【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part6 キラの痛みがあんたに分かるわけない

 

 

 真っ先にこちらを心配してもいいはずのナオトの声が、聞こえない──

 言い知れぬ不安を覚えるサイ。

 だがその時、ストライクフリーダムを通して、声が響く。

 不思議なほど感情を伴わない、キラの声が。

 

 

《やっぱり、サイはあの夢を拒絶するんだね。

 こんなに簡単に抜け出せるなんて……》

 

 

 相変わらず、何を言っているのか分からないキラの言葉。

 しかしサイは、猛然とそれに反論する。

 

「あれが、お前の……

 お前とラクス・クラインの夢だってのか。キラ! 

 進化しようとする人の意思そのものを消して、争いをなくす──」

 

 ラクス・クラインの幻影を睨みつけるサイ。

 しかしもう、ラクスは何も答えない。

 そのかわりに降ってくるのは、平坦なキラの声。

 

《そうすれば、人はずっと平和に生きていけるよね? 

 戦いのない世界で》

 

 どういうことだ。キラの言葉とも思えない。

 

「それは、デュランダル議長がやろうとしてお前らが叩き潰したことと、何が違うんだよ!?」

「落ち着いて。

 多分、人の意思を抑えつけるか、捻じ曲げるかの違いよ」

 

 ルナマリアも注意深くラクスを見つめながら、補足した。

 

「議長のディスティニープランは、こうなりたいという意思を無視して、遺伝子だけで人を抑えつけようとするものだった。

 でも、今、ラクス・クラインが言ってるのは──」

「意思そのものを管理するってことだ。つまり、人の夢そのものを消す……

 そうすれば、意思を抑えつけられることによる苦痛も抵抗もないからか。

 まさに、人の精神への侵略だな!」

 

 痛む左腕を押さえながら、ラクスに向かってサイは叫ぶ。

 

「そーいうの、一番嫌じゃなかったのかよ!? 

 何でだよ、キラ! ラクスさん!!」

 

 

 サイの絶叫に対しても、ラクスは直接答えない。

 ただ朗々と自分の言葉を続けるだけだ。

 

《時間に追われることもなく、差別も優劣もなく、豊富な資源の中で、人生を音楽と映画、芸術と知識の中で過ごしていく。

 それは、これまでの長きに渡る戦いの歴史の末に人がようやく獲得した、進化の最終形なのです。

 果てなき争いを強いられた人々に齎された、最後の福音。

 他を蹴落としさらに豊かになりたい、もっと満足したい、今はイヤだから変わりたい……

 そんな欲望を削ぎ落とした、人の究極の姿。それが──》

「そんなものはもう、人じゃない!」

 

 首を大きく横に振り続け、ラクスの言葉を否定するサイ。

 若干戸惑いの混じったキラの声が響く。

 

《どうして? サイ……

 君こそ、ずっと苦しんできたんじゃないの? 

 力が及ばなくて、奪われて、苦しんで、誤解されて、痛めつけられて。

 君こそ、戦いのない世界を一番望んでいたと思っていた》

「大きなお世話だ。

 戦いなんか起こらないのが一番だが、あんな、セレブレイト何ちゃらとかいう兵器を使ってまでとは思わない!」

 

 キラからの答えはない。

 ただ、フリーダムのカメラアイが雨の中、冷たくサイを見降ろしているだけだ。

 

「俺は、昔は何も知らない、ただの学生だった。

 だけど、フレイやお前やラクスさんに色々教えられて、変わった。変わることが出来た。

 失ったものもたくさんあるし、取り戻せるなら取り戻したいものも山ほどある。

 だけど、その痛みを否定する気はない。

 変化っていうのは、痛みを伴うもんだけど──

 人ってずっと、その痛みに耐えて生きていくものなんじゃないか?」

 

 

 だがそんなサイの想いを受け、キラが続いて発した声は──

 何故か酷く低めで、侮蔑の感情すら混じっているように聞こえた。

 

《サイ。本当に、そう? 

