【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part3 紅い瞳の求めるものは

 

 

「大変、申し訳ありません。

 マユ様は、ちょっと地上でまだお仕事があるとのことで。

 かわりに私が、シン様をご案内に参りました!!」

 

 意味の分からないままオギヤカに収容され、注射を打たれて眠らされたシン・アスカ。

 ようやく目覚めた時彼がいたのは、白い壁と天井がやたら目立つ殺風景な個室だった。

 

 

 ――この子は、誰だ? 

 ──レイ? 

 

 

 目を開けてすぐ視界に入ったものは、無邪気な笑顔をこちらに向けながら早口でお喋りしてくる、年端もいかぬ金髪の少女。

 何故彼女を、かつての親友──レイ・ザ・バレルだと勘違いしたのか、シンは自分の思考がよく分からなかったものの。

 すぐに、彼女の正体に気づいた。

 

「君は……

 確か、フレイ・アルスターのそばにいた……?」

「あら! 

 覚えていてくださったのですね、姉上の演説を!」

 

 花のように朗らかな、少女の笑顔。

 薄い水色を帯びた大きな瞳が、まっすぐにシンを見つめている。

 

「申し遅れました。私はフレイ・アルスターの妹、レイラ・クルーと申します! 

 これからウーチバラまでしばらく、シン様と行動を共にさせていただくことになりますわ。

 よろしくお願いいたします!!」

 

 ぽかんとしたままのシンに、勢いよく自己紹介しつつウインクまでしてみせるレイラ。

 言いながら彼女は、彼の枕元すぐ近くに配置されていたキャビネットから、慣れた手つきで服を取り出した。

 それは何とも見慣れない、黒い制服らしきもの。

 しかしよく見ると、ザフトの赤服と形状が似ている。赤服の紅と黒の部分を、そのまま反転させたような感じだ。

 

「シン様のためにと思いまして、用意させていただきました。

 我が南チュウザン軍の制服ですわ。もっとも、きちんと着用している者は少ないのですけど」

 

 

 南チュウザン軍だと。

 何を言っているんだ、この娘は? 

 

 

「俺は、南チュウザン軍に入ったつもりはないけど?」

「あら。

 貴方は自ら、マユ・アスカの手を取られたのではないですか?」

「そうだけど、俺は真実を知りたかっただけだ。

 妹が何故生きているのか。

 死んだはずの妹を使ってまで、俺を誘ったのは何故なのか。

 事と次第によっちゃ、ぶん殴る準備は出来てる。妹を弄んだ奴を!」

 

 レイラはじっとシンを見返していたが、やがてふと笑みを消す。

 ──やはりこの仕草、どこかレイを思わせる。

 

「今は、そういうことにしておきましょうね」

「どういうこと……だよ」

 

 レイラの物言いに若干腹が立ったものの、相手にどういう言葉遣いをしたものやら分からず、つい語尾を濁らせてしまうシン。

 

「しかしながら……

 その恰好のまま外に出られるのは、多少問題があるのでは?」

「え? 

 って、う、うわぁ!?」

 

 言われて初めてシンは、自分が下着姿同然で寝かされていたことに気づいた。

 着用していたはずのパイロットスーツはどこへやら。アンダーシャツさえも脱がされ、新しいものに替えられている。

 若干赤くなりつつも、シンはボソボソ呟いた。

 

「……他の着替え、ないの……ですか?」

 

 敬語を使うべきかどうか考えあぐねるシンに、思わずレイラは軽く吹きだしてしまう。

 

「失礼。用意できたのはこれだけですわ……

 ま、お気になさらず! 特にここオギヤカでは、軍服などあってなきが如きもの。

 外を回れば、お分かりになると思います!」

 

 

 

 

 

 

 レイラ・クルーと名乗る少女の、どうにも逆らい難い雰囲気に呑まれ。

 シンは言われるがままに南チュウザン軍服を着用し、彼女の案内で外に連れ出された。

 

 部屋から出た瞬間の軽い浮遊感で、シンはすぐに分かった──

 自分のいる場所が、既に宇宙であることを。

 

