【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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PHASE-40 集結の刻へ
part1 交差する『運命』と『黙示録』


 

 奇蹟としか言いようがない形で、見事ナオト・シライシの手で救出されたサイ。

 だが、新生ティーダのコクピットから外の様子を確認しながら、彼は気づいていた──

 ナオトと再会出来たからといって、これが決して、手放しで喜ぶことが出来る状況ではないことを。

 膝に抱え込んだカズイの背中からは、まだ出血がおさまらない。幸い、急所は外れているが。

 内ポケットからハンカチを取り出し、サイは無造作にだがカズイの傷を押さえる。

 苦しい息遣いが、コクピットに流れていく。

 ハンカチは一瞬で真っ赤に染まっていったが、それだけでも多少楽になったのか、カズイの呼吸は少しずつ落ち着いてきた。

 

 

 ──それにしても。

 何故、ナオトがまた、ティーダに乗っている? 

 ティーダは、フレイの手で破壊されたのではなかったのか? 

 そもそも何故、ザフト艦から、ティーダが舞い降りてきた? 

 

 

 だが──と、サイは思い直す。

 ナオトの方から見れば、自分たちこそおかしいだろう。

 何故、こんな恰好でオギヤカから飛び出してきたのか。

 しかもこんな、危険極まりない手段で。

 

 

 それでもナオトは何の疑問も持たずに、俺たちを助けてくれた。

 それがどういう結果を齎すか、何も考えずに──

 かつてのキラと、全く同じに。

 

 

 そんなサイの思惑に構わず、ティーダに向かって襲いくる、無数の黒ダガーL。

 ナオトはそいつらを睨み返すが早いか、膝の間に位置していたハロ──

 その頭とも言うべき上蓋を開く。内部にはタッチパネル式の小型ディスプレイが仕込まれていた。

 ディスプレイを手早く操作しつつ、ナオトは呟き始める。

 

「コード403より、752、753をシンクロ……」

「おい! ナオト……」

「アクセスコード再取得完了。10-5948-00、コード承認」

「待てよ、何する気だ!?」

「サイさん、ちょっと黙ってて。

 メイン102、103更新、確定。変数誤差修正完了。プランRによりシステム起動──」

 

 非常に久しぶりに聞く気がする、ナオトの澱みのない早口。

 この音声入力により、ハロ内部のディスプレイに、目にもとまらぬ速度で文字列が流れ始める。

 同時にハロの音声も、コクピットに流れ出す。

 

《──メインデータバンク、切替。ティーダ・Z、メインパイロット登録確認完了。

 各プロシージャ編集終了。パワーモード、切替完了。

 No14、オヨビ18モジュール、声紋エラー確認。起動ニハ問題ナシ。

 システム、ブック・オブ・レヴェレイション、オンライン》

「了解。

 フェイズ1から3まで、オールグリーン。プランRにつきフェイズ4、5は入力を省略。

 あぁ、6から10まではこのバッチを使って……」

 

 ディスプレイに表示されたキーボードを、慣れた手つきでピアノのように叩き続けるナオト。最早、サイが余計な口を挟む余裕などない。

 そしてわずか10秒足らずで、ナオトは全ての入力を完了した。

 真っ白に塗り替えられたハロ。入力終了と同時にその頭蓋が閉じられ、その丸い体の中心あたりに付けられた二つの小さな目が、緑に点滅する。

 同時に、ナオトがほっとしたように笑いながら、サイに振り向いた。

 

「サイさん、少し苦しいかも知れないけど……

 ちょっとの間だけ、我慢してくださいね!!」

「え、ちょ……おい!?」

 

 ハロの音声が自分の聞き違いでなければ、まさか──

 ナオトはもう一度、ティーダで黙示録を起動するつもりなのか。

 

「ナオト! 

