【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
その時にはもうサイの肉眼でも確認出来るほど、2機はティーダZに接近していた。
黒く染まった空を駆け抜けてくる、二つの光。
そのフォルムは明らかに、翼にも似た特徴的な機動兵装を背負ったモビルスーツ。
間違いない──
あの、青を基調としたフレーム。あれは、フリーダムのものだ。
しかしフリーダムよりも明らかに砲の数は多く、関節部は金色に眩く輝いている。あの輝きは、フェイズシフトによるものだろうか。
恐らく以前キラが少し話していた、フリーダムの強化版──ストライクフリーダム。
サイもおぼろげながら、その機体を見た記憶がある。
――確か、アマミキョが沈没した直後。
俺とカズイが漂流状態にあった時、あの機体が俺たちを助けてくれた。
意識は朦朧としていたものの、あのフォルムだけは、はっきりと覚えている。
あの時俺は、心底ほっとしたんだ。
キラが来てくれた。
もう大丈夫だ、俺たちは助かったって──
だが、今は何かが違う。
それはストライクフリーダムに追従するようにやってきた、もう1機のストライクフリーダムに起因するものか──
フリーダムの青い装甲部分を、全て血の紅に塗りつぶしたかのような──
それでいて、紅蓮と純白のコントラストが美しい機体。
あれは恐らく、オギヤカで見たものだ。
フレイの機体と共にいた、紅のストライクフリーダム。
サイが咄嗟に危険を感じたのは、その機体が同時に舞い降りてきた為でもあった。
そして、ナオトが思わず発した言葉──「マユ」。
しかし、サイは覚えている。オギヤカでの、レイラ・クルーの言葉を。
──彼女はマユ・アスカの姿をしていますが、マユ・アスカではありません。
あの前後の状況と、今ナオトが感じているマユ・アスカの感覚。
広瀬の報告書の内容とも照らし合わせて考えれば、紅のストライクフリーダムに乗っているのは、かつてのマユ・アスカ──
つまり、チグサ・マナベである可能性が高い。
サイやナオトたちの知るマユではなく、カイキ・マナベの妹として蘇った、元連合のエクステンデッド。
チグサとしての彼女の声を、サイはわずかしか聞いていなかったものの──
明らかに、以前のマユとは違っていた。以前の彼女と似た部分もあったような気もするが、自分がそう思いたかっただけかも知れない。
いずれにせよ、警戒すべき相手であることに間違いはない。
俺をオギヤカに捕らえていたフレイ。その部下としてチグサが働いていた以上──
何のつもりだ。
今更、俺を捕まえに来たってのか──フレイは。
そんなサイの思惑を無視するかのように、蒼と紅のストライクフリーダムは、
悠々と、湖の上に舞い降りていく。
その合計4つのカメラアイは真っ直ぐに、ティーダZを見つめていた。
南国の夜空に、次々に放たれる爆光。
鬱蒼と生い茂る森林とその奥に佇む集落に、今にも届こうとするその光を──
着弾寸前に強引に割り込み、その機体の鏡面装甲で一斉に弾くアカツキ。
「ぐぅ……っ!!」
そのパイロットたるムウ・ラ・フラガは、酷い衝撃と目を潰さんばかりの光に耐えつつ眼下の敵を見据えていた。
「流石のヤタノカガミったって、パイロットのダメージまでゼロってわけにゃいかんか。
あんなの、相手にしてりゃなぁ」
彼の目の前にいるのは──
連合の誇る、戦術兵器を超えた戦略兵器。
1機だけでもわずか数時間でベルリンを灰にした、悪魔の兵器。
──デストロイガンダム。
それが、現在確認出来ただけでも、3機。
途中合流したはずの山神隊・時澤のウィンダムは、付近の生存者救出の為に前線を離れ。
アカツキはただ一機で、後方を守ることを強いられていた。
今はモビルアーマー形態となっているデストロイを睨みつつ、フラガは自嘲する。
「……ステラたちを見捨てた罪としちゃ、まだまだ甘いよな」
デストロイの背面フライトユニット、その円周に装着された10門のビーム砲──
熱プラズマ複合砲・ネフェルテム。
その砲口が、再び妖しく輝き始める。
見たところ、やはりこれらの機体はコピーにすぎないのか──
砲の数は本来の半分まで減っているし、威力も本来のものとは格段に落ちる。その上、エネルギーの充填にも時間がかかるようだ。
しかしそれでも十分に、こちらの量産機もろとも街を焼き尽くす力はあった。
何度も浴びれば、アカツキの鏡面装甲といえど無事ではすむまい。
アカツキがこの最前線で奮闘に奮闘を重ね、デストロイのビームを反射し続け撃墜したことにより──
到着時にはおよそ10機以上もいたデストロイのコピーは、今ようやく3機まで減っていた。
まだ動こうとする機体はあったものの、ビーム砲の殆どを使用不能にしている。
それでも既に、アカツキのバッテリーは限界に達しようとしていた。
オーブの国家的秘密兵器といえど、アカツキはバッテリー駆動のモビルスーツだ。ストライクフリーダムのように無尽蔵に動けるわけではない。
メットの中を汗だくにしながら、フラガは眼前で蠢き続けるデストロイを睨みつける。その汗は、恐らく半分以上が冷や汗だったろう。
黒いモビルアーマーの砲口の奥で、目に痛い緑の蛍光色が明滅する。
本来ならこの光を目撃した時点で、そのパイロットは次の瞬間、モビルスーツごと爆散する運命だが──
──こちとら、何度も死にかけた男。
そう簡単には……!!