 レイラの話によれば、ここは宇宙空間へと出発した戦艦・オギヤカ内部。

 もっと正確に言えば、分離した巨大戦艦オギヤカの、航宙用パーツにあたる部分らしい。

 恐らく自分は、あの時地上のオギヤカに収容されてから、何らかの方法でこの宇宙艦まで運ばれたのだろう。

 南チュウザンが隠し持っていたマスドライバーによってか、それとも地上のオギヤカから直接宇宙に撃ちだされたか。あれだけの規模の艦だ、そんな技術があってもおかしくない。

 いずれにせよ、今のシンには些細なことではあったが──

 

 

 いくつものエレベーターを乗り継ぎつつ、どこまでも広く複雑な艦内を見て回るうち、レイラの言葉が嘘でないことはすぐにはっきりした。

 ザフト艦の内部とそう変わらない内装の通路を、忙しなく行き交う人々。

 その服装は白衣やら整備服やらコックやら学校の制服らしきものやら実に様々で、中には明らかに私服の者もいた。

 いや、それより何より、シンが驚いたのは──

 

「何で……

 ザフトの緑服と、連合のヤツが会話してるんだ? 

 アレ確か、連合の少年兵用の制服じゃ?」

 

 考えられない。

 シンの目と鼻の先で、見慣れたザフトの緑服の青年と、青い連合軍服の少年が、普通に言葉を交わしている。

 それを聞いて、レイラは当然というように胸をそらした。

 

「これが、オギヤカ流というものですわ。

 オギヤカ内部ではザフトも連合も、ナチュラルもコーディネイターも……

 もっと言うならば、年齢も男女も美醜も出生も、一切関係ないのです」

「完全に実力主義の世界ってことか」

「それも、ちょっと違いますが……」

「違う?」

 

 レイラは少し黙り、シンの先を足早に歩く。

 その小さな背中には、先ほどの朗らかさは感じられない。

 やがて、彼女は静かに言った。

 

 

「私たちが目指すものは──

 人が人に優劣をつけない世界、です」

 

 

 彼女の横顔に、何故か再び、レイ・ザ・バレルが重なる。

 単に髪や肌、瞳の色が似ているという以外の何かを、シンは感じずにはいられない。

 

「トール、お勤めご苦労でした。

 短時間であの任務をこなすのは、骨が折れたことでしょう」

 

 眼前の、連合兵服の少年に話しかけるレイラ。

 栗色の癖毛が目立つその少年は、ため息をつきながら言う。

 

「……フレイに言われましたよ。

 レイラをきちんと見張っていなかった罰だって」

「そうだぞ、レイラ」ザフトの緑服を着た金髪が、トールという名の少年の肩を無遠慮に抱きながら、不満げに唇を突きだした。

「サイに肩入れしたい気持ちは分かるさ。俺らだってそうだった。

 だが、既にダイスは振られちまったんだ。一発目の祝砲は放たれた──

 フレイも御方様も、もう止められない。

 どちらもな」

 

 その金髪はやがて、シンの方へ視線を向ける。

 

「だからフレイは、無茶してでも連れてきたんだろ。

 デスティニーごと、彼をさ」

 

 

 ――デスティニー? 

 俺の機体も、ここへ収容されたのか。

 

 

 訝しむシンを横目に、レイラはその背の高い金髪を見上げる。

 

「ミゲル──

 私はまだ、姉上は希望を捨てていないと思っていますよ。

 サイ様を逃がした私に、そこまでのお咎めがなかったのが何よりの証拠。

 姉上がシン様を先にこちらに呼ばれたのも、お考えがあってのことでしょう」

「俺も、そう思っていたいさ。

 俺たちの姫が(くびき)から逃れ、本当に想いを全うするつもりだとな」

 

 ミゲルと呼ばれた金髪は片手を振りつつ、そそくさとシンたちのそばを通り過ぎていく。

 連合軍服の少年も、ちらりとシンを見定めるように眺めつつ、ミゲルの後を追っていった。

 レイラは彼らを見送りながら、改めてシンに向き直った。

 

「さ、シン様。こちらです──

 私の姉、フレイ・アルスターが、貴方を待っています」

 

