【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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part5 黙示録、発動

 

 

 ウィンダムや黒ジンの注意が逸れてくれている──

 逃げた方がいいのか? ナオトの心に逡巡が生まれた。

 

《逃げろティーダ! すぐにアマミキョが来るからそこに乗れ!》

 

 カイキからの通信だが、ナオトが応じる前にマユが答えた。

 

「無理だよお兄ちゃん、その前にやられる! 

 こっちがやらなきゃっ」

 

 その会話により、ソードカラミティに隙が生じた。

 ナオトたちの目の前で、ソードカラミティの対艦刀が斬機刀に弾き飛ばされる――

 その反動を利用して、黒ジンの刀がソードカラミティの左腕関節部を斬った。対艦刀を持っている方の腕を。

 間一髪でかわし、どうにか切断までは逃れたソードカラミティだが、既に左腕の機動は失われてしまった。

 

 ――ナオトたちにも聞こえる、カイキの舌打ち。

 

 さらにソードカラミティにとどめの一撃を加えんと、黒ジンは刀を振りかぶったが

 その時ビルの真上から、閃光の刃が飛んできた。

 

 それは黒ジンの頭部を掠め、一瞬で白いトサカを叩き折っていく。

 荒々しい言葉と共に。

 

 

《これ以上ザフトの品位を汚すな、裏切り者がぁ!》

 

 

 回線からではない、外部スピーカーを使用した興奮ぎみの声が流れてくる。

 そこには、外壁からコロニー内部へ舞い降りた、ザクファントムの姿があった。

 

 

 ナオトの目には飛んできたように見えた刃は、スラッシュザクファントムの装備・ビームアックスによるもの。

 その長い柄はしっかりザクファントムの手中にあり、勿論ビーム部分の出力は最小限にしてあるようだ。

 そのままザクファントムはアックスの反動を利用し、黒ジンに襲いかかる。

 

《これはこれは、ジュール元議員のご子息! 

 母上はお元気で?》

 

 ヨダカの嫌味な声が、これまた外部スピーカーから響く。両者共、戦場の騒音にかき消されぬ声だ。

 その挑発により、ザクファントムの機動がやや焦りがちになったように見えた。

 

《貴様ごときが、母上に触れるか!》

 

 今度はビームアックスと斬機刀がぶつかりあう。

 

 ──どういうことだ。ザフト同士が、やりあっている? 

 

 しかしそんな疑問を解決する余裕は、ナオトには当然なかった。

 後席のマユが凄まじきスピードでキーボードを叩いている音を聞きながら、ナオトは汗だらけの指をもう一度、キーボード上で動かす。

 震えている。しかも滑る。でも、やらなければ。

 

 ──僕だって、コーディネイターの血を引いているんだ。

 

「フェイズ2、オールグリーン! フェイズ3へ移行、4秒でいいよナオト!」

「OK、やりゃあいいんだろ、こん畜生!」

 

 レポーターとしてはかなり悪い言葉遣いをしつつ、ナオトはキーボード入力を始めた。

 何回か入力をミスったが、どうにか制限時間内に操作が完了する。

 ハロが目を点滅させた。

 

「フェイズ3、オールグリーン。 

 フェイズ4へ移行……オールグリーン、攻撃ジュンビ」

 

 戦闘による衝撃で何度かコックピットが揺さぶられたが、ナオトは歯を食いしばって入力を続けた──

 そして、マユが叫んだ。

 

「お兄ちゃん、遮光フィルタを!」

 

 

 

 

 

 

 炎の中でうずくまっていたはずの、ガンダム・ティーダの装甲表面が輝きだす。

 単なるTP装甲による輝きではない。それは肉眼で見れば、おそらく0.5秒で目が潰れるだろう光だった。

 炎で熱せられていたコロニーの空気が、ティーダを中心に揺れていく。

 白かった機体が、その名の通り、太陽のように焼けつく光を放った。

 

 

 

 

 

 

