【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part7 黒い雨

 

 

 コクピット内で交錯する思いとは全く無関係に、事態は進行する。

 上空で交戦を開始したアカツキ。

 それを援護するかのように、ジェットストライカーを背負ったウィンダムが1機、飛来した。

 その肩部にでかでかと黒く刻まれた文字は、旧漢字ではあったが、サイにもはっきり読み取ることが出来た

 ──「天海」と。

 

「──山神隊!? 

 時澤軍曹ですか!!」

 

 

 

 ヴィーノの切れ切れの通信とは別のチャンネルから、また懐かしい声が響いた。

 

《伊能大佐から連絡は受けたが、驚いたよ! 

 まさか君たちが、ザフトと共に行動しているとはね!》

 

 クナイの如くスティレットを構えながら、時澤のウィンダムは偽ダガーLどもと空中戦を開始する。

 不意に現れ、攻撃を反射までする敵に虚を突かれたのか──

 明らかに相手の部隊は怯み、サイたちへの攻撃をやめていた。

 

「時澤さん! 

 僕です、ナオト・シライシです! 

 僕は山神隊の皆さんに、何としてもお伝えしないといけないことが──!!」

 

 ティーダの中から、ナオトが叫ぶ。サイよりも先に。

 

 

 

 確かにそうだ──

 広瀬少尉の顛末、そして彼が最後まで調査していたものが何なのかを全て、ナオトは山神隊に報告しなければならない。

 マユ、チグサ、カイキ、母親、ティーダ──

 そして、フレイ・アルスターの件も。

 

 

 

 しかし時澤は、ウィンダムでダガーLに喰らいつきながらも返答した。

 

《広瀬少尉のことなら、隊全員、とっくに覚悟は出来てるさ。

 ナオト君。今は、生きのびるんだ! 

 生きていたら、その時にしっかり聞かせてもらうよ。

 君たちがどうしてザフトと共にいるのか、君たちの乗るそのモビルスーツは何かも込みで、全てをね!》

 

 言いながら時澤のウィンダムは、左腕部に装着された対ビームコーティングシールドの先端で力まかせにダガーLを突き飛ばす。

 空中で接近戦を挑まれると予期していなかったのか、明らかに怯むダガーL。

 隙だらけとなったその機体を、アカツキのビームサーベルが無情に一刀両断する。

 

《行くんだ、サイ君、ナオト君! 

 すぐ南西にまだ集落がある、もしかしたらそこにも……っ!!》

 

 爆散していくダガーL。

 だがその炎の幕を突き破り、また2機の黒い機体が時澤たちに向けて飛び出してくる。

 ──仲間の死など、どうでもいいと言いたげに。

 

 

 

 

 

「……行こう、ナオト。

 俺は行くよ、一人でも」

 

 またしても空に閃く爆光を見つめながら、サイは呟く。

 その呟きを聞いて、ナオトが頷くより早く、ルナマリアがため息をついた。

 

「貴方一人でなんて、行かせられるわけないでしょ。

 全く、世話の焼ける人ね」

「申し訳ない。

 ……えっと、ホークさん」

 

 そんなサイの返答に、ルナマリアは思わず噴きだしかかった。

 こんな呼び方されるのなんて、どれぐらいぶりだろうか。

 

「言わなかったかしら? 

 ルナマリア、でいいって。ミネルバではずっとそれで通ってたんだから。

 今更そう呼ばれても困っちゃう」

「そうですよね。僕なんか、最初からルナさんって呼んじゃってましたし!」

「それよりも……」

 

 ナオトの言葉をほぼ無視し、ルナマリアはインパルスを確認した。

 ダガーLの猛攻からどうにか逃れたインパルスだが、機体のあちこちから煙が噴き上がっている。

 

「ヴィーノ、大丈夫? 飛べそう?」

《……人づかい、荒いよねぇ》

 

 どうにか応答するのが精一杯らしき、ヴィーノの声。

 

《緊急でメンテしてるけど、今の俺じゃちょっと、インパルスを動かすのは無理かも……

 メインモニターは無事だけど、サブカメラが数か所ぶっ壊れちまったし》

「分かった。

 今から私がインパルスに乗る。ヴィーノ、交替しましょう」

 