 無茶はやめ……っ!!」

 

 ――サイが思わずナオトの腕を掴みかけた、その瞬間。

 視界の全てが突然、薄紅の紗に覆われた。

 

 

 

 

 海上で静止していたはずのガンダム・ティーダの装甲表面が、輝きだす。

 ヴァリアブルフェイズシフト装甲による輝きとは、また違う──

 肉眼で見れば、コンマ数秒で目が焼けるほどの輝き。

 

 それはかつて、コロニー・ウーチバラで全てが始まったあの日、ナオトがマユ・アスカと共にティーダの黙示録を起動させた時と、全く同じ現象だった。

 違う点といえば、巨大な白い翼がその背部から、大きく拡がっていることだろうか。

 

 

 

 

 青い海に突然生まれた、太陽の輝きを持つ巨大な翼。

 その翼を中心に、空気は揺らめきはじめ──

 ティーダを中心に熱せられた空気はやがて虹色の球体となり、激しい閃光と共に、一息に戦場へと拡大していく。

 セイレーンの歌声を打ち消すかのような、鐘の音と共に。

 

 

 

 

 

 

PHASE-40 集結の刻へ

 

 

 

 

 

 

 その異変をいち早くキャッチしたのは、ミネルバJrブリッジだった。

 通信担当のアビーが、声を荒げる。

 

「艦長! 

 ティーダからのシグナル、確認しました。

 ブックオブレヴェレイション・オーバードライヴ、照射開始!」

「な……っ!?」

 

 それを聞いたアーサーの横顔が、さらに青ざめたが──

 しかしながら、彼は即座に指示を下す。

 

「電磁シールドシステム起動! 全軍にも伝達! 

 自軍のEMPにやられるような恥を晒すな!!」

 

 

 

 

 ティーダの翼から発生した、虹色の光。

 それは機体を中心にやがて波と変わり、海上を駆け抜ける。

 当然、ティーダの上空も同様に、虹の波に覆われていく。

 

 ガンダム・ティーダに元々搭載されていた、「ブック・オブ・レヴェレイションシステム」。

 この虹色の波は、そこにザフトの最新技術による改良が加えられ、「オーバードライヴ」と名付けられたものだった。

 今まさにティーダを攻撃しかかっていたダガーLの群れは、まともにその波に呑まれ──

 痙攣にも似た激しい振動と共に、突然その機能を停止してしまった。まるで雷でも喰らった人間のように。

 空中で動きを停止させられたモビルスーツがどうなるかと言えば、当然、墜落するより他にはない。

 

 サイたちの眼前で次々と、無力化したダガーLが盛大に波飛沫を上げて落下していく。

 落ちていく機体のあらゆる接合部から、小さな稲妻のような光が見えた。

 

「……まさか、EMPなのか? これは」

 

 サイが思い出したのは2年前の、ザフトによるパナマ侵攻。

 あの時、ザフトのEMP攻撃により、連合はモビルスーツを始めとする数々の兵装を完全に無力化され、壊滅的な被害を受けた。

 サイが直接目にしたわけではないものの、その惨状については今もたびたび話を聞く。

 

 ──今、それを、ナオトが使ったのか。

 

 自分たちを助ける為だったとはいえ、サイはその力への恐怖を感じてもいた。

 

 

 

 

 

 

「い……

 嫌、嫌、嫌ああぁあああぁあっ!!!」

 

 サイたちを追っていたアムル・ホウナも、この虹色の波にまともに呑まれた。

 ある程度のEMP対策がなされていたとはいえ、こうまで至近距離で照射されたのでは、さすがのカオスγもその機能を30%まで落としてしまっていた。

 これでは空中制御が精いっぱいで、とても戦闘などは不可能だ。

 とはいえ、カオスγを包囲していたダガーLの軍団も、続々とコントロールを失っては墜落していく。

 そして、アムル自身も──

 

「どこまでも、人を小馬鹿にして! 

 こんなものに頼るしかない、愚かなナチュラルどもが!!」

 

 叫ぶたびに、さらに襲いかかってくる激しい嘔吐、痙攣、眩暈。

 ティーダから生まれた鐘の音。

 それは、セイレーンの歌声と重なって不協和音を引き起こし、アムルの頭蓋を割らんばかりに震わせていた。

 それでも彼女は操縦桿を引き絞り、血走った眼でメインモニターを見据える。

 サイ・アーガイルを探す為に。

 自分が殺すべき、母親を探す為に──

 

 

 ──でも、アムルさん。

 そこまでする必要、あるんですか? 