アカツキは再び金色の装甲を輝かせ、デストロイと背後の森の間へと飛びこむ。
直後、アカツキにまともに叩き付けられる、エメラルドの光の渦。
「ぐ……がぁっ!!」
さすがに連続でこの光を浴びれば、歴戦のフラガといえども身体への衝撃は堪える。
バッテリーエンプティが目前に迫っている警報音はひっきりなしに鳴り続けていたが、そこへ──
鏡面装甲の限界を示すアラートもまた、けたたましく鳴りだした。
アカツキが反射したネフェルテムをまともに喰らい、大きく仰け反るデストロイ。
あと2機か──
フラガがほんの少し息をついた、その瞬間。
そんな彼を嘲笑うかのように
仰け反った機体のすぐ背後から
もう1機のデストロイが、その鈍重な姿を現した。
デストロイの主砲とも言うべき、アウフプラール・ドライツェーン──
背部フライトユニットに2基装着された、2連装の高エネルギー砲。
その砲口を、まっすぐにアカツキに向けて。
「しま……っ!!」
かつて、ネオ・ロアノークでもあったフラガはよく知っている。
あの大出力ビーム砲が、艦隊一つを壊滅させるほどの威力であることを。
あれを今喰らったらいかにアカツキといえども、無傷でいられるか──
フラガは折れよとばかりに歯噛みをしつつ、それでも後退も回避もせずその場に留まり続けた。
ただひたすら、避難中の住民を──
そして、後方で待機しているはずのアークエンジェルを守る為に。
しかし、アウフプラールの砲口の奥にエネルギーの塊たる光がほんの少し見えかけた、その瞬間──
《何をしている! 死にたいのかっ!!》
高速で接近してくる友軍機を示すマークが、突然モニターに表示された。
ほぼ同時に響く、スピーカ越しの声。
そして、アカツキとデストロイの間に飛び込んでくる深紅。
その深紅は一瞬で高エネルギー砲ごとデストロイを蹴り飛ばすと、膝関節部から脚部先端にかけて装着されたビームブレイドで、砲口を切断した。
ぐらりと傾き、直後に爆発四散するアウフプラール──
その深紅のモビルスーツを眺めながら、フラガは苦笑しつつもほっと一息ついた。
「へへ……
遅いぞ、アスラン」
メインモニターに映し出されていたものは、
インフィニット・ジャスティス。
ラクス・クライン率いる「歌姫の騎士団」──ストライクフリーダムと並び、その象徴とされる機体。
翼部と脚部の純白が、さらにその紅を美しく彩っている。
《すまない。後方の南チュウザン軍に足止めされた》
「お前さんにしちゃ珍しいな。量産機、それも劣化コピーに手間取るたぁ」
《あの数ではな……それよりも!》
満身創痍となったデストロイに、ビームブレイドを伴う蹴りを叩き込みながら──
パイロットたるアスラン・ザラは、淡々とフラガに説明する。
《この地域の住民は、港湾施設への避難をほぼ完了したそうだ。
北チュウザン全域でも、港や地下への避難が9割がた終わっている。
だがもう時間はない。デストロイを殲滅次第、アークエンジェルに戻れ!》
それを聞いて、フラガはふっと笑った。
実際に住民がどこまで逃げられたかも分からず、そもそも南チュウザンのマイクロウェーブが避難先を直撃しないとも限らない。
それでも、何故か住民たちがこれだけスムーズに移動出来たのは──
そしてその避難にどういうわけか、根拠不明の安心感があるのは──
やはり、アマミキョとサイ・アーガイルの力なのか。
「成長したもんだな……あの眼鏡坊主君も」
だが、フラガが一人呟いた瞬間。
彼の脳天から背筋にかけて、稲妻のように何かが閃いた。
「──!?」
天性の勘というには鋭利に過ぎる、フラガのこの感覚。
「空間認識能力」とも呼ばれる、この時代においても未だ詳細を解明されていないこの力によって、フラガ自身何度も危機を脱してきた。
それが今、痛いほど鋭敏に、彼の大脳を直接刺激する。
「これは……まさか!!」
そんな彼の異変に、アスランも気づいた。
フラガのこの能力には、アスランも覚えがある──
同じような力を持つ者を、何人か見知ってもいる。
それ故、アスランは分かっていた。彼らのこの力を、ただの勘だと侮ってはならないことを。
「どうした?
