【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part7 運命を決めた凡ミス

 

 

 

 アーサーを始めとして、ナオトやルナマリアといった面々がハンガーに呼び出されて数分後――

 

 

「大変、申し訳ありませんでした!!!」

 

 

 サイは彼らや整備班の前で、再び土下座で誠心誠意、大声で謝り続けていた。鋼の床に頭を打ち付ける勢いで。

 ただ事情が事情だけに、誰一人としてサイを責められない。

 ガンダム・ティーダZだけが、冷徹に彼らを見下ろしている──

 

 

 サイの必死の謝罪理由というのは、勿論ティーダに起因したものだった。

 ナオトがティーダZの黙示録──ブックオブレヴェレイション・オーバードライヴを起動させると共に、ナオトがティーダZのメインパイロットとして登録された事実は、既に彼ら全員が知る処だった。

 だが解析の結果、ティーダに認識された声紋データにエラーが生じていたのである。

 それは――

 

 黙示録起動の瞬間、ナオトの言葉に混じったサイの叫びが原因だった。

 通常の話し声程度であれば何も問題はなかったはずだが、この時のサイは訳が分からないなりにナオトを止めるべく、必死に声を張り上げていたのだ。

 その結果、サイの声紋データまでがティーダに記録され──

 何とも皮肉なことに、ティーダの黙示録起動には、ナオトのみならずサイまでが必要という事態になってしまったのである。

 

 

「まぁ……既存のパイロット登録が上書きされなかったのが、不幸中の幸いだったかな。

 ハハハ」

 

 平謝りに謝るサイを前に、アーサーは乾いた笑い声を響かせるしかない。

 

「ただ、ルナマリアと同じく、サブパイ登録処理が自動的にされちまってる……

 参ったよなぁ」

 

 ヴィーノも頭を掻きながら、困ったようにサイを見おろしている。しかしその声には、どこかサイに同情するような響きも含まれていた。

 ナオトをティーダに乗せる直前、ヴィーノやマッドが最も懸念していたのが、ナオトが再びティーダに縛り付けられることであった。

 マッドなどは普段滅多に使わない「呪い」などという言葉まで持ちだし、この事態を恐れていた。

 その呪いは再び現実となった。彼らの願いも虚しく。

 だがその余波がナオトのみならずサイにまで及んでいたなど、誰一人想像もしていなかった。

 しかも音声データを聞く限り、サイはナオトを止めようとしていたのに。

 当のナオトだけはまだこの状況を掴めていないらしく、恐る恐るヴィーノに尋ねる。

 

「えっと、つまり……

 僕だけじゃなくて、サイさんも一緒にティーダに乗らなきゃならないってことですか?」

「そーいうこと」ヴィーノが状況を説明する。

「緊急でデータ削除を試してるけど、何度もエラー起こしててさ。

 下手すると起動自体が不可能になるから、無理は出来ないんだよ。

 あのデータ量だと多分あと、最低4日は必要に……」

「その間に、作戦が終わっちゃうわよ」

 

 そんなルナマリアの突っ込みは、いつになく冷たい。

 だが、アーサーはひとつ咳払いをすると、切り替えたように前を向いた。

 

「まぁ、なってしまったものは仕方あるまい! 

 サイ君。こうなったからには、君も我々に協力してもらうよ。少なくとも、作戦終了の間まではね」

「勿論、そのつもりです」額を床につけたまま、即答するサイ。

 その言葉に、今度はナオトが激しく反応した。

 

「だ、駄目ですよサイさん! 

 僕はしょうがないですけど、サイさんまで巻き込むわけにいきません!! 

 艦長が言ってるのは、サイさんもザフトで戦えってことですよ!?」

 

 ナオトは完全に青ざめている。

 サイを助ける為の行為が、まさかこんな事態に発展するなんて──

 

「仕方ないさ。

 これは間違いなく、俺のミスだ」

 

 そう言いながら、サイは初めてゆっくり顔を上げてナオトを見る。

 

「それに──

 今まで俺は、誰かが戦うのを見ていることしか出来なかった。

 キラの時も、お前の時も。

 だから、こうなることでお前を守ることが出来るなら、俺は全然構わない」

 

 今度はヴィーノが呆れたように突っ込む。「守れれば、な……」

 そこで当然の疑問を呈したのは、ルナマリアだった。

 

「では、艦長。

 ティーダのパイロットはどうなるんです? 