 

 

 何かがアムルの中で、悲しそうに呼びかける。

 それはアムルが記憶の外に放り投げてしまった、気弱そうな青年の声にも似ていた。

 しかしその時の彼女に、自らの心の声に耳を傾けるほどの余裕は、微塵もなく──

 

「私に話しかけるな、鬱陶しい!」

 

 結果として、カオスγは再びその機首をもたげ、そのカメラアイは真っ直ぐにティーダに向いた。

 不可思議な音波と電磁波の飛び交うこの戦場でそこまでの行動が出来た者は、恐らく彼女だけであったが──

 

 その時サブモニターで、味方のシグナルを示す、緑の表示が輝いた。

 と同時に、機体全体を軽い衝撃が襲う。

 捕らえられた? とアムルは感じたが、それは単なる錯覚にすぎず──

 モニターいっぱいに映し出されていたのは、グフ・イグナイテッドの真っ青な機体だった。

 数瞬して、スピーカから直接アムルに叩き付けられたのは、隊長たるヨダカ・ヤナセの怒声。

 

《何をしている、アムル! 撤退だ!!》

 

 カオスγの左腕関節部を捕らえられながらも、アムルは必死で抗弁する。

 

「しかし隊長! 

 私はまだ戦えます! あの艦からの、卑劣な逃亡者を……」

 

 だがヨダカは、彼女のいささか幼稚な言葉を冷酷に潰した。

 

《母艦が撃沈寸前でも、貴様はまだそう言えるのか?》

「えっ?」

《マウナロアからの信号も見えていなかったか。

 今も艦はあの黒ダガー共の自爆攻撃を喰らっている、すぐに戻れ!!》

 

 そこまで言われ、アムルはやっと冷静さを取り戻した。

 ただし決して、ヨダカの命令に納得したわけではないが。

 

 ──畜生。

 ここまできて、何故、サイ・アーガイルを諦めなければならないのか。

 仕方がないが、まだチャンスはある。あいつが、生きている限りは。

 

 頭痛と眩暈と無力さを噛みしめながら、アムルはヨダカに従うしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 墜落寸前だったカオスγを引きずるようにして滑空する、グフ・イグナイテッド。そのコクピットで――

 ヨダカ・ヤナセもまた、頭痛と吐き気、謎の不協和音に悩まされていた。

 母艦マウナロアを護衛しつつ奮闘していたヨダカだったが、雲霞の如くわきあがるダガーLの群れ、そしてセイレーンからのマイクロ波攻撃に圧され、艦共々危険な状態に陥った──

 そこに炸裂したのが、ガンダム・ティーダの新兵器である。

 艦を沈める寸前だった黒い機体どもは今、無数の巨大な金属の塊となって、海面を漂っている。

 ヨダカはカオスγの様子を確認しながら、今なお輝き続ける虹色の波の向こうを見定める。

 

 ──ティーダか。

 

 これが、ミネルバJrで眠っていたはずの機体の仕業であることを、ヨダカは既に見抜いていた。

 恐らくその力で、自分たちが助けられたことも。

 しかし、今の彼に出来ることは何もない。

 致命的な損傷を受けたマウナロアからは撤退命令が出されている。あの損傷では恐らく、ミネルバJrとの合流を待たずにカーペンタリアに逆戻りせざるをえないだろう。

 何しろ、メインブリッジが直接被弾したのだ。到底、これ以上の進軍が出来るはずもなかった。

 味方機に撤退信号を出しながら、ヨダカもまた、悔しさを噛みしめるばかりだった。

 

 

 

 

 

 

「何、これ……!? 

 何かが、アタシの中にいる?」

 

 ストライクフリーダム・ルージュの中で──

 チグサ・マナベもまた、酷く特異な感覚を味わっていた。

 アムルやヨダカを襲ったものほど強烈ではないものの、頭の中に生じた違和感。

 それは、チグサが空の向こう――虹色の波を目撃した時からずっと感じていた。

 

 ──まさか。んなこと、あるわけない。

 だって、あのガキんちょなら、アタシが殺したはずなんだ。

 いや、正確にはアタシがとどめ刺したわけじゃないけど、確かにフレイが……

 

 でも、何だろう? 