 じゃあ、ナオト君は、そう思っているかな?》

 

 

 そう言われて、サイはティーダZを振り返った。

 先ほどから、不気味なほどに沈黙を保っているティーダとナオト。

 そのコクピットは、依然として開け放たれたままで──

 

「……ナオト!?」

 

 サイもルナマリアも、思わず同時に声を上げてしまう。

 

 

 コクピットに座ったまま、ナオトはぴくりとも動いていなかった。

 彼を縛りつけていた光の糸はサイたちと同様、既に全て引き抜かれている。

 しかし彼はサイたちと違い、雨を払おうともせずバイザーを開いたまま、人形のようにだらんとシートに身体を預けていた。

 その目は半開きだがどこも見てはおらず、口の端からはわずかに白い涎まで見える。

 

 

 まさか──

 最悪の予感がサイの胸をよぎったが、それはキラにより否定された。

 

《心配しなくても大丈夫、身体に影響はないはずだから。

 だけどやっぱり、あの夢がとても魅力的だったみたいだね……彼には》

 

 大丈夫とは言いながら、どこか悲しげに呟くキラ。

 その言葉を実証するかのように、ナオトの唇はほんの少し、動いた。

 譫言をひたすら呻き続ける病人のように──

 

 

 ──マユ。メルー……

 

 

 その二つの単語を、延々と繰り返すばかりの少年。

 誰の目から見ても明らかに、ナオトは先ほどの幻に囚われていた。

 インパルスからも必死でヴィーノがナオトに呼びかけているが、ろくな反応がない。

 

「キラ! 

 ナオトに、何を……!?」

 

 怒りをこめて、サイはストライクフリーダムを睨みつける。

 すると突然、キラにつき従うように佇んでいたもう一機のフリーダム──

 紅に染められた機体から、幼い少女の声が響いた。

 

《へへ、ざ~んねんでしたぁ~。

 これでもう、あんたらは黙示録を使えない。

 なんだかんだであのガキンチョがいなきゃ、あんたら絶対キラには勝てないでしょ?》

 

 思いかげず響いたその声に、サイは改めて衝撃を受ける。

 

 

 ──この紅の機体。この声。

 やはり、マユ……いや、チグサ・マナベか。

 

 

 そう確信したサイは、紅の機体のカメラアイを──

 挑戦的に輝くエメラルド色を睨んだ。

 

「黙っててくれ、今はキラと話がしたいんだ。

 キラ。どうしてお前は、チュウザンに来た? 

 本当のラクスさんはどこにいる? 

 どうしてお前は、こんなことをしている?」

 

 そんなサイの言葉に、微かに頭部を下方へ動かす反応を見せるフリーダム。

 

《そう──

 僕とラクスは確かに、チュウザンの戦いを止めたいと思った。

 だけど理由は、他にもあって。

 それは、ラクスの──》

 

 しかし、キラが改めて説明しようとしたその時。

 ずいと前に出た紅の機体が、彼を押しとどめた。

 

《キラ、アタシに任せな。

 こいつらにあんなこと、話す必要ないからさ。つらすぎるでしょ》

《ごめん、チグサ。だけど……》

《いーから! 

 キラのこと色々聞いてから、ずっと思ってたんだ。

 特に()()()には一発、ガツンと言ってやらなきゃ。ちょーどいいや》

 

 

 あんなこと? 

 一体、何が起こったっていうんだ。キラと、ラクスさんに。

 

 

 そんなサイの思惑に構わず、前に乗り出して彼をじろりと睨む、鮮血のストライクフリーダム。

 

《ほーん。

 あんたが、キラの『友達』ねぇ……》

 

 マユは──いや、チグサは今モニターごしに、サイを値踏みするかのようにじろじろ眺めまわしているのだろう。

 反射的にルナマリアが庇おうとするが、それでもサイは中のパイロットたる彼女へも呼びかける。

 

「君は、マユ・アスカか? 

 マユであれば、ちゃんとナオトに答えてくれ。

 ナオトはずっと、君を探していたんだ!!」

 

 しかし、チグサの返答はキラよりも遥かにつっけんどんだった。

 

《マユだったら、()()()()()()

 アタシあの時あんだけ言ったのに、まだ分かってなかったんだね、そいつは。

 そんなことより!》

 

 

 そんなことより? 

