【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
サイやティーダ・Zが北チュウザンに到着し、救助活動を行っている──
その情報が次第に知れ渡ったのか、ティーダを支援するべくオーブのアストレイ部隊も次々に集まってきた。
中にはアマミキョ所属の作業用アストレイまでおり、サイの顔見知りが何人もいた──
しかし再会を喜ぶ余裕はなく、サイたちは助け出した避難民を彼らに託しては、即座に次の避難民の救助へ向かっていく。
──空の彼方から攻撃してくるもの相手に、救助も避難もあるだろうか。
ルナマリアはふと、そんなことを考えたが──
サイやナオトの行動を見ているうちに気づいた。彼らはただ単に、見つけた避難民を片っ端から救出しているだけではないことに。
度重なる争乱で破壊され尽くしたかに思えた、北チュウザンの各港湾施設。しかしアマミキョを始めとするオーブの強力な支援により、少しずつその機能を回復し始めていた。
当然その情報を入手していたサイたちは特定の港に住民を集中させないよう、分散しての避難を指示していた。
もし一つの施設に住民が殺到すれば、そこが次のターゲットにされる危険性がある。そう考えての、サイの誘導である。
ナオト・シライシの操るティーダ・Zもそんな彼の指示に応えるように、誰よりも何よりも早く避難民を発見し、付近で活動していたアストレイやオーブ軍に彼らを引き渡していく。
これは、人の存在を感知出来るティーダ・Zだからこそ出来る芸当であり──
そして、北チュウザン情勢を身体に叩き込んでいるサイ・アーガイルだからこそ、可能な働きだった。
彼らを守りながら無我夢中で動いているうちに、ルナマリアは気づいた。
ティーダ・Zの装甲から発される光が、次第に強くなっていることに。
白い機体は今やほんのりと銀色に染まっているように見え、装甲に激しく跳ねる雨の一粒一粒が光を反射し、機体全体は勿論、周囲の大気までもがうっすらと輝き始めていた。
掌に乗り強風に耐えているサイの姿も、夜のように暗い霧の中に、くっきりと浮かび上がる。
激しく煽られているグレーのタキシードは、雨を跳ね飛ばしながらもティーダの光を受け、天空に靡く銀の旗のようにさえ見えた。
それがまた良い目印となり、助けを求める住民たちが集まってくる。
──サイとナオトの想いが、ティーダの力を増幅している?
そんなありえない妄想に一瞬ルナマリアは囚われかかり、慌てて頭を振った。
──私、疲れてるんだな。きっと。
しっかりしなければ。シンがいない今、ミネルバJrを支えられるパイロットは、私しかいないんだから。
そうしているうちに、何時間が経過しただろうか。
夜が明けたかどうかすら分からない、闇のように深い曇天の下──
救助活動がようやく一段落したと判断したナオトらは、森の奥にティーダ・Zの機体を降下させていた。
但し勿論、軍の撤退と住民の避難が全面的に終わったわけではない。まだ都市部近郊の住民たちが数多く残されており、むしろ本番はこれからと言えた。
自機をゆっくりと大地に降ろし、ほうっと一息つくルナマリア。
モニターごしに、つい一時間前まで彼女が乗り込んでいたフォースインパルスが、不慣れな動作ながらも森の空き地へと着地していくのが見える。
今、フォースインパルスに乗っているのはヴィーノだ。つまりルナマリアは現在──
ナオト・シライシと共に、ティーダ・Zを操縦していた。
ルナマリアは前席、ナオトは後席で。
ナオトらの様子を常に気にかけていたルナマリアは、戦闘がそこまで至近距離で行なわれてはいないと判断出来た時、ヴィーノとたびたび操縦を交替していた。勿論、交替の余裕がある時のみだったが。
それで分かったのだが──
ティーダを操縦している際、ナオトは小声ではあるが明瞭に、周囲の状況を逐一言葉に出していた。
誰も聞いている者がいないのに、ナニを始めたのかと思ったが──
尋ねてみると、
「あれ、言ってませんでしたっけ?
