【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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PHASE-42 ラスト・レボリューション
part1 キラの気配


 

 生い茂った木々を砕くようにして、ほぼ無理矢理着陸したインパルス。

 それに少し遅れて、ティーダも地上へ降りていく。インパルスが粉砕した、樹木の残骸の上へ。

 

「サイさん! 何処ですか!!」

 

 黒い雨の降りしきる中、ナオトの大声だけが空へ響く。

 少年の逸る心に連動するかのように、ティーダ・Zのエメラルドのカメラアイが何度も瞬いた。

 インパルスのコクピットハッチを開きつつ、ルナマリアは前方を確認する。

 

 見えたものは、ただひたすらに天空を染め上げる紅い炎。

 そこはつい先ほどまで、灰色のチーズのような小さな建物があったはずの場所。

 集落があった場所。

 ──ティーダが、人の命を感じていたはずの場所。

 

 ナオトよりも先に、ルナマリアはハッチからワイヤーを伝って直接地上へと降り立った。

 生存者の救出の為に。

 だが――

 

 建造物を完膚なきまでに破壊した、ダガーLの残骸と。

 黒雲を舐めつくさんばかりに燃えさかる、紅蓮の劫火と──

 その炎を前にしてひたすら立ち尽くすだけの、タキシード姿のサイの背中。

 その全てが、状況は絶望的であることを教えていた。

 

 

 ──サイ。無事だったのね。

 

 

 そんな言葉すらも、ルナマリアの喉からは出てこない。

 あまりの戦闘と救出活動の連続に、さすがに自分も疲れ切ってしまったのだろうか。

 ここに墜落したダガーLは恐らくインパルスが撃ったということは、ルナマリア自身も分かっていた。

 しかし、彼女の心にはどうしてか、何の感傷もわかない。

 

 

 ──おかしいな。

 アマミキョを撃った時は、あれだけ後悔していたはずなのに。

 よほど疲れているのか、私は。

 それとも、このおかしな黒い雨のせいか。

 

 

 サイはルナマリアに背を向けたまま、じっとその場から動かない。

 まるで、彼女を責めるかのように。

 

「……仕方ないでしょう」

 

 ようやく彼女の口から絞り出されたのは、そんな言葉。

 

「一人でみんなを助けようなんて、無理よ」

 

 彼女の言葉に、サイの肩がやっとぴくりと反応する。

 容赦なくぼたぼたと降り続ける灰混じりの雨が、彼のタキシードを真っ黒に染め上げていた。

 最早、元のグレーの部分がどこだか分からないほどに。

 泥だらけの顔を拭きもせず、サイはそのままルナマリアを振り返った。

 彼女の言葉を肯定も否定もせず、彼は口を開く。

 

「君を責めるつもりはないよ。

 戦場では、当たり前のこと──

 君はそう言いたいんだろうし、それは事実だ」

 

 髪の先からも、粘り気を伴った黒い雫が次々に落ちていく。

 それを払いもしないサイ。眼鏡の奥の眼光が、酷い冷たさでルナマリアに突き刺さる。

 殆ど感情を伴わないその口調に、彼女も反応せざるを得なかった。

 

「そりゃそうでしょう! 

 あぁしなきゃ、みんな死んでた! ナオトも、ヴィーノも、貴方も!!」

「責めるつもりはないって言ってるだろう。

 だけど、一言ぐらい言いたくなった気持ちも、分かってほしい」

 

 

 ──何よ。

 言いたいことがあるなら、はっきり言ったらどうなの。

 はっきりと、私を責めたらどうなの。

 貴方が助けようとした人たちを殺したのは、私。

 貴方の船を沈めたのも私よ。

 ぶん殴るなり蹴飛ばすなり、いくらでもすればいいじゃない。

 

 

 そう叫びそうになったルナマリアは、慌てて自制した。

 ――サイはまだ、知らないはずだ。

 アマミキョを沈めた張本人が、私だなんてことは。

 