 まさか、彼ら二人……?」

 

 彼女は若干の恐怖を隠せぬ視線で、サイとナオトを見下ろす。

 まだ年端もいかない、気分がやたら不安定なハーフコーディネイターの子供。

 そして、軍属経験があるとはいえ、左腕を負傷しているナチュラルの青年。羽織ったワイシャツの左半分は血染めだ。

 この二人に、最新鋭のザフト機を任せるというのか──

 冗談じゃない。戦場に出た瞬間、撃墜されるのが目に見えている。

 青ざめてしまった彼女に、マッドが助け舟を出した。

 

「まぁ……そう心配するこたぁないよ。

 このティーダZに乗せられるのは、二人だけじゃない。

 最大三人、無理すりゃ四人は乗せられる。

 補助シートぐらいはすぐつけられるから、何ならルナマリアを入れて三人で乗ることも可能だ」

 

 アーサーが手を叩く。「なるほど! 

 確かに、ティーダのコクピットは二人乗りだけあって、通常のモビルスーツよりも広いからな。

 黙示録が必要になった時だけ、サイ君とナオト君にお出ましいただければいいというわけか」

 

 そうそう必要にならないことを願いたいが。その場の誰もがそう思ったが、口には出さなかった。

 代わりに、ヴィーノが手を挙げる。

 

「あの。俺、気になってたんですけど。

 そうなると、インパルスがお留守になりますよね? 

 三人もティーダに乗っちゃったら、せっかくのインパルスが勿体ないですよ」

「うむ……

 それは先ほどルナマリアたちとも話していたが、なかなか結論が出なくてな」

 

 言い淀むアーサーに対し、ヴィーノは一切調子を変えずに続ける。

 ──が、口調に反し、その内容は驚くべきものだった。

 

「艦内からも、志願者はまだ出てきてないんですよね? 補充の見込みもないし。

 なら、俺が乗ります」

「えぇっ!?」

 

 この叫び声を上げてしまったのはアーサーだけでなく、ナオトもルナマリアもマッドも、ほぼ同時だった。

 全員の視線がヴィーノに注がれたが、彼は至って落ち着いたものだった。

 

「俺がティーダとインパルス、両方のパイロット登録をします。

 ティーダだったら、俺はハロを拾ってからずっとシステムに携わってきたし。

 インパルスをシンやルナほど乗りこなすのは無理だけど、運ぶぐらいは出来ますから」

 

 するとこのヴィーノの提案に、意外にもルナマリアが乗ってきた。

 

「なるほどね……

 ティーダにインパルスを常に随行させる形で出撃させて、状況に応じてパイロットを変えるわけか。

 悪くないかも知れない」

「だろ? 

 ルナがインパルスに乗らなきゃならなくなった時は、俺がティーダに乗り込んでナオトをサポートする。逆なら交替だ。

 少なくとも、ド素人二人だけをティーダに乗せるよりは、よっぽどマシだと思うよ」

「し、しかしだな……そんな余裕が」

 

 狼狽するアーサーの横から、マッドが怒鳴る。「ヴィーノ! 

 整備と実際の戦闘は全く別物だと、あれほど言ってるだろうが!!」

 

 そんな彼にも、ヴィーノはしれっとしたものだった。

 

「知ってます。

 だけどそれ以外に、方法ないでしょ? 

 ナオトをティーダに乗せちまったのは俺だし、それに──」

 

 言いながら、ヴィーノはサイの左肩に視線を落とす。

 冷たい床にぺたんと座ったまま、呆然とヴィーノを見上げているサイ。

 夥しい出血が乾ききり濃い赤茶に染まっている、ワイシャツの左袖。

 

「──ちょっとした借りもあるし」

 

 最後の方だけは、聞き取れないような小声で呟くヴィーノ。

 彼はその真意を決してはっきり言おうとしなかったが、アーサーもルナマリアもマッドも、サイまでもが彼の心中を何となく察した。

 何も分からなかったのはナオトだけで、彼はひたすら必死でヴィーノを止めようとする。

 

「駄目ですよ! 