 マユからの通信で間一髪、カイキはモニター全面にフィルタをかけることが出来た。

 コックピットが血の海に沈んだかのように暗くなる中、彼は叫ぶ。

 

「あのバカ、作動させやがった!」

 

 

 

 

 

 ティーダからの閃光に、イザークのザクファントムはただ、狼狽えることしか出来なかった。

 何が起こったのかすら掴めず、光の波の前に圧倒されていくばかり。

 大地が震え、空気が猛烈な圧力の波動となって、ティーダの周囲を薙いでいく。

 

 モニターからの光に目が眩み、イザークは急遽モニターそのものを切った。それでも光の波動はおさまらない。

 光だけではない。機体やヘルメットすらも通過して脳を打つノイズまで聞こえる

 

 ──それは何故か、鐘の音にも似ていた。

 

 数秒後にイザークは、自分の指が殆ど動かなくなっていることに気づいた。

 指だけではない。腕も動かない、呼吸すらろくに出来ない! 

 一体何だ、という叫びすら出ない。

 

 そんなザクファントムの眼前に、突然立ちはだかる巨大な影があった。

 イザークとザクファントムを光の波から守るように、空から舞い降り地響きを立て、両腕を大きく広げるモビルスーツ。

 

 ――それがシホのゲイツRだと分かるまで、時間はかからなかった。

 ゲイツRの複合防盾がサブカメラを通じたモニターからわずかに見え、イザークを光から防護しているのが視認できた。光の嵐はまともにゲイツRを襲っている。

 

「シホ!」

 

《て……撤退してください、隊長!》

 

「貴様もだ! この波動はパイロットを直接攻撃するっ!!」

 

 イザークはやっとそれだけを叫んだ。しかし――

 

《隊長! 腕が……

 う、うああああああああっ!!》

 

 神経を焼かれるシホの悲鳴が、イザークのコックピットに惨たらしく反響していく。

 

 

 

 

 

 ヨダカのハイマニューバ2型のコックピットも、ほぼ同じ状況だった。

 機体そのものに影響は現れてはいない。損傷度を示すモニターが、特に目立った警告をしていないことからもそれは分かる。

 光に目を潰されそうになり、ヨダカは慌ててフィルタを作動させた──

 が、神経が炙られていくような感覚は、消せない。

 

「ぐ……卑劣な兵器だ」

 

 両腕が動かなくなっていくのを感じながら、それでも彼は呟く。

 

「合点がいったよ。

 あいつを捕獲しなきゃならん理由が!」

 

 そして同時にヨダカの耳には、何人もの人々の悲鳴と絶叫が押し寄せてきた。

 鐘の音と共に聞こえてくる──というよりも、圧力となって押しつけられてくる声。

 それはニュートロンジャマーの影響すら軽く越え、戦場にいる者たち全ての脳髄を叩いていく。

 

 

 

 

 

 

 コロニー内部へ入ったアマミキョを迎えたのは、クルー全員を圧倒する光だった。

 リンドーの指示により回線が切断され、全モニターに遮光フィルタがかけられる。だが、電波干渉をも越えて届く神経への攻撃は、アマミキョのクルーまでもを襲った。

 

「リュウタン広場……

 ティーダの位置だ!」

 

 叫ぶとほぼ同時に、脳に直接轟く鐘の音をサイは聞いた。

 視界が一瞬血のように紅くなり、キーボードを操る指がうまく動かなくなる。

 強い嘔吐感を覚える中、サイは──

 

 

 何故か、バイオリンを見た。

 煌めく星々を背景に、真空中を砕けながら漂うバイオリンを。

 幻覚にしては、あまりにもはっきりとした光景だった。

 半分は焼かれて壊れて無くなっており、弦は一本だけ残っている。その弦には、血糊が貼りついていた。

 

 

 サイにははっきりと分かった。その映像が語っていた。

 幻覚ではありえない。圧倒的な質量をもって、それは事実としてサイの脳髄に押し寄せる。

 

 

 ──アムル・ホウナの母親、ミヨシ・ホウナは死んだ。

 アムルの婚約者と共に。

 

 

