【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
チグサの言葉に比例するように、サイの肩に打ちつける雨はその激しさを増していく。
「待ちなさいよ!
さっきから、随分勝手な言い草……」
ルナマリアが反論しようと口を開きかけたが、サイは黙って片手をあげて彼女を止めた。
──罵倒を受けるのは当然と言うように。
それをいいことに、チグサはさらにサイを怒鳴る。
《変われる自由があるのなら、変わらない自由があってもいいじゃない。
戦いたいなら戦いたいヤツだけ戦えばいい。
変わりたいなら変わりたいヤツだけ勝手に変われ! そうじゃない人間を巻き込むな!!
変われない人間だっているのに、どうして変わることを押しつけるの?
どうして平穏な世界を受け入れないの?
どうして無理矢理、成長しろとか進化しろとかいうの?
あんたらみたいな無能に限って、そーいうことばっかりほざく。アタシ、そーいう男、大っ嫌い!
みんながくっだらない進化なんかに拘るから、カイキ兄ぃは死んだんだ!!》
真正面からサイの全てを否定する、チグサ・マナベ。
サイは彼女に対して、何ら反論の術を持たなかった。
──そうだよな。
彼女のようなエクステンデッドたちはまさに戦争の犠牲者であり、人間の成長の犠牲者とも言えるのだから。
進化の止まった世界を、俺ごときがどれほど拒否したところで──
じっと動かなくなったサイに向けて、ストライクフリーダム・ルージュは不意に、右腕部を機動させた。
ティーダの掌部に立ち尽くしたまま、無防備そのもののサイとルナマリアに──
チグサはそのまま、ルージュの右腕を力まかせに斜め下に振り下ろす。
《駄目だ!
やめてくれ、チグサ……っ!》
サイがルージュの恐るべき機動に気づいたのと、キラの叫びが湖に響いたのは、ほぼ同時だった。
しかしチグサはそれにも構わず、振り下ろした腕部をそのまま横薙ぎに振るった──
サイとルナマリアが乗ったままの、ティーダの掌を狙って。
「あ、危ない!」
生身の人間に、モビルスーツが殴りかかる──
思わず声を上げたものの、常識ではありえない光景が信じられず、棒立ちになってしまうルナマリア。
そんな彼女を咄嗟に庇ったのは、すぐそばにいたサイだった。
濡れた黒いタキシードに、目の前を覆われたと思った瞬間──
真横から、人間サイズのフライパンで殴られたかのような強烈な衝撃と破砕音が、二人を襲った。
同時に降りかかってきたものは、雷鳴の如きチグサの叫び。
《あんたに、何かを守ることなんて絶対に出来ない!
あんたに、キラに説教する資格なんて、あるわけない!
あんたが一番戦えないくせに、人に戦えなんて言うな!
一生地面に這いつくばって、土下座して命乞いしてろ! この、ド無能!!
あんたみたいなクズ、一瞬で消して……っ!?》
その時、何故か一瞬止まった、チグサの言葉。
しかしもうそれを気遣う余裕は、サイにもルナマリアにも全くなく──
《ルナ!》
彼らを助けようとしたヴィーノが必死でインパルスの腕を伸ばしたものの、二人に届くはずもなく。
そのままサイとルナマリアの身体は、湖と森の間の岸壁へと叩きつけられ、落下していった。
ティーダコクピットで完全に抜け殻のようにシートに凭れるばかりのナオトは、その光景にも一切反応することはなかった。
何よりも大切な仲間であるサイとルナマリアが、無防備なままモビルスーツに殴り落とされるという惨劇を前にしても。
「あぁ……あ!
何、コレ……アタシの中で、何かが……!?」
一方的な怒りをサイにぶつけ、叩きのめしたと思った直後──
ストライクフリーダム・ルージュのコクピットで、チグサは突然の頭痛に苦しみ出していた。
──この感覚は。
シン兄ぃを捕まえた時に見た光と、同じだ。
あの光を見た時と、同じ違和感。しかもこの前より、ずっと強くなってる。
アタシの中に、何かが、いる。
その正体も、アタシには分かってる。
畜生。あいつらを殺る寸前、ルージュの拳まで一瞬止まったような気がしたのはこのせいか。
おかげで、全力で叩けなかったじゃないか。
バイザーごしに頭を左手で抑えながら、汗だくになりつつチグサは呟く。
「マユ・アスカ。あんたはもう、いないんだ……
こんな時に、何で邪魔する?!」
それでも何故か、チグサの中で何かが叫ぶ。
彼女と同じ声を持つ、何かが。
──ダメ。やめて!
こんな酷いことしたら、ナオトが怒るよ!