 ヴィーノさんの怪我だって、まだ治ってないじゃないですか」

「お前ら二人だけをティーダに乗せるなんて地獄見るよりマシ。

 ルナの負担ばかり、増やすわけにもいかないしな。

 戦場で一人に何もかも背負わせて、そいつに何かあったらどうなるかぐらい、お前にも分かるだろ」

「でも……!」

 

 だがその時、サイがナオトの背後から、ヴィーノに頭を下げてきた。

 

「俺が言うのも何だが、頼む。

 やめてくれ」

「はぁ? あんたは黙ってなよ」

 

 ヴィーノは突き放したが、サイは引き下がらない。「そんな形で、君が背負い込むことはないだろう? 

 同じようにして、俺のせいで命を落とした人を俺は知ってる。

 だから──!」

「う、うっせぇな!!」

 

 サイの言葉をねじ伏せるように、ヴィーノは叫んだ。

 

「俺が言ってるのは、インパルスとティーダの最も効率いい運用。当然だろ! 

 なのにナニ? 背負い込むって。妙な勘違いすんなよ」

 

 そのままヴィーノは頬を膨らませ、ぷいとサイから視線を外す。

 アーサーもマッドも、無茶苦茶とも言える彼の提案を受け入れざるを得ない状況であることは分かっていた。

 オギヤカとの会戦により、友軍は殆どが損耗した挙句に撤退し、カーペンタリアからの援軍も見込めない。

 艦内からの志願者がいるのなら、誰であろうと頼らねばならない。それが、パイロットとしてはまるで未知数な、若さより幼さの目立つ整備士であろうと。

 そのレベルまで、ミネルバJrは切迫していた。

 情けなさに歯噛みをしつつ、アーサーは尋ねる。

 

「しかし、ヴィーノ。

 ナオトとルナマリア、それにサイ君が登録されてしまったティーダに、まだ君を登録できる余裕はあるかい? 

 上書きは当分無理だろうから、追加登録ということになるが」

 

 そんなアーサーにも、ヴィーノは口元に笑みまで浮かべながら言ってのける。

 

「大丈夫ですよ。

 ティーダZの黙示録は、少なく見積もっても40%以上はヨウランが弄ってたんだ。

 他の奴ならともかく、俺を受け入れないなんてこと、ありえないです」

 

 絶対的な自信に基づく微笑みまで見せながら、彼は目の前で右拳をぎゅっと握りしめてみせた。

 状況にそぐわぬ奇妙な安堵が、一瞬だけその場を流れる。

 だが、ちょうどその時──

 

 

 

 サイとナオトはほぼ同時に、背筋に酷い寒気を感じた。

 何かが、落ちてくる。

 とてつもなくどうしようもない、何かが。

 何が落ちてくるのか、それは全く分からない。

 敢えてこの感覚を言葉で形容するならば、最も的確なのは、「空が落ちてくる」という訳の分からない表現だったろう。

 ナオトなどは悪寒のみならず、思わず口を押さえて嗚咽まで始めてしまう。

 そんな彼らに、慌ててルナマリアとヴィーノが駆け寄り支えようとしたが──

 

 

 

 突然、アーサーが耳に着けていたインカムが反応した。

 ナオトらを気にかけつつも、彼は素早く応答する。

 

「ん……アビーか。

 話は一応終わったよ、すぐ戻る。

 うん……ん? え? 

 ちょ、おい、落ち着いてまとめてくれ」

 

 インカムの向こうでアビーは彼女らしくもなく相当取り乱しているのか、アーサーも戸惑いつつ、彼女を落ち着かせようとする。

 だが、報告を聞いた刹那──

 アーサー・トライン艦長は、ハンガーの隅々まで朗々と響きわたる絶叫をあげていた。

 

「え……

 え、え、え、えぇええぇええぇえええぇええっ!!!!?????」

 

 

 

 それこそが──

 コロニー・ウーチバラより地球上に向け、南チュウザン開発の戦略兵器セレブレイト・ウェイヴが発射された、最初の瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 ~~~~~~

 

 

 次回予告

 

 

 遂に放たれた終末の唄

 人々を救うべく、戦火のチュウザンへティーダは飛び込む

 嵐を駆け抜けるサイとナオトの中で、少しずつ昂ぶる鼓動

 それは伝説の前触れか、破滅の予兆か

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation

 

「雨と太陽の交わる処」

 

 ざわめく動悸、感じ取れ。インパルス! 

 

 

 

 

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