【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~   作:kayako

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PHASE-43 命の声
part1 アスラン、猛る


 

 

 

 ──それが、僕たちの望む、最後の革命だ。

 

 

 そんなキラの言葉にも、アスランは到底納得出来ない。

 飛沫をあげて湖に降りつつ、ストライクフリーダムと対峙するインフィニットジャスティス。

 攻撃を受けたチグサ機は、キラに庇われつつも何とか体勢を立て直している。

 彼らに向かって、アスランは吼えた。

 

 

「それは欺瞞だ! 

 ヒトの意思を捻じ曲げてまで、することじゃない! 

 傷つく覚悟があるからこそ、お前は議長とレイ、グラディス艦長を……っ!!」

 

 

 しかしストライクフリーダムから流れるキラの声は、それでも冷静さを失わなかった。

 

《アスラン。君は……

 ラクスが傷ついても、同じことを言えるの?》

 

 その言葉に、アスランは一瞬息を飲む。

 

「ラクスが? 

 彼女に、何があったんだ!」

 

 アスランの問いに、しばし沈黙するストライクフリーダム。

 答えたくないと言いたげにアスランからカメラを逸らし、突っ立ったままのティーダZに向かおうとする。

 そこへ、チグサの叫びが響いた。

 

《お前なんかが知ってどうする、アスラン・ザラ! 

 誰も助けられず、裏切るばかりだったお前に! 

 お前がシン兄ぃたちにナニしたかぐらい、とっくに知ってるんだ!》

 

 

 ──シン兄ぃだと? 

 この娘は、シンのことも知っているのか。

 だとすれば、まさか……

 

 

 言い知れぬ悪寒に苛まれながら、アスランはそれでも叫ぶ。

 

「ルナマリアたちにあんな真似をしたお前に、言われたくはない! 

 キラ! 答えてくれ。

 お前はどういうつもりでそこにいる!?」

 

 キラはそれでも黙したまま答えず、ティーダZに──

 剥き出しのコクピットでぐったりしたままのナオトに、ストライクフリーダムの右腕を伸ばす。

 ティーダを守ろうと必死でライフルを向けようとするインパルスなど、存在しないかのように。

 

 

 

 

 

 

 インパルスのコクピットで、ヴィーノは迷っていた。

 今すぐルナマリアたちを救出に行くべきか。それとも、ナオトを守るべきか。

 彼が逡巡している間にも、ぐんぐんとティーダに迫るストライクフリーダム。

 今やナチュラルよりも憎いアスラン・ザラが、何故自分たちの救出に入ったのかは分からない。

 ただヴィーノにとって、その場にいるモビルスーツはティーダを除いて全て、味方とは思えなかった。

 よりにもよって、ルナマリアとサイを殴り飛ばしたあの紅いヤツは当然として。

 何度もミネルバの前に立ちはだかったストライクフリーダムも。

 かつてミネルバを裏切り、ヨウランを人事不省にしたインフィニットジャスティスも──

 

 

 なら、俺がティーダを守るしかないじゃないか。

 ティーダのシステムはヨウランがずっと弄っていたんだ。絶対にお前らなんかに渡すか! 

 

 

 震える両腕で操縦桿を握りながら、ヴィーノは叫ぶ。

 

「う……動くな! 

 ナオトに、ティーダに、手は出させない!!」

 

 同時にインパルスのライフルが持ち上がり、その銃口がフリーダムを狙う。

 だが、インパルスに全くカメラを向けぬまま、蒼の機体から声が流れた。

 

《ここから逃げるんだ。

 君を、殺したくない》

 

 その言葉を聞いて、ヴィーノは感じた。

 ──完全に馬鹿にされている。

 実力差など、ストライクフリーダムの威容を見ただけで分かる。例え自分が怪我していなくても、万に一つも勝ち目はないだろう。

 黄金に輝くカメラアイは酷く冷たく、触れただけで凍えてしまいそうな気迫をたたえていた。

 警告はした。それ以上動けば撃つ──

 キラの言葉を、ヴィーノはそう解釈した。そうとしか解釈出来なかった。

 それでも、とヴィーノは気力を振り絞る。

 

「むざむざ、ティーダを奪われるわけにいくか!!」

 

 

 

 

 

 

「やめろ、インパルス! 

 ここは俺が……!」

 

 ライフルを下げようとしないインパルスを見て、アスランは叫ぶ。

 今のインパルスに誰が乗っているのかは分からないが、これ以上キラに手を汚させてはならない。

 そう判断したアスランは、瞬時に機体を突進させようとする。

 しかし、キラの反応の方が明らかに早く──

 フリーダムから放たれた光を咄嗟にアスランが避けた時には、インパルスのビームライフルは一刀両断され、マニピュレータごと爆発していた。

 

 ──最小出力での、ビームサーベルか。

 

 フリーダムが一瞬で二刀のビームサーベルを抜き放ち、片方でインパルスの腕を斬り飛ばすと同時に。

 背後から迫ったジャスティスに、もう一方の刃で攻撃を加えようとした──

 アスランがそう理解した時には、衝撃で吹っ飛ばされたインパルスは、湖岸の森へと轟音をたてて倒れていた。

 