 そう言ってレイラが指し示したのは、メディカルルームらしき場所に繋がるエア・ロックだった。

 

 

 シン様、か。

 なんか、慣れないな。そう言われるほどのモンじゃないってのに、俺は。

 

 

 レイラの言葉に若干くすぐったさを感じながらも、シンは彼女についていく。

 ザフト艦で聞き慣れたものとそう変わらない空気音と共に、開かれる扉。

 

 

 まず目に入ったものは、

 眩いほどの白い部屋に、延々と連なっているガラスの箱。

 縦横20メートルはあろうかという広さの部屋に、それらが列を形成して整然と並べられている。

 一瞬治療用ベッドかと思ったが、少し違うようだ。棺桶のようにすら見える。

 

「な、何だこれ……

 ここ、医務室かなんかじゃないのか?」

「一応、メディカルルームという位置づけにはなってます。

 恐らく、シン様の知る治療とはちょっと違うものが施されておりますが」

 

 シンがすぐ見おろせる位置のガラスの箱は、中のほぼ全てが青い水で満たされている。

 何の液体かは、シンにはまるで分からない。

 しかし、無数にあるガラスの箱のうちいくつかには、何かが入れられていた。

 よく見ると、それは──

 

 

 幾重ものチューブに繋がれた、人間の裸体。

 口には人工呼吸器らしきものに繋がれ、小さな泡をたてながら、水中で僅かに鼓動している、人間らしき何か。

 

 

「──! 

 こ……これ、人間なのか」

「当然です。

 シン様は初めてですから、驚かれるかと思いますが──

 これは元々、連合軍が開発した医療装置なんですよ」

「連合が? 南チュウザンじゃなく?」

「一般的に、ナチュラルはコーディネイターに比べ、肉体が脆弱です。

 しかし、だからこそ医療が発達する。

 こちらにある装置は、通常の治療では全治半年はかかる負傷を、1カ月で治せるものです。

 連合軍の中枢に近い基地なら、このような医療機器は珍しくないはずですわ」

 

 氷の宮殿の如く、ひんやりと静まりかえった白い部屋。

 まるで凍ったように動かず、装置の中で泡だけを吐き続ける人間たち。

 いるだけで身震いを禁じ得ない、そんな部屋の中央に──

 

 

 紅い髪を肩まで降ろした女が、独り、立ち尽くしていた。

 雪の壁に囲まれたが如き室内において、その髪色は余計に鮮明に映る。

 シンと同じ軍服を着用しているその女に、彼は確かに見覚えがあった。

 あれは──

 

 

「姉上!」

 

 シンがその名を口にする前に、レイラが彼女へと駆け寄っていく。

 足早ではあるが、何故か先ほどまでの朗らかさはないように思えた。

 

「シン様を、お連れしました」

 

 女は当然のようにレイラを振り返り、低い声で答える。

 

「苦労をかけた。

 ごく短期間での地上との往復は、さすがに堪えただろう?」

 

 レイラは若干肩をすくめて少々不真面目な態度を装い、

 

「姉上の愛しの御方を逃がしてしまった、罰ですもの。

 その程度は、我慢しますわ」

 

 と、囁くように言った。

 明らかに作り笑いと分かる、レイラのぎこちない表情が彼女を見上げる。

 

「サイの件は……今はいい。

 お前の意見も一理あったからな」

 

 彼女は全く笑わず、かわりにレイラの金色の頭にそっと片手を軽く乗せた。

 その行為に少女は少しばかり驚いたようだが、頭を撫でられてちょっと気持ちよくなったようだ。

 しかし、女の口調は変わらない。

 

「確かに、ここは歪んだ場所だ。

 サイを公に手中にすることで、奴を守るつもりだったが──

 それだけで、あの方が止まるはずもない」

「情報は存じております。

 既に、キラ・ヤマトとラクス・クラインは……」

「だからこちらも、急ぐ必要があった」

 

 紅の髪の女は、そこで初めてシンを振り返り──

 やがて、静かに口を開いた。

 

「特に怪我もなさそうで、何よりだ。

 ――シン・アスカ。面と向かって話をするのは、初めてだな。

 私は、フレイ・アルスター。

 タロミ・チャチャ第三王妃として、南チュウザンの軍務を任されている」

 