 

 サイはそのまま、ルナマリアの背後に視線を移す。

 

「ナオト、すまない。

 残念だけど、ここはもう……」

 

 ふと気が付くと、追いついてきたナオトが、二人を心配そうに眺めていた。

 サイとルナマリアの間の不穏な空気を感じ取ったのか、さすがのナオトもろくに口を挟めない。

 

「サイさん! でも……」

「ここで無理に救出を続けても、犠牲を増やすだけだ。

 せめて延焼を防ぎながら、周囲の生存者の捜索を続けよう」

 

 ルナマリアを無視したまま、サイはすたすたとティーダZへと歩きだした。

 髪から滴り落ちる重い雨を、拭おうともせずに。

 

 

 

 

 

 

PHASE-42 ラスト・レボリューション

 

 

 

 

 

 

 そんな事件があってからも、サイたちは変わらず──

 いや、それまでよりも一層精力的に、住民の救出活動を続行した。

 負傷したヴィーノは勿論、ナオトもルナマリアも疲労の限界を迎えつつあったが、それでもサイは止まろうとしなかった。

 雨の降りしきる夜空を、一筋の光となって滑空するティーダ・Z。

 その掌に乗り、人々を先導するサイ。

 ティーダの発光はさらに強まり、その光は雨をも銀色に染め、多くの人々の目印となった。

 例え、肉眼であのデストロイの爆光が確認出来る場所であろうとも──

 サイはひたすら、人々を助け続けた。

 黒い雨で染まったタキシードは夜の闇と同化して鴉の翼の如くとなり、先ほどまでのような煌きを放つことはなかったが、それでも。

 ──まるで、自分で自分を責め続け、痛めつけるかのように。

 

 

 そしてその間サイとルナマリアは、必要以上に言葉を交わすことは決してなく。

 ナオトやヴィーノにも感じ取られるほどの不気味な緊張が、二人の間に漂い続けていた。

 共にいたはずのアカツキとウィンダムは、侵攻するデストロイの迎撃に向かったのか、そのまま通信が途切れていた。

 

 

 

 

 

 

「何!? 

 君たちもサイ君らを見たと?」

 

 着のみ着のままの避難民たちでごった返す、アマミキョ右舷ハンガー。

 隊長たるトニー、そして彼の助手としてつき従っていたヒスイは、彼らから予想外の話を耳にしていた。

 

「そうなんです。

 洞窟の中で子供と震えてたら、ここは危険だからアマミキョに逃げろって……」

「港への安全なルートも教えて下さったんですよ」

「あの眼鏡のタキシードのお兄ちゃん、腰まで川に浸かってリズを助けてくれたんだよ! 

 ちょっとヘンだけど、超カッコ良かったー!」

「それにあのモビルスーツ、スゴかったよな!! 

 あんな雨の中でも、無茶苦茶ピカピカ光ってたんだぜ! 俺も乗りたかったー!!」

「あの光のおかげで、私たちも道を見失わなかったんです。あれだけ酷い嵐だったのに……」

 

 安心感からか、やや興奮してまくしたてる住民たち。

 それを聞きながら、トニーはヒスイと思わず顔を見合わせる。

 

「先ほども、同じような話を別ブロックの住民から聞きました。帰還したアストレイ隊からもです。

 副隊長と……恐らく、ティーダで間違いないかと」

「サイ君が、既にこの地に到着して住民の救出を始めていると? 

 しかも、ティーダまで? まさか」

「ナオト君とマユちゃんが、一緒に乗っていると思いたいですが……」

「全く。ならば何故、連絡を寄越さん! 