 

「キラ……

 本気で、俺たちとやるつもりか!」

 

 

 かつて、二度もキラと敵対した時。

 一度目は二人とも、状況に流されるままだった。

 二度目は、結果的にキラとラクスが正しかった。少なくとも、カガリを、オーブを守るという点においては。

 今は──どう判断するべきなのか。

 

 

 そんな彼の脳裏をよぎったのは、カガリの言葉。

 そして、アスランの知らない間に成長した彼女の、大人びた優しい微笑み。

 

 

 ──大丈夫だ、アスラン。

 私はオーブの為に、北チュウザンとアマミキョを守る道を探っているにすぎない。

 

 

 そう。

 少なくとも、北チュウザンの人々を救う為に奔走した民間人のサイたちを──

 容赦なくモビルスーツで殴りつける行為。

 そしてそれを黙認し、ティーダを奪おうとする行為は、間違いなくカガリを激怒させ、オーブに敵対するものだ。

 

 

 ──勝てるかどうかは分からない。

 だが、キラ……俺は、俺の正義に殉じる。

 

 

 アスランの想いに呼応する如く、ジャスティスが再び飛沫を上げて飛翔する。

 同時に、フリーダムのカメラアイが真っ直ぐにジャスティスを睨み──

 妖しく煌いたかと思うと、ビームサーベルの光が飛んでくる。

 

 

 だがそこに一瞬遅れて、コクピットに響いた通信は。

 

 

《すまない、アスラン! 遅れた!》

 

 

 モニターを染め上げる金色と共に、頼もしい声が響く。

 それは、ムウ・ラ・フラガのアカツキ。

 南チュウザンのダガーL軍団を振りきった後アークエンジェルに一旦帰還していたが、何とか間に合ったか。

 カガリの想いを託されたオーブの機体が、敢然とストライクフリーダムの前に立ちはだかっていた。

 ――それはまるで、カガリがアスランの意思に応じたかのように。

 

 

 

 

 

PHASE-43 命の声

 

 

 

 

 

「うぅ……

 い、いたたたた」

 

 ガンガン痛む頭を押さえながら、ルナマリアはようやく身体を起こした。

 

 

 ──死ぬかと思ったのは、久しぶりだ。

 しかもパイロットの癖に、コクピットじゃなく、生身で死にかけるなんて。

 

 

 ゆっくり首を回して状況をよく観察してみると、どうやら自分は湖岸の崖に身体を叩きつけられた後、そのすぐ下の森に落ちたらしい。

 鬱蒼と繁った葉と、雨で酷くぬかるんだ地面が相当クッションになったようで、思ったほどのダメージは受けていない。腕も脚も、特に問題なく動く。

 良かった。ティーダの上じゃなく固い地面の上でアレをやられたら、今頃自分は潰れたトマトになっていてもおかしくなかった。

 雨は先ほどよりかなり強くなり、泥にまみれたパイロットスーツの表面を洗い流していく。

 

 

 ──そうだ。サイは!? 

 

 

 あの時、サイはどういうわけか、私をかばった。

 パイロットスーツに護られているわけでもないのに、殆ど躊躇することなく。

 慌ててルナマリアは、周囲を見渡した──

 

 

 ほどなく、彼女の倒れていた場所からそう離れていない大樹の根元に、雨ざらしになって横たわっている黒い何かが見えた。

 それがずぶ濡れのタキシードだと分かるまで、ほんの少し時間がかかった──

 ルナマリアのパイロットスーツよりも遥かに泥まみれで、半分以上地面に埋まっているようにすら見えたから。

 

「サイ!」

 

 思わず彼女は叫び、痛みも忘れて立ち上がった。

 泥に膝まで埋まりかけながらも、ルナマリアは何とかサイの元へ駆け寄っていく。駆けると言っても、泥水のせいで歩くよりも遅くなってしまったが。

 

「しっかり!」

 

 うつ伏せで倒れこんでいたサイ。その身体の下に片腕を潜らせ、引きずるようにして上半身を抱きかかえる。

 ──大丈夫。まだ息はある。

 ルナマリアが少しほっとしかけた時、彼女の視線のすぐ先に──

 どさりと音をたてて、焼けただれた枯れ枝のような何かが垂れ下がってきた。

 

 

 それは、袖の部分の殆どが引きちぎれ、剥き出しになったサイの左腕。

 どこかで激しく引きずったのか、衣服どころか皮膚も見えないレベルに擦り潰され、血まみれの腕。

 肉の部分まで大きく剥き出しになったその傷口を、容赦なく侵食する汚泥。

 

 

 そんな状況でもまだ微かに意識はあるのか、サイは激しく息をつきながら左の前腕あたりを右手で押さえていた。二の腕は傷が酷すぎて触れることすら出来ないようだ。

 あまりの光景に、思わず叫ぶルナマリア。

 

「バカ! 