 サイは思わず、発進の衝撃でうずくまったままのカズイと視線を合わせた。

 目で問いかける。

 

 ──今のを見たか? カズイ。

 

 不思議なことに、音声を伴わないはずのその会話は通じた。

 

 ──見た。俺も見た。

 これは、事実だ。彼女の母親と彼氏、もういないよ。

 

 

 サイはどうにか首を動かし、クルーの様子を観察する。

 全員、何らかの形で似たような感覚を味わったらしく、不安げに天井やモニターを見つめている。

 さらにアムルを見ると、彼女は耳を塞いだままでうずくまり、何事かをブツブツ呟いていた。

 

 涙を流しながらも、その唇が笑っているように見えたのは

 ──気のせいだろうか? 

 

「消えた。

 私の縄、私の鎖、私の釘……全部、消えたのよ」

 

 

 

 

 

 

 光の嵐が吹き荒れたのは、実時間にしてわずか10秒もない。

 しかしそれでも十分に、リュウタン広場付近の戦士たち全員を戦闘不能状態にさせる威力はあった。

 空襲を続けていたウィンダムは錯乱のあまりか、ビームライフルを滅茶苦茶に撃った挙句、上空の太陽光ブロックを破壊した。

 光から逃げるような機動をとっていたウィンダムは、そこで発生した宇宙への暴風に巻かれ、無数のゴミと共にコロニーから吸い出されていく。

 

 黒ジンことジン・ハイマニューバ2型もまた、これ以上の戦闘は不可能と見て後退を始めた。

 機体の損傷はそれほどではないが、パイロットがパイロット自身をまともに動かせないのでは話にならない。

 ヨダカ・ヤナセは黒ジンの機体を、イザークのザクファントムがやってきた出入口に潜り込ませるのが精一杯だった。

 やがて沈静化していく光の中、うずくまるティーダが確認できたが、ヨダカにはなす術がなかった。

 

 

 ──その機体に近づくな。

 近づけば、死あるのみ。

 

 

 今の光による攻撃により、神経にその感覚が刻み込まれたような気すらした。

 

「歴戦の志士を自認していたはずだがな……

 精神攻撃ひとつでこのザマか」

 

 ヨダカは自嘲しつつ、自らの左腕を右拳で叩く。パイロットスーツの厚みを通しても、その拳の痛みは十分に伝わっていった。

 

 

 

 

 

 

「ナオト聞いた!? ウィンダムのパイロット、結構カワイイ男の子だ! 

 しかも私と『同じ』だよっ、嬉しいな!!」

 

 マユが狂ったようにけたけた笑いながら叫んでいるのが聞こえたが、その意味はナオトには全く分からなかった。

 

 私と同じ? ウィンダムが? 理解不能すぎる。

 それよりも、この身体の痛みは何だ!? 

 

 マユが直前で遮光フィルタをかけたおかげで、ナオトたちは光そのものは見ずにすんだ。

 しかし、血管といい神経といい、身体の肉だの組織だのを構成する糸全てが切断されていく感覚が、ナオトを襲っていた。

 この激痛はおそらく、ティーダの機体が発動させた光によるものだろう。それぐらいは、彼にも理解できた。

 

 下から突き上げる激しいコックピットの震動が、さらに痛みを増幅させていく。

 顔の傷から血が噴き出したが、そんなものはどうでもいい。心臓と胃がフォークで一緒にされてかき回される感覚は、到底耐え切れるものではなかった。

 ナオトは遂に、意味不明の絶叫をあげながらコンソールパネルの上に嘔吐した。

 フィルタのおかげで血のような闇に沈んだコックピットの中で、マユの笑い声とナオトの嘔吐が不協和音をあげる。

 

 

 そんな阿鼻叫喚の中

 ――突然、マユの笑いが止まった。

 

 

 ナオトがやっとの思いで振向くと、彼女は顔を笑いの形にしたまま、気を失っていた。

 眼球が裏返り、その白目部分が赤い闇の中、異様に光って見えた。

 

 

 

 

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