 

 

 

 

 

 上空で時澤たちが交戦している間に、ルナマリアとヴィーノはどうにか無事、互いに機体を交換することに成功した。

 ヴィーノ自身も頭部を負傷し、メットの中が血塗れになっていたが──

 致し方なくルナマリアはナオトをティーダの前席に移動させ、ヴィーノを後席で休ませることで対処した。

 ヴィーノの応急治療にあたったのはサイだ。

 男に治療されるなんてとヴィーノは文句を言ったものの、処置されるうちに彼の手際の良さを認めたのか、それ以上不平は洩らさなかった。

 

 ひととおり彼の治療が終わってすぐ、インパルスとティーダ・Zは再び、空へと飛び立った。

 勿論、敵から目立たない程度の低空飛行で、ではあったが。

 今、ダガーLどもは時澤たちが全力で相手をしてくれている。特にアカツキによる防御は非常に頼もしかった。

 ティーダとインパルスも何度かビームで狙われかけたが、そのたびにアカツキが素早く割り込み、ビームごと攻撃を弾き返す。

 そうしているうち、次第にダガーLの攻撃はアカツキ、そしてそれを援護するウィンダムに集中しつつあった。

 

 

 

 

 

「ナオト、ハッチ開いてくれ。

 行ってくる」

 

 再び風に乗って滑空を始めたティーダの中で、サイは言い放った。

 

「はい」

 

 最早それが当たり前のように、ごくごく自然にコクピットハッチを開くナオト。

 雨は一旦やんでいたので豪雨が吹き込んでくることはなかったが、そのかわりに異常な湿気を伴った風が、一瞬でコクピットに充満した。

 

「え? 行くって?」

 

 戸惑うヴィーノは、まだ痛む額を押さえながら尋ねる。「まさか、また救出活動かよ?」

「時澤軍曹も言ってたけど、この方角にまだ集落がある。

 ティーダも捉えてるみたいだ。少ないけど、人の存在を」

「少ないって、どのくらい?」

 

 サブモニターのデータを確認したナオトが、サイのかわりに答えた。

 

「多分、2、3人ってところですね。

 今までより少ないですけど、確かにいます。逃げ遅れたんでしょうか……」

 

 そんな彼の言葉を耳にしつつ、サイはハッチから外へ飛び出した。

 いつまでも夜に閉ざされたが如き闇しかない、外へ。

 

 

 

 

 ヴィーノが止める間もなくティーダの右掌部に飛び移っていく、タキシード姿のサイ。

 何がサイをそこまでさせるのか、ヴィーノには全く分からない。

 それは彼だけでなく、ルナマリアも同様だったのだが──

 北チュウザンにサイを送り届けてアマミキョに危機を知らせるという目的自体は、既にほぼ達成したようなものだ。

 上陸後すぐにアマミキョに向かい、サイとナオト、そして未だにミネルバJrで昏々と眠っているカズイ・バスカークを収容させることだって、出来たはずなのに。

 

 だが、あれほど執着していたアマミキョに行かず、サイはすぐに住民の救出に向かった。

 住民の安全が第一とはいえ、サイとナオトの体力にも限界がある。

 ナオトだって病み上がり。サイだって、あれでも左腕を負傷している。

 ティーダ・Zにしてもそこまで万能じゃない。機体の発光のおかげでアマミキョの部隊や住民を集める力はあるにせよ、逆に敵をおびき寄せてしまってもいる。

 危険に晒されるのはサイや自分だけじゃない。ルナマリアやナオトだって危ないのに。

 そんなことは、サイだって分かっているはずなのに。

 いくら、バカなナチュラルだろうと──

 

 

 そんなヴィーノの思考を無理矢理断ち切るように、ナオトの声が響く。

 

「サイさん! 