僕は、オーブのレポーターです。戦場をレポートするのは、当たり前でしょう?」
と、快活に返答された。
ヘルメット内部にきっちり仕込まれた小型レコーダーを彼女に見せながら、ナオトは得意げに笑っていた。
それだけでも、ルナマリアは開いた口が塞がらなかったが──
やがて嵐の吹き荒れる外からコクピットに戻ってきたサイを見た瞬間、彼女は久々に盛大にキレかかった。
頭からつま先まで、酷い濡れ鼠状態なのは当然として。
溺れた住民の救助の為、腰まで川に浸かったのも一度や二度ではなかった為、膝のあたりまでが泥で変色していた。
遠目では分かりにくかったが、どこでやらかしたのか、全身の至る所に掠り傷が出来ている。当然、タキシードもあちこちが小さく裂けていた。
右の前腕のあたりなど特に酷く、大量の泥がこびりついた上かなり広範囲に血が滲んでいた。
怒鳴りつけたくなるのを何とかこらえながら、ルナマリアは尋ねる。
「ど、どうしたのよその腕!? 早く手当てを……」
「大したことないよ」
そんな彼女に、サイは笑ってみせた。
頭からも眼鏡からも、滝のように雫を垂らしながらではあるが。
「君たちも見ただろ? ずっと酷い状況の人たちが、ここにはまだ大勢いるんだ。
おちおち休んでいたくはないけど……」
「駄目。休んで」
舌打ちしそうになりながら、ルナマリアはサイにタオルを渡した。
それで無造作に頭を拭きつつ、サイは彼女の手元、サブモニターを無遠慮に覗き込んでくる。
「それより──
今、この近辺にアストレイは何機いる?
六時の方向にも、あと二か所避難所があったはずだ。何とか救援を頼みたい」
「え、ちょ、待っ……」
ずいと身を乗り出し、ルナマリアとモニターの間に割って入るサイ。
濡れそぼって身体に張りついたスーツ。その背中が、彼女の眼前に迫ってくる。
熱気を伴った匂いが、少しだけ鼻をついた。それは、雨と血と泥の匂いだけではなく──
多分、汗も混じっている。
彼の顎から滴る雫が、ルナマリアの膝まで濡らした。
「ちょっと!
そのカッコでコクピットに寄らないで! ちゃんと身体拭いてよ!!
コンソールパネル壊れたらどーしてくれんの!?」
思わず叫んでしまったルナマリアに、すかさず背後からナオトが突っ込んだ。
「耐水はバッチリだって、ヴィーノさん言ってましたけど……」
「そ、そーいう問題じゃないの!
とにかく、早くそこからどいてよ!!」
「そう言われてもな……」
感情的になる彼女を、ふと振り返るサイ。
解けかけたネクタイと、若干乱れた襟の隙間から、引き締まった首筋が見える。
濡れたワイシャツから透けた肌を通して、身体の熱がルナマリアのパイロットスーツにも伝わってくる。
吐きだされる息と共に、何故か心を見透かされたような気がして──
ルナマリアは無意識に、サイから視線を外した。
──ナニを考えているんだ、私は。こんな時に。
するとサイは自分の体勢にやっと気づいたのか、慌てて身体を彼女から離した。
「あ……!
そうか、そうだったよね。ごめん!」
──何よ、そうだったって?
そういえば君も女の子だったよねとか、ふざけたこと言うつもり?
これが同僚だったら張り飛ばしていたかも知れないが、ルナマリアは何とか別の言葉を絞り出す。
「貴方、少し寝た方がいいわよ。
20時間以上もろくに飲まず食わずで、ろくに寝てないでしょう」
「大丈夫、ちゃんと休息は取ってるよ。
君がヴィーノと交替している時とかに、適当にね」
「それでも、せいぜい10分ぐらいでしょ」
「そうだけど、問題ある?」
「ありすぎでしょうが……」
ため息をつきながら、ルナマリアはつい本音を出してしまった。
「あのね。起きていられるから大丈夫って問題じゃないわよ?