 

 聞きたいことは、山ほどあった。

 何故、一介のザフト兵に過ぎない自分を、機体ごと攫ったのか。

 自分が会ったあの「マユ・アスカ」は、何者か。

 何故、自分やマユが……

 

 

「疑問がありすぎて、何から聞いていいのか分からないという顔だな」

 

 いきなり思い切り図星をつかれ、シンはさらに黙らざるを得ない。

 

「まぁ、よい。

 質問があれば、私は全て正直に答えるつもりだ。

 だが、お前は──

 最終的には自ら、あのマユ・アスカの手を取ったのだろう?」

 

 先ほどレイラにも言われたが、それは否定しないシンだった。

 訥々とながら、シンは正直に心のうちを明かし始める。

 言葉選びに一瞬迷ったものの、日常の言葉を使うことにした。

 相手が本当に、素直に心を打ち明けるつもりなら──

 

「自分は……いや、俺は。

 ただ、あんたたちが何をしたいのか、知りたいだけだ。

 マユを使ってまで、俺を捕まえて。

 多分あんたは、俺を必要としてくれるんだろう。だけど──

 俺はもう、ただ利用されるだけなのは、嫌なんだ」

 

 

 議長失脚による、あの敗北。

 それによる心の傷も癒えぬまま、失われたものの代わりとなる存在も見つけられず。

 どうすればいいのか分からないまま、俺はここまで連れられて来た。

 答えがここにあると少しでも感じたのは、何故だろうか。

 

 

 すぐ下のガラスの箱を見おろしながら、フレイは呟く。

 

「力を持つ限り、それは誰かに利用される。

 だが、翻弄されるのと、自らの意思で動くのは違う。

 お前は、何故自分が必要とされるか知るために、ここに来た。

 ならば、その意思に従えばいい」

 

 そのガラスの中にも、確かに人間が入れられていた。

 筋肉がないわけではないものの、どう見ても15歳程度の子供にしか見えない華奢な身体。

 薄いエメラルド色の髪が、水の中でふわふわと揺れている。

 

 だが、最もシンの目を惹いたのは、

 臍の下の全てを覆い隠すように、まるで下半身全体から生まれ出たかのような無数のケーブル。

 そのせいでシンは、この人物が男か女かも一瞬判別出来なかった。

 多分、胸の薄さからすると間違いなく男であろうが──

 

 

 レイラがそれを見て、思わず声を上げる。

 小さくはあったが、先ほどまでの彼女からは想像できない、痛みに満ちた悲鳴を。

 

「あぁっ……! 

 姉上、またニコルを使ったのですか!? 

 もう無理だと、あれだけ言われていましたのに!!」

「本人が言った。

 他の者を使うくらいならと」

「それはそうです! 

 ニコルは姉上のためなら、どうにでも動く子なんですよ! 

 人の意思を、思うがままに利用した結果が──」

「それも含めて、私の真実だ」

 

 激情を露わにしたレイラを手で制しつつ、フレイはシンに向き直った。

 

 

「シン・アスカ。

 私はこれよりお前に、一つの事実を見せる。

 それを見て、事実を知った上で、判断するがいい。

 今ここで、自分が何を成すべきなのかを」

 

 

 シンが答える前に、叫ぶレイラ。

 

「姉上……? 

 まさか、彼女を!? 

 まだ、シン様には危険です!!」

 

 しかし妹の言葉にも構わず、フレイはシンを部屋のさらに奥の扉へと招く。

 恐らくごくわずかの関係者以外は絶対に立入を許されない、白い無機質な扉。

 フレイが扉脇のモニターに視線をやり、その左手を触れたことで、その扉は開いた。

 その奥はエレベータとなっており、下の階層へ向かうようだ。

 

「姉上!」

「気にしないで。

 行くよ、俺は」

 

 懸命に止めようとするレイラを押しとどめ、シンはフレイの後についていく。

 ああまで堂々と言ってのけるんだ。だったら俺も、堂々と事実を受け止めようじゃないか。

 例え、どんなものが待っていたとしても──

 

 

 

 

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