 多分、あそこです! 小さいけど、建物が!」

 

 ヴィーノもつられて後席からモニターを確認すると――

 ナオトの言葉どおり、鬱蒼と広がる黒い森の中に白い建造物が一つ、佇んでいた。

 見たところ、特に何の変哲もない、やや古ぼけたコンクリート建築。

 上空から見ると、灰色のチーズのように頼りなく見える建造物。

 そこに寄り添うように、木造らしき古い家がいくつか建てられている。

 

「確かに、あそこにいます。

 もしかしたら、10人以上は……」

 

 ナオトの言葉に、ヴィーノは思わずくってかかった。

 

「おい。さっき、2、3人って言ってただろ!?」

「赤ん坊か病人だと、よほど接近しないとティーダの力でも捕捉できないことがあるんです。

 前もそうだった。結構参りましたよ、これ」

 

 ナオトが唇を噛みかけた、その時──

 

 

 

 再び、酷いアラートがコクピットに反響する。

 同時に、インパルスからのルナマリアの怒声も。

 

《ヴィーノ! 

 気をつけて、また来る!!》

 

 見ると、先ほどの編隊から脱け出てきたのか──

 黒のダガーLが2機、まっすぐにティーダとインパルスを狙っているのがモニターでも確認出来た。

 何の迷いもなく最短距離で空を駆け抜けるその黒い機体は、血を求める魔物のようにすら思える。

 

「ちぃっ……どこまでも、しつっこいぞてめぇら! 

 サイ! 戻れ!!」

 

 声を荒げながら、ヴィーノは叫んだが──

 ほぼ同時に、ティーダの右脚部をビームが掠め、コクピットに衝撃が走った。

 ナオトの叫び。

 

「駄目です! 

 今、とてもサイさんを収容する余裕は……うわぁっ!!」

 

 

 

 

 酷い轟音が、機体全体に走ったと思った瞬間──

 サブモニターに、何かが落ちていくのが映し出された。

 まさかとヴィーノが咄嗟に振り向くと、それは

 先ほどまでティーダの掌にいたはずの、タキシードの男の影。

 見間違えるはずもない。

 

「サイさん!」

 

 空を裂くかの如きナオトの悲鳴と共に、その身体が木の葉のように吹き飛ばされ、森へと落ちていく。

 命綱たるワイヤーはしっかり確認したはずだが、無茶に無茶を重ねた為か、それすらも今は千切れて宙に舞っていた。

 

「だから言わんこっちゃねぇ……! 

 ナオト、掴まってろ!」

 

 反射的に、ヴィーノは機体を反転させようとする。勿論、サイの救出のために。

 だが──

 

《ヴィーノ! 避けて!!》

 

 通信ごしに叩きつけられる、ルナマリアの怒声。

 同時にモニターに映し出されたのは、ティーダに襲いかかろうとしたダガーLを、咄嗟に体当たりで突き飛ばすフォースインパルスの姿だった。

 

《この、バカどもぉ!!》

 

 サイが落とされる瞬間を、ルナマリアも見ていたのだろうか──

 憤怒に満ち満ちた彼女の叫びと共に、インパルスはヴァジュラビームサーベルを抜き放つ。

 そして一瞬ののちには、光の刃は空中でそのまま、ダガーLの胸部を貫通していた。

 

 

 

 

 

 

 身体中を、棍棒で殴られまくるような衝撃がしばらく続いた後──

 サイはぬかるんだ地面にしたたかに腰を打ち付け、思わず悲鳴を上げてしまっていた。

 

「……い、痛たたた……」

 

 腰をさすりながら見上げると、空を覆い尽くすかのように鬱蒼と繁る木々が見えた。

 この地域に特有の、横に広がり何重にも枝を広げ、森となって大地を覆う樹木が。

 自分が助かったのは、ティーダがかなり低空飛行していた為もあるが、この深い森のおかげでもある。

 身体を散々殴られたと思ったのは、落ちる途中で枝に衝突しまくったせいだろう──

 サイは服についた落ち葉を払いのけ、いつのまにか外れていた眼鏡を拾い上げた。

 途端、頭上から滝の如く降りそそぐ、大量の雨水。

 自分が落ちたその衝撃で、樹木の枝葉に溜まりに溜まっていた水が数秒遅れでぶちまけられたのか。

 おかげでせっかく少し乾きかけていたタキシードも、また一瞬でずぶ濡れになってしまった。

 おまけに落ちた場所がかなりぬかるんでいたせいで、腰から背中にかけてが泥まみれだ。

 枝にでも引っかけたのか、ただでさえかぎ裂きだらけだった服はさらに裂け目を増やし。

 かすり傷と思っていたはずの右前腕部の負傷も、今や無視できないほどの痛みが広がり赤黒い血が袖を染めていた。

 

 

 ──何やってるんだ、俺は。

 そりゃこんな姿を見たら、ルナマリアだって誰だって呆れるだろう。

 俺一人で出来ることなんて、限界があるぐらい、分かっているのに──

 

 

 自分で自分に溜息をつきながら、サイは眼鏡をかけ直す。

 改めて周囲を見渡してみると──

 先ほど見えた白い建造物が、すぐ近くに見えた。

 距離にして、10メートルも離れていない。

 歩みを進めてみると、聞こえてきたのは──赤ん坊の泣き声。

 しかもよくよく聞いてみると、どうやら赤ん坊を宥めているらしき子供の、必死な声まで響いてくる。

 それを掻き消すかのようにさらに泣き喚く、複数の子供の絶叫。

 何を叫んでいるかまでは分からないが、間違いない。

 子供があそこで、助けを求めている。

 

 

 なんてこった。

 やっぱり、まだ逃げ遅れた住民がいたのか。

 デストロイの脅威も迫っている、この地域に。

 

 

 サイは痛みも忘れて走り出そうとしたが──

 その瞬間、巨大な炎の弾が、流星のように空から落ちてきた。

 それは、胸部から火花を放ち炎を噴き上げる、ダガーLの黒い機体。

 

 

「──!!」

 

 

 声を上げる暇もなかった。

 子供の悲鳴がまだ響いてくる建物に突き刺さるように

 爆光と共に、ダガーLが墜ちていく。

 

 

 

 一瞬遅れで、サイの眼前に炎が溢れた。

 荒れ狂う爆風が、彼の身体を吹き飛ばしかける。

 咄嗟に低い姿勢をとって何とかそれに耐え、飛んでくる木々の破片から身を守ったが──

 

 

 

 

 数秒してサイが頭を上げた時

 目の前に展開されていたのは、いつかの悪夢の光景だった。

 

 

 

 

「あ……あぁ……」

 

 眼前の炎熱を凝視しながら、思わず嗚咽するサイ。

 その脳裏に蘇るものは、

 凍てつくような寒空の下、炎に巻かれる小さな診療所。

 その屋根に突き刺さる、ディンの砕けた翼。

 巨大な十字架にも似た黒いシルエットは、サイの記憶に焼きついて、決して消えることはない。

 自分の両腕に残る、生暖かな血の感触と共に。

 

 

 

 ──同じだ。ネネが死んだ時と。

 

 

 

 天の黒雲を焼かんとばかりに、激しく燃え盛る炎。

 ネネ・サワグチが死亡した瞬間と同じ光景が、サイの眼前で展開されていた。

 あれだけよく響いていた、子供の泣き声は──

 完全に途切れている。

 聞こえるのは、バチバチと木々が燃え、葉が灰になり、焼失していく音だけだ。

 

 

 自分を狂気に走らせかけたほどの無力感が、またしてもサイを襲う。

 やっぱり、何をやっても。

 やっぱり、どこまで行っても──

 俺は、何も出来ないのか。

 

 

 あの時のように、銃を持ちだし騒ぐことも出来ず──

 サイはひたすら、炎の前で立ち尽くすことしか出来なかった。

 救出活動など、出来るはずもない。今の一撃だけで、古びた小さな建物は完全に倒壊してしまっていたのだから。

 

 

 そんな彼を嘲笑うように、天を舐める炎。

 ほんの僅かな間だけやんでいた雨が、再び降り始めていた。

 灰を含み、黒く濁った大粒の雨が。

 

 

 

 

 

 ~~~~~~

 

 

 次回予告

 

 

 戦いの果てに、サイたちは『彼ら』と驚愕の再会を果たす

 そこにいてはならないはずの者たちにより齎される、希望の幻影

 彼らが見せる夢は妄想か、それとも世界を救う道標か

 心を弄ばれながらも、サイが下した決断は──

 

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation

「ラスト・レボリューション」

 

 

 革命のもと、狂気に舞え。フリーダム! 

 

 

 

 

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