込む。幸い、まだ息はある。
流れ込んだ海水もそのままにハッチを閉ざすと、ナオトはすぐにティーダを再び飛翔させた。
カズイの傷を確認しながら急上昇に耐えつつ、サイは問いかける。
「ていうか……聞きたいことは山ほどあるけどさ。
とりあえず、お前コレ、どこのモビルスーツだよ!?
まさか、ザフトのじゃ……」
「その、まさかですよ」
「え?」
サイの瞳に一瞬、酷く絶望的な色がよぎる。
それには全く気付かず、ナオトは得意げに言い放った。
「大丈夫です。
この機体には、ティーダと同じ、とっておきの秘密兵器がありますから!」
~~~~~~
奇蹟の再会に歓喜する少年たち
だが、荒波は終わることなく彼らを襲う
運命に縛られる者、憎悪を消せぬ者、因縁を超えようとする者
様々な思惑が交錯するザフトで、サイとナオトは一つの決断を迫られる
次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation
「集結の刻へ」
破滅の唄、止められるか。ミネルバ!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
このエピソードで、全体のおおよそ3分の2ぐらいが終了しました。無印種で言えば決意の砲火、種運命で言えば天空のキラあたりでしょうか。
ここからフレイを中心とした争いに、サイ、ナオトは勿論、キラ、シン、ラクス、アスラン、カガリといった面々も本格的に巻き込まれていきます。
もしよろしければお気に入り登録、評価など、どうぞよろしくお願いいたします!
また、改めて申し上げますが、劇場版で新たに出てきた設定などがあってもこちらの作品に反映する予定はありませんので、その点ご理解いただければ幸いです。
(ただ、あまりにも性格が違いすぎるキャラには若干の微調整はあるかも知れない……)