 アタシの中に、何かがいる。何かが、ざわめいている。

 

 ──あぁ、そうか。

 多分、あの娘だ。

 

 幼いながらもそれなりに持ち合わせている諦念で、チグサは何となく悟った。

 

 あの光のせいで、アタシの中の「あの娘」が、目覚めかけている──

 今までも何度か、ざわっとすることはあった。特に、街を焼いてる時とか。

 気分が悪くなるわけでもなかったから、放っておいたけど。

 

 サイドモニターから響く、フレイからの通信。

 

《チグサ、戻れ。

 セイレーンでは対処出来ない電磁パルスを感知した》

「マジ? 

 それも、あの光のせい?」

《オギヤカやお前を、危険に晒すわけにはいかない。

 一旦、ポイント02まで撤退する。そこから改めて北チュウザンに向かう》

「りょーかい。

 一応、こっちの任務は果たしたわけだしね!」

 

 言いながらチグサは、自機の両腕部に抱え込むようになった形のデスティニーを見降ろす。

 そのコクピットハッチはまだ、開かれたままだ。

 パイロットたるシン・アスカは、もう何ら怯えることもなく、真っ直ぐにこちらを見上げていた。

 激しく靡く黒髪の間から見える、紅の瞳。さっきまで、あれだけ取り乱していたのに。

 恐らくこちらの真意を探るべく、乗り込んでくるつもりだろう。

 

 その瞳はチグサに、キラ・ヤマトの瞳と似たものを感じさせた。

 あの地獄の中で、静かな、そして激烈な怒りに染まっていたキラ・ヤマトの眼光と。

 

 ──久々にゾクゾクしたな、あの眼の色。

 もっともあの時は、御方様があんなことをするなんて思いもしなくて。それで寒気がしたってのも、あるかも知れないけど。

 ……アタシ自身も、結構錯乱しちゃったらしいし。

 

 

 

 

 

 

 鹵獲されたデスティニー。

 そのコクピットで、シンは海風に晒されながら、ストライクフリーダム・ルージュを見上げる。

 先ほどまで彼が見ていたステラの幻影は、何故か消え失せていた。さっきの虹色の波の影響だろうか。

 

 ──マユの姿をした娘が、何故あれに乗っているのか。

 ──そして俺は何故、あの機体にステラを見たのか。

 

 少しばかり冷静さを取り戻したシンは、一つの決意を固めていた。

 

 捕まってしまったなら、まぁ、仕方がない。

 どうやら相手は俺を必要としているようだし、すぐ殺されるということはあるまい。

 ならば――俺のやるべきことは決まっている。

 マユとステラの幻を使ってまで俺をおびき出して、一体こいつらが何をしようとしているのか。そいつを突き止めることだ。

 

 シンは不思議と、かなり割り切れてしまっている自分を感じていた。さっきまであれだけ錯乱していたのが、嘘のように。

 

 ──もしかしてこれも、あの虹色の波の影響か。

 あの光を見てから、吐き気もおさまってきたし。

 

「結局俺、アスランと同じになっちまってるかな……

 なぁ、レイ?」

 

 戦闘中に女の幻で踊らされ、まんまと機体ごと捕まるとは。アスラン以下じゃねぇか。

 レイに見られていたら、どれだけの失笑を喰らったことだろう。それとも、ゴミを見る目で俺を見下してたか。

 しかしそれはさておき、今自分がやるべきことは見つかった。

 それがどんなに、困難なものだろうと──

 何も見つけられなかった昨日までの自分よりは、遥かにマシだ。

 

 シンはそう自分に言い聞かせながら、通信やデータのほぼ全てがエラーと成り果てているコンソールパネルを眺めていた。

 ここで暴れようにも、デスティニーはルージュの掌で先ほどコンソールの一部を潰され、ほぼ無力化されてしまっている。

 いずれにせよシンは、彼らについていくより他にない。

 ただ一つ、気になることと言えば──

 

 

 ルナは、大丈夫だろうか。

 

 

 結局俺は、ルナとちゃんと仲直りもしないままだった。

 俺が帰ってこられないと分かったら、あいつはどうなるんだ。いや、意外と平気かな。

 多分、メイリンがいなくなった時ほどは錯乱しないだろう。

 あいつには、ナオトだっている。

 別に俺なんかじゃなくたって、あいつはきっと、誰とだって──

 

 

 

 

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