まさか、もうマイクロウェーブが……!?」
それに対し、いつもより若干くぐもった感じのフラガの答え。
しかしそれは、アスランを完全に絶句させるものだった。
《いや……違う。違うが……
これは……キラだ》
「!?」
期待と嬉しさと安堵。
そして、若干の不安が入り混じった複雑な感情が、アスランの中に満ちる。
なんだってあいつが、今、こんな場所に?
キラの行動は時々突飛極まる。機体の名と同様に──
予測不可能なその行動に助けられたことも多かったが、面食らったこともそれ以上に多かった気がする。
ずっと行方をくらましていたのに、今、突然?
もしやデストロイを蹴散らしながら、俺たちに合流してきたのか。
一緒にいたはずのラクスはどうしたのか。
それとも──
しかし通信ごしのフラガの声には、何故か安堵や歓喜は微塵もない。
それどころか、警戒感が一層増していた。
《だが、気をつけろ。
とんでもないモンを連れてきているぞ、あの坊主》
ティーダZを目の前にして、静かにカメラアイを二、三度瞬かせるストライクフリーダム。
その傍を、紅のストライクフリーダムが守っている。まるで兄に寄り添うかのように。
「さ、サイさん……
国際救難チャンネルで、通信が入ってます。
『降りてきてほしい』って……キラさんから」
ルージュの出現に惑いながらも、どうにか冷静さを取り戻そうとするナオトは必死で手元の通信を取りついだ。
それをじっと見守りながら、サイは唇を噛む。
──やはり、キラなのか。
俺はあれだけ、チュウザンの争いには手を出すなと言ったのに。
しかし何故、どうして、あの紅の機体と一緒に?
状況からすれば、キラが自分たちを助けにきてくれた──
と素直に考えても自然なはずだ。
それでもサイは疑念を隠しきれず、その場から動くのを躊躇う。
横で、ルナマリアが小さく吐き捨てた。
「冗談じゃないわよ……
敵か味方も分からない機体の前で、降りろって?」
彼女の言葉も至極もっともだ。
ルナマリアたちザフト側にしてみれば、ストライクフリーダムはディスティニープランを巡る一連の戦いで、コテンパンに叩きのめされた相手。
そう簡単に、信用出来るはずがない。
「いくら、キラ・ヤマトだって……」
彼女自身も、ある程度キラのことは知っているらしい。
可能な限りパイロットの命を奪わず武装だけを破壊するキラの戦い方は、ザフトでも有名なのだろう。
だが、相手の心を読めずに躊躇するサイたちの前で、さらに状況は変化する。
沈黙を保っていたストライクフリーダム。
その両腕部が静かに線対称に動き、胸部装甲の手前で、掌部分を上に向ける形で合わされる。
まるで、空から降る雨を掬おうとでもするように。
さらに驚くべきことに──
何もなかったはずのその掌に、光が生まれていた。
いや──光を纏った、人間の少女が。
霧雨を光の粒に変化させ、その粒が集まって人の形が作られた──
ように、サイには思えた。
その不可思議な光景に、ナオトは動揺を抑えきれず、呟く。
「何故?
どうして――ラクス・クラインが?」