 マユのことを、その一言で済ませられると思っているのか、この娘は。

 ナオトがどれだけ、君を想って動いていたと──

 

 

 だがそんなサイの想いを、チグサは一蹴する。

 

《痛み、痛みって……エラそーに。

 あんた、キラがどんだけあんたらのせいで痛めつけられたと思ってるのさ!!》

 

 

 チグサが何を言い出したのか一瞬分かりかね、サイは思わず身構える。

 そして、エメラルドのカメラアイ付近から降ってきた声は──

 心の最も触れてほしくない部分を、直接踏みにじるものだった。

 

 

《あんたは多分、彼女取られた自分だけが辛かったと思ってんだろうけどさ。

 アークエンジェルであんたらを()()()()()()時、キラがどんだけ悩んでたと思ってんの? 

 あんたらのことは、トールとフレイからだいたい聞いたけどさ──

 アタシ、キラだけが悪いなんて、どーしても思えないんだよね。

 キラをこんな戦いへ突き落とした元凶って、そもそもの発端はあんたらじゃん。学生気分のあんたらが、キラをモビルスーツに乗せたようなもんじゃんか。

 しかもあんたときたら、自分はいかにも理解者ですってツラでキラを戦わせてさ! 

 面と向かって酷いこと言ったフレイよか、よっぽどタチ悪いじゃん。

 自分が悪かったなんて、これっぽっちも思ってないでしょうが、あんた!!》

 

 

 サイはようやく理解した──アークエンジェルでのことか。

 何故今更と一瞬思ったが、今だからこその指摘かも知れない。

 敢えてじっとその言葉に耳を傾けると――

 

 

《キラもフレイもトールも必死で身体張ったのに、あんたは安全な後方で支援だけ。

 最前線で戦わされることがどれだけ苦しいか、知ろうともせずに。

 しかもキラは親友と殺し合ってたっての知ってたくせに、キラを分かろうともせず自分の安全ばかり考えて。

 キラをずっと心配してるふりして、ホントは自分が助かりたかっただけ。

 そんなあんたに、痛みがどうこうとか、上から目線の説教なんかされたくないってーの!》

 

 

 

 あぁ──そうだ。

 2年前から、俺はどれだけ自省したか分からない。

 あの時の自分の言動を冷静に振り返ると、俺は様々な形でキラを追いこんでいた。

 ラクスさんを返そうとして協力した時、俺は何度もキラに「帰ってくるよな」と念を押した。

 しかもラクスさんの歌声に対して俺は、「遺伝子を弄ってそうなったのか」なる発言までしたような覚えがある──キラの眼前で。

 その時は自分でも全く気づいておらず、フレイとのことがあった後でふと思い出した自分の発言だった。

 何気なく口にした言葉だったが、その何気なさ故の暴言と言ってもいいだろう。

 

 にも関わらず、うわべだけはキラと笑顔で接していた俺のような『友達』のおかげで、キラはアークエンジェルを離れられなくなった。

 悩み苦しみ続けるキラを理解しようともせず、心の底ではコーディネイターを差別し、自分の安全だけを願う、俺のような偽善者のせいで。

 あの時キラがどれだけ孤独だったかは、キラにフレイを奪われたと思った直後は殆ど理解出来なかった──

 ついこの間、アマミキョで孤立してアストレイで飛びだした時に、ようやく分かってきた気がした。

 でも、それだけではとても、あの時のキラの苦痛には足りない。そう考えてはいたが──

 

 

 フリーダムの左腕が伸ばされ、憤るチグサ機を静止させようとする。

 

《チグサ。僕はそこまで……》

《だから、いいっての! 

 こーいう奴には、ここまでやらなきゃ分かりゃしないんだから!》

 

 それでもチグサの言葉は止まらない。

 サイに向かって、その心に向かって、直接攻撃を加え続ける。

 

《あんたは今ものうのうと後方で、民間人でございってツラで呑気に偽善活動。

 昔はキラを戦いに追い込んで、フレイやトールを死なせたってのに──

 なーんにも学習せずに今また、ナオト・シライシに同じことして、アマミキョも守れず、たくさんたくさん死んでいくのを傍観しか出来なかったくせに。

 そんな偽善者が、キラの『友達』だなんて、ちゃんちゃらおかしいね》

 

 言葉はさらにヒートアップし、同時にチグサ機のカメラアイもサイを照らしつつ、何度も点滅する。その感情を映し出すように。

 

《そのくせまだ、聖人ヅラ振りまいて『人は痛みに耐えて変化しなきゃ』とか何とか言って、アタシやキラを戦わせるんだね。

 ホントの痛みがどんなもんか、何も知らないくせに!》

 

 

 

 

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