 何で、私をかばったのよ!?」

 

 ザフトのパイロットスーツは、薄くは見えるものの実は相当の衝撃に耐えうるように出来ている。いや、ザフトに限らず連合でもオーブでも、パイロットスーツはそれなりに丈夫なはずだ。少なくとも、タキシードよりは。

 そんなことは、サイだって分かっているだろうに──

 しかもサイはナチュラルで、私はコーディネイターなのに。男女差があるとはいえ、身体はパイロットとしての適性を認められた、私の方が丈夫なはずなのに。

 

 だが今の彼はその疑問にすら答えられず、ただ激しい痛みに呻くことしか出来ない。

 傷を叩き続ける雨すら痛むようで、腕の表面を雫が流れるだけでその喉から微かな悲鳴が漏れた。

 傷口を改めて確認するべく、ルナマリアはサイを仰向けにしてその背中を片腕で支える。

 

「ぐ……っ! 

 あ、あぁ、う……」

 

 それだけで呻きは絶叫に変わり、痛みの強さを彼女に伝えた。恐らくどこか骨折もしているに違いない。

 半分以上泥と血で汚れてはいたが、その顔は完全に血の気が失せていた。

 彼のトレードマークとも言える眼鏡はどこかに吹き飛ばされ、泥水を吸い切ったタキシードは酷く重く、左袖以外もあちこち大きく裂けて肌が露出している。

 

 

 ──とにかく、すぐに治療しなければ。

 

 

 ルナマリアは反射的に、湖へ視線を向ける。

 目に映ったものは、先ほど彼女らを助けたインフィニットジャスティスが、盛大な飛沫を上げてストライクフリーダムに飛びかかっていく光景。

 ずっとミネルバと敵対していたはずのあの黄金の機体もアスランを援護し、何故かティーダZを守っている。

 ナオトがどうなったのか──ここからでは分からない。

 その大分手前で、黒く生い茂った林を半分破壊しながら、仰向けで転倒しているインパルスが見えた。

 右腕部をライフルごと吹き飛ばされたようだが、ぱっと見たところそれ以外の破損はない。

 

「ヴィーノ!」

 

 そんなルナマリアの叫びに気づいたのかは分からないが、インパルスのカメラアイが彼女に答えるが如く、二、三度素早く点滅した。

 

 

 ──良かった。ヴィーノもまだ生きている。

 

 

 ルナマリアは素早く頭を巡らせた。

 このまま森の中で息を顰めているわけにはいかない。サイの治療も出来ないし、何よりあの規格外のモビルスーツ同士の戦いのすぐそばだ。いつどこで被弾してもおかしくはない。

 ならば──

 このままインパルスにサイを収容して、様子を見るしかない。

 そう判断したルナマリアは、傷ついたサイを半ば強引に右肩に担いだ。

 

「どう? 歩ける?」

 

 獣のように間隔の短い呼吸を繰り返しながら、歯を食いしばってどうにか痛みに耐えるサイ。

 その頭が、微かに縦に振られた。

 水を吸ったタキシードの重さにも構わず彼を担ぎあげると、ルナマリアはまっすぐインパルスの方向へと歩きだす。

 

「あ……ぐっ……!!」

 

 彼女におぶさるようになりながらどうにか立ち上がることに成功したサイだが、泥を踏みしめようとした瞬間、またも酷い呻きが響いた。

 確認すると、右足首が少し内側に捩じれすぎているように見える。

 ──脚もやられたのか。

 まだ比較的無事に見えるサイの右腕を自分の両肩に回させ、彼の上半身の体重を自分で負うようにしながら、彼女は慎重に歩みを進めた。酷くぬかるんだ地面に足を取られないように。

 そうしているうちに──

 重く垂れこめた漆黒の雲から、カラスのような何かが群れを成して飛来するのが見えた。

 

 

 また、あの偽ダガーどもだろうか。

 

 

 ルナマリアは唇を噛みしめながら、身を屈める。

 その予想はわずか2秒も経たぬうちに現実のものとなり、空を突き破るようにしてやってきた黒い鋼の一団は、湖に向けて光の矢を放ち始めた。

 目が眩むほどの閃光が、あたりに溢れる。

 その火線が狙うものは──インフィニットジャスティスと、アカツキ。

 

 ルナマリアたちを庇い、ストライクフリーダムに真っ向から対峙していた2機はすぐに応戦。

 瞬く間に湖面から飛翔し、気づいた時にはジャスティスは既に3機の偽ダガーLを斬り飛ばしていた。

 アカツキもまた、その特殊装甲で光条を次々に跳ね返していく。

 空中で爆発四散し、落下していく黒の機体。

 熱い蒸気を伴った激しい飛沫が湖面に舞い、激しくなる雨もあいまって、戦闘の状況はルナマリアからは殆ど見えなくなってしまった。勿論、ティーダの様子も。

 そんな彼女を救うかのように、インパルスからのヴィーノの声が森にこだまする。

 

「ルナ! こっちだ!」

 

 見ると彼は、機体が横倒しになった状態でありながらコクピットハッチを開き、必死で手を振っていた。

 機体が倒れたおかげでハッチの位置が比較的地表に近くなったのは、不幸中の幸いだった──

 そんなことを考えながら、ルナマリアはサイをもう一度支え直し、歩みを進めていった。

 

 

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