 こちらがどれだけ心配したと思って」

「仕方ありませんよ、この緊急時では」

 

 そう言いながら、ヒスイは乱れた前髪をピンで直しつつ、少しだけ寂しげな笑顔を見せた。

 ここへ来てから彼女はずっと、長い前髪をピンで止めて堂々と額を出している。

 

「副隊長はアマミキョとの合流よりもまず、人々の避難を優先したのでしょう。

 オサキさんもよく言っていました。副隊長は自分がどうなっても、他人を優先してしまう人だからって……」

「我々は出来る限りのことをしつつ、待つしかないというわけか。

 サイ君には今一度、説教しなきゃならんな」

 

 トニーはひとつため息をつくと、自嘲するように呟いた。

 

「そういった行為は、得てして賞賛の的になるものだが……

 私は最近、こうも思うんだよ。

 自分すら守ろうと出来ない者が、他者を救えるのか──とね」

 

 そんなトニーに、ヒスイは何も言えないまま、黙り込んでしまう。

 

 

 ──でも。

 それでも、副隊長は……

 

 

 そう反論しかけたヒスイ。

 だがそんな彼女に気づかず、トニーは一時避難所と化しているハンガーの一角で、大声を上げて走り出した。

 

「おいコラそこー! 勝手に掲示板に落書きをするなぁああぁ!!!」

 

 子供らを叱るその声がかなり元気を取り戻している気がしたのは、決して気のせいではないと思いたい──

 ヒスイはそう感じながら、トニーの背中を追いかけていった。

 

 

 

 

 

 

 何時間とも知れぬ間、救助活動を続けていたサイたち。

 彼らは北チュウザンのあらゆる場所へと飛びまわり、場合によっては海すら越え、離島にまで飛んだ。

 時には住民を掌で抱えながら飛び、時には黒ダガーLに襲われつつも何とか逃げおおせ、そんなことを繰り返しているうちに──

 いつの間にか彼ら一行は、北チュウザン首都ヤエセのすぐ南まで戻ってきていた。

 

 

 

 コズミック・イラの時代よりはるか昔。

 チュウザンがまだ、今よりずっと小さな島だった時代。

 地形が大きく変わるより、さらに前の時代──

 その頃も人間同士の酷い戦争があり、多くの血が流れたと言われている。

 サイたちが偶然にも辿りついた場所には、今となっては誰も知らない時代の慰霊碑が、風雨に晒されながらも未だに残っていた。

 

「リンドーさんが言っていたよ。

 昔の戦争でも、犠牲者の半数以上は住民だったって。

 追い詰められた住民の多くが、ここで自ら崖から飛び降りて、命を落としたって」

 

 やっとティーダZのコクピットに戻ってきたサイが、モニターを眺めながらぽつりと漏らした。

 どれだけ雨にうたれようと、黒く染まったタキシードが元の色を取り戻すことはなく、乾ききらない布地は黒曜石のように鈍く光っていた。

 全身で大きく息をし、目の下にはクマが出来ている。

 顔色は青を通り越して真っ白で、明らかに疲労の限界だった。

 そんなサイを心配そうに見やりながら、ナオトは周辺を確認する。

 

「崖って、このあたりのですか? 

 それらしきものは、何もないですけど……」

 

 ティーダのモニターに映るものは、一面の黒い森と、相変わらず曇ったまま星も見えない夜空。

 しかし雨はだいぶ小降りになっており、見通しも僅かに良くなりかけていた。

 今、ティーダとインパルスの前にあるものは――

 森が途切れた場所に不意に現れた、名もなき湖。

 隕石でも落ちた跡のように不自然な円形に大地が削ぎ落され、そこに水が流れ込んで湖を形成し、周囲は鬱蒼と亜熱帯の森が繁っている。

 補助シートに凭れて身体を拭きながら、サイは話す。

 

「地形が変わるまでは、ここは海だったそうだ。

 チュウザンのあたりは元々地殻変動も多い場所で、それによって島が生まれたり消えたり、ほぼ同時に発生する領有権争いも絶えなくて──

 再構築戦争の頃は、酷いことになっていたらしい」

「その延長で、今もチュウザンが二つに分かれているってことね」

 

 ぶっきらぼうにルナマリアが言い放つ。

 

「そう、乱暴に片づけてほしくはないけどな……」

 

 少し不満げに肩を竦めるサイ。

 そんな彼に、ルナマリアは思わず怒鳴った。

 

「貴方も、僕らは大きな争いの隅で消えゆく塵の一つに過ぎない……とか、馬鹿なこと言うつもり? 