一定の睡眠をとらないと、どうしても判断能力や効率は落ちるの。それはザフトだって一般人だって同じ。
一切眠らなくても普通に生きていけるようコーディネイトされてるなら、話は別だけど」
「それはないけど、でも俺なら大丈夫。
学生時代から、こういうことは慣れてたし」
笑って言ってのけるサイだが、ルナマリアは思わずぐいっとその襟ぐりを掴んでいた。
「どうしても寝ないってなら、今すぐ強制的に寝かせてあげてもいいんだけど?」
彼女の唇から流れる、酷く低い小声。
サイに見せつけるように、右の拳がぎゅっと握りしめられた。
そんな彼女の態度に、さすがにサイもぎょっとして視線を逸らす。
「……あ、あぁ、うん。
でも、まぁ、君の言うことももっともだね。
もう少ししたら、またちょっと寝るよ。あはは……」
髪の先から落ちる雫もそのままに、彼は決まり悪げに笑った。
しかしルナマリアはとても笑う気にはなれず、ため息を隠せない。
「もう……
空調強めにしておくから、座ってて」
「ありがとう」
そう礼を言いながら、サイは素直に彼女の言葉に従い、急ごしらえのシートに身体を預けた。
それから数十秒もすると、サイのかすかな寝息がコクピットに響いてきた。
一時的に強くしたファンから流れる乾いた風が、彼の身体を一気に包んでいく。
それを横目に、ルナマリアは何とはなしに空を見上げる。
ごうごうと降り続いていた雨は、いつの間にか小降りになっていた。
しかし恐らく、一時的におさまっているだけだろう。これまでの雨の凄まじさを思えば、宇宙育ちのルナマリアでもそれぐらいの予想は出来た。
彼女はそっと、後席のナオトを呼ぶ。
「メディカルセット、取ってくれる?
ちょっと、サイの手当てをしたいから」
「は、はい……」
やや緊張したルナマリアの声に少々びくつきながらも、ナオトは指示どおりにシートの横に備え付けられた応急セットに手を伸ばしかけ、ふとモニターを見る──
その瞬間だった。
「る、ルナさん!?
七時の方向に、巨大な熱源反応を確認!」
ナオトのその叫びは、けたたましく鳴りだした警報よりもよく響いた。
彼の声に、ルナマリアは勿論、眠りかけていたサイも飛び起きる。
「距離は!?」
「約7000!」
「そんな……あのあたりはニュー・ナンジョウ市だ、まだ避難所が!」
サイが青ざめる間もなく──
南の空全体が一瞬、やや紫を帯びた白い爆光で、カッと染まった。
それは、全てを焼き尽くす炎。
雷光よりもさらに激しく、空も大地も破壊せんばかりの天の炎。
同時に、ルナマリアは感じた。
今、確かに、何かが、消えたことを。
それが何かは分からない。でも──
頭の奥が直接鈍器で叩かれたような痛みと共に、奇妙な確信が心に入り込んでくる。
確かに、何かが、タクサン キエタ。
トテモ タイセツナ タクサンノ モノガ
「ぐ……ッ!!」
ルナマリアのすぐ後ろで、ナオトが酷くえずいた。
操縦桿から手を離し、メットごしに口を覆っている。
サイの方を見ると、彼も少し苦しげにうずくまり、眉間に皺を寄せこめかみを押さえていた。
「ヴィーノ! 伏せて!!」
反射的にルナマリアは、通信ごしにインパルスへと呼びかけた──
そして間もなく
強烈な地響きが機体ごとルナマリアたちを揺さぶり
彼女は一瞬、叫ぶことすら出来なくなる。
「――!!」
それでもルナマリアは操縦桿から手を離さず、すぐにティーダを再起動させた。
森の遥か向こうから襲いかかってくる、爆発により生まれた嵐。
爆心地から相当離れているせいか、炎を伴う風ではなかったものの――
その強烈な風圧はインパルスとティーダの機体すら吹き飛ばしかねない。
酷い揺れの中、サイがコクピットにしがみつくようにして叫ぶ。
「これは……
まさか、デストロイの!?」
「知ってるの?!」
そんなルナマリアの問いに、サイのかわりとばかりにナオトが答えた。
「この光、間違いないです!
感覚も、あの時と同じ……うっ……!!」
えずきを抑えながらナオトも必死で操縦桿を握ろうとするが、襲いくる酷い頭痛に耐えられず身をよじらせる。
そんな少年の左腕を、サイがぐっと掴んだ。
「ナオト!
しっかりしろ、自分を見失うな!」
それはナオトを励ますのと、自分の揺れを何とか抑えるのと、両方の意味があったのかも知れないが──