頭蓋を内側から叩くようなその声に苦しみつつも、チグサは健気にも操縦桿を握り直す。
しかしそれを嘲笑うかのように、コクピットに鳴り響くアラート。
反射的に顔を上げると──
警告音とほぼ同時にメインモニターに大写しになったものは、
チグサの乗る機体と同じ頭部意匠を持つが、全体をルージュよりもさらに深い紅で彩られたモビルスーツ。
サブモニターで機体名を確認するよりも早く、チグサは気づいた。
「そんな。インフィニット・ジャスティス……
──アスラン・ザラ!?」
しかし気づきはしても、すぐに反応出来るかどうかは別の話で──
直後、真横から巨大拳で全力で殴られたかのような衝撃が、チグサを襲う。
「あ……っ!!」
強すぎる衝撃で、叫び声すら満足に出ないチグサ。
どうにか機体を倒れないようコントロールするのが、彼女の精いっぱいだった。
フラガのアカツキより一足先に、目的地に到着したアスランのインフィニット・ジャスティスだが──
そこで彼が見たものは、
ずっと彼が探していた、ストライクフリーダム。
それに寄り添うように屹立する、双子のようにそっくりな紅の機体。
彼らと相対するように湖に立つ、ティーダZとインパルス。
ティーダZの掌に立っていた、サイ・アーガイルとルナマリア・ホーク。
そして──
どういうわけか、ほぼ生身丸腰のサイたちをいきなりモビルスーツで殴りつけた、紅の機体。
それを見た瞬間、アスランは動き──
空中から飛びこんだジャスティスはそのまま力まかせに紅の頭部めがけて、蹴りを叩き込んでいた。
「これは何だ──キラ!
何故お前が、こんなことをしている!?
変わらない世界は嫌だと言いながら、何だ、お前たちは!!」
サイとキラの会話内容は、少し前からアスランも傍受していた。
幻のラクスの語った言葉も。
何があったのかは全く分からないが、どうやらキラとラクスが南チュウザン側についたことは確かだ──
しかしその理由をきちんと問いただせば、彼らと和解出来るかも知れない。
かつて二度もキラと敵対関係となりながら、それでもキラと絆を取り戻すに至った経験から、アスランはそう信じていた。
だが、そんな彼の眼前で展開されたものは、
キラにつき従っている機体が、無防備の人間を──
しかもキラの友人たるサイを、アスランの元同僚だったルナマリア共々、モビルスーツの拳で殴り落とすという、信じられない光景。
キラ本人がやったのではないにせよ、それをキラが黙認していたという事実自体が、アスランには到底看過出来なかった。
直前にキラが止めに入ろうと叫んだのは、アスランにも聞こえていた。
しかしキラほどの実力ならば、紅の機体がことに及ぶ直前に、強引に止めることも可能だったはず。
そうしなかったのは、つまり──
決して認めたくはないが、キラ自身に、紅の機体の行為をよしとするような後ろ暗い部分があったのではないか。
サイたちを積極的に庇いに行かなかった、何らかの理由が──
かつてサイたちの存在を理由にキラと敵対するに至ったアスランにとって、それはどうしても許せない事実であり、その怒りはキラへの激しい言葉となって表現された。
「チュウザンで何があった──
何が、お前やラクスをそうさせた!?
生身の、しかも丸腰の人間をモビルスーツで撃とうというなら、俺はお前たちを許すことは出来ない!」
昔は俺を敵に回してでもサイたちを守っていたお前が、何故こんなことを。
アスランの蹴りによりダメージを負った紅の機体を庇い、インフィニットジャスティスに相対する形となったストライクフリーダム。
どこかくぐもったキラの声が、スピーカーから流れる。
親友と一触即発の状態となりながら、キラはあくまで冷静だった。
少なくとも、口調だけは。
《アスラン……違うよ。
「変わってはいけない世界」と「変わらなくてもいい世界」は、違う。
僕たちは、最後の進化を遂げるんだ。「変わらなくてもいい世界」へ。
戦いのない世界へ、僕たちは進化する。いつか、君と話した世界みたいに。
僕もラクスも、みんなも、これ以上傷つかなくてもいい世界──
そこへ至ることが出来れば、ヒトは心のままに生きられるから。
それが、僕たちの望む、最後の革命だ》
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次回予告
閃光に荒れ狂う湖に響くは、痛みに満ちた慟哭
彼の傷を見た彼女もまた、心を曝け出す
彼女の言葉を胸に、彼は再び立ち上がる
自分の成せることを成す、ただそれだけの為に
次回、機動戦士ガンダムSEED Revelation
「命の声」
伝説の誕生、見届けろ。アマミキョ!