 そういうの、もうたくさんなの。

 とにかく、ここで大休止よ」

 

 そんなつもりじゃ……と言いかけるサイを無視し、ルナマリアはインパルスを見やった。

 

「ヴィーノの怪我も心配だし」

 

 現在、ティーダのコクピットにはルナマリアとナオトが、インパルスにはヴィーノが乗っている。

 ヴィーノの頭部の傷は、たびたび応急処置を施したおかげでどうにか再びインパルスを動かせるまでに回復はした。しかしこれ以上の無茶はさせられない。

 彼からの通信が響く。

 

《……そうしてくれると、ありがたいなぁ。

 今更思い出したけど、俺、結構、ヘタレな方だった。あはは》

 

 久しぶりに聞くような気がする、ヴィーノの弱気な笑い声。

 ルナマリアはふと思った。

 

 

 ――そういえばすっかり忘れていたけど、彼はどっちかといえばヨウランやシンに流されがちな、気弱な子だったっけ。

 メサイアでの敗北でヨウランがああなって以降、ずっと張りつめた怒りの表情しか見ていなかったような気がする。

 

 ──もしかして、シンも? 

 シンもずっと、オーブで家族を失ってから、本当の自分をも失くしていたのか。

 ごくごくたまに見せてくれていた、ちょっと抜けた感じのすっとぼけた表情。

 あれが、シンの本来の姿だったのかも知れない。

 私が時々ツッコんだ時とかに返答に詰まって唇を尖らせる、あの子供みたいな顔が。

 私は、とても──

 

 

 そこまで考えて、ルナマリアは頭を振る。

 今はそんなことを考えている時ではない。とにかく、自分たちが少しでも休息をとることを最優先に──

 しかし、彼女が溜息をつきかけた瞬間だった。

 

 

 アラートと同時に、ナオトの叫びが谺する。

 

「ルナさん! 

 所属不明の機体が、上空から来ます!! 数は2機!! 

 高速でこちらに真っ直ぐ接近中。数秒で到着する見込みです」

「えっ?」

 

 ルナマリアもサイも同時に頭を上げ、モニターを覗き込む。

 

「所属不明? 南チュウザン軍ではないの?」

「違います、これは……ライブラリ照合中。

 ──っ!?」

 

 

 

 

 モニターに現れた文字を確認した瞬間、ナオトは思わず息を飲んだ。

 しかしそれでも、はっきりと明言する。

 

「ストライク・フリーダム……間違いありません!」

「!?」

 

 まさかの事態に、思わず立ち上がりかかるサイ。

 瞬きを忘れたかのように眼を見開きながら、その情報を確認する──

 

「そんな……

 キラが?」

 

 彼らに比べるとルナマリアは若干冷静でいられたのか、すぐに尋ねた。

 

「もう一機は?」

「分かりません、照合不能! 

 でも、これは……」

 

 言いながら、ナオトは思わずシートから腰を浮かせていた。

 

 

「──嘘だ。

 マユが、あそこに……?」

 

 

 ぽつりと、呆けたように声を出すナオト。

 その異様さに、サイもルナマリアもすぐに気付いた。

 腐ってもレポーターらしくしっかりと情報伝達をしていたのが嘘のように、ナオトの目は虚ろになり、視線は宙に浮いていた。

 

「ナオト! 

 しっかりしなさい、どうしたの!?」

 

 彼の腕をつかみ、揺さぶるルナマリア。

 

「多分、何かを感じたんだ。この2機に──」

 サイは言いながら、敢然と上空を睨みつけた。

 

 

 どういうことだ。

 キラとマユが、ここに向かってくる? 

 

 

 

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