【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part2 アークエンジェル、豪雨の国へ

 

 

「これで、良かったんですよね?」

「そうね。ありがとう」

 

 同時刻――

 既にヤエセに停泊中の、アークエンジェル内ブリッジで。

 メイリン・ホークは、おずおずとミリアリアに確認を取っていた。

 彼女の眼前のモニターには、先ほどミネルバJrに流されたものと全く同じ映像が流れている。

 

 ある人物からミリアリアに齎された、セレブレイト・ウェイヴ照射の情報。

 それを受けて半信半疑ながらも彼女は持ち場を一旦離れ、カメラマンとして現場へと向かった。

 情報は正確だった。物理的破壊を伴わないが、より深く強烈な衝撃を与える兵器──

 人の尊厳を奪う兵器。

 何とか意識を取り戻した人間も数人いたが、彼らは全員それまでの記憶を失い、自分が何者かすら分からなくなってしまっていた。

 

 ミリアリアは忘れられない。目覚めはしたが、意味不明な言葉を発し続けていたザフト軍の兵士たちを。

 恐らく当分──

 いや一生、彼らは戦場へは戻れまい。下手をすれば、日常生活にも。

 

 撮影中にザフトが来た為、逃げるようにその場を離れたものの──

 そんな彼女の取材の成果も、きちんと公共の電波に乗せられている。

 凄惨な映像を再び前にしながら、ミリアリアは思い出す。最初にこの情報を齎してきた人物の声を。

 懐かしいはずの、永遠に喪ったはずの、あの声を。

 

 

 ──君がカメラマンとして久々に活躍出来る、絶好の機会だと思うけど? 

 

 

 カメラマンを目指すきっかけを作っておいて、よく言うわね。

 思わずぼやきそうになるのをミリアリアはどうにかこらえ、メインモニターごしに空を睨んだ。

 もうすぐ戦場となるやも知れぬヤエセの空は、昼のはずなのに夜より暗い闇に覆われている。

 港には、アークエンジェルとそう離れていない距離に、新生アマミキョが停泊していた。

 

 あそこには、サイが必死で集めた仲間たちがいる。

 あの、奇妙な通信ごしに齎された情報──

「彼」の話によれば、サイたちは連合の施設にしばらく捕らえられていたが、どうにか脱出したらしい。その後の消息は分からないそうだが。

 

 そして、キラたちは──

 ――

 

 ミリアリアは必死で頭を振る。

 いや、そんなことがあっていいはずがない。キラとラクスともあろうものが、既に──

 

 しかし、「彼」が言っていたセレブレイト・ウェイヴの情報は確かだった。

「彼」が本物かどうかは、とりあえずこの際考えないことにした。今問題なのは、「彼」の言葉が信用に足るかどうかだ。

 その言葉を丸ごと信用するならば、これからチュウザン本島周辺を中心に、次々にセレブレイト・ウェイヴの照射がなされるという。

 北チュウザンの制圧が成れば、次はどこへ標的が移るか。

「彼」からの情報を、ミリアリアはひととおりマリュー・ラミアスにも伝えていた。恐らく、彼女を通じてアスハ代表にも情報は行っている。

 結果、オーブ経由でミリアリアによる映像が報道されている。この新兵器による世界の危機を伝えながら。

「彼」の情報が全て正確なら、最早キラたちは──

 

 

 アークエンジェルに再搭乗して以来、殆ど恐怖を感じたことのなかったはずのミリアリア。

 弱い自分と訣別するべく、アークエンジェルに戻ったはずの彼女。

 だがミリアリアは今再び、恐怖を感じていた。

 その恐怖は、「彼」の声を聞いてしまったことで、さらに増幅されたと言える。

 

 

 どうして、今なの? 

 どうして、今、そういうことを言うの? 

 何故今、貴方は私のもとへ現れたの? 

 サイのもとに現れ、サイを混乱させたフレイのように。

 声だけじゃ分からない。せめて、姿を一目だけでも──

 

 

 しかし、ミリアリアの心が混乱しかけた、その時。

 

「御手柄だな、お嬢ちゃんたち。

 これで南チュウザンの悪行も、全世界に轟くというわけだ」

 

 そんな軽い言葉と共に背後から肩を叩かれ、ミリアリアもメイリンも慌てて振り返る。

 彼女らのすぐ後ろでは、ムウ・ラ・フラガが悠々とウインクまでかましていた。

 やや長めに伸びた金髪も、既に見慣れた。

 

「も、もう! 急に出てきてびっくりさせないで下さいよぉ」

「そうですよ、一佐。

 それに、そろそろまたちゃんと名前で呼んでもらえませんか? いつまでもお嬢ちゃんは……」

「あぁ、スマンスマン。それじゃ、ミリアリアお姉様がた」

 

 やたら軽いノリのフラガ一佐に、張りつめていたミリアリアの気分は少しばかり解れた。

 そんな彼女に微笑みながら、フラガは言う。

 

「まぁ、そう心配するこたぁないさ。

 キラはちゃんと生きてるよ。だから俺も、結構余裕かましていられる」

「え? わ、分かるんですか?」

 

 メイリンが驚いて、フラガに尋ねた。

 

 ――そうか、メイリンはまだ知らないのか。

 フラガ一佐の、奇跡的なまでのカンの良さを。

 

 詳細はミリアリアにもよくは分からないが、ラミアス艦長の説明によると、彼は通常よりも空間認識能力が優れているのだそうだ。

 それとキラの無事が分かるというのが、何の関係があるのかはよく分からないが──

 彼が言うなら、大丈夫。そう思えた。

 経験と実力に裏打ちされた力強さを、今のフラガにはよく感じる。キラやラクスの言葉にもよく似たものを。

 それもあって彼の存在はキラたちが不在の今、より一層頼りがいのあるものとなりつつあった。

 実際、このヤエセ近郊までアークエンジェルが全くの無傷で降りられたのも、彼とアスランのおかげである。

 ついでに言えば、ミリアリアが無事撮影に成功し戻ってこられたのも、だが。

 

「この雨のせいかどうかは分からんが、俺の頭、いつもより冴えわたってる気がするんでね。

 だから、大丈夫だよ。あの坊主も──

 そんで多分、眼鏡君もな」

 

 言いながら、ふとフラガはどす黒い空を睨んだ。

 

「……随分とヤバイのは、間違いないが」

 

 そんな彼の呟きを、ミリアリアは決して聞き逃さない。「何がですか?」

「さっき、艦長から聞いたんだが。

 どうも南チュウザンの奴ら、マイクロウェーブと同時に相当不味いモンを持ちだしたらしい。

 世界中の戦場から分け隔てなく兵器を盗みコピーしまくる、条約無視のチート野郎どもだ。何が来てもおかしくはないが……」

 

 その言葉に、メイリンが青ざめる。

 

「まさか──

 デストロイ、なんてことはないですよね?」

 

 先ほどと違い、フラガは笑みの欠片も見せない。それは、メイリンの想像が決して飛躍ではないことを物語っている。

 

「さすがに数は少ないだろうが、ありうる。

 その情報はここだけじゃなく、連合軍にも出回っているらしい。さっき、山神隊の連中に確認した」

「そんな──」

 

 もしそうなら、連合軍もアマミキョも住民も、完全に追い詰められたということじゃないか。

 その情報だけで、今の連合軍は前線が混乱してしまう可能性すらある。

 動揺する二人の女性の前で、フラガは固い表情のまま、何かを探ろうとして空を睨み続けていた。

 

「かつてフレイ・アルスターは――

 フレイを名乗るあの娘は、命を賭してこの土地とアマミキョを守ろうとした。そいつは俺も知ってる。

 なのに──

 何を考えてやがるんだろうな……あの嬢ちゃんは」

 

 

 

 

 

 

「何を考えてやがるんでしょうね、ネオ・ロアノーク……

 いや、ムウ・ラ・フラガの野郎は」

 

 アークエンジェルから距離にして300メートルほど離れた、ヤエセ近郊港湾内。

 新生アマミキョのブリーフィングルームで、山神隊・伊能大佐はため息を禁じ得なかった。

 

「かつての連合の暴挙によるものとはいえ──

 あんたも同罪なんですよ。マリュー・ラミアス」

「いいえ……

 今の自分は、マリア・ベルネスです」

「何を今更。

 こっちが連合のはぐれ者部隊だからって、舐めてもらっちゃあ困りますよ。

 それに、たとえホントにあんたがラミアスじゃなかったとしてもだ──」

「あ、あの、お二人とも?」

 

 伊能大佐とマリュー・ラミアスは、静かに睨み合っていた。アマミキョのシュリ隊隊長たるトニー・サウザンを間にして。

 連合軍に属する伊能にとって、アークエンジェルのマリュー・ラミアスとムウ・ラ・フラガは裏切り者である。

 2年前、アークエンジェルは連合上層部の罠に嵌まり、サイクロプスに巻き込まれかけて何とか脱出した――

 そこまでは伊能も十分分かっているし、密かに同情さえしていた。

 その後連合に牙を剥いた点に関しても、彼らが逃げ込んだオーブやその周辺の状況を鑑みれば致し方ないと言えるし、結果的にパトリック・ザラの暴走を止められたのも、アークエンジェルの功績あってのことだろうと──

 伊能もどうにか、そこまでは納得している。だからこそ彼は、アマミキョにやってきたサイとカズイにもそれなりに情をかけてきた。

 ――しかし。

 

 何故この女はラクス・クライン共々、再び戦場に出ようとしたのだ。

 しかも戦場を荒らすだけ荒らして、争いを止めるどころか混乱させるばかりだった。

 こいつらを追っていた最中、風間も命を落とした。彼女の直接の死因はアークエンジェルではないと、分かってはいるが──

 

 風間の死を最初に伝えてきた時の、広瀬の慟哭。

 彼女の顛末を努めて冷静に報告してきた時の、サイの疲れきった表情。

 サイの報告を受けて部屋を静かに出て行った、山神隊長の背中。

 それらを思い出すと、自然と怒りがわいてくる。

 

「サイ・アーガイルは健気な男だ。

 奴の顔に免じて、ここは敢えて協力するが……

 こっちにはアークエンジェルへの恨みが山ほどある。それは、覚えておいてくれ」

「承知しています」

「確かに『歌姫の騎士団』がいなきゃ、デュランダルの暴走も止められなかったかも知れんが──

 それとこれとは別問題だ。あの男にも伝えておいてくれよ」

 

 言いながら、伊能はドアの方向を睨む。

 ラミアスに先だって、伊能から逃げるように飄々と部屋から出て行ったあの男。

 伊能は既に見抜いている。彼が、かつてファントムペインの子供たちを率いてチュウザンにもやってきた、ネオ・ロアノークであり──

 ラミアスと共に連合を裏切った、ムウ・ラ・フラガであることを。

 

「子供らがどうなったかも聞かずに、よくもまぁしゃあしゃあと俺らの前にツラを出せたもんだ」

 

 ヤエセ到着の直前、偶然ではあるが、フラガの駆るアカツキと伊能は見事な連携を見せて南チュウザン軍を撃退した。

 彼の実力は伊能も認めるところであるが、やはりそれとこれとは別問題である。

 そんな伊能に、マリューは唇を噛みしめた。

 

「……どうか、触れるのはやめていただけないでしょうか。せめて、今だけは。

 ファントムペインの顛末については、彼も既に知っています」

「触れるな……だと?」

 

 状況に似つかわしくない穏やかすぎる言葉に、伊能は遂に怒りを抑えきれなくなる。

 ──彼女の言葉は、フラガが隠している苦悩を知っているからこそのものだ。

 しかし、そんなもの知ったこっちゃない側がそう言われたら、怒るしかないだろう。

 

「年端もいかぬ子供を薬づけにして、記憶まで操作してモビルスーツにぶちこんでおいて! 

 当然のように塵となって死んだら、もう触れるなってか? 

 下っ端が何も知らないわけじゃねぇぞ。俺はこれだけは我慢ならねぇ」

「ま、ま、まぁちょっと!! 

 落ち着いてくださいよ、伊能大佐」

 

 あまりに険悪になった二人の間に、慌ててトニーが割って入った。

 

「今は、目の前に迫った事態にどう対処するかのほうが先です。

 お願いしますよ」

 

 言いながらトニーも、じっとマリューを軽く睨む。

 

「我々もアークエンジェルを追っている最中、貴重な仲間を失った。

 貴方がたに、怨みがないわけではありません。

 しかし……しかしです!」

 

 大げさと思えるほど腕を振り回し、トニーは力説する。

 

「船を失い離散した我々を、再びこの地に集結させたサイ君ならば言うはずだ。

 今は、過去の怨恨に拘泥している時ではないと!」

「分かってるよ、隊長。

 だから俺も、あの男に殴りかからなかった。そこは認めてほしいなァ」

 

 伊能はトニーの心意気に応えるかのように、わざとらしく肩を竦めてみせる。

 確かに、トニーの言うとおりなのだが──

 

「分かっちゃいるが……

 そのサイ君は、ちゃんと戻ってくるかね」

「それは……」

 

 さすがのトニーも、すぐには答えられない。自分が聞きたい、という顔をしながら。

 伊能にもトニーにも、何となくではあるが、サイは生きて戻ってくるという確信がある。

 しかしその確信がどこからくるのか、彼ら自身にもよく分からない。

 

 サイがカズイ共々連合の施設に捕らわれたという話は聞いてはいたが、その後の消息はほぼ不明だ。

 ミリアリアからの情報ではどうにか施設からの脱出には成功したらしいが、それも今のところ不確定情報にすぎない。

 既に殺されたか、一生出ては来られないか。仮に脱出を果たしていたとしても、彼らが無事だという具体的な証明は何もない。

 混乱を避ける為、トニーも伊能もその情報を決して周囲には洩らさなかったが――

 

 どういうわけか彼らは、サイの生存を確信していた。

 ただ、何故なのかがはっきりとは言えない。

 サイを信じているから──などという、漠然とした感傷に起因するものではないことは確かなのだが。

 

 しかしその時、思わぬところから声が響く。

 

「──副隊長は、帰ってきます」

 

 部屋の隅から、遠慮がちながらも発された声。

 それまでずっと、ブリーフィング内容をモニターに記録し続けていた、ヒスイ・サダナミの声だった。

 彼女はトニーらから視線を外し、じっとモニターを見つめながらも、はっきりと言った。

 

「必ず、帰ってきます。

 私が言わなくても、隊長はお分かりのはずでしょう?」

 

 そんなヒスイに──

 トニーも伊能も、勿論マリューも、返す言葉を持たなかった